月夜見

   “雪中も楽しvv”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 

雪が深いのが恒例なのでと、
積もった雪が家を押し潰さぬよう屋根の傾斜がやや鋭いとか、
下へまとめて落ちた雪で出口や通行を塞がれないよう
家の周縁には囲いを設けているとか、
そこまでの本格的な対策が要るほど北方ではないけれど。
それでもここ グランド・ジパングも、
寒さが最も強い寒の入りからは、
特に珍しいことじゃあないこととして、
城下の町が一面の雪に覆われる年もある。
せいぜい何寸かほどの積もりようでは雪玉も作れぬと、
遊び盛りの子供らあたりは不平を言うが、
そのっくらいでも解ければ道はぬかるむわ、
明け方だと凍ってツルリと滑りもするわで、
大人たちには迷惑千万な、天からの賜り物であり。

 「此処のお庭はさほど人も入り込まないせいですか、
  木の梢や藁囲いの上なんかに
  土も付かずの白いままのが
  たんと積もったままになるんですよね。」

 「そうだぞ。」

それを熱が出た患者さんへ使いもするんだなんて、
今は小さい方の姿のトナカイドクターが
いかにも重宝しているとにこにこと微笑って見せる。
ここは藩主の肝入りで設けられた診療所の一角、
薬草園でもある大きな庭が生け垣の向こうに広がる、
縁側のある中庭で。
風邪を引いたらしいという患者の訪問も
昼ご飯の時間とあってか、流れが途切れたものだから。
医学の勉強をしにと北方の里から留学している格好のトナカイせんせえと、
ちょっと微妙な事情(ワケ)ありながら、
様々な知識が豊富で人当たりもいいところを買われての助手待遇、
頭からかぶる頭巾や顔巾(マスク)に、
作務衣の上へ厳重な割烹着と手套という重装備の、
ブルックというおじさんとが、
それぞれの湯飲みを温かいねぇと手のひらへ包み込むよにして、
午後診前の食休みを堪能中。
お茶受けは ご城下でも評判の銀嶺庵の薄皮饅頭で、
入院している家人を見舞った人が
“皆様でどうぞ”と山盛りで置いてってくれたものだが、

 「うんまいなぁ♪」

見回りの途中で立ち寄った、
それは無邪気な童顔の親分が、
恒例のそれながら 美味い美味いと頬張る姿がまた、
通りすがる皆様の温かい笑みを誘っている微笑ましさよ。
ただ、あまりに勢いよく頬張るものだから、

 「…っ、〜〜〜〜っ!」

お約束の展開、うううと喉を詰まらせかかり、
自身の胸元をどんどんと手で叩き始めたルフィだったのへは、
あとの二人も おやまあとビックリ。

 「おやおやおや、これは大変。」

 「お茶…あ、でもまだ熱いぞ、困ったな。」

ごくごくと飲み下すには まだちょっぴり熱いお茶だと、
こちらも狼狽しかかった
チョッパーだったが、

 「ちょっと待っててくださいな。」

そちらはさして焦りも見せぬまま、
並んで腰掛けていた濡れ縁から ひょいと立って行ったブルックが、
生け垣の椿の葉の上からきれいな雪を幾つか摘まんで湯飲みへ入れて、

 「さあ、少しはマシですよ。」

これをどうぞと苦しそうな親分さんへと差し出せば。
いかにも慌てておりますという身振りのまんま受け取って、
ごくごくごくと飲み始め。
湯飲みの底が天を仰ぐほどとなってから、
やっとのことで口を離すと“ぷっはーっ”という大きな息を一つつく。

 「あー、びっくりした。」

大きなドングリ眸をますますと見開き、
大変だったぁという感慨を表すところが、
何とも幼くて判りやすい。
それから渡された大きい湯飲みを“はい”と持ち主へ差し出して、

 「助かったぞ、ブルック、ありがとなvv」

 「いえいえ、どういたしまして。」

木陰や生け垣のところどこには
まだ解けない雪が見える寒さじゃああるが、
彼らの傍らには藍染めの大きな火鉢も据えられているので、
陽あたりもいい縁側は、
ほっこり和むのには居心地もよくて。

 「ほら、淹れ直したぞ。」
 「恐れ入ります、すみません。」

炭の上へかけられた鉄瓶から急須へと湯を酌んで、
ブルックの湯飲みへ新しくお茶を淹れ直すチョッパーは、
故郷はもっと雪深いところだそうで。
夏場の暑さにこそ時折参っているけれど、
冬場は特に着込みもしないままでも、
そりゃあ元気にしておいで。
ルフィ親分も、寒いのへは微妙ながら 雪は大好きで、
積もりそうだとなると、
ついついあちこち駆け回ってしまうクチなので、
チョッパーせんせえの生国の話を聞くのが大好きで。

 「そんなに寒いとこなのか?」

 「おうよ。
  山里あたりになると、
  冬はもう外に出ることすら諦めて、
  熊みたいに家に籠もったまま暮らすほどだからな。」

大きな暖房で家じゅう丸ごと暖めるので、
冬場の外世界をまだ知らないうちの幼い子供らは
むしろ寒がりだったりもするらしい。
それでも、長い長い冬場には、
よんどころない事情で外へ出掛けにゃならない場合もあるから。
二階家さえ埋まるほどの雪の中、
道を掘って作りの、極寒の中を歩みのということへの耐性もないと、
毎日の生活にも支障が出るのだとか。

 「いいなぁ、そこまでいっぱいの雪〜vv」

 「おいおい親分。人の話を聞いてたか?」

ちょっと隣の家へ行くにもそりゃあ大変なんだぞって
そういう話をしているのにと。
双眸をキラキラさせ始めている親分へ、
呆れたような声をかける小さなお医者様だったりし。
そんな二人の掛け合いを、のほほんと聞いている、
今は顔巾を外しておいでの、背高のっぽの看護師さん。
やや複雑な事情から、
理不尽な殺され方をしたその上、
忌まわしい呪いをかけられた反動
…なのだろか。
封印が解けたら成仏するかと思いきや、
あらあら不思議、
骨だけの骸骨という姿のままながら、
お喋りもすれば物を飲み食いもしますという
普通一般の生活を送れる、
妙な言い方だが“生きてる身の上”となってしまい。
そんな姿を無防備に晒していると、
事情を知らない周囲から怖がられた挙句に
“悪霊め”という筋違いな(?)迫害さえ受けかねぬ。
そこで、衛生のためですよと白衣や頭巾で姿を隠したその上、
薬草園の奥深いところに身を隠せる此処へ、
藩主様のこそりとした口利きもあってのこと、
お手伝いをしがてら
居候をしている彼であり。

 「ブルックはどうなんだ?
  寒いののほうがまだマシなのか?」

そういや彼も生まれは他所の土地だったと思い出したか、
親分が屈託なく訊けば、

 「そうですね。
  こんなに着膨れている言い訳も立ちますし。」

最初のうちは お尋ね者かと疑われ、
その次は何か怖い疫病の患者かという方向で、
患者さんやら通院して来る方々やらから
一線引かれかけてもいたほど
珍妙な着膨れようで。
そこを差して“よほほvv”と苦笑した彼だったのへ、

 「暑いうちのそのカッコもさして堪えてなかったけど、
  じゃあ寒いのへも断然強いのかって訊いてんだろーがよ#」

 「よほほほほ♪ そうでしたか、すみません。」

はぐらかされたようでムッとしたか、
それとも、そんな…婉曲というものを知らぬよな、
考えの浅い童子みたいな訊きようをしたんじゃねぇやいと むくれたか。
どっちにしたって、
大おとなからすれば可愛らしい率直さであり。

 “こういう裏表のないところが好かれるのでしょうね、親分さんは。”

それに引き換え、
勝手に蓮っ葉な解釈をして済みませんと、
大人としての一応の謝意を示してから、

 「正直、実は暑いのも寒いのも
  判りはしますが堪えはしません。」

 「お…。」

それってどういう感覚なの?と、
チョッパーまでもが小首を傾げるものだから、

 「どう言えばいいんでしょうか。」

自分のことなのに説明しにくいというのも、
まだまだ微妙に幼い彼らには飲み込み難いことなのか、
ますますと首を傾げるのを、
それこそ判りずらい苦笑交じりに眺めやり、

 「暑いな寒いな、冷たいな熱いなというの、
  判りはしますよ、ええ。」

肌がないのですぐさまという反射的な感覚ではありませんが、
それでもそこは何とか判るんですがね、と。
何とか適切な言い回しというの、
まさぐり爪繰りつつ説明を続ける骸骨さんで。

 「でも、
  だから辛いなーというところへ繋がってはないようで。」

縁から湯気がゆらゆらと立ちのぼる湯飲みを、
その大きめの手にくるみ込み。
そんな奇妙な身となったこと、
あらためて感じ直しているような様子を見せる。

 昔はどうでしたかね、
 ルフィさんのように猫舌でしたかね。
 チョッパーさんのように暑いのが苦手でしたっけね

そんなこんなを思う沈黙をどう受け止めたものなやら、

 「……。」

しんみりという空気を醸す二人だと気がついて。
おっとと顔を上げたブルックさん。

 「ああでも、
  お茶が温かいのはありがたいですし、
  銀嶺庵のお菓子が美味しいのはちゃんと判りますよ、ええ。」

いきなり覚醒させられて、
生きているやら死んでいるやら、何だかよく判らなくなるほどの 迷子と化してた自分を、
助け出してくれたのみならず、こんな形で構ってもくれる、
そんな心優しくも豪気なお友達へ、
美味しい美味しいとお饅頭を頬張って
“ありがとう”の代わりとした、大おとなの骸骨さんだったりしたそうで。

 「そだろ、そこの饅頭は美味いんだ。」

 「あ、でもオレ、花見団子が一番好きかも。」

 「あっ、俺もっ。あの三色の大好きっ!」

甘味処がそれらを出してくれるよに、
早くお花見の季節になるといいですねと、
生け垣の椿の赤い花が ふふと頬笑んだ、
昼下がりだったようでございます。






     〜Fine〜  15.02.05.


  *節分が過ぎれば、スイセンとジンチョウゲが待たれますね。
   まだまだ雪やインフルへの油断は出来ないけれど、
   日いちにちと陽気は濃くなりつつあるのを…感じ取りたいです。


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