手をつないで春まで歩こう


“寒の戻りも 何するものぞvv”



季節の変わり目だからか、
しかもあの、結構な寒さだった冬からの変わり目とあって、
こうまで大変なものなのか。
待ち遠しかった春の訪のいは、
いざ来てみれば来たで、結構な混乱っぷりだったりし。
まだ寒くてもしようがなかろう三月の終わりから、
いきなり初夏を思わすような陽気となり。
そうともなれば、人は“桜はまだか”と気も逸り。
実はまだまだ早かったのに、
期待されちゃあ仕方がないとでも思ったか、
よし来たとばかり、あちこちから桜の開花の声が聞かれるよになって。
それへとはしゃいで“さあ花見だ♪”と勇んだところへ、
勢いよく天候が急変し、突風付きの寒の戻りが押し寄せてきて。

 「それからもすぐさま
  夏日になったりしたのにねぇ。」
 「だったよね。」

一部、早咲きの桜は無惨にも無情の風に毟られたけれど。
何のこれしきと持ち直した中、
まだ満開には至ってなかった木々が、
お待たせしましたと次の花を揃えだしたというに、
またまた気温の急転直下、
三月の初めくらいとまでの冷え込みようとなってしまい。
今日なぞ、都内でも場所によっては小雪が舞うほど、
冬も冬、二月の真冬レベルの寒さにまで逆行してしまった始末だったりし。
テレビのワイドショーなぞでも
それは盛んに
寒さ対策を忘れずにと注意喚起がなされる中、

 「なので、今日は茶碗蒸しを作ろうね。」
 「わvv 嬉しいなvv」

すっかりと料理上手な主夫と成長したブッダ様、
天候の急変にも動じたりなんかいたしません。
それならそれでと、玉子どうふの予定だったの、
あっさり温かいメニューに切り替えてしまえるところが
何とも余裕で頼もしかったりし。

 「あとは、タケノコご飯と、山菜の天ぷら、それから…」

今日は朝から寒かったのでと出かけなかった分、
足りない食材はないかなとの確認に、
昼食の用意をと思ったついで
冷蔵庫を隅々まで覗いていたブッダであり。
卵が結構あるから 具だくさんなスペインオムレツもいいかなとか、
揚げ出し豆腐のあんかけも
ショウガを利かせると温ったかいんだよねとか。
あんかけといえば、名古屋だったか
“あんかけパスタ”っていうのがあるそうだけど、
あれってとろみをつけたトマトソースで良いのかなぁ
…なんてことまでも。
今宵の晩ご飯のメニュー、バリエーションも豊かに
あれこれと考えていた釈迦牟尼様だったのへ、

 「ぶ〜っだvv」
 「え? あ、なななな、何?//////」

段取りがついたものか、
冷蔵庫の扉をぱたりと閉じたところ、
ぱふりと、その頼もしい背中を
こちらもまた温かな感触が
屈託のないお声付きでやさしく覆う。
他に誰がいるでなし、
それより何より、大好きなお人の匂いと、
そちらさんからはセーター越しの胸元の感触とが届いたことで、
どういう状態にあるのかはすぐさま察せられ。
抱きしめて来たイエスからの甘くてやさしい想い入れと
それを意識しての含羞みとが、
その身だけじゃあなく
心持ちまでもをくるんとくるみ込んでしまうのもあっと言う間だったりし。

 “もうもう、相変わらず唐突なんだから。////////”

一気に耳たぶまで赤くしてしまったブッダ様だが、
それでも、背後のイエスへ“どうしたの?”というトーンの声をかければ、
ふふーと楽しげに微笑う気配がしてから、

 「お誕生日おめでとうvv」
 「…っ。//////」

いやあの、忘れてはなかったですよ、はい。
でもでも、自分からわざわざ触れ回ることでなし、
意識に留める程度としていたら、
可愛らしいブーケが肩越しに差し出され、

 「大好きなブッダが生まれてきた日だもの、
  こんな素晴らしい日はないよねvv」

日本人なら照れるか引くか、
嘘も偽りもなくたって、ついついそうと感じて
口にはしにくかろう言い回しだろに、
何の気取りもなく言ってのける 素直で朗らかなメシア様。
勿論、ブッダにしても、

 「嬉しいな、ありがとうvv」

小花の取り合わせで、
どちらも淡い色合いなのが いかにも春の訪れを感じさせ。
本来、仏生会のころといや、
寒の戻りと言われても、せいぜい花冷え程度のそれだのにと、
今日のただならぬ逆行ぶりへ、
苦笑交じり、困ったことだねなんて話していたはずが。
くるみ込むよに抱かれていることもあってか、
それは いつのどこのお話ですかと言わんばかり、
如来様の意識の中では、
すっかり遠くへ追いやられてしまったようでございます。


    ◇◇◇


とりあえずのお昼ご飯、
そこはやっぱり寒いのでと、
マッシュルームと
刻みタマネギと共に炒めたケチャップライスに
ブッダ特製のクリームソースを乗っけ、
チーズを敷き詰めてオーブンで仕上げた、
ホカホカのドリアをいただいてから、

 「ぶ〜っだvv」
 「えっとぉ…。///////」

仲良く後片付けを終えて、さて。
一緒に六畳間に戻ったところ、
コタツに入りもしないで
ブッダへ声をかけてくるイエスだったのへ。
いやな予感…というのとは微妙に違うが、
それでも何かしらさわさわと感じたものを胸に、
やはり立ったまま、なぁにと小首を傾げて見せたれば。

 「今日の私は、あのね?
  いつにも増してキミだけのものだから。」

 「………………え?」

玻璃の双眸、口ひげを添わせた肉薄な口許、
その両方を悪戯っぽくたわめて微笑う神の子様は。
そんな言いようをすると、こちらへ手を延べて来て、
ブッダの二の腕を掴まえると、
だが、引き寄せるのではなくて、
自分のほうから少しばかり身を寄せてくる。

 “……あ。///////”

先の文言の意味が、
今一つ飲み込めていないまま、
ともすればキョトンとしていたブッダなのへ。
見張られていたその深瑠璃の瞳を覗き込んだイエス、
んん?と そちらからも
“どうしたの?”と訊くよな様子を見せてから、
こちらの頼りない覚束ない様子へだろう、
くすと小さく微笑うと、
そのお顔が何とも柔らかい印象の、
されど いかにも大人の男の人のそれ、
頼もしいというか余裕のあるお顔だったものだから。

 “あああ、狡い狡い。//////”

屈強な武将や戦士のそれと比べれば、
繊細で精緻な、いわゆる賢者の風貌なのだけど。
でもね、私と相対すときだけは、
同じ寛容さの中へ、
どこか頼もしい精悍さをまとうよな気がしてならずで。

 「ブッダ?」
 「あ、えと…。////」

名を呼ばれ、はっと我に返ったものの、
私のものになると言われても…と、今度はそちらでゆらりと動揺。
それでなくとも執着や我欲は捨てなさいと諭しておいでの仏教開祖様。
イエスへと向けて
どんなに甘えてもいいのですよと常から構えているものの、
それを相手からあらためてわざわざ言われようとは思わなんだか、
とはいえ、
何も言えぬというのは彼からの心遣いを無にするようだし、と。
しばしグルグル考え込んでから、

 「……。」

やっと思い立った…らしかったれど。

 「? 座るの?」

口でどうこうと甘えるような言いようをするのは
さすがに恥ずかしくて出来ないか、
イエスのセーターの袖あたりをつんつんと引く釈迦牟尼様。
少しほど俯いているのも含羞みの現れかと思うと
可愛らしくてしょうがなく。
どうしたの?、どうしたいの?と、
言葉を引き出すのさえ意地悪になるから極力やめて。
こちらから訊いては、かすかに頷くのへ従えば、
まずはそのまま座ってと促され、
自分も同じように座り込んだ彼と、
向かい合う格好でやや過ごしてから。

 「〜〜〜っ。////////」

おっ、と
思わず声が出かかったのは、ある意味、意外だったから。
いかにも“せぇの”という踏ん切りをつけてからという感が、
またもや可愛らしい含羞み満載、
ブッダの側からこちらの懐ろへ、ぽそりと凭れて来てくれて。

 “わあ〜〜、どうしよう〜。//////”

慎み深い伴侶様の思わぬ大胆な行動へ、
少なからず感じた微かな驚きが…あっと言う間に、
嬉しいやら愛おしいやらという感覚からとはいえ、
口許がヤニ下がりの格好に にやけないかが今度は心配。
決してキミを“甘えただなぁ”とか笑ってなんかないよ、
ああでも、甘えてくれたのは実際嬉しいしと。
そんな複雑な心持ちを、
嘘や隠しごとが苦手な自分がどうやったら……と
狼狽しかかったのも束の間のこと。

 「………。///////」

ああそっかと何かへ気づく。
気づいたそのまま、少しほど脚を崩して、
真っ直ぐ延ばしていた背条をたわめれば、
懐にいたブッダもまた、収まりのいいようごそごそと座り直す。
やや横座りになり、
肩口から二の腕、それから体の側面を少しほど、
イエスの胸元へと添わせてくれる凭れようが、

 “ああどうしよう。///////”

偉大な人なのに、
私なんかしょっちゅう
電灯の消し忘れとかで叱られてるほどなのに。
さっきから少しも顔を上げないところとか、
なのに螺髪のせいですっきりしている首裏とか
ほのかに赤く染まっているのが
どんな顔してるのかのヒントになってるところとか。
何て可愛い人なんだろかと
胸のどこかが くくんとつねられてくすぐったい。
そんな想いをこぼさぬように注意して、

 「随分な寒の戻りだけれど、
  これのせいでまだ満開じゃない桜は
  来週までもつかもしれないね。」

独り言みたいにして呟けば、
うん、と、小さな返事が返る。

 「ほら、大川の河原から見上げる、土手の桜並木とか。
  随分と花の密度があって、重たげで見事だったものねぇ。」

昨年も竜二さんご一家や松田さんと花見に行った同じ場所、
あそこのは遅咲きだから 今年も行こうねと話してたものね。
竜二さんが言うには、まだ満開ではないそうだから、
この寒いのが去ったなら、みんなで出掛けられるよねと続ければ、
またぞろ、うんとのお返事が聞こえて。

 “…やっぱり可愛いなぁvv”

今更 黙っているのが気まずいなんて思わない。ただ、
自分から凭れかかったなんて大胆さに、ブッダがもじもじとするのから、
彼の心情のようなもの、珍しくも察したまでのこと。
他愛ないことを紡いで紡いで、
そしたら間ももつし、ブッダの含羞みへの熱冷ましにもなろうからと。
こちらの懐ろに頬をくっつけ、甘えかかる愛しい人へ、
綺麗な蝶々にどうか逃げないでと祈るよに、
ドキドキしつつも さりげない素振りで通しておいでのイエスなのであり。
何とはなく手持ち無沙汰だったものだから、
向こう側の肩へ、背中から回した手を添えれば、

 「…っ。」

触れた瞬間こそ まろやかな稜線を描く肩がかすかに震えたが、
あっと手を浮かしかかれば、
違うと言いたいか、見上げて来てかぶりを振るキミで。

 「…びっくりさせちゃった?」
 「う…ちょっとだけ。///////」

でも、このままでいていいということだろう、
熱をもったよな頬、あらためてこちらの胸板へ擦り付けてくれて。

 “ああもう…、ブッダってば気づいてる?”

悪い言いようでの“蠱惑的な奸計”とやらをどんなに凝らしても、
今のキミの含羞みの所作や
逃げるようだった目線の切なさに敵うものなんてないと思う。
心臓の弾力の限界まで、
か弱い力で、でも ぎゅううっと引き絞られたよな、
そんな“きゅん”に掴み込まれた気がしたもの、と。
再び俯いた伴侶様の、
なめらかな頬や、長いまつげをうっとりと見下ろしておれば、

 “私、こうまで晩生(オクテ)だったのかなぁ。///////////”

不意に触れてしまった指先や何やへは、
いくらなんでも慣れたつもりだったのにね。
むしろ、今のはそれじゃない。
だって、ビックリしたんじゃなかったの。
イエスの大ぶりな手が、襟の端、少しだけ肌へも触れて。
肌と肌とがじかに触れた、
それが、その一瞬の熱が、
あっと言う間に胸の底まで滲みたほど、
知らず待ち受けていた“甘さ”でもあったから…。

 “………物慣れてもそれはそれで。”

問題じゃないのかな、もしかして、と。
それこそ物慣れない事態へと、初心な心をとくとくと打たせつつ。
みかんもイチゴもそろそろ終わりだよねぇなんて、
相変わらずに何てことないお話を紡いでる
それは優しいイエスの声に
うっとり聞き惚れておいでの釈迦牟尼様だったようでございます。






    〜Fine〜  15.04.08.



  *実は気の利いた贈り物を思いつけなかったか、
   はたまた資金不足だったかなんて、
   つや消しで蓮っ葉なことは、
   そちらも想いもしないブッダ様です。
   そして、そうじゃなかった証拠には、
   家計簿にいつの間にか、
   使ってねというメモつきで。
   商店街限定のお買い物券が挟まってたり…vv
   (イエス様、
    こっそりバイトしてたらしいです。)笑


めーるふぉーむvv
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