“元気だよっ♪”
その2
冒頭にご案内致しましたように、ここいらは少しばかり標高のある辺り。よって秋の訪れも下界に比べると少々早く、木々の紅葉もすぐ鼻の先にまで訪れているほど。夏は比較的涼しく過ごせたが、秋の山河の錦模様に包まれたなら、すぐにも冬支度を考えねばならないから、うかうかと油断は出来ない………のだが。
「ウチは大丈夫だよねぇ?」
「まぁな。ツタさんが居るから、何でもアドバイスしてもらえるし。」
こらこら、最初から他力本願かい。(苦笑) そうそう、先の章でご紹介するのをうっかり忘れておりました。彼らには、身の回りのお世話をして下さる、それはそれは物知りで働き者な、ツタさんという味方がついている。ルフィとの同居が始まったのとほぼ同時に、来てもらうこととなった家政婦さんで、ルフィが身ごもってしまった折りに彼の秘密も説明してあるのだが、そんな前から何となく、気づいてはいたそうだというから、なかなか侮れないところのある、ルフィのステキなお母さんvv
「はい、御馳走様。」
寝起きの いちゃいちゃを堪能して、さて。階下へと降りて来た小さい方のお母さんがまず手掛けるのは、小さなカイくんの朝ごはん。実際に母乳を与えるのではなく、寄り添い合って念を通じ合わせることで、エナジーを直接授けることが出来るのだとか。小さなお母さんがその懐ろへ抱えてやっての不思議な"授乳"が済んだところで、ルフィの手からゾロの大きな手へ、彼らの宝物がそぉっとリレーされてゆく。
「随分大きくなったもんだよな。」
七月半ばに生まれた坊やだから、九月で2ヶ月目。もともと、小刻みに"ご飯だ、おむつだ"という世話をかけない子だったし、夜もまとめて朝まで眠る子で、そういうところも微妙に普通の人間の子供とは違うらしい。
*生後2ヶ月というと、もう首は据わっているのでしょうか。
離乳食はいつ頃から始めるのでしょうか。
育児の経験が全くございませんので、実はよく分かってませんです。
はよ調べんとな…と思ってはいるのですがね。おいおい
ゾロの大きな手に、余裕で頭がすっぽりと収まってしまう小さな存在。つやつやの黒髪や潤みの強い大きな瞳、丸ぁるいおでこに ふかふかな頬などなどは全てお母さん譲りであるらしく、シャーベット・ブルーのチェックが襟や袖口へアクセントのように入ったベビー服が、それはよく似合う愛らしい子。
『男の子でよかったよなぁ』
『そうですねぇ』
『女の子だったなら、お年頃になった途端、誰かさんが大騒ぎになりますよ』
『言えてるわ、それvv』
とばかり、絶対に親ばかになるぞと決めつけられた若き父上を囲んで、外野がそれは煩かったりしたものだが。(笑) そんな父と子の今現在は、といえば、
「………お?」
口許近くに来ていたお父さんの親指の先、小っちゃなお口をくっつけて"ちゅうちゅう"と吸って見せたカイくんだったりしたものだから。
"…お、おおう。/////"
可愛い可愛い我が子の仕草。どんなものでも愛らしいこと この上ないのに、こんなにも分かりやすく熱烈に懐かれては………。
「ゾロ? カイのベッド、シーツ替え終わったから…。? どしたの?」
寝汗をかいたろうベッドを整えていたルフィが振り返って、旦那様が固まっているのへ怪訝そうに眉を寄せる。
「………ゾロってば。」
「え? あ、ああ。悪りぃ。」
小さな赤ちゃん。男の子でも十分に、お父さんを翻弄しているようである。(笑)
◇
さてさて。ちょっとのぼせた旦那様が頭を冷やすために…じゃなくて、鍛練のためにと、そこいらを1周走って来るからと出掛けて行って。その間に奥方はツタさんを手伝って朝ご飯のセッティング。朝一番に一日分の献立の予定を立てて、下ごしらえをしてしまうツタさんなので、手際のいい彼女でも少々時間が掛かってしまう、ひと仕事。それを終える頃にはゾロも戻って来るので、ようやっと大人たちも美味しい朝ご飯を食べ終えて。
「なあなあって、ゾロ。遊ぼうよう♪」
居間のソファーの方へと場を移し、食休みにと腰を下ろしたところが。お元気な奥方、すかさずのように旦那様のお膝に乗り上がり、またがるように座って向かい合ったまんま、ねえねえと早速の"おねだり攻撃"。
「お前ねぇ…。」
小さな体は ふんわりと、お膝にまたがられようが首っ玉にしがみつかれようが、大した負荷でもない軽やかさ。その身にまとった甘い香りと温みも幼いとけなく、愛しいこと、この上もない存在ではあるのだが。
「な〜んか ここんトコ、甘え方に弾みがついてないか?」
こつんと軽く合わせた おでことおでこ。間近に覗き込んだ琥珀の瞳は、ただただ無邪気に輝くばかり。とはいえ、
"…そういや、秋、だよな。"
どこか妖冶に身を擦り寄せて来るような、淫蕩な印象のする甘え方ではないものの、この猛烈果敢なまでの まとわりつき方は、これまでにはちょっとなかったレベルなものだから。
「…なあ、もしかしてお前。」
この時期に彼のお友達たちが気を取られ、そして彼自身も先の春に初めて迎えた、所謂"発情期"というのが間近いのかなぁと。
「さかりだろ? なんか俺は違うみたい。」
「………へ?」
訊こうと思ったら、先にあっさりとした答えが返って来た。
「だから。何か最近、皆、忙しそうになっててさ。遊びに行っても構ってくれなくて。」
屈託のないお顔、真っ直ぐ上げて来て、ルフィはそんなお話を始めた。
「アマンダに訊いたら、皆は"さかり"なんだよって。あ、アマンダっていうのはね、ニレの樹のお屋敷の子で、ヒニンのしゅじゅつしてるの。」
ははぁ、さようで、と。聞き側に回っていたゾロだったが、
「………その、自分は違うってのはどうして分かるんだ?」
そう。他所のお家の皆様の事情とやらは、この際どうでもいい。だが、この春にやっと初めてのを迎え、しかもその時に、お初で不慣れなことだったがため、いきなり容体がおかしくなったルフィに あ〜れ〜ほどまでに焦った彼らだったのに。(『土曜の夜に…"内緒だよ?"』参照)今回、こんなにけろりと言われてしまっては、その根拠は?とついつい訊きたくなった旦那様であっても無理はなかろう。んん?と真摯な眼差しで問い掛けると、
「うっとね、あの時みたいな感じがしないの。」
「感じ?」
今朝方は何だか一丁前な言いようをしてもいた奥方だったが、もともと口がそんなに回る彼ではない。なので。う〜ん、どう言えば良いのかなぁと、口許を尖らせたり困ったように眉を下げたりして見せてから、
「あの時はサ、何かピリピリしちゃってたでしょ? しばらくほど。ああいう感じが全然しないの。それに、体中が熱っぽくなったり、興奮しやすくなったりってことも、やっぱり全然ないし。」
彼なりの懸命さでそうと語り、
「ほら、夜に"抱っこ"してもらう時だって。それなりにドキドキはするけど、あの時みたいな、何をしても舞い上がって訳が判らなくなるほどっていうんじゃ…。」
それはすらすらと、嬉しそうに語る小さなお口が、不意に…大きな手で塞がれて。
「(もがむがもが)………っ。」(訳;何すんだよぅっ。)
「あのな。/////」
珍しくも顔が赤いゾロが気にしたのは、たった今、そそくさとキッチンへ去ったツタさんが、二人へとハーブティーを出してくれてたタイミングだったから。相変わらず中途半端に子供な奥方であり、そして片やは…やはり中途半端に純情青年な旦那様なものだから。大胆というか うっかりというか、人目や聞き耳をまるきり気にしない奥方には、旦那様も苦労する。(あははvv) ツタさんに"すみません /////"と心の中にて頭を下げてから、はふうと大きく息をつき、
「そっか。」
理屈は判ったと、納得のお顔をしたゾロであり、
「きっと、カイがまだ赤ちゃんだからなんだろうな。」
窓辺近くに置かれたベビーベッドを眺めやる。そういえば、生まれたての赤ん坊は1年間は人の姿のままにて育つということで。親であるルフィも、以前はシェルティの姿で目覚めていたほど"犬型"寄りだったものが、今は基本体を"人型"に変えているみたいだなんて言ってもいたし。
「半年に一人なんてペースで生んでいては大変だからだろう。」
彼らの妊娠期間は"百日"なので、理屈としては…連続して妊娠するのも不可能ではないことなれど。生まれた子供は1年を人間の子供のペースでゆっくりと育つから。まだ乳児である幼子を抱えての妊娠は、ただでさえ何かと大変な彼らへ尚の負担を重ねることになる。
"最初からそうだったって訳ではないのだろうけれど。"
そうであった者の方がより多く生き残り、その性質が優性素養として残される。所謂"自然淘汰"という進化。
「平気だけどな、俺。」
まだよくは分かっていないのか、ルフィはむむうと唇を突き出して見せ、
「とにかく。皆、そっちで忙しいみたいでさ。お家に"結婚相手"が呼ばれる子とかは、外に出してもらえなくなるし。」
それで遊び相手が激減して。いきおいゾロへと"遊ぼう攻撃"が集中しているのだろう。ねえねえダメ?と。甘えたなお顔、上目遣いになって見上げてくる奥方には、
「う…っ☆」
この甘甘な旦那様に勝てよう筈がなく。(笑)
「じゃあ、鬼ごっこでもするか?」
「うっとね"ハンプチ・ダンプチ"が良い。」
「………何だ、そりゃ。」
「楕円のボールを転がして取りっこするんだよ?
玉子みたいなボールだから"ハンプチ・ダンプチ"って言うの。」
どうやら"ハンプティ・ダンプティ"と言いたいらしいが、そんなウィットが理解出来るほど"イギリス文学"に造詣が深くはない旦那様だったので、
「???」
さっぱり意味が分かっていない様子であったが。(笑) 立ち上がったルフィが、居間の隅に置かれた玩具の籠から持って来たのは、ラグビーボールよりも頑丈そうなアメフトのボール。成程"玉子みたいな"ボールであり、これだとランダムなイレギュラーバウンドをするから、捕まえるのも大変だ。
「よーし、じゃあそれで遊ぼうか。」
「うんっ!」
お元気なお子様二人。大きな子供の旦那様にまとわりついてた、小さな子供の奥方が、
「あ、こらっ!」
途中からもっと小さなお子様になって。小回りが利く体と視線の低さを生かして、あっと言う間にボールを咥えて、そのまま庭中を駆け回り、旦那様の手から巧妙に逃げ続けたのは、それから数十分後のことで。
「る、るふぃ〜〜〜。」
つくづくと、体力が必要な遊びの好きな奥方であることよ。さしもの体力馬鹿…もとえ、元・全日本チャンピオンでも、捕まえるには中腰になるかタックルで飛び掛かるしかない小さな的を相手に、小一時間も駆け回れば、息が上がって動けなくもなろうというもの。芝の上、ばったり倒れたそのまま見上げれば、
"………へぇ。"
視野いっぱいに広がるは空気が澄んでどこまでも見通せそうな、高い高い蒼穹の天蓋。分厚い胸板を上下させて、ぼんやり空ばかり見上げていると、
「あうんっ。」
そんな胸板へと乗り上がってくる悪戯者が約一名。お空なんかよりも自分を見て見てと、愛嬌のあるお顔を割り込ませて来た甘えたさんへ、
「分かってるって。」
囁くような静かな声をかけてやり、だが、もうちょっとだけ。このままで居たいなと感じた旦那様であったのだった。……………もうそんな年齢かい、ゾロさん。
「違うわいっ。」(笑)
〜Fine〜 03.9.16.〜9.18.
*岸本礼二様、サイト『Second colors』さん、
祝 10,000hit突破作品でございますvv
何だか微妙に収拾がついてない終わり方ですが、
秋口のぱぴぃルフィ、宜しかったならどうかご笑納くださいませ。
*いつもいつもお素敵なご感想メールを下さって、
時には拙作への素晴らしい作品もお寄せ下さり、
とても励ましていただいております。
お忙しい身でいらっしゃるのに、
いつもいつもお優しい気遣いを本当にありがとうございます。
これからもどうか、食べちゃいたくなるほど無邪気な船長と、
そんなルフィに骨までぞっこんで首っ丈のゾロを
可愛いカッコよく、描き続けて下さいませですvv

|