秋の こもごも


“秋めきを探して?”




先日、何かの番組内の天気予報のコーナーで聞いた話なのですが。
今年は世界規模で気温の高い夏だったとか、
連日の記録的な酷暑で…なんてさんざん言われていたし、
熱中症で搬送される人の数も半端じゃあなくて、
みなさん水分と塩分を補給しましょうね、寝ている間も油断なりませんよと、
注意勧告とやらがさんざん告知され続けていたけれど。
そんなこの夏の“平均気温”というのを算出すると、
地域によっては何と冷夏っぽかったところもあるのだとか。
そういえば ところによっては雨も多い夏だったし、
猛暑日がこれでもかという連続で出た土地もあれば、
そのしょっぱな、
梅雨さえなかなか来なくていつまでも夏にならない土地もあったほど。
こぉんなに小さな島国だってのに、
それでもそこまでの差異が出るんだ、ニッポン。(う~ん)

 「関東地方なんて、朝晩は半袖じゃあ寒いほどだしね。」
 「そうだよねぇ。」

しきたりというほど大仰ではないながら、
それでも 季節感とか風流を大事にする粋な方々は、
風鈴とかよしずとかいった いかにもな夏の小道具は
もはやしっかと片づけていらっしゃり。
大家さんでもあられる松田さんちのテラスでも、
毎朝入れ替わり咲いてた清楚な花が可憐だった朝顔の鉢が
気がつけば 甘い香りのするオシロイバナや
クレマチスだろうか青い小花のに入れ替えられていて。

 「そろそろタオルケットじゃ冷えるかなぁ。」

お天気がまだちょっと不安定ながら、
寒いのへも敏感なキミがあんまり困るようならば
すぐにでも春秋用の薄い肌布団を出しとくけれどと。
家庭内のお道具全般の管理担当、釈迦牟尼様が
隣に立つヨシュア様へこそりと囁けば、

 「ん~。まだいいんじゃない?」

一応ちょっぴり考えたか、微妙に視線を一旦空へと泳がせてから、
それでもすんなりとした応じを返したイエスであり。
そのココロはと言えば、

 「だって、日本の季節は特に行ったり来たりをするようだから、
  まだまだ暑い日はいくらでも戻ってきそうだし。」

 「うん、それは言えてるよね。」

もういいかなと半袖シャツを仕舞ったすぐ後、
ちょっと動いただけでも髪の生え際からやたら汗ばむ
結構な陽気が戻ってしまい。
風呂上がりだの掃除や何やで長袖ではたまらんと引っ張り出すこととなり、
結局、十月半ばまで通常使用状態だったりするのは例年のこと。
流石に朝晩に使う寝具はそこまでの需要が長引きはしなかろうが、
それでもまだまだ九月の頭なだけに、
早々と入れ替えることもないんじゃないかというイエスのご意見へ、
ブッダも穏便にうんうんと頷けば、

 「それに、明け方だけとかいう冷え込みくらいなら、
  私がブッダをぎゅうすればいいだけのことだしね。」

 「…っ。//////////」

朗らかなお顔で頷いていた如来様の耳元にだけ届くよに、
やや低めた声での、イエスの甘えたな言いようが放たれて。
え?と一瞬表情が固まり、
ぱっちりした深瑠璃の双眸をなお大きく見張ってしまったブッダのお顔へ。
口髭の下、にんまり真横へ引っ張られた口許も悪戯っぽく、
イエスが “ね?”と言いたげな、やわらかな笑顔でダメ押しをしたものだから。

 「…な、何言い出すかな、キミったら ////////」
 「ああほら。お客様が来るよ、ブッダ。」

やっと理解が追い付いてのこと、
急な解凍(笑)とともに焦って非難を言い募る伴侶様を制しつつ。
落ち着いて落ち着いてと、とりなす笑顔がまた、
こういう時だけこなれていて憎たらしいたらとかどうとか、
続きの言いよう、何とか胸の内に押し込めたブッダだったけれど。
そんなささやかな確執(いちゃいちゃ?)になぞ露ほども気づかずに、

 「あ、イエスさんだ。」
 「ブッダさん、こんにちはvv」

始まったばかりの新学期はお昼までなのか、
顔見知りの女子高生たちが早速にも商品の提げられた棚へ向かうのへ、

 「いらっしゃいませ。」
 「こんにちは。」

こちらも慣れた様子で 慈愛付きの特別スマイルを振りまくは、
いつものTシャツとジーンズへの重ね着、
お揃いの帆布エプロン姿をした最聖のお二人、
かっこ 臨時のバイト仕様中 かっこ閉じるだったりし。

 『今年もお願いできないかねぇ、聖さんたち。』

雑貨屋さんの秋のセール、
と言いつつ、こそりと夏物の一掃売り尽くしも兼ねた、
小物類の店頭販売を担当するアルバイト。
陽除けかそれとも単なるアーケードの代わりか、
店の外にあたる舗道の 幌が出っ張っているその下で、
ワゴンや縮尺の大きい餅焼き網に商品が吊り下げられるようになった陳列棚などを出し、
小物雑貨を三つ二〇〇円などというサービス価格な扱いで売っている。

 「あ、この靴下値下げしてるvv」
 「あ、ホントだ。ミュールの下に履くんだよね。」
 「そうそう。シリコンのすべり止めもついてて…。」

さっそくのようにお嬢さんたちが手に取った小物、
実を言うとブッダやイエスには、
平たい包装を何度も前後ろとひっくり返し、
小さい字で印刷されていた説明をきっちり読んでも
なかなか何のグッズだか判らなかったブツだったのだが、

 ≪凄いねぇ、今時の子には判るんだ。≫

ろくに確かめもしないで、
こちらは昨日店主の奥様から聞いたそのままの把握を
するする紡ぎだした娘さんたちなのへ、
イエスがふわぁ~と感心しておれば、

 ≪というか、
  お嬢さんたちが使うものだったから
  私たちには ちいとも判らなかったのでは?≫

縁のないものじゃあ判りっこないってと、ブッダが苦笑で返したり。(まったくだ)
ここいらでは恒例、九月の末に商店街主催のバザーがある。
その準備などなどでそれなり忙しいのに、
新学期が始まるせいでアルバイトも一旦引いてしまっての人手は足りず。
一昨年だっただろうか、
顔馴染みとなったおもちゃ屋さんの店主の方から依頼され、
イエスがこの雑貨屋さんの助っ人を引き受けたことから、
ブッダまでもが…ままそちらは急な展開に巻き込まれた格好ながら、
パン屋さんのホール係を請け負ったりするほどに、
ちゃんとアテにされた上でのお仕事もこなすことがある身の上だったりし。

 「いらっしゃいませ。」
 「あ、ゆっこちゃんだ、久し振り♪」
 「あ・えと、すいません、サイズやお色はここにあるだけしか。」
 「大丈夫、さえちゃん色白だから、
  ラインストーンやビジューのじゃなくたって
  シルバーが品よく映えるって。」

どっちがどっちのセリフか判るかな?(こらこら・笑)
流石は イエスの方が微妙ながらもキャリアが長いか、
それとも日頃からして女子高生たちに仲よしさんが多いからか、
お客様が相手だというに、
ついつい屈託ないやり取りを交わしてしまうロン毛のお兄さんであり。
その傍らだから余計に差が出るか、
ブッダの方は何とも折り目正しい態度なのが
品のよいお顔や所作と相まって、
恐れ入ったお嬢さんたちの方へも思わぬ令嬢ぽい口調や態度を招いたりするほど。
例えば、

 「継ぎ目が当たりますか? どれ。」

そこまでは丁寧な作りではなかったか、
スモークのかかった石を連ねたブレスレットの留め具に
小さな引っ掛かりがあるみたいだと言われたブッダ様。
苦情というほどじゃあないが気になるらしい言いようへ、
ちょっと見せてと、試していたお嬢さんの手首ごと手に取ると
柔らかな造作も神々しい手をそっとかざし。
そのまま何度か、空気越しに撫でる所作をして見せれば、

 「あ…それほどでもない。」
 「それはよかったvv」

不思議なことよと言われるかもなんて恐れもないまま、
よかったですねぇと微笑むお顔の何んとも甘やかで神々しいったら。
その甘美な優しさにあたったか、

 「あ、ええはいvv////////」

そちらもまた蕩けそうになり、
手首へつけてたそのまま、
それは特価品ではなかったアクセサリ、
財布を出すとお買い上げくださったお嬢さんで。

 「…ブッダったら辣腕販売員。」
 「え?え? なんで、だってあのあの。///////」

王室生まれのセレブ育ち、
なかなか奉仕のお仕事には縁がなかった身だから、さぞかし融通が利かぬかもと。
今回の一緒にお手伝いのお話、
嬉しかった反面、そこを案じていたはずのブッダ様としては、

 “何でイエスがムキになっちゃったのかなぁ。”

私も負けるもんかとばかり、
鉢巻きならぬ、茨のカチューシャを額のぐるりへ巻き直し。
ブッダにはお気に入りの、かっちりと雄々しい男らしい手を打ち合わせ、

 「さあさ、お値打ち品ばっかだよvv
  見てって損はないよ、お嬢さんたちvv」

産地直送の野菜の投げ売りじゃないんだからと思ったほど、
急に勢いづいた様子はお店の雰囲気とは微妙に合っていなかったのに、
これはこれで人を惹きつけるところが恐ろしい。

 「あ、イエスさんがいる~vv」

まだまだ一日中の授業こそないらしいが、
午後は午後で、部活があるのか、それとも学園祭の準備で忙しいか。
お昼ご飯を買いにと商店街まで出てきたクチらしい
まちまちな制服姿のお嬢さんたちが、
思わぬところで思わぬ人に出会えたと、我も我もと嬉しそうに寄ってくる。
相変わらずに“客寄せパンダ”としての貢献度も抜群な
ある意味、立川ハッスル商店街のマスコットな、最聖コンビでもあるようでございます。




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