手をつないで春まで歩こう


“今年も相変わらず”




溯れば 秋がまだ終わらぬうちから、

 この冬は暖冬になるだろう、だなんて

気象予報の筋の方々からしきりに言われていたはずが。
蓋を開ければ、近来 稀に見る規模の
“爆弾低気圧”が発生したほどの大荒れで。
大陸から大々寒波が南下し、
列島各地へ容赦なく、豪雪とそれを横殴りにする途轍もない突風とをもたらした。
12月にして記録的な大雪となったのは、
まだ海水温が高かったのが
災いしたからだそうで。
これが夏場なら豪雨となったろう大量の水蒸気を供給したため、
日本海側に限らずという全国各地で、
気象史に残りそうな豪雪となってしまったのだそうで。
そんな寒波も そうそう長居は出来ぬのか、
週末やクリスマスといった
“此処一番”にやって来るのが恨めしかったが、
年末の3日ほどは嘘のように緩んでくれて。
空も晴れてのうららかなお日和には、
大掃除や買い出しなどへと忙しい主婦の皆様が
“ああ助かったvv”とお顔をほころばせたほど。

 『だってねぇ、
  急に寒くなったこともあって、冬物の分厚い洗濯物が増えたし。』

 『そうそう。
  トレーナーとかジーパンとか、なかなか乾かないのよね。』

 『フードがついてるパーカータイプのが特にね。』

 『だってのに、言うだけは一丁前に、
  縮んだり傷むから乾燥機で乾かさないでよ、なんて
  いちいち念を押す子がいるから面倒で。』

それよそれ、
下手するとドライクリーニングしか出来ないような
レーヨンか何かの てろってろの生地のブラウスとか着て、
“安かったから”って喜んでるんだもん、
こっちは堪らないわよねぇ、と。
お天気の話から転じて洗濯物の話、
そこからご家族の話、
殊にお年頃になってきた娘さんへの愚痴などを零す奥様がたのよもやま話へ。
特に口を挟むでなし、だがだが、
何とも微笑ましいなぁという和やかなお顔のまま、
寄り添うに付き合っていたブッダだったが、

 “お正月にのんびり羽を伸ばすべく、
  年末まとめてお忙しかった皆さんでしょうけれど。”

だからって、こうまでの寒さに襲われてはねと。
そこにも雪が蓄えられているものか、
雲の多い空を見上げたのが元日で、
2日目の今日は何とか晴れはしたけれど、やはり風は冷たくて。

 「うあ…。」

汗を冷やさぬよう、
一応は着込んで出て来た早朝の町並みには日頃以上に人影もなくて。
そんなところを吹き抜ける風だから尚更に、
格段の冷ややかさなんだろかなぁと、
いつものジョギングコースの途中で、首と肩をすくめてしまった釈迦牟尼様。
その首へ、福耳の先ごと巻かれていたビクーニャのストールは、
先の冬にイエスから贈られたもの。
お出掛けのときにしか使いたくはなかった“お取っとき”だったのだけれども、

 『何言ってるの、
  キミが風邪を引いて苦しむようなことになること以上に、
  重要なことや大変なことってあるの?』

師走の到来に合わせたような真冬並みの寒さの中でも、
タートルネックを着たり<手套こそ使いながら、
なかなか襟元への助っ人を取り出さないブッダだったのへ。
まずは苦行の一環かなぁと思ったものか、
その意思を尊重したくてなんて、静観していたらしかったものの。

 『かわいい鼻の頭や マシュマロみたいな福耳を
  痛々しいくらい真っ赤っ赤にしていても、
  整理ダンスから取り出そうとしないんだもの。』

そんな言いようをし、
結局は ほんの3日ほどで音を上げてしまい、
問い詰めるように言いつのったヨシュア様。

 『私が贈ったものだからって大切にしてくれるのは、
  それはそれは特別な扱いだってことだから嬉しいことだよ?』

まるでハレの衣装みたいに大事にしてくれるのは、
それがイエスの分身みたいに思ってのことかも…と。
自分なりの答えを引き出そうと しかかったほどだったけれど、

 『でもね?
  寒いときにキミを守るって役目を果たせないなんて、
  私同様に甲斐性がなさすぎるじゃないの』

 『いえす…。////////』

衣類用整理ダンスが据えられた、押し入れの前にて向かい合い、
如来様の働き者な白い手をそおと両手で包み込むと、
切れ長の双眸を切なそうにたわめつつ、
懇々と言い諭したものだから。

 “ああまで言われちゃあネ。//////////”

寒さから守るためにと贈られたには違いない。
そこのところを自分でもはたと思い起こしたブッダ様、
一番寒い早朝の町へと出る時にこそ、こうして忘れずまとうようになっており。
お陰様で寒くなると痛いほどだった耳朶も、
今や そうだったことを忘れてしまうくらいに守られていて。
あらわになってる頬や鼻が赤いのはしょうがないけれど、
首回りが暖かいことで随分と助かっている
毎朝のジョギングタイムだったりし。
軽快な足取りのままに いつものコースを疾走しつつ、

 “〜〜〜。/////////”

ああ、私って幸せものだよねと、
頬が赤くなったその上、口許辺りも ついつい浮かぶ笑みで緩んでしまい。
人通りのないほどの寒さのおかげで不審な人だと見られず助かってたなんてこと、
気づきもしないところもまた、
最聖たる奇跡の賜物…な訳はないか、やっぱり。(こらこら)



      ◇◇



一年の内で最も昼の短い冬至を過ぎると、
当然、そこからは
日いちにちと陽が長くなる訳だが。
その際、まずは陽暮れが遅くなる。
クリスマス辺りだともう真っ暗だったはずの時間帯がまだ明るくて、
ああこうやって
陽が長くなるんだなと実感する訳だけれど。
それを実感出来るほど急に夕方が長くなる分、
実は明け方のほうはまだまだどんどん遅くなっていて。
西のほうだと 節分あたりまで、
もう七時になるぞとハラハラするほど、
いつまでもお陽様が顔を出さなかったりする。
そんなせいかどうなのか、

 “やっぱりまだ起きてはなかったか。”

ゴールのアパート前で深呼吸をし、
寒くともそれなりに滲み出す汗を拭き拭き、
2階の自宅へ戻ってみれば。
室内の様相が、こそりと出掛けたときと寸分違わぬ静けさのままだったのが
ブッダに まずはの苦笑を誘う。
そりゃまあ確かに、イエスを起こさないようにと慮ってのこと、
そおと布団から抜け出し、そおと身支度をして、
そおと出掛けた自分じゃあるが、

 “もしかして身動きさえしてないんじゃあないのかな?”

鼻先や頬や耳といった
顔に当たる空気の冷ややかさから逃れたかったか、
掛け布団の中へもぐり込んでいて頭の先しか見えてないところからして同じと来て。
もうもうと思いつつも
お顔にはほのかに温かい苦笑を浮かべると、

 “さて、それじゃあ
  じわじわと起きてもらいましょうか。”

ジャージから手早く着替えて、さてさてとキッチンに立つ。
ご飯は出掛けに炊飯器へセットしてあるので、
おかずの支度とお味噌汁と。
ジャガ芋を2ミリほどにスライスして水で晒してから、
アルミホイルを使って作った角皿にバターを塗ってから敷き詰めて。
一般的にはベーコンを敷いてから卵を落として
オーブントースターでキッシュ風ベーコンエッグにするところだが、
肉はご法度のブッダ流では、
ジャガ芋の上へややスパイシーな香辛料入りのケチャップを塗り、
卵を落とし、ピザ用のカッティングチーズを敷き詰めて、
オーブントースターへ セットイン。
昨夜の残りのレンコンのキンピラやら、
イエスにはと用意した迎春仕様のカマボコの残りを見繕い、
流しの横の調理スペースに何とか並べると。
洗った手をタオルで拭いつつ、
さてと再び六畳間を振り返り、

 “……うん。”

決意も新たに、いざと毎朝恒例の“一仕事”へと取り掛かる。
一応は二組敷くものの、
あのその 寒いこのごろは 当たり前みたいにくっついて眠っている関係で、
自分が起き上がったあと、片やだけでもと畳むのが難しい朝もあり。
その点、今朝はやや壁側へ寄っててくれたので、
自分がいたキッチン側の布団を折り畳み、足側になる押し入れ前へと寄せてある。
そうやって作った空間がありはするけれど、
そこへとお膳の支度をするほど甘やかしていてはキリがないので、

 「イエス、おはよう。さあ起きて、もう朝だよ?」

まずはカーテンを開け、部屋の中へ朝の目映い明るさを引き込んでから。
残されたほうの布団の傍らへ膝を揃えて座ると、
最初に声を掛けるのだが、
このくらいで反応があった試しはまず無くて。

 「……。」

もそりとも動かぬ布団を それなりの間合いだけ待つと。
続いて掛け布団の襟元、
少し高く盛り上がっているから肩だろう辺りへ手を掛けて、

 「イエス、起きてよ。朝ごはんも出来てるよ?」

ちょいと押す程度のゆさりを仕掛け、
静かな室内にやさしい声が紡がれる。
今日はいいお天気となりそうなのだろう、
窓から射し入る陽の明るみはこんな時間からもう健やかな濃さがあり。
きちんと背条を延ばして座す如来様の
螺髪や横顔の稜線を柔らかく照らしているのが何とも神々しい。

 「ねえ起きて、コタツが出せないよ?」

早くスイッチ入れないとなかなか温かくならないでしょう?と、
寒がりな彼へは一番説得力のある文言を持ち出せば、

 「…………ぃて。」

何か もしょりと呟いたらしい声が布団越しに聞こえて来て。
こちら側の布団の端が少しだけ持ち上がり、
何かがモグラの進撃のように つつつっと動いて来たかと思ったら、
その先の端っこからぱたりと倒れ込むよに出て来た手が、
ブッダの膝の片方にトンと乗る。
布団の隙間から足元だけ見えていたらしくて、
その目測に誤りはなく。
おやまあと見下ろしてから、
天井を向いたその手のひらへブッダが自分の手を重ねてやれば、
まだ半分ほど眠りの中にいるからか、
じわりと温かい手のひらは
力も籠もらずで頼りなく。

 「…もう走って来たの?」

 「うん。」

 「ちゃんと着込んだ?」

 「うん、いっぱい着て出たよ。」

 「でも寒かったでしょう?」

 「う〜ん、気持ちよかったけどね。」

 「ブッダは我慢強いから。」

もうもうと焦れたのか、大ぶりの手がやや握り込まれて、

 「ねえ、そろそろ起き出さない?」
 「寒いよぉ。」

だから早くコタツ出そうよと切り札を口にするものの、

 「……。」

布団はやはり もぞとも動かないし、
ブッダからやんわりと握手された格好の手の方も、
再び力を抜いて 萎えた様子に戻ってしまう。

 「イエス?」
 「…だってさぁ。」

  ブッダが懐ろに居てくれる朝とか覚えちゃったら、
  そうじゃない朝って すごい寒くて…

拙い言い回しだったのと もしょもしょした声だったのとが相俟って、
聞きながら それがどういう意味かを飲み込むのに、
珍しくも半拍ほど掛かった釈迦牟尼様で。

 「え?  ……………あ。////////」

この夏辺りからは、
時々ジョギングに寝坊するよになったブッダでもあって。
単なる供寝以上の
むにゃむにゃがあった翌朝は、
それなりに多少は疲れてしまうからか、
それとも随分と深く眠ってしまうからか、
どうかすると自分より遅くに眸を覚ますほど…なのを。

 「可愛い寝顔を堪能出来たり、
  まろやかな温かいの抱えたままでいられたり。
  そういう目覚め方を覚えたら、やっぱりさぁ…。」

 独り寝同然な起き方になっちゃう
 しかも冬の朝なんてどれだけがっかりすることか、と

冬場は特に大きな差があるんだぞと
拳をぐうに握ってでも そこを力説したいイエスなのであるらしく。
そしてそして、

 「な…。////////////」

まだまだ寝ぼけていると思っての油断をしておれば、
こぉんなお惚気もどきを紡げるなんて。
不意打ちもいいところな逆襲だと、
大きな含羞みが込み上げるまま、
顔を赤くし、口許をうにむにたわめてしまったブッダとしては、

 「もうもう、朝っぱらから何の話っ。///////////」

 「わあ。」

空いてた方の手のひらで、掛け布団をぱふんと叩いたところ、
よほどの羞恥に 思ってた以上困惑していたらしくって。
投げ売りは言い過ぎだが、それでもお買い得価格だった綿入り布団が、
如来様の手にポポンと弾んだそのまんま、
厚さも倍増の羽毛布団(ダブル)へ進化しちゃったそうで。

 「………あ。」

見るからに嵩増しした布団だったのへ、
文字通り手を下したブッダが ありゃまと言葉を失くしたのも束の間、

 「ありがたい奇跡が起きたってことは、
  ブッダったら、まんざらでもなかっ……。」

こんなところでここぞとお顔を出し、
そんな言いようをしかかったイエスなのへ、


  さて此処で問題です。

  この展開と、そこへ畳み掛けるような
  イエスからのこの言葉掛けへ、
  ブッダ様の仏のお顔は
  一体幾つ減ってしまったでしょうか?(おいおい)





   〜Fine〜   15.01.03.


今年お初のお話が こんなのって一体…。(笑)
相変わらずなのは
書き手だということで、
今年もどうかよろしくしてやってくださいますように。


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

bbs ですvv 掲示板&拍手レス


戻る