キミと一緒の 秋を迎えに 
         〜キミに ××な10のお題より
 
 

 “どうしてもキミが好き”



いつの間にやら、朝晩の冷えようも増しつつある九月の終盤。
こちら、立川のとある駅前では、
地元商店街と近隣の町内会による
ちょっとした、だが例年恒例のにぎわいとなりつつもある
バザーとフリマを中心とした屋台祭りが開かれており。
ブースの利用を申し込んだ市民のかたがたを中心とした
ジャンルフリーのフリーマーケットが催されているのは、
商店街に隣接した搬入用駐車場をきれいに整頓した広場で。
そのすぐお隣に位置するたばこ屋さんが
今日と明日だけの案内所になっており。
いつもなら愛想のいいおばあちゃまが
ちんまりと座っておいでの小さめの窓には
お嫁さんだろうか、やや恰幅のいいおばさまが、
お祭りの間だけの案内嬢としてにこにこと愛嬌を振り撒いていらして。
そこから連なる商店街も、
アーケード下の通廊のようになっている歩道にずらりと
お買い得とされた商品を並べたワゴンや出店が並んでいるし、
真ん中に位置する商工会の事務所も、
両開きのガラス扉が大きく開放されていて、
こちらでは婦人会や子供会、老人会の皆様の力作
短歌の色紙や様々な手芸作品などなどが、
展示されたり、販売されたりしているフロアとなっている。
小さな町のそれだというに、駅前という至便さや、
案外とお値打ちな品物が持ち寄られることから評判も高くて、
開催されるようになってまだそれほど経ってはないのに、
秋と言ったらと、
沿線の方々から期待されるイベントになりつつあるそうで。

 「あ、ブッダさん、こっち。」

事務所の入口を通過するとすぐ、
左右を見回すまでもなくそんなお声が飛んで来て。
そちらへとお顔を上げれば、
招き寄せんとしてか仰ぐような大きい動作で、
目印には十分な合図をくださる奥様たちが何人か、
壁際の長テーブルに手芸作品をいろいろと並べて、
販売員としての配置についていらっしゃる。
フリマ広場の奥向きで、もう一班が
麦茶やお茶を供する休憩所ブースも受け持っているのよと、
そちらから支度を手伝ってから飛んで来たらしい奥様が、
訊きもせぬことをいきなり話しつつ、
ブッダがトートバッグから取り出したエプロンを受け取り、

 「うあ、やっぱり丁寧なお仕事なさるわ。」
 「ミシン使ってないんですって? こんなに縫い目細かいのに。」

他のエプロン同様に、1枚ずつをビニール袋へ収めつつ、
半分に折られた身頃の裾を巡る
チロリアンテープの付けようを誉めそやし、

 「今回は本当に、
  急なことをお願いしてすいませんでしたね。」

代表格なのだろう胸元へ名札を留めておいでの奥様が、
そんな風にねぎらいのお言葉をくださったそのまま、

「何と言ってもねぇ、九月といったら子供たちの学校は始まるわ、急に涼しくなって来たんで衣替えを待ってられないって上着を出したり布団を干したり。そうそう商店街でも売り物の模様替えの算段付けなきゃならなくなるわで。落ち着いて物事に掛かれない時期でしょう? とはいえ、半端なものを出す訳にもいかないんですよ、何たって婦人会の作品は毎年評判がいいから…」

ど、どこで途切れるのだ、この人のお話はと。
ある意味、説法のプロであるブッダ様が、
多少は気を遣ってのこととはいえ、
それでも全く歯が立たずの遮りも出来ぬまま。
造作の深い目許をパチクリさせて飲まれかかっておれば、

 「………あ。」

ジーンズのポケットから、某海賊映画のテーマが流れる。
取り急ぎスマホを取り出す動作を見やり、
あら失礼とやっとお口をつぐんだ奥様に一礼し。
通話モードにしたモバイルを頬に添えつつ、
皆様から背中を向けたブッダの視野へ、

 “あ。////////”

ちょうど真正面の方向となる、出入り口の扉の奥向こう。
通りを挟んだ も一つ向こうの、
今日はシャッターを下ろしている、
ふとん屋さんの前に立っていたイエスが、
やはり自分のスマホを、長いめの髪のかかる頬に当てていて。
それは朗らかな笑顔で、
楽しそうに“おいでおいで”と手招きするものだから。

 “え? あ・でも…。”

まずは素直に、引き寄せられるよに歩き出しかかり、
ああでもと思い直す。
こちらの奥様と話半分になってないか、
でも何か、関係ないお話しかなさってなかったような…と
戸惑い半分に背後を伺う彼なのへ、

 【 大丈夫。
   その奥さん、話し始めると止まらないし、
   そんなせいか、次から次にお相手見つける名人だから。】

今ももう、ご挨拶に来た別の奥様と話し始めてるしと、
彼から見えているのだろ状況を、
スマホ越しにイエスが教えてくれたので。
だったらいいかと、そのまま離れることにして。

 「イエスも知ってる人だったの?」

会議所を出れば、
もう通りが埋まりつつあるほどの結構な人の出の中。
つい先程 開幕のご挨拶があったばかりという早い時間だというに、
この賑わいとはと驚いたそのまま、
肩を背を押されの、流され掛かって おととと焦ったけれど。
そちらはシャッターに凭れたままでいた
…というか、あわわというお顔になったのを
目顔で大丈夫だからと待たせた格好のイエスのところへまで、
一応は苦もなく辿り着いたブッダ様。
開口一番、スマホ越しの会話の続きを持ち出せば、

 「うん。
  わたしが立ってた雑貨屋さんのワゴンのところへも、
  時々 お越しだったから。」

玻璃の目許をたわめ、
口元のお髭ごと口許を真横へ真っ直ぐに伸ばし、
ふふと悪戯っぽく笑った辺り。
大人をあしらえるのが凄いでしょと言いたげな、
無邪気な子供のようでもあって。
そこいらの大人なら つい出てしまおう
“困った人だよねぇ”という
仄かに筋違いな非難とか、優越感の滲んだ評や同調などなどを。
全く匂わせることのないままの言いようをして、
こちらの心持ちも軽くしてくれる不思議な人。

  ああ、こういうところが、と

愛すべき彼の素敵さを、あらためて実感し、
ふんわり笑顔をお返しすれば、

 「え? えっと?////////」

何が嬉しかったの?と、却ってどぎまぎしちゃうのも相変わらず。

 「何でもないないvv」
 「そうなの?」

そんなイエスが関心を向けておいでなのは、
そこも素直に、賑わいそのものへであるらしく。

 「フリマが中心の、売り出しの一種だって聞いてたけど、
  向こうの道路のほうにまで屋台が出てて、
  なんか神社のお祭りみたいだよね。」

額の冠に小さな蕾が見えてる辺り、結構な興奮状態でいるらしく。
そこもまた可愛いなぁと、今度は苦笑を覗かせたブッダだったのへ、

 「そうそう、さっき静子さんを見かけたよ。」
 「おや。」

そんな情報ももたらしてくれて、

 「愛子ちゃんの手を引いてて、
  でも、急いでるようで会釈だけだったの。」
 「ああ、じゃあ竜次さんが屋台を出しているのかもしれないね。」

ふ〜ん、お手伝いに行ったのかなと訊かれて、
どうだろうねとブッダとしては首を傾げる。
よそ様の事情なのでとしつつ、
他に思うところもないではなかったけれど。
含む意味合いが微妙なのでと、
イエスにわざわざ言ったものかどうか決めかねておれば、

 「でも、そういや鎮守のお祭りの屋台とか、
  静子さんはお顔出さないよね。」

今 思い出したか、そうと付け足した彼であり。

 「そっちは射的とか、
  お仲間の男の人たちとで回せる種類のお店だし。」

それに愛子ちゃんを見てなきゃいけないでしょう?と言を流せば、

 「でもサ、女の人も
  客寄せっていうの?立ってるところは多いじゃない。」

イエスとしてはそんなことまで御存知だったようで。
お中元を解体したのや余剰品、
缶詰やタオルなんかのお値打ち品を目当てにしていた彼らであり。
それが待っているだろう、フリマ広場を目指すよに歩き出しつつ、
静子さん美人だのにどうしてかなと、そこは不明か訊いてくる。
道なりに居並ぶワゴンや出店へ立っておいでなのは
威勢のいい各店舗の店主さんたちが主なものの、
ほらと視線で指した先、
イエスが夏にお世話になったとこらしい酒屋さんの出店には、
お嬢さんとお友達らしい女子高生が立っていて。
うちわ片手にハッピを羽織って、
どうぞどうぞとビールやジュースを勧める様子が何とも華やかで。
確かにそうだよねというの、それは判りやすく展開中。

 「う…ん。
  竜次さんはそういうのが苦手なのかもしれないね。」

単なる手際の問題とは別に、
遊興・興業に付き物なのが、女性が醸す華やか嫋やかなお色気要素で。
供す側に配置すれば、もの言う花たちが格好の看板となり、
そんな気まではなくとも、眸を引いてのお客を引き寄せるのは自明の理。
自販機より看板娘がいらっしゃいませと声掛けて差し出してくれた方が、
同じ缶コーヒーでも美味しく思えるのは
決して錯覚だけじゃあないと、そこはブッダにも判りはする。
色香云々以前の話として、
同じものでも、そこへおもてなしの気持ちや心遣いが滲む手で渡されれば、
印象という価値が増すのは当然で。
それが華やかであったり妖冶な思わせ振りを振り撒く女性だったなら、
尚のこと、こういう空気の中、男性は浮かれるに違いなく。

 “竜次さんとしては、
  そういう興業の現場もたくさん見て来ているだろうから。”

だから尚更、
大切な奥さんの静子さんをそういう“場”へ近づけたくないのかも。
あれで、極端なほど子煩悩で愛妻家な顔も持つ、
恐持て任侠お兄さんの素顔をイエスもまた思い出したか、

 「そっか。」

納得納得と言わんばかり、うんうんと感慨深げに頷いたものの。

 「静子さんて粋で鉄火肌な女将さん風だから、
  屋台の気さくなお姉さんより小料理屋向きだものね。」

 「…どこで覚えたの、そんな詳細な設定。」

また何かややこしい映画とかネットで観たな。
そういや『地獄で何が悪い』に星野さん出てますねと、
余計なことまで思い出したのは筆者ですが。(こらこら)

 「だってそんな感じするじゃないの。」
 「思っても滅多に言うもんじゃありません。」

ごもっともなイエローカードが出され、
メッと指差し付きで窘められたのへ、
はぁいと肩をすくめたイエスだったものの、

 「女性のお客さんをたくさん集めると賑わうっても言うよね。」

自分も“客寄せ要員”だったんじゃないかと
この彼から言われたからじゃあないけれど。
ちらりと向けた視線を辿れば、
喫茶店の前に出された屋台では
カラフルなスプレーチョコをちりばめたチョコバナナが、
人気のパン屋さんの前の屋台では特製カップケーキの量り売りが盛況で。
女性たちがキャッキャ言って集まっていると、
それがまた華やかなせいか人の眸を引いており。

 「よ〜し、そいじゃおまけだ。」
 「きゃあ、おじさんありがとーvv」

少し多めに詰めてもらえたか、愛らしい歓声が上がって場が和む。
ウキウキしたお祭り気分もあったろが、

 「う〜ん、こういうときは女性ってお得だねぇ。」

お友達とさっそくにも焼きたてのケーキを分け合い、
嬉しそうに頬張る様子がまた愛らしく。
ふふふと微笑ましげに言うイエスが、
ねえとそのままお隣を見やったところが、

 「…ブッダ?」

微笑ましいというのとは くっきりカラーの違う、
う〜んと唸っての、なかなかに真剣なお顔になって
今のやり取りを見ていたらしい釈迦牟尼様だとあって、

 “あ……。”

他の場面で のほほんとしているのは、
こういうところで鋭敏な勘を働かせるためですということか。
口許を隠すようにこぶしをあてて、
何ともきりりとした顔付きで 何やら真剣に考え込んでおいでの、
愛しの伴侶様の両肩へと手を置くと、

 「ブッダ、ちょっとこっち。」
 「え? なになに?」
 「いいから。」

気もそぞろだったのを呼び覚ましただけでは足りないか、
腕を取ると二人して手近な路地裏へとすべり込む。
今日ばかりは裏手での荷の搬入もないものか、
それでも人の気配のないのを見回して確かめてから、
いいかいとあらためて問うたのが、

 「もしかしてブッダ、
  女性になってあちこち回ったら
  おまけがたくさん降って来るんじゃないかとか思ってな〜い?」

 「う…っ。////////」

途端に表情が止まっての言い淀む正直さへ、
もおぉ〜〜〜〜、そんなことだろと思ったぁと。
豊かな髪をばっさりお顔へ降ろすほど俯くと、
掴んでいたブッダの肩へぶら下がるようにして、
イエスが がぁっくりと寄り掛かる。

 「昨日 言ったばっかでしょうが。もうちょっと自覚してって。」
 「えっとぉ。///////」

いや、まさか本気じゃないって、
神通力だよ、そうそう容易く使っていいものじゃないし、
そんなのあり得ないと微笑うブッダなのへ。

 「………。」

確かに、以前イエスがやってみてと言ったおり、
それは辛そうに大層に、念を込めていた彼だったしと
そのまま納得しかかったものの、

 「…でもさ。
  女性の方が値引き率が高かったりするよね、
  このごろのレストランとか。」

 「そ、そうだよね。」

声が微妙に引きつったのを、イエスが聞き逃すはずもなくて。
やや上目遣いのまま見据えれば、

 「………ブッダ?」
 「……まだやってません。」

冗談抜きに、
女性の姿への転変は彼自身も気が進まぬ代物だそうだし。

 「だってそんな、性別上の差別を肯定なんかしてどうするの。」
 「えっと?」

小難しい話はよく判らないとなった…のじゃあなくて、
確か仏陀様は、男女差別はよくないとしながら、
でもでも ぎりぎりののちのちまで女性の入門を許さなくて。
ヤショーダラさんがどうしても出家したいと訴えたのも拒んでいたが、
アナンダさんが説得し、しぶしぶ認めたという経緯がある。
それをひょこりと思い出した
イエスだったかどうかは…今回さておいて。(う〜ん)

 「いぃい?
  そもそも 給餌行為…っていうか食べ物の進呈は
  そのまま求愛の行為なんだよ?
  美味しいものどうぞって気持ちには、
  よく肥えていい子を生んでねって気持ちが隠れてんだからっ。////////」

 「イエス?」

 「昨日 言ったでしょ。
  ブッダはそれでなくとも可愛いんだから
  どんな誘惑が降って来るやら……。///////」

 「わ判ったから、
  そんな真っ赤になってまで、あのそのっ。////////」

こんなところで昨日のお説を繰り返されては、
他でもない彼の言葉での説法だけに、人も集まろうし、
何より…内容が内容だけに、個人的に恥ずかしくて堪らない。
ああもう、イエスと来たらと、
ブッダまでもが どうか静まってと焦ってしまっており。
少しは大人だったのかと思えば、
こういうところは、
知識だけ先行しちゃってるお子様と変わりない彼なのが、

 “あああ、どうしようか。////////”

呆れなきゃいけないのに…もしかして ときめいてますね、ブッダ様。
相変わらずのイエスフェチなんだから、この人はもうっ。

 「ねえ心配してるんだよ、本当に。//////」

 「う、うん。
  そこは重々判るから、ちょっと落ち着こうね。///////」

玻璃の瞳をぎゅうとたわめて、
きゅうぅんという切なお声が聞こえて来そうなほど、
山ほどの哀切を込めた面持ちで。
二の腕掴んでという間近から
訴え掛けて来るのは反則でしょうに。と、

 「……っっ!!」

思ったその身を抱きすくめられては もういけません。

 「  ………あ。/////////」

大きく動揺しつつ困惑中のブッダ様はきっと。

  胸が張り裂けそうに動悸がしていても、
  その結果、一気に螺髪が解けたとあっても

掻い込まれた胸元の、
思いがけなくも雄々しい肉置き
(ししおき)とか、
束縛を強いる腕の意外なほどの頼もしさとか。
頬が押し付けられている堅い肩、
動きがそのまま隆起する色香たっぷりの喉元などなどを
すぐの間近に感じつつ、

  あああ、
  こんな二枚目のイエスが
  私を独占したいがために動揺して///////、と

困っているけど ちょみっとたくさん幸せなんじゃないかと思う人、
遠慮は要らないから手を挙げて。(笑)






    〜Fine〜 13.09.30.


  *堅い話なんだか緩い話なんだか、
   なしくずしにも程がある〆めですいません。(笑)
   片想いだった期間が、
   実は途轍もなく長かったらしいイエス様。
   そして、そんな意外な爆弾発言に、
   動揺するあまり、
   いつも以上に舞い上がってしまうブッダ様…を書きたかったのですが、
   そこまでが楽し過ぎたのが敗因でしょうか。(うんvv)
   ウチのイエス様は、子供なんだか情熱的なんだか。
   お母様属性を上手いこと引っ張り出さないと
   またぞろ振り回されますよ? ブッダ様。(こらこら)


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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