手をつないで春まで歩こう


“甘いのが お好き?”




一応は 手持ちで間に合うかどうかを確かめた上で、
チョコレートだけを買い足して。
薄力粉、ベーキングパウダーに砂糖、卵に無塩バター。
あればクルミも用意して。

 「さてとvv」

普段からも片付けてはいるけれど、
今日はちょっぴり特別な意識をしているのでと
箸立てやセッケン受けも取りのけてのすっかり片付けた調理台。
そこへと向かい合うよに立っているブッダなのへ、

 「…………vv」

六畳間のコタツについたままのイエスが、
さりげない振りを装いながらも、
時々 首を伸ばして見やって来るのがくすぐったいが、
まま、この部屋で“こっそり”なんてのは 所詮 無理な相談だし。
それに今日のこの日は、
他でもないイエスの広めた教えの中でのお祭りでもあるのだ、
むしろ知らぬ振りなぞしようがなかろ。

 “ま、ここから楽しんでもらおっかvv”

朝食の後、一息おいてから
毎日こなしている いつものあれこれに手をつけて。
それから買い物に出掛け、
戻ったそのまま昼食の支度に取り掛かり…と。
絶賛バカンス中ゆえの“サンデー毎日”な いつもと変わらぬ
平日の過ごしようをしていたところからの

 『さてとvv』だったワケで

今から何をするからねと宣言した訳でなし、
とはいえ、これでピンと来ないイエスでもなかろうから、

 “さぞや落ち着けないことだろな…♪”

あ、いかんいかん。
他でもないイエスが困るかも知れぬのに、
そんなことを♪つきで小さく微笑って面白がるだなんて、
私ったら、私ったら……。

 「♪♪♪〜♪♪」

ああでも、慣れた手際で作業を進めておれば、
ついつい鼻歌っぽいものが洩れもするのはご容赦を。
卵とバターは室温に置いておき、
型を使って焼くのなら、
柔らかくなったバターを指で掬って器の内側に薄く塗って、
冷蔵庫で冷やしておく。

 “強力粉をその上から軽くふるっておくと、
  焼いた後で取り出しやすいんだよね。”

今日は平たく焼いて小分けに切り分けるつもりなので、
お弁当箱サイズの平型にクッキングシートを敷いて準備はOK。

 “えっと…。”

分量の薄力粉、ベーキングパウダー、それからお塩を、
一つボウルに合わせて こし器でふるっておいて。
チョコレートは包丁でザクザクと刻んでから、
1センチ角に切ったバターと合わせ、
電子レンジを使うか湯煎で完全に溶かしてから人肌まで冷ます。

 “それから…。”

卵を割りほぐし、砂糖を一度に加えて泡立て器で混ぜ合わせ、
砂糖が大体溶けたらチョコレートを加える。
そこへふるっておいた粉を合わせ、
粉っぽさがなくなったら>粗みじんに刻んだクルミを加え、
これで生地は出来上がり。

 “あはは、見てる見てるvv”

洗顔用にと掛けてある鏡を使って見ずとも、
コタツ布団がわしわし擦れる物音なんかであっさり判る。
手元に開いているPC、
見てないなら電源落としてくれないかなぁなんて、
そんな風に思える自分の余裕も、
ああそうだよね、昨年だったら持てたかどうか。
まだまだ微妙な心持ち、
すぐにも焼きもち焼いたり動揺したりしていたものね。

 “ああ、面白がってはいけないんだよね。

反省しつつ、オーブンの温度を180度か確かめて。
型は金属のものや陶器のカップの場合は、
取り出しやすいよう準備をしておくんだけれど。
今回は小さめのバットみたいなお弁当箱へ、
なめらかな生地を流し入れ。
表面が平らか確かめてから、
型ごとやや持ち上げては落としを2、3回繰り返して空気を抜く。

 「…☆」

あ、今、ドキドキってして肩が跳ね上がったかなvv
不意打ちだったものね、いけないいけない。

 「ごめんね、ビックリした?」
 「あ、いや、うん…平気だよ。」

肩越しに振り向けば
あわわと視線をぎこちなく逸らすところが、
ああ なんて可愛いんだろvv
やっぱり隠しごとが下手なんだよなぁ。
というか、何してるの?って無邪気に訊けないイエスなのは、
むしろ何かが進歩したってことなのかなぁ…。

 「おっと…。」

使ったあれこれを洗って片付けておれば、
20分なんて あっという間だ。
ふんわり仕上がってるのをご満悦で確かめて、
粗熱を取ったら、食べやすいサイズに切り分け、
表面へ粉砂糖をふるって、特製ブラウニーの出来上がり。
少しビターかも知れないから、
同じお皿に生クリームをホイップしたのを添えて。
ケーキの上にはミントをちょんと乗せて、

 「出来たよ、イエス。」

 「え? あ、や、ああの…。////////////」

いつもの彼なら、やっはり屈託なく“わぁいvv”と喜んで、
コタツの上を片付け始めるんだけれど。
待ってたというか、窺ってたわけじゃあないと繕いたいか、
背条を伸ばして固まりかかったのが やっぱり可愛い。

 「お茶も淹れようね。ミルクティーでいい?」

 「あ、うん。」

お三時には微妙に早かったけれど、
まま、特別な代物なんだから いっかとし。
やっと天板の上を片づけたイエスなのを見越しつつ、
紅茶と一緒に、普段使いのお皿で運ばれたのは。

 パウンドケーキよりもしっとりしていて、
 ややビターな風味の焦げ茶色のケーキ

今日は聖バレンタインデーなので、
当たり前のおやつじゃあないってことは、
あれほど じたじたしていたのだ、
イエスにだって通じているだろうけれど。
ああでも、一応はちゃんと言った方がいいのかな。

 “…………えっとぉ。////////”

トッピングに使ったあれやこれやも
片付けたよねと、確認するまで作業モードだったのが、
片付けましたとチェックも済んで、
通常モードへ切り替わったその途端。
不思議なもので、たちまち含羞みが胸へと込み上げて来、
イエスを可愛いなんて言えないくらい、
ブッダの側もまた ぎこちなさに捕まってしまう。

 “だって、私…。//////////”

ああ、何で正気に返ったのかな。
ケーキを出しつつ“好きだよvv”って
イエスみたいに軽やかに言ってしまえば良かったのにね。
はっと我に返っちゃったものだから、
そんな簡単な一言さえ、意識のし過ぎで捻り出せないあたり、

 “あああ、私ったら やっぱりあんまり進歩してないのかなぁ。//////”

ミルクティーを掻き混ぜたスプーンを
危うくケーキに入れそになって。
あああ、しっかりしないか私と、内心で叱咤しておれば。
そちらはちゃんとデザートフォークで
ちょんと端っこを切り分けながら、
何とも意表を衝くこと 口にしたイエスだったりし。

 「あのね、これって“友チョコ”になるのかな。」

 「………おや☆」

突拍子もないの相変わらずだねと、苦笑が浮かんだその拍子、
そういう解釈も有りかも知れぬ…と、
泡を食うほど うろたえまではしなかった釈迦牟尼様。
むしろ、

 「それを言うなら、
  イエスが私に贈ってくれるお花たちは
  友情からのものばかりなの?」

記念日好きのイエスは、
だが、気の利いた贈り物を思いつけないと、
お花を用意してくれる。
愛妻の日のチューリップや鉢植えしかり。
でもじゃあ、
あれって友情からのものか?と問うたブッダ様。

 「あ……。///////」

 「いや、それであっても嬉しいんだけれどもね。」

イエスの可愛らしさにあって、
何とか余裕が取り戻せたものか、
どこか泰然としたまま、ふふーと微笑って見せたれば。
あ・そっかと気がついたと同時、
それが如来様からの
“友チョコじゃあないよvv”という答えでもあると判ってだろう。
口許をうにむにとたわめ、ひとしきり照れてから、
それでも嬉しそうに付け足したのが、

 「友情じゃあ物足りないところも、
  私たちお揃いなんだねvv」

 「………☆」

お後がよろしいようでvv




   〜Fine〜   15.02.15.



  *1日遅れましたが、
   拍手お礼で“聖バレンタインデー”のネタを扱ったので、
   そのアンサーぽく。(笑)
   あ、向こうを読まれていなくとも話は通じます、はいvv
   (『○○○な素振りは 難しい?』というお話です。)


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