手をつないで春まで歩こう
“いつもは見ない風景に”
「えっとぉ。」
「あ……。//////」
一体どうしてこんな体勢になっちゃったものかと言えば、
ちょっとした間の悪さというか、
何でもないことから均衡が崩れてしまい、
こんな風な向かい合いという格好へ
思いも拠らぬままに なだれ込んでしまったまでなんだけれど。
『…キミって月に住んでいたの?』
某有名監督が総指揮という超大作アニメをテレビで放映していたの、
そういやロードショーでは観なかったね、
面白かったらDVDも借りようかなんて、
ワクワクしつつ観ていたのだけれど。
最後のほう、クライマックスに描かれたお別れの場面で、
月からやって来た一団の中、
どう見ても如来だろう風貌・装束の尊がおいでだったものだから。
そも、そういう絵画にヒントを得たからだろか
いかにも仏教的な雰囲気だったところに
まずは気がついていたブッダが、
『……………。』
ありゃあ?と深色の強い双眸を見張っておれば、
並んで黙って観ていたイエスが、先の一言をポロリと呟いてくれて。
『そんなわけないでしょう。/////////』
ああ、やっぱりか。
嫋やかな線で描かれていたお迎えたちの中、
責任者風の尊が いかにも如来という姿だったので。
この自分を描いたそれかと感じたらしいなと、
そこへも素早く把握が及んだのと同時、
違いますと きっぱりした否定を返す。
『このお話が紡がれたほどに大昔の日本では、
月が地続き…というのは微妙だけれど、
行こうと思えば手が届く惑星だなんて理解も
まだまだなかっただろうから。
涅槃とか天界とかいう
“別世界”の象徴とか舞台として、
月の世界から来ましたって運びにしたんだろうと思うんだ。
だから…、』
だから、その世界の御主格、
地上へ下ろした姫を迎えに来た一団の指揮者として、
如来の姿を描いたんじゃないかなと言いかかったところ、
『うん。そこは判るけど。』
でもねと、
テレビ画面を見やったままのイエスが言うには、
『あんな柔らかな線で、
いかにも嫋やかで、でも神々しい存在って描かれているから。
うわ、キミのことよく判ってるなぁとか、
そっくりだなぁとか思ってしまって。』
『イエスぅ〜〜〜。/////////』
あくまでも淡々とした声音でだったが、
それでもそんな言われように、
何でか、何でだか、恥ずかしくなってしまい。
もう辞めてってとの声を掛けたらば、
『あ、そっか。
テレビで放送したってことは、
DVDとか ブルーレイとかが出るってことだよね。』
レンタルしなきゃねぇなんて、
やっとこっちを向いてくれた愛しいお顔が、
それは嬉しそうに微笑って見せたのが、
『〜〜〜〜。/////////』
イエスとしては、
揶揄の意味なぞ微塵も含ませぬまま、
それは純粋な感想を言ったまでだったんだろに。
どっと勢いよく照れたままだったせいか、
ブッダのほうでは
そこのところの感覚が切り替わってはなかったようで。
『もうもう、辞めてよぉ。////////』
真っ赤になったまま、
抗議の勢いを乗せて伸ばした手がイエスの二の腕へと触れてしまい。
掴みかかるというほどじゃあなかったけれど、
口で言っても止まらぬならばと、多少は思っていたかも知れぬ。
イエスの側でもそのくらいは判っていたろう、
クスクスと微笑ったまんまで受け止めてくれて。
やぁ〜んなんて言い返して見せたその拍子、
『あ?』
『ありゃ。』
コタツの上で何かが倒れかかり、
そちらへ視線が流れたことで どちらかのバランスが傾いて…
畳の上、パタリと倒れ込んだイエスだったのへ、
引っ張られた格好で折り重なるよになりかかったの、
すんでのところで庇って腕を突っ張ったらば。
「えっとぉ。」
「あ……。//////」
あれあれ? これってちょっと
今まであんまり なったことがない体勢ではなかろうか。
いやまあ、随分と長いお付き合いだから、
ふざけていてのこと、こんな風に折り重なってしまった場面は
もしかして以前にもあったかもだけれど。
例えば あの端境の庭なんかで芝草の上で転げてしまい、
押し潰しちゃいかけて“わ、ごめんね”と、
重かったでしょなんて言って、
すぐにも退いたようなシーンは前にも結構あったかもしれないけれど。
「…何か、いつもとは逆だねぇvv」
「〜〜〜。////////」
イエスがそんな言いようをしたものだから、
実は…ほのかに同じことを直感していたブッダとしては、
何を馬鹿なこと言ってるの、と
適当にいなせるほどには、まだ練れていなくって。
何のことだか判らないと途惚けるには、
それは反応よく“かあ”と赤くなってた頬が手遅れでもあり。
だってだって、ここ最近は
身を寄せ合うということが、
単にくっついただけって意味合いではなくなっているから
ちょっと手が触れたくらいでは
さすがにいちいち意識もしなくなったけれど。
おいでと呼んで呼ばれて
憧れの君を抱きしめるのへ、
はたまた相手の懐ろへ頬を埋めるのへ、
うっとりとし、心から安心出来るよになれたけど。
それだって やっとという感があるほどに、
触れることや触れられることがちょっぴり大人な意味合いを持つような、
特別な間柄になった二人なものだから。
“うう…。////////”
イエスとしては思わせ振りな言い回しをしたんじゃなかろう。
だのに、勝手に真っ赤になった自分が悪い。
そうと速やかに断じる聡明さが、早々と自身を責めてしまうまま、
お恥ずかしいと身を縮め、
胸のうちにて臍(ほぞ)を咬んでおれば、
「…ねえ、ブッダ。」
「え? ……………あ。////////」
やわらかな声が掛けられたのと重なって、
イエスの手がブッダの頬へと伸び。
ふんわり、そおっと据えられる。
指先から指の半ば、それから手のひらという順番に、
まるで ブッダの頬のまろやかな形を
寸分でも崩したくはないような気の遣いようで、
いかにも男性らしい頼もしい作りの手を添えてくれるので。
それから、
「……もう。//////」
特に何と言った訳じゃあないが、
それでもあのね?
眩しいものを見るような、視線で相手を愛でるよな、
甘えるような、甘やかすような、そんな淡い笑い方をして。
そのまま“ねえねえ”と視線で促すものだから
ブッダとしても そこはやっぱり、
ご期待に添わねばならない気分になっても来る。 触れているだけ添えられているだけというイエスの手へ、
ブッダの側から頬を押し付ける格好で、
二人掛かりでの“撫で撫で”になるよう応じれば。
途端に、
「…ふふvv」
切れ長の目許をますますと細め、
一番好きな甘いものを舐めたよな
そりゃあ嬉しそうなお顔になる彼で。
「やわらかいなぁ…。」
それにすべすべで、吸いついて来るみたいだなんて、
こちらの肌を褒めてくれる言いようをされて。
くすぐったいやら…でも ちょっぴりと、
まんざらでもないなぁなんて胸のどこかがむずむずとして落ち着けない。
そんな気分をどう処したらと そわそわしておれば、
“あ…。////////”
頬に添えられていた手がスルリと上がって、
あごの端、おとがいの線を越え。
福耳の下へとすべり込み、
あっと言う間に首の肌へまで至っている悪戯っ子ぶりよ。
「ここはもっとやわらかい。」
「や…、んぅ…。///////」
例えば自分の手で撫でる分には、
例えば狭い木立を擦り抜ける拍子に柔らかな葉が触れたくらいでは、
こんな甘いくすぐったさなんて沸きはしないし、
それを恥ずかしい熱だなんても思いはしなかろ。
イエスは淫蕩な目なんてしちゃあいないのに、
ふと手を止めて焦らすような手管も繰り出しちゃあいないのに。
ただ無邪気に触れてくれてるだけだろにと、
そうと思えば、こっちのドキドキが伝わりはしないかが、
気に掛かるから不思議なもの。
こちらが勝手に盛り上がってるようで、
そしてそれが、彼より自分の方が淫蕩なようにも思えて…。
“……う〜ん。賢い人って大変なんだなぁ。”
もう明るい内とも言えない時間帯なのだから、
このままなだれ込んでも良いとして、
この懐ろへ落ちて来てくれたら良いだけなのにね。
押し倒されたような態勢と言っても
互いの足は半分ほど、まだコタツに入ったままなので、
それほど疚しい段階でもなくて…と。
何をどう照れておいでかくらいは、
さすがに読めもするその上で、
なかなか甘えてくれないブッダなのは、
“私ってそんなに、
無邪気で子供だと思われているんだろうか。”
その深い尋にくるみ込むよにして、
誰よりもと慈しまれているのは嬉しいけれど。
頼りにされないのは辛いなぁなんて、
贅沢な我儘と判っていつつも、こそりと苦渋を咬みしめて。
「…ブ〜ッダ。」
名残りは惜しいが手を浮かせ、
そのまま“おいで”と誘うよに、
両腕を広げて見せて待ち受ければ、
「……うん。///////」
待ち兼ねたと飛び込んでは来ず、 腕立て伏せを緩めるように、 あくまでもそおっと身を重ねるのは、 イエスが重たい想いをせぬように。 でもねあのね? そうやってじわじわと 懐ろに収まってくれる焦れったさは、 知らず イエスの側をドキドキさせており。 互いの胸がすっかりと重なって、 それへの安堵か、ほおと細く息をついた途端。 釈迦牟尼様の螺髪がほどけ、 青みを帯びた深色の髪が、 まろやかな肩や背中を覆い、 甘い香りが二人ごとくるみ込む。
ねえ、ブッダ
…なぁに?
このまま チウしていぃい?
……訊くなんて意地悪しないでよぉ。///////
ん〜〜っと照れての身を揉み込むのへ、
ごめんごめんと微笑って髪を撫で。
その感触に上がったお顔を逃さずの すかさず、
ねえ?と伏し目顔で話しかければ、
「…。///////」
赤くなりつつもちょっとだけ、その身をずり上げてくれるので。
それでちょうどいい位置となるのを素早く見定め、
最初はちょんと、続いてしっとり、
互いの唇 触れ合わせ。途中で離れるのの間合いが違ったか、
「……ん。////」
意外そうに“いやいや”の素振りを伝える愛しの君なのが、
少し熱した、特別あつらえの蜜を授かったよに嬉しくて。
ねえ、キスするの好き?
………………。//////(頷)
私も大好き。だから恥ずかしがらないでと、
まだ触れたままの唇越しに囁き続ける。
「柔らかくて甘くって。
それに此処まで傍でもらえる吐息は、
触れる直前までは形があった角砂糖みたいで、」
ほら、凄く甘いでしょと、
ねだられるままにもう一度、
やんわりと合わせ直した唇を、
緩く深く喰(は)み合って。
甘くて切ない、そんな香のする春の宵、
思う存分ひたっておいでのお二人だった。
〜Fine〜 15.03.16.
*冒頭の某映画というのは、
金曜●ードショーで放送されたアレです、アレ。(こらこら)
かぐや姫を迎えに来た“月からの使者”の一団の中、
どう見たってブッダ様だろうという風貌の、
輿にお乗りの尊い御方がいらしたのへ、
そこまでのシリアスで繊細な展開も盛り上がりも
ぶっ飛びそうになった不心得者でしたが、
他のかたがたも同じだったと知って、
何となくホッとした、やっぱり変な奴でございます。
めーるふぉーむvv
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