翠の季節に迎えられ


“甘い甘い あのねのねvv”




  *迷える仔羊は…とは
   設定が違います。
   夢主も 別人ということで
   ご容赦を。


今年の桜は随分と駆け足で去ってゆき、
今は東北で見ごろだとか。
ゴールデンウィークは北海道で満開だそうで、
そちらへ観光で向かうというお人には、
こちらでは慌ただしかった分を取り戻すような
ゆったりした花見が出来そうだねなんて。
草むしりの合間合間のお喋りで、
そんな他愛のないことを言っては、
和ませてくれるイエスさん。
ほんの数年ほど前から、
同じご町内の松田ハイツというアパートの一室に
お友達とシェアという格好で住んでいる外国の人で。
目鼻立ちの彫の深さとか、透き通った双眸や
上背の高さ、腰骨の高さなんかは、
さすが外国のお人だなぁと思わせるけれど、
日本語がそれは流暢だし、
あんまり強引ではないというか、
お行儀が良いというか。

 “いやまあ、
  突飛なことを
  全くしない言わない訳じゃあないけれど。”(笑)

外人と言えば…押し出しが強くて自己主張も激しくて、
そういったところを常に発揮し、
よくも悪くもずんずんと
容赦なく近寄って来るようなタイプばかり…なんて
勝手に思い込んでた私にすれば、
偏ってたなぁと反省させられてたりもして。

 「ふう、ちょっと一休みしようよ。」

時折、真冬へ逆戻りかというほどの
寒さも襲ったものだから、
あまりの目まぐるしさに翻弄された感の強かった四月で。
大学こそ休み中だったれど
バイトの関係もあり、
花見もろくに堪能出来なかったものの。
さすがに花粉の季節も過ぎており、
そろそろ連休の話題とか、
あちこちから聞こえ始めてたりもして。

 “まあ、アタシはバイト三昧になるようだけど。”

旅行をするには手持ちが中途半端だし、
どうせ、ほどほどという距離や規模になろう
観光地やイベントは精一杯 混み合うに決まってる。
なので、だったら夏に掛けるべく、
資金を溜めるべえと決め、
結果、浮いた話にも関心は向かぬまま、
今日もせっかくの良いお天気の週末だというに、
お母さんに言われ、
町内会の草引きの当番にと公園まで出て来た次第。

 “いいんだー、
  大好きなイエスさんと
  同じ場所の割り振りになったから♪”

……いやあの、妙な意味じゃあなくってね。////////
何というか、このイエスさん、
浮世離れしているというか、世間知らずだというか。
いくら外国の人だって、それは欧米でも共通の
モラルというか価値観じゃないかと思うようなことへも
ちょっと通じてない時がままあって。
一緒に暮らしているのがブッダさんていうインドの人なんだけど、
そちらさんも時々苦笑しちゃうほど、
純粋率直、天然で無垢な可愛い言動しちゃうのが、

 “このイケメンな風貌でやられちゃうとねぇvv”

萌えなくてどうしますかって言うのよ、うんvv
癖のある深色の豊かな髪を背中まで伸ばしてて、
それが映えて見える面差しは、何てのかな、
筋骨雄々しき屈強な…っていう逞しい男臭さとは無縁な感じで。
むしろ繊細そうな、学者風?
そんな印象のほうが強い人ではあるんだけれど。
でも、何てのか、
高い頬骨とか、日本人の比じゃあないくぼんだ眼窩とか、
そういう彫の深さが醸すのが、
ある種類の精悍さというか、
ちょっとした拍子の表情を思いがけなくも男らしく見せるもんだから。

 “例えば、
  そうそう…ブッダさんと並んで
  同じ雑誌を覗き込んでて、”

伏し目がちになった横顔が何とも言えずカッコいい。
線の細い稜線に縁取られた横顔なのに、
聡明そうな目許の表情に深みがあって。
それをこそりと、
こちらも仲良しになってたブッダさんへ話したら、
そうそうと相槌を打ってくれてから、

 『玻璃っていうか、淡色の瞳なのに
  陰が落ちて、少し濃い色になるんだよね。』

そうなんだ、よく見てるねぇって聞いたらば、
あの大きな瑠璃色の眸を見張り、
真っ赤になったのがまた可愛かったけど。

 「…あのさ、ちゃん。」

そんなこんなと一人内心で盛り上がってたら、
草むしりのお駄賃だろうか、
熱中症予防にって最初に配られたスポーツドリンクを
こくこく飲んでたイエスさん、
ふと、という感じで、もしょりとした声を掛けて来た。

 「なぁに?」

もう終わりにしたいのかな?
そうだね、結構むしったし、
ゴミ袋も3つパンパンにした成果は十分だと思うから、
まだちょっと、
サツキの茂みの足元にひよこ草とか見えてるけれど、
いいんじゃないかなぁって言おうとしかけたら、

 「あのね、あの…。///////」

およ? 何か初々しくないですか、その含羞みよう。
何か言いたそうだけど、でも、
あのそのっていう迷いが まだあるっていうか。
公園の入り口近くで、
サツキの植え込みを仕切る縁石に腰掛けてる私たち。
自然と並んでいる格好なので、
真っ直ぐ前を向いてれば視線は合わぬが、
そのままの会話はちと不自然で。
話かけて来たイエスさんもそこは判るのか、
ちらちらとこちらを見はするが、
こちらからの視線と目が合うと、
えっとあのそのと視線が泳いでしまっての、
これは相当に迷っておいで。

 “…何だろう。”

一応は年頃の娘さんだが、化粧っ気はないし、
普段着も さほど気を遣っちゃあない華のなさ。
愛想がいいくらいしか取り柄はない身で、
イエスさんやブッダさんへも四角い態度は取ってないから、
それでだろう、屈託ないまま接してもらえてるはずなのに。
こうまでしどもどと逡巡されちゃうと、
こっちまでが何てのか、
自分のお膝を見下ろして、含羞ん…でみたが似合わんなぁと
早々に放棄して、自分のドリンクを頬に当てつつ、
ちょっと間、待ってみたところ。

 「あのね?
  笑わないで聞いてほしいことがあって。///////」

うわあ、何だこりゃ。//////
視線は上げられないまんま、
お鼻の細い稜線を指先でさりさりと掻きながら、
もしょもしょとそんなこと言うんだもの。
伏し目がちになってる目許が、気のせいかなぁちょっと赤い。
いつぞやには男臭く見えたのが、
今はただただ可愛いだけってのがまたまた意外。

 “でもまあ、何かしら悩み事があってのことかも知れないし。”

日本の風習に馴染めないとか、そういうことかも。
子供じゃあるまいし今更訊けないってレベルのことで、
大人とは言い切れないけど子供でもないアタシになら、
何とか聞いてもらえるかなって思ったのかも。
そうと想いが至った末に、

 「うん、良いよ?」

笑わないよと何とか真顔を作って見せれば、
それでも、というか、他の人には聞かれたくなかったか、
左右を執拗に見回してから、ややあってやっとアタシのほうを向き、
口元に片手を立てて添えたのは、内緒話しますという万国共通の合図。
そっかそっかと顔の向きを変え、耳から寄って行ったれば、

 「〜〜〜〜〜〜〜。」

ぼしぼしぼしと、静かなお声が響いて来て。
やだもう、普段だっていいお声、それを低めているもんだから、
ますますのこと、耳から頬から熱っぽくなりかかったけれど。


  ………………………はい?

  …………うん。うんうん。

  …………それはあの、うん。
  ……ふう〜ん、そうなんだvv


一通りを聞き終えたとたん、ついのこととて口許がたわんだ。
何てまあまあ可愛いことよと、
そうと感じてのこと、前を向いたままの格好で口許がややたわんだと思う。
それをすかさず見とがめたのか、

 「あっ。ちゃんたら、笑わないって言ったのにっ。////////」
 「いやあの、笑ったってのか、可笑しいって意味じゃあなくて。」

あわてて執り成しかかったところ、
そんなアタシの背後のほうから、つまりは公園の入り口側から、

 「…何してるの、二人で。」

サボってるのを注意しに来たというよりも
何かへ不審がってるような声音の、

 「わっ、ブッダ?」

本物の如来様と同じ様式だという、
伝統の螺髪にまとめた髪もすっきりと。
うなじから肩へのまろやかな線をあらわにした
Tシャツにブルージーンズ姿の
アタシの もう一人の異人のお友達。
いつの間に来合わせたか、ブッダさんがそこに立っており。
あわわと焦るイエスさんと逆で、
アタシとしては何てまあまあ良いタイミングだろうかと、
座ってた向きを大きく降っての体勢転換をし。

 「あのねあのね、ブッダさん♪」
 「あっわっ、ダメって、ちゃんっ!///////」

言っちゃダメだと制しようとする態度に、
ブッダさんの眉がちょっと怖いめに上がりかけたが、
そんなのさえも振り払い、
あのねあのねとシャツの肘あたりを引けば、

 「あ、はいはい。」

素直に聞く態度になってくれるから、
優しいというか、彼もまた
イエスさんに負けず劣らずで純朴だというか。


  ………で。


アタシはイエスさんから囁かれたことを、
そのまま包み隠さずブッダさんへと伝えた訳です。
曰く、

 『あのね? ブッダの耳たぶって
  すごく柔らかくて、
  ほのかにひんやりするけど肌触りはすべすべで、
  そりゃあとっても可愛いの。』

  ………………………はい?

 『私としては、
  自慢したいというか、
  他の人へも広めたいんだけれど。』

  …………うん。うんうん。

 『でもね、あのね?
  誰かに言ってしまったら、
  独占出来なくなるかも知れない。
  可愛い素敵なところだってこと、
  知っているのが私だけじゃなくなるのは
  ちょっとイヤなの。』

  …………それはあの、うん。

 『矛盾してるよね、これ。
  でも、うん。
  どっちもホントの気持ちだし…。
  どうしたらいいのかなぁって。/////////』

  ……ふう〜ん、そうなんだvv


  「…えっとぉ。//////////」


そのままを伝えたらブッダさんも真っ赤になってしまって、
ちょっとうつむいてるイエスさんと、
似たような空気を醸して立ち尽くしてしまったので。

 「今日の草むしり、これで終わりにしましょうねvv」

うふふと微笑って立ち上がり、
ゴミ袋をよいせと持ち上げ、収集場へと持ってゆく。
あわてて後を追って来ようとしたお二人へ、
いいからいいからと微笑ったアタシは恐らくきっと、
近所のお喋りで気の良い、
ちょっとお節介なおばさまと
同じような顔をしてたんだろうなぁ、うん。
でも、だって、
お二人がそれは仲良しさんだっていうのは
日頃からも何となく伝わって来ていたし、
まだまだ子供同士みたいな“好き好き”だってのが、
やっぱり微笑ましかったしね。

 当世の女学生だもの、
 少しくらいのそういう傾向へも理解はありますって、と。

いやまあ、そこまで言っては露骨だから
そこは我慢をしたけれど。

 “可愛いんだ、お二人ともvv”

ついついこぼれる鼻歌を、
怪しまれないよにいかんいかんと押さえ込みつつ、
良いお日和の公園の中、スキップの出来損ないをしながら、
収集場までを進む、さんだったそうでございます、が…………。



  まあ、これ以上 深くは掘り下げないということで。(笑)




    〜Fine〜  15.04.26.


  *知らぬが仏。(笑)
   つか、一応は Bまで進んでおられますが。
   雰囲気だけで悟れる、今時の日本のお嬢様たち。
   誤解じゃないだけ マシなのかどうなのか…。


ご感想はこちらへvvめーるふぉーむvv

bbs ですvv 掲示板&拍手レス


戻る