月夜見 私が、いるよ



 それは船内の大掃除をしていた時のこと。見張り台から甲板にキャビン、甲板下の船倉に至るまで、埃や汚れを落とすお掃除と同時に、不用品の整理にも手をつけてねとは、財務省のナミの一声。
『売れそうなものは次の島で売り飛ばすわ。』
 航海も長くなると、時の蓄積と共に荷物もまた増えるもの。ただでさえ小さなキャラベル、無駄なものはきっちり整理するに越したことはないと、女性には珍しいほどの度合いで"合理主義者"な航海士さんである。………で、

  「…あえ?」

 ちょっとばかし間の抜けた響きのある、舌っ足らずな声を立てたチョッパーに、
「???」
 一緒に整理を手伝っていたロビンが気づいて、その傍らへと寄る。甲板下の船倉の一つ。脚立を出して、棚の上、様々な大きさの木箱が並んでいるのを1つずつ確かめていたところ。
「どうしたの? 船医さん。」
「んん、これ。」
 小柄な彼の体の幅と同じくらいという、小ぶりな木箱を下ろして見せる。角や縁に金具を打ち付けられた、なかなか頑丈そうな代物で、
「随分と奥に突っ込んであったぞ。」
 高いところを見るのに、体つきの小さなトナカイのままでいたのは、人型になるより視力が働くから。その眸で見通した暗がりの奥、こそりと角が見えたため、小さな蹄に引っ掛けて引っ張り出してみたらしい。
「お宝でも入っているのなら、航海士さんが喜ぶわね。」
「そだなvv」
 ロビンの言いようへ単純に喜んで見せたチョッパーだったが、
"…でも、そんな価値のある箱なら、あのお嬢さん、こんなところにまずは置かないのでしょうけれど。"
 おいおい、お姉さん。
(苦笑)



            ◇



 整理を済ませて甲板へと上がりがてら、
「こんな箱、見つけたぞ。」
 チョッパーが明るい陽射しの下へと持ち出した小さな木箱。早速キッチンにいたナミに見せると、
「ああ〜、これ♪」
 航海士嬢は弾んだ声を出した。
「どこにあったの?」
「んと、デッキブラシとか入れてる倉庫の奥の棚の上んトコ。」
「そっか。そんな奥じゃあ忘れてるわよね。」
 鍵は掛かっておらず、あっさりと開いた蓋の中、随分と古い型のカメラと共に、写真が十数枚ほど乱雑に放り込まれていて、
「おや。」
「あ、それって…。」
 やはりキッチンに同座していて、オーブンの前にいたサンジや壁際のベンチで何やら細かい器具を磨いていたウソップにも見覚えがあるらしく、テーブルへと寄って来る。
「ローグタウンで買ったカメラじゃねぇか。」
「そ。すっかり忘れてたわよね。」
 このお話、飛行機はないらしいが車は土地によってはあるらしい…とか、文明がどのくらい進んでいるのかはなかなか微妙で。電信系統も"電伝虫"なんていう生物機器だったりするのだが、カメラは一応あるらしく。指名手配書には大概その顔が掲載されている辺り、海軍もマメだが…写真を撮った時には捕まえ損ねてる訳やね、つまり。
(苦笑) それはともかく、
「呑気な顔してるわよねぇ。」
「まあ、この辺りは余裕もあったし。」
 写真に写っているのは、この船の仲間内たちばかりで。ということは、航海中に船内で暇つぶしにでも撮ったものなのだろう。にっこり構えた笑顔あり、不意打ちで撮られたらしき顔ありと、なかなか楽しげで、しかも全員が同じだけ写っているところを見ると、誰か一人がカメラマンに徹した訳でもなさそうな。
「いつ撮ったんだ?」
「うん。まだ"グランドライン"に入る前…いや、これだと入ったばっかりくらいの頃かしらね。」
 最初の面子、ルフィにゾロ、ナミ、ウソップ、サンジの5人。屈託なく笑っていたり、何か悪態でもつかれたか怒った顔で写っていたりと、それでも楽しそうな写真ばかり…という、そんな中。
「………これはどうやって撮ったんだ?」
 トレードマークを描いた海賊旗を甲板に敷いて、5人が寝そべり上から撮ったものがあって、これだけ唯一、5人全員が写っている…のだが。となると、確かに"誰が撮ったのか"という不思議を招く。だが、
「ああ。これは、ウソップが作ったセルフタイマーつけて撮ったの。」
 ナミがあっさりと答えてくれて、
「あやや…☆」
 もしかして怪奇現象かも…なんて身構えかけてたチョッパーが、テーブルの上に突っ伏すようにしてコケた。さすがは草食動物の本能か。相変わらず、どこか臆病なトナカイくんである。
「グランドラインに入ってからは、あれやこれやと立て続いたから、写真どころじゃなかったものね。」
 麦ワラ帽子をかぶったドクロを描いた、真新しい海賊旗を枕に、5人が放射状に寝そべって。まるで何かへのプレゼンテーション用の記念写真みたいな出来の写真。これからどんな航海が始まるのやら、まだ確たる予想さえしてはいなかったろうに、それでも余裕でにこやかに笑っている、メンバーたちの溌剌とした強かそうなお顔が何とも目映い。いつのものかさえ知らなかったくらいだから、チョッパーにはお初の代物。
「フィルムもまだあるみたいだから、後でお前らも撮ってやるよ。」
 ウソップがカメラをいじくりながら、何の気なしにそんなことを言い出したが、
「私は遠慮をしておくわ。」
 さして撥ねつけるような口調でもなく、だが、取っつく手掛かりの無さそうなほどあっさりと、ロビンが辞退する。
「え〜。何でだい、ロビンちゅぁん。」
 きっとナミさんのと一緒に焼き増しさせて、こっそりスーツのポケットにでも入れとくつもりだったのだろう
おいおい サンジが、甘えるような口調の声で問えば、
「だって、今現在の顔が世間に出回ったらコトでしょう? どんな拍子で誰の手に落ちるか判らないもの。自分の痕跡は残さないに限るし、必要でない写真は撮らないに越したことはないわ。」
 さすがは、長年を闇の世界にて過ごした女性。そういう用心は、当たり前のこととして身についているらしいが、
「世間に出回るって…。」
 キョトンとしたのは、ウソップ、サンジ、チョッパーの3人。彼女の言いようへどこか呆然としていたのも束の間のことで、

    「大丈夫だ。俺が現像すんだから、外部の人間の目にゃあ触れないぞ。」
    「他でもないロビンちゅあんの写真だよ? 何で誰かの手に落とすかねvv」
    「そだそだ。仲間の写真だぞ。大事にするぞ。」

 怖い追っ手に警戒して、そうまで心配しなくても良いんだぞと、懸命に気を使って下さっているらしき様子の迫力に、
「そ、そうなの。どうもありがとう。」
 珍しくも圧倒されたロビンを、双方の言いようがちゃんと理解出来てるナミが…吹き出しそうになりつつも何とかこらえて眺めやる。グランドラインという魔の海に入って、しかも随分と名を馳せ、海軍や賞金稼ぎなどなど、様々な者たちから狙われてもいよう立場になってもなお、こうまで"お気楽・お呑気"な海賊団も珍しかろう。再び手元の写真に視線を落とし、


  「ここまでは何とか"人間"だったんだけれどねぇ。」

  ――― はい?


「な、なにがだ?」
 何だか深刻そうに、溜息混じりな声を出すナミであり、それを聞きとがめたチョッパーがテーブルの傍らへと戻って来るのへ、
「このころ…グランドラインに入ったばかりの頃を思い出したの。」
 まだ1年とは経っていなかろうに、それは感慨深いという声を出す彼女であり、
「あたしたちはイーストブルーから来たの。………で、それって、他の海賊とやり合ったり、海軍に追われたりもしたのを掻いくぐった末のことではあるんだけれどね。」
 そうでしたね、結構あれこれと大物相手の戦いを、順を踏んでこなしてましたよね。
ナミが知っているところからでも、バギーにキャプテン・クロに…見てないけどドン・クリーク、そして…魚人アーロン。最後の難関、ローグタウンでは、あのスモーカー大佐の執拗な追撃を振り切っての船出でしたし。(TVオリジナルだと、この後に"アピスと千年竜とロストアイランド"が挟まりますし。)
「そだなぁ。色々あったよなぁ。」
 うんうんと頷くウソップと、
「う〜ん。ナミさんやロビンちゅあんにも観ててほしかったなぁ、俺の勇姿。」
 にっこりと爽やかに笑いつつ、でもご婦人方はそんな殺伐としたもの、怖いから嫌いだよね…なんて、お気楽な言いようをするサンジ。何を言う、俺様の勇姿は殺伐となんかしてなかったぞ。おいおいどんな勇姿だって…などと、相変わらず的を外したことを言い合っている男性陣はきっぱり無視して、
「でもね、イーストブルーよ? イーストブルー。」
 ナミは話を続けた。
「東西南北、4つの海では一番穏便。そんな風に言われてる海域で、だのに"死闘"を繰り広げていたのよ、こいつらは。」
 ゾロは初戦にて、バギーのところの三流軽業師に隙を突かれて斬りつけられてもいた。ルフィだって"うっかり"は常套で、バギーに捕まるわ催眠術にはかかるわ。ナミさんは詳細までは知らない戦いだけれど、クリーク戦では後先考えないで…鉄の網に搦め捕られたままクリークに止めを刺して、危うく海の藻くずになりかけた。
"ココヤシ村でも、アーロンに食いつかれて結構苦戦していたし。"
 ゾロはミホークとの一戦の、そしてサンジもクリークの右腕"鬼神のギン"との死闘の直後だったとはいえ、魚人どもにかなりの苦戦を強いられており、全員がずたぼろになっての勝利だったように記憶しているナミなのだが、

  「それが…どう? グランドラインに入ってからのあいつらと来たら。」

 ナミが"あいつら"という言い方をした、ということは。少なくともこの場の間近にはいない人達のことだろう。
「?」
「???」
 顔を見合わせるチョッパーやウソップの向こう側、オーブン前にてスープの大鍋をゆっくりと掻き回していたサンジが苦笑をして見せる。
「確かに。元から途轍もない能力持ってて、それを鍛えてから海へ乗り出したルフィはともかく。あのクソマリモなんてのは…普通レベルを根性で補ってたものが、いきおい化け物レベルで強くなっちまいましたからねぇ。」
 そんでも本気を出しゃあ、まだまだ俺には敵いませんけれど。そんないい加減な付け足しを忘れないシェフ殿へ、
「え〜、ゾロってふつーの人間だったのか?」
 おいおい、チョッパー。どういう言い方だ、そりゃ。
(笑)
「そうよ〜。息も絶え絶え、全員がかりみたいにして相手を倒してたものが、グランドラインに入ってからは…。」
 鹿爪らしくも厳かに。眉を顰めて説明してやるナミの言葉尻をさらりと奪って、
「確かウィスキーピークでは、たった一人で殺し屋を百人斬ってたわね。」
 ロビンがあっさりと告げ、
「アラバスタでは、やはり殺し屋として名を馳せていたMr.1を斬って、鋼鉄を斬る奥義を身につけた。」
 おお、さすがはそのバロックワークスの最高幹部だっただけのことはあって、情報にも抜かりはない。
「…え? そうなの?」
 おいおい、ナミさん。
(笑) 言葉通り、素直に解釈してしまい、
「ゾ、ゾロって化け物なんか?」
 強いのは知ってるけれど、普段はぐうたら寝てばっかの男だのにと、びくびくと怯えるチョッパーに、
「そうかもなぁ。剣で戦うってことにかけちゃあ、ある意味で十分"化け物"だ、あいつは。」
 腹の底では"くくく…"と笑いつつ、ウソップがあおり立て、

  「お前も注意しな。
   夜中に奴の剣が血を求めて哭
くかも知れん。
   ルフィで制止出来んかったら、俺たちは一巻の終わりだぞ。」

  「ひえぇぇぇええぇぇっっっ!」


  ――― こらこら、あんたたち。








            ◇



 そんな一方。上甲板では、お掃除を終えておやつの時間までの暇つぶし。いつもの顔がいつものように、羊の頭とその後方の柵とにそれぞれ陣取っている。赤いシャツの小さな背中と、真っ向から吹きつける風にはたはたと縁が躍る麦ワラ帽子。特に"見張り"でもないのに、丸ぁるい羊に頭の上を自分の特等席としている、それはそれは好奇心旺盛な船長殿であり。それを…少しほど離れた後ろ、上甲板の縁に立つ柵の根元に凭れるように腰を下ろして、当然の眺望として眺めやるは、やたら存在感のある偉丈夫さん。厚みのある胸板や肩、頼もしき背中などによって構成された、頼り甲斐満点にも雄々しい上背を、まるで獅子が昼寝でもするかのようにゆったりと弛緩させ、
「落ちるなよ、ルフィ。」
「おうっ!」
 お元気な声、振り返りもせずに寄越す無邪気な様子へ、声を出さずに笑って見せて、さて。

   "…ったくよ。"

 ドアを開け放ったキッチンの会話。今日は風向きが良いせいか、いつもより良く聞こえて、
"勝手なことを言ってやがるよな。"
 まあ、チョッパーやロビンもいる場で"人間じゃない"だの言っているナミなのは、引っ繰り返せば、彼らを…自分も含めた"真っ当なレベルの人間"扱いしていればこその事なのだろうけれど。人をさんざん"化け物"呼ばわりしやがってと、男臭くて鋭角的な顔立ちの、眉間のしわが普段より何本か増えている。好き勝手な言われようにはムッともしたが、だが、しかし。

  "…遠くに来ちまったには違いないか。"

 生まれ故郷の村を出て、ただただ世界一の剣豪を目指しての旅。板子一枚下は地獄とまで言われているような、船出してしまえば四方のどこにも逃げ場のない海の上の方が自分を強く叩けると、あて処
ないままに海に出て、そして…ミホークの噂を聞いた。世界中の剣士剣豪たちの頂点に立つ男。彼を倒すことが、そのまま自分の目指す"野望"のゴール。今にして思えば何とも短絡的ではあったけれど、漠然としているよりも分かりやすいゴールの方が、そのまま分かりやすい励みにもなる。そんな風に"それなりの形"になってもなお、目指す野望はあまりに大きすぎ。気がつけば"魔獣"と呼ばれる人間に成り果てていて。体裁なんぞは今更どうでも良かったが、自分の強さの限界を…ここからどうすれば伸びるものやらと、人としての矜持をさえ捨てるべきなのだろうかと思い詰めていたところへ、

  ――― お前、俺の仲間にならないか?

 屈託なく声をかけて来たこの坊主に、堕ちゆく身をギリギリで引き留めてもらったようなもんだったなと、そう思う。青空と青い海の中に鮮やかに開いた南国の花のような、真っ赤なシャツに包まれた小さな背中。眩しいものでも見るように、切れ長の瞳、眇めるように細め、風にはためくシャツの裾やら、細っこい肩、ひょろひょろした腕なんぞをぼんやりと見やる。
"………。"
 ナミは知らない、二人の出会い。磔刑場に晒されていたゾロに何の衒
てらいもなく近づいて来て、突拍子もない勧誘の言葉をかけて来たルフィ。
『お前さ、あん時、俺が頑として仲間にはならねぇって言い張ってたらどうしてた?』
 今更確かめても詮無いこととは知りつつ…本人へ一度だけ訊いたことがあったのだが、
『ん〜、どうしたかな。』
 そういう"もしも"を考察するのは苦手なルフィは、さんざん首を傾げたおしてから、
『きっと無理から連れてったと思う。』
 だってこんなに頼りんなる剣士だし、面白くて
気の合う奴だしさと。もしかしてそれは"結果論"ではなかろうかというよな見解を交えて、やはり屈託無く、楽しげに語ってくれたルフィであったのだが。
"俺の腕が上がったのはともかく。"
 そっちは…日々の鍛練と いまだ熱を下げない執念とで着実に高められつつある、言わば"成果"なのだから、化け物上等、どんなにクサされても褒め言葉と解釈しようじゃねぇかと笑っていられるゾロであったが、
"こいつのは、まだ、元から持ってたもんって感じだもんな。"
 クジラのラブーンにケンカを売り、それから…そこで縁が合った連中に導かれてウィスキーピークへ。ゾロが殺し屋百人を斬ったのは、まあ腕慣らしのようなもの。そこでアラバスタ王国と犯罪秘密結社バロックワークスとの因縁を知ることとなるのだが、
"そういや、ルフィとタイマン張ったんだっけな。"
 そんなこともありましたねぇ。つまりはゾロとも戦ったことになるルフィであり…勝者はナミさんだったけれど。
(笑) リトル・アイランドでは巨人族と対等に渡り合い、雪国ドラムでは垂直に聳え立つ5千メートル級の雪山を素手で登り、前の王様とかいうのを空の彼方へ吹っ飛ばした。さすがにクロコダイルには、勝手が違ったか、初戦は敗退を喫したが、それでも粘り強く立ち向かい、最後には吹っ飛ばしてしまったし。その後も色々乗り越えて、ジャヤではあっさりならず者どもを制覇し、スカイピアでは…。

  "…確かに人間離れしちゃあいるか。"

 思い出して…洩れるのは、何とも言えない苦笑だけ。様々な戦いの中、腕っ節以外のものもあれやこれやと拾いあげ、腕っ節以外の"強さ"として蓄積して来た自分たちであり、こうして生き延びていること、底抜けに明るく振る舞えることがそのまま、彼らの強さのいかに手ごわいかの証しでもある。特に構えて余裕を見せてはいない。いつだってがむしゃらだし、明日のことどころか、一瞬先のことだって考えてはいない時がある"無手勝流"なのは当初と全然変わってはいない。心意気というよりも無謀な無茶であり、向こう見ずな無鉄砲。自分の命を惜しいと思わない訳ではないけれど、野望を目指して果てたなら本望という覚悟はある。馬鹿ではないかと呆れるナミも、案外と。合理主義者が化け物呼ばわりするという格好で、そんな自分たちの無茶を容認しているつもりなのかもしれない。こんな自分だって修行は足りない。自分自身の腕前もそうだし、心構えにしてみても。まだ時々…ルフィに降りそそぐ剣を留める格好にて彼を不用意に庇い立てしてしまい、そんなに信用が無いのかと叱られてばかりいる。

  "…それとこれとは別だろうによ。"

 仲間を宝だとし、その想いや信念を我がことと同様に大切にするその反面、先頭に立っているのは好奇心からのこと。自分たち仲間を置き去りにし、突っ走ってゆくことの多いルフィは、もしかしたらキャプテンには向いていないのかもしれない。集団の中にあっても自分の野望を忘れないというのはこういうことなのだろうかと思う時もあるが、いやあれは目先の初物に食いつきたいあまりに、こっちをすこ〜んと忘れているんだよと、冷静な自分が言い立てて。直進した先々で不器用にも何かにぶつかっては何かと騒動を引き起こす彼と付き合って来て。それでもうんざりしないのは、その小さな背中を任されているという"信頼"が、実は…くすぐったいほどに嬉しいからだ。頼りになるやらならないやら。およそ、慎重とか様子見とかいう言葉を学習しない破天荒船長。でも、何だか。そういう細々とした覚束ないところは、自分たちがフォローすれば良いだけのことじゃないかと思わせる、そんな器をした子供。

  「…なあ、ゾロ。」

 ぼんやりと。柄にもなく考えごとに没頭していたせいか、いつの間にか、肩越しにこっちを見やっていたルフィに気づかなくって。
「んん?」
 手枕の上、気持ちほど頭を起こして"聞いてるぞ"というリアクションを見せれば、大きな琥珀の眸が楽しそうに笑って、

  「…なんでもねぇ。」

 何だ、そりゃ。単調な声を返せば、しししっと妙に嬉しそうに笑って見せる。こんな何でもないことさえ、胸に温かで宝物になってしまう、そんな少年。なりふり構わず一緒にいたい、でも。どこまで翔けてゆけるのか、その背中を押してでも、翼の届く限り高く遠くへ飛び立っていってもほしい。そんな存在。

  ――― あとどのくらい、一緒に居られるんだろうな。

 口に出して言ったなら、間違いなく叱られるから。胸の奥底でぽそりと呟く。そんな間合いへ、


  「ねえ、ルフィっ、ゾロっ。写真撮るから、ちょっとこっちに来なさいよっ!」


 青空の下、潮風に負けないほど伸びやかなナミの声が、甲板にいた二人の耳に届いた、暢気で穏やかな昼下がりのお話である。




        波が攫った 小さな砂のお城
        流れる雲を 見上げて 泣きそうな笑顔

        もしも世界中に 敵しかいないなら
        背中を任せて
        信じる気持ちを 忘れないで

        私がいるよ Ah 愛しい人ね
        ずっと 抱いていてあげる…




   〜Fine〜  03.10.2.〜10.3.


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     鵤木かずわ様『イラストからイメージを起こしたお話』


   *当方、本誌もコミックスも揃えてはいない"アニメ派"ですので、
    イラスト(扉絵含む)というのをあまり知りませんで。
    エンディングのカットでも構いませんとのお言葉でしたので、
    ラストに大好きなカットが出て来る、
    トマト・キューブさんたちのこの歌を選ばせていただきました。
   (いや、だから、歌じゃなくてイラストをね?)
    余裕綽々なゾロの分厚い胸板が嬉しい、すけべえな奴でございますvv

   *ついでだから話は大きく離れて、
    エンディングで一番好きなのは2代目の『RUN! RUN! RUN!』です。
    チビたちが出て来たり、ゾロが重しを振ってたりするアニメも大好きvv
    で、この頃からEDだけはくるくると替わりまして、
    この『私が、いるよ』『しょうちのすけ』と続きますが、
    その後の AI-SACHIさんたちの『BEFORE DAWN』も好きですね。
    (ビビやカルーもいて、キャンプの準備するアレです。)
    (それどころじゃない筈なのに…同人誌みたいな設定ですよね。笑)


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