“新緑が萌え始めたら”
久々の青空が、
そちらも若さや幼さを滲ませる淡い色で広がる下、
視野の中へ不意に飛び込んできたのは、
生け垣代わりらしき、
舗道沿いに壁のように居並ぶビワの木立ちで。
夾竹桃と同じほど
道沿いのそこここで見かけるものだから、
もうすっかりと
見ただけでそれと判るようにもなったれど。
濃い緑の見慣れた佇まいの梢の先に、
新しい新芽や若葉が伸びていたのが
ブッダにはちょっと新鮮な見栄えであり。
「わあ…。」
陽の強い地方、南方の果樹だからだろう、
日頃のその風貌は、一見 観葉植物のようで。
分厚くて大きく頑丈な、
濃い色の葉という本葉たちの茂りようこそ
ついぞお馴染みだったけど。
この時期、
それらのもっと先へと顔を出して
上へ上へと伸びつつあった幼い葉たちは、
何ともいえぬ、淡くて柔らかそうな若緑色。
堅い堅い大人の葉の方とはまるきり趣きが違いすぎ、
同じ木のそれと思えぬほどの差異を
目の当たりにしたものだから。
意表を突かれたか、
釈迦牟尼様がついつい
深瑠璃色の双眸を見開いてしまったほどで。
「? ブッダ、どうかした?」
「え? あ、いや…。」
大したことでなし、何でもないと言いかかり、
だがだが、
隣に座っていたイエスの見せる
何の他意もない
子供のような表情に出くわすと、
「あのね、ほらあそこに
ビワの生け垣があるでしょう?」
窓ガラスに指先を当てて見せ、
すぐ外の風景の中、
自分が何へ感慨深くなっていたのかを
淀みなく話し始める。
何でもなくなんかないならと
思い直してのことであり、
そんなブッダからの端的な説明を
ふんふんと一通り聞いたイエスはと言えば、
どれどれと首を伸ばしてそちらを見やってから、
「わあ、ホントだね。
あんな堅い葉の木なのに、
梅か桜の若葉みたいに柔らかそうだね。」
油絵と水彩画くらい差があるよねと、
丁度自分が思ったところと同じ感慨を述べるものだから。
嬉しくてのついつい
口元がほころぶのを隠し切れぬまま、ブッダも何度も頷いて応じている。
「でしょう?」
そんなブッダへ、
これは驚いた、大発見だ、と。
ますます大仰にビックリしつつも
同じくらいわくわくして見せるところがまた素直。
そんな屈託のない相棒さんなのへ、
だが、ふと案じるような顔をして
「あ、それよりイエス、
具合は、えっと……どうなんだい?」
どう訊いたらいいものか、
やや語尾がもにょりとぼやけたのも無理はない。
もしかしてすっかりと忘れているのなら、
その方がいい、むしろそっとしといた方が…と思い起こしたからで。
そんな尋の深い気配りへ、
当のイエスはやはりあっけらかんとしたもの、
「うん。平気だよ♪」
だって今日は酔い止めも早くに飲んだしねと、
余裕のVサインまでして見せる。
何たって二人がいるのは
貸し切りマイクロバスの車中ゆえ、
乗り物に弱いイエスを案じるのは常のこととなっているブッダも、
奥の深い気の回しようをした訳で。
そんな彼らのやりとりが耳に入ったか、
前の座席から、おそらくは膝立ちになってだろう
衝立みたいな背もたれの上から
ぴょこりとお顔を覗かせてきた小さなお友達が、
「いえす、だいじょうぶ?」
そちらも案じて下さったのが何とも微笑ましい。
早咲きだった桜をいじめた風は、
そのままなかなか収まらず。
晴れればそれなり
暖かい日となるよになったれど、
それが一転して崩れれば、
すぐさま冷え込む微妙な時期で。
桜以外も脅やかす、
花散らしの突風も延々と吹いての、
そもそも落ち着かない時期だというの、
そういや松田さんからも訊いてたのを
改めて思い出していたブッダへ、
『ねえブッダ、
明後日の土曜、一日出かけない?』
表から帰ってきた早々、
靴を脱ぐのももどかしげに、
イエスがそうと告げたのが一昨日の話で。
『一日って、一日中ってこと?』
『そう。』
ちょっとそこまで、ご近所の公園レベルの…という
お出かけじゃないらしい言い様をしつつ、
靴を脱いだその場で
一応は羽織って出たパーカーを
もどかしそうにわたわた脱いでいるヨシュア様。
ちょっと焦り気味なのが、
当人には悪いが微妙に可愛いなと、
こちらはこちらで
会話の中身とは別ものへ、
こそりとウケてしまっておいでの如来様だったりし。
それもこれも、
ブッダの花粉症を思いやってくれての習慣で。
大急ぎで戻って来たそのまま
早く告げたい何かがありながら、
でもでも一通り花粉を払ってからでないと
伴侶様の待つ居室まであがれないという、
今時分ならではの段取りを、
きっちりこなさないとならない
ジレンマぽいものが伺えて。
決めた以上は守らなきゃ、徹底させなきゃとする、
妙に頑迷な、その幼い律儀さが何とも可愛いと。
胸の内にて微笑ましく思っておれば、
『スーパーで
静子さんと愛子ちゃんに逢ったんだけど、』
それもまた、一度は自身が出かけたブッダが
チラシへの見落としがあったと
悲壮なお顔をしたのを引き留めて、
何度も出かけては まだまだ引かぬ花粉をかぶるよと、
イエスが代わりに出かけてくれたのであり。
『明後日の土曜に、
ヤマギワパンのパン工場へ見学にいくんだって。』
『ふうーん。学校の校外授業か何かなの?』
新学期も始まっているのだ、
遠足の代わりのようなものとして、
そういったお出かけぽい課外授業もあるんだねぇと
やや他人事のように思っていたらば、
『だからぁ。
それにご一緒しませんかって誘われたのvv』
『はい?』
イエスが言うには、
その工場見学とやらは学校の行事じゃあなくて町内会の催し物、
そう遠くないところにある地方工場まで、
パン製造を見学に行こうという集いが
町内会にて企画されているそうで。
まだ参加枠が空いているそうなので
一緒にいかがと誘われたらしい。
『わあvv それは嬉しいなvv』
勿論、お受けしようよと、
相方の了解も取れたこと、早速スマホで静子さんへ伝えて、
幹事の方へと連絡してもらい、
それで今日のお出かけと相成ったお二人で。
日も迫ってたことだけに、
ちょっと強引だったかなと
実は…OKをもらってから、
ちょっとドキドキしちゃったイエスでもあったれど。
“だってブッダは、”
雨が降ったら花粉が少なくなるなと喜んでから、
でも洗濯物は乾きにくくなるなと
ちょっぴり物憂げに視線が降りてしまったり、
よそのお嬢さんたちと朗らかに話していると、
微笑ましいなと笑っていつつ、
ちょっぴり視線が泳いでいたり。
一つことへ色々な功罪とか明暗とか思いついてしまう、
はたまた、自分の中に沸いた感情といちいち面と向かってしまい
逃げようとかかわそうとしなかったり、
とことん聡明で、同時に不器用でもある人なので。
“だから私がせいぜい振り回してやんなきゃねvv”
他の “でも、だけど”を思いつく間も与えない勢いで、
楽しいことばかりで振り回してやんなきゃと。
気の早いこいのぼりが目印になった
工場を行く先へ見つけて沸く車内。
一人だけ微妙に別の目標へ、
その大きめの手をぐうへと握りしめた
神の子様だったそうでございます。
〜Fine〜 15.04.19.
*窮状の中に
ささやかな“良かった”を
探すことから始めるのがイエス様なら、
ガチセレブだったブッダ様は、
嬉しくとも幸いでも、それだけで終わらず、
最悪の場合のことも
ついつい
考えてしまうのでしょうね。
余裕のある生活を送っている中から、
衆生の苦しみを救う
“救済思想”を思いつくのもまた
物凄いことなんでしょうけれど…。
めーるふぉーむvv
掲示板&拍手レス

|