手をつないで春まで歩こう
“行ったり来たりの焦れったさ”
気がつけば三月弥生も半ばを過ぎていて、
春のお彼岸、春分の日が来るのと共にといういい感じで、
いかにも春の気配というお知らせが 遠く近くのあちこちから聞こえて来ており。 やれ桜が咲き始めただの、 タケノコの収穫が始まっただの、 菜の花の芽も最盛期だの、
「あ、ブッダさんも買いましたか、それ。」
行きつけのスーパーの、お馴染みのレジ担当のお母様。 すっかりと顔なじみになっていて、 よほど忙しくて 行列が出来ているような時はさすがに無理だが、 そうでもない間合いだったなら、 ちょっとしたお喋りを交わしたりもする間柄のお人であり。 お買い得とチラシに出ていたあれこれを 抜かりなく買い求め、 ではお会計をと進んだレジコーナー。 お勘定にと財布を取り出し、 肩から提げてたトートバッグを開いた折に覗いたのが、 向かいの八百屋さんで先に買ってた小さめの包み。 束ねたテープに印刷されてあった“菜の芽”という文字が、 半透明のレジ袋を透かしていたよで、 それを見られちゃったのへ、 ちょっぴり含羞みつつも“ええ”と頷けば、
「あたしも実は買っちゃった。」
左右を見回す振りだろう、 目線だけクルリンと動かしてから、 微妙に芝居がかった小声で そうとブッダへ告げた、 制服代わりのカラフルなエプロンを着つけたお母様いわく、
「だって いかにも柔らかそうで美味しそうだったし、 今朝の“おはようワイド”でも、 お澄ましにしたり酢味噌で食べると 美味しいですよって紹介されてたし。」
「そうそう。」
実は自分もそれ見たんで つい…と、 お仲間見つけた喜びに、 ブッダの側からも “そうそう”と相槌を打ち合ってしまったり。
「酢味噌にちょっぴりカラシを足すと、 これがまたご飯が進むんですよねぇvv」
「カラシですか?」
そんな刺激の強いのを?と 怖々という声で聞き返せば、 ええ、ほら辛子マヨネーズみたいな風味と返されて。 短く付け足されただけて ああと通じる、 最強の主夫モードを釈迦牟尼様が深めていた一方では、
「……お。」
表の通り側はガラス張りになっており、 ここ数日のいいお日和が柔らかく滲んでいて。 ほどよい混みようの店内のざわめきが、 同じように ぼやけている中、 清算済みのお買い物をバッグへ詰めるべく、 ロールになった小分け袋などがセットされた サッカー台へと移動すれば、
“サッカー台?”
そう言うんですよ、その広々とした台のこと。 (昔パートしていた経験者は語りき…) それはともかく、 さあ帰るぞという態勢になって見回した先、 出入り口に近い辺りで待ってたはずのお連れが、 持ち前の人懐っこさからだろう、 そちらも顔見知りたちに捕まっており。 周囲に居合わせておいでの 女子高生たちには似合いのポーズ、 軽くこぶしを作った両手を胸元へ引き付けて、 上半身だけ緩く身もだえさせて、 いやぁんvvとも きゃあん♪ともとれそうな 愛らしい甘えのポーズを、 彼も一緒になって して見せている。
「???」
そのまま笑み崩れているところからして、 何か流行のポーズの真似っぽいのだが。 惜しいかな、ブッダには何のことやら一向に判らない。 これで結構 テレビもイエスと一緒に観てはいるけれど、 どうも今時の流行というものは、 理解が追いつかないものが多いので、 余程にインパクトがあるものでもない限り、 いちいち覚えていられない…というところか。 何の真似だろう、楽しそうだなぁと、 手はちゃんと動かしつつ、顔だけそちらを見やっておれば、
「…っ。」
そこはこちらを待ってたイエスだ、 ああ出て来てたとブッダを見つけたそのまま、 じゃあねとあっさり手を振って、 一緒にいたお嬢さんたちから離れてしまう。 背を向けたご本人には見えなかっただろうが、 振り切られた格好になったのへ、 残念そうに“…あっ”というお顔になってる彼女らが ブッダの位置からは真っ向から見えるだけに、
“…何というか。/////////”
イエスが他意なく見せた つれない素振りへの、残念顔だが それって、 一体誰を彼女たちより優先したからだろか? …って、 いやあの、何でそこで私が照れるかなと。 自分で自分へ突っ込みながら、 そのまま そそくさとお顔を伏せたれば、
「ごめんね、ついお喋りしてた。」
すぐに気がつけなかったことを謝るイエスの声がして、 同じ油揚を同時に手に取りかかり、 あわわと驚き、ぱぱっと手を離したのが、 妙な反応に感じられたか、
「ブッダ?」
爪とか当たった?ごめんねと、 あくまでも案じるようにイエスが訊くのももっともな話。 わっ、手が触れた、なんてことくらいで、 いちいち跳ね上がるほど過敏になってたり、 真っ赤になってた時期は とうに過ぎたはずだものと。 そちらへの気遣い、もはや思いもつかずなのも、 ある意味、発展や進歩の結果というやつで。
「あ、や、いやあの、」
態度が訝しいのはこっちだと、 そこもすんなり判ってしまえるブッダとしては。 取り落とした油揚を拾い直すと、
「さっき、何かの真似っこしてたでしょ?」 「あ、うん。」
そこでイエスもまた、自分が居た辺りを振り返ったが、 さすがにもう、 同座してしたお嬢さんたちも外へと出て行きかけていて。 制服だったり練習用のトレーニングウェア姿だったりが、 皆してこっちへ背中向けてるところだったりし。
「あれって、何の真似だったの?」
全然判らなくて あれれぇ?って思ってて、 それで呆けてたんだよと、 ちょっと早口で付け足したのは。
“イエスってそういうことは何も言わないけれど…”
仲良しさんたちの背中を見るの、 辛くはないか、ちりりとしないかと、 これまた 先んじて思ってしまったブッダだったから。 なかなかのイケメンでありながら、 人当たりがよくて愛嬌もあって。 そんなお兄さんだからか、 顔見知りはワッと気兼ねなく寄って来るけれど、
調子がいいだけのお兄さんじゃないってこと、 果たしてどれだけの人がちゃんと知っているのだろ
実は寂しがり屋だから甘えたなんだのに、 それこそ今時の若い人に多い、 調子がよくって人当たりがいいだけな人だなんて 勝手に思われてないだろか。 顔を合わせている間だけ わっと騒いでそれで終しまいなんていう、 切り替えのいい人だなんて思われてないかしら、と。 そんな誤解はひどすぎるなんて、 ついつい案じてしまったブッダだったところへと、
「…ブッダ。」 「え?」
上背のある身をひょいと折り込んでの前かがみ、 こちらへお顔を寄せて来て、 いかにも“内緒話をしようよ”という格好をしたイエス。 何なに?と 釣られて自分も顔ごとお耳を寄せたれば、
「もしかして、 都合のいい人だって思われてないかって 私のこと 心配してるでしょ?」
「……っ!//////////」
あまりに図星であったため、 え?え? なんで? 私、心の声こぼれてた?、と。 イエスがたまにやらかしている、 胸のうちでの独り言の“音漏れ”を、 自分もまたやらかしたのかと、見るからに焦ったらしく。 口許を手で押さえるだけでは飽き足りないか、 螺髪の隙間から覗く 頭皮の地肌まで真っ赤になりかけた如来様だったのへ、
「だって、 そうまで眉下げて心配そうなお顔になるんだもの。」
最近のブッダは、なんだか随分と私へ過保護だし、 そうと付け足して、でも。 それが子供扱いのようだとご不満…ではないものか、 手が止まっているブッダに代わり、 後のお買い物をトートバッグへ入れて差し上げ、 ふふーvvと にっこり、 満面の笑みというやつで笑って見せるヨシュア様。
「最近すごく暖かいけど、 来週は寒の戻りがあるってよって、 そういう話をしていてね」
西のほうからタンポポや桜の便りが聞かれるわ、 卒業旅行の話が出てるわ、 陽も日に日に濃くなっていて、 上着が要らない日も増えていてと。 一気に春めいて来たねぇなんて、 イエスがお兄さんぶっての話を振ったらば。 油断してたらいけない、 まだまだ上着は仕舞っちゃダメダメと、 年下の彼女らからそんな風に助言をされて。
「まだあのお歌が季節外れじゃないんだよって。」
さあ皆さんもご一緒に
「暖ったかいんだから♪っていうアレ。」 「……っ☆」
言われて見れば、ああそっか、あの振り付けだと、 今頃ブッダにも話が通じ、 一瞬 呆気に取られてから、 何ぁんだなんて お顔が笑みにてほころぶ。 その一連の流れが、あのね? 何ともなめらかで甘やかで、それから イエスには何ともホッとさせる、そんな笑顔の到来であり。
「ああでも、 イエスにも歌ってほしいとねだる気持ちは判るなぁ。」
「え?」
小さいものながらでも心配は心配で、 そんな案じに胸を縮めていたのが すっかりほどけたその如来様。 今度はそんな言いようをなさったので、 何の話と、今度はさっぱり判らずに聞き返せば。 空になったカゴを、 指定のお山へ片手でひょいと返しつつ、 ふふふと微笑ったブッダ様、
「だってキミって いいお声してるじゃないの。」
伸びやかで、それでいて低めると良い響きのする、 どこか甘くて、なのに深みのあるお声。
「私もキミが歌う鼻歌とか大好きだしね。」
すっかりとご機嫌も立て直されたらしいブッダの、 それこそ それは伸びやかな言いようへ、
「…ありゃまあ。/////////」
そんなフェイントで褒めるのナシ、と。 口許をうにむにと咬みしめて 照れ臭そうに含羞むイエスだったのへ、
「…さ、帰ろうね。」
こぉんな男の人らしい顔立ちで、 なのに そぉんなかわいいお顔するのなしと。 今度こそ、あらぬ焼きもち、悋気の虫が起きぬ間に、 皆様の目に止まらぬよう、帰ってしまおうと イエスの腕を取っての速足になりかかる、 それは正直なブッダ様だったそうでございます。
〜Fine〜 15.03.22.
*始まったばかりのセンバツの応援に、
早くも“あったかいんだからぁ”が使われていて、
何度も繰り返されるとさすがに食傷するなぁなんて、
偉そうなことを思ったおばさんでした。
あと、YMOの『雷電(RAIDEEN?)』が聞こえたのへ、
誰の選曲だろと焦ったのは ここだけの話です。(渋すぎるぞ、OB)
めーるふぉーむvv
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