あた〜らしい春が来た♪
 

 紙の魚


第一面に結構大きくスペースを取って
春の値上げのいろいろが紹介されてる新聞を、
ややもするとしょっぱそうな顔で眺めていたブッダ様。
あ〜あやれやれだという溜息交じりに顔を上げれば、
お向かい側ではイエスがやはり、
何にか考え込んでおりますという小難しいお顔でPCと向かい合っている。
三月弥生は結構寒かったものの、終盤になって随分と暖かくなって来て、
転がるような勢いで、桜の開花の知らせも続々と届く立川の今日この頃ではあるが。
いやいやまだどんなフェイントがあるやも知れないからと、
相変わらずコタツが卓袱台として頑張っている聖さんチの六畳間。
そこへ向かい合うように入って、
それぞれで別々なものへと向かい合っていた二人なわけだけれど、

 「??」

どうしたのかなとまずは思った。
困りごとにぶつかったら、まずは隠しきれなくての挙動不審となるのがセオリーで。
どうしようかと相談できないことであればあるほど、
困ったぞどうしよかという視線、
案じさせぬようにとの気遣いの下、
こちら以外のあちこちへ飛ばすのがイエスの常なのだが、
今日のはどうもそういう種類の困難へぶつかったわけでもなさそうな。

 “大したことじゃあないのかな?”

PCと向かい合ってこそいるが、視線はその上にはなさそうなのを確認しつつ、
無駄のない動作にてひょいと立ち上がると
そのままキッチンスペースへ。
湯沸しポットで手早く湯を用意し、二人分のミルクティーを支度して、
それから、使い慣れた盆へとカップを並べ、
何てことないお世話焼き、
キミも飲むでしょ?というノリでコタツへ戻ってきたところ、
そんな気配でやっと我に返ったか、

 「あ、ごめん、ありがと。」

やはりPCにはもう御用はなかったか、そのまま大きめの手で蓋してふうと溜息。
そうまでの物思い、独り占めしているなんて歯痒いなぁと苦笑をし、

 「どうしたの?」

自分のカップを両手でくるむようにして持ち上げながら、
さりげない口調で訊いたところ、

 「うん。気の利いた嘘ってなかなか思いつけないなぁって。」
 「…おや。」

ああそういや今日はエイプリルフールだ。
午前中に罪のない嘘をつき、午後に種明かしをするのが基本で、
こういうおふざけ系の遊びは大好きな天乃国の皆様におかれましては、
イースター以上に何かしら仕掛け合って楽しんでいるのかもしれぬ。

 “…でも、これまで見たことなかったけど。”

そこのところは あとで判ったのだが、
朝から開いていたPCにて、
いろんな企業が嘘のCMやらお遊び開発報告やらネットにアップしているのを観て、
自分も何かやってみたいなあと思ったらしく。

 「その場しのぎに突拍子もないこと言っちゃうってことはあるけれど、
  ちゃんと構えて考えるとなかなかねぇ。」

カットモデルを引き受けたくだりでのアレとか、
それは嘘だろうという級の
とんでもないその場しのぎを口にしちゃう自分だというのは自覚があったらしいなと、
こんな形で確認させていただたブッダとしては。
いつもの甘いミルクティーを、
さも苦々しい風味のそれのよに口へと含んだイエスだったのへ、
ついつい くすすと笑ってしまっており。
笑い飛ばすというそれじゃあない、ちょっとした苦笑だったが、
それでも気がついた彼だったか、
カップの縁から“??”という視線を向けられて、

 「私への悪戯って企みじゃあないんでしょ?」

こうやって話してくれたってことは、と、
そこがくすぐったいと言わんばかり、
目許を和ませくすすと笑うブッダであり。

 「…あ。」

いやあの・えっとと、
たちまち 不意打ちを受けましたと言わんばかりのお顔になったイエスとしては、
誰へと構える嘘かなんてまるで考えていなかったの、
他でもないブッダから気づかせてもらったようなもの。
そんな彼らしいところ、その挙動からあっさり拾えたのがまた可愛いなぁと、
ついついほころぶ口許を隠すよに自分も甘いミルクティーをのんびりと堪能。
かように、聖人だからというよりもそういう人だからという順番で
イエスは嘘や隠しごとが苦手であり。

 “智慧を駆使しての方便とかなら難なく対処できる人なのにねぇ。”

有名な逸話はたくさんあって、
例えば、ローマに税金を納めぬのか、
収めるということは皇帝の支配に屈するということだろうにと
どっちの答えを出しても上げ足を取られそうなことを問われた折も、
硬貨に刻まれているのはカエサルだから、彼の物なら彼に返しなさいと、
神への務めとこの世での務め、共に果たしなさいと即妙に説いたのは有名な話。
そのように聡明であることと、油断がないとか狡知に長けていることとは別枠で、
人の性を見抜く目や感性くらい持っていただろうに、
それでもご自分こそ騙されたり裏切られたりし通した、
素直で純朴な神の子様なのであり。

 “じゃあ私からも。”

イエスにばかり照れさせておくのも何だ…と思ったかどうか、
半分ほど減ったカップをコタツの天板へと戻したブッダ、
その嫋やかな指を柔らかく組んで自分のあごの下へすべり込ませると、

 「あのね、イエス。」

いいこと教えてあげよっかと、
ちょっぴり甘い声になって内緒話よろしく囁いたのが、

 「今朝のお味噌汁に落としてあった玉子にね、
  私、とあるおまじないをしておいたんだよね。」

 「え?」

ああそういえば、
今朝のお味噌汁はわかめとそれからポーチドエッグ風に落とした玉子だったよな、と
まずはそこのところを思い出したイエスだが、
優しい風味の美味しい朝餉だったなぁと、そんな風に思い起こしておれば、

 「イエスが今日一日私のことばかり考えちゃいますようにって。」
 「…え?////////」

ああもう、このごろのキミってば
そんなお惚気ぽい言い回しもペロンと言えるようになっちゃってまあと、
イエスの側が赤くなってりゃあ世話はない。
それって結構恥ずかしい言いようだってちゃんと気づいてる?
あとあとになって いきなり気がついて、
寝る前の布団の中で恥ずかし〜〜って地団駄踏んじゃっても知らないよと、
まずはそこへ真っ赤になって照れたイエスだったようだけど、

 「あ。でもあの、えっとぉ。う〜〜〜。///////」

そのまま何だか複雑な反応を見せる彼なのへ、ブッダが “??”と小首を傾げれば、

 「いやあの、…それってホント?それとも嘘?」

話の流れからして、
それこそエイプリルフールだってことへと便乗した言いようなのかもしれぬ。
確かに美味しくなぁれと心を込めはしたけれど、
そんなおまじないまでは唱えてないよ…ってことだろうかと、
混乱しちゃうところがまた可愛いなぁなんて思いつつ、
さあどうかしらという思わせぶり、目を細めてただ微笑って見せておれば。

 「…それって嘘だと残念だなぁ。」

そんな言いようをするイエスだったりし。
はい?とブッダが大きな双眸を尚のこと見開いて 訊き返しの素振りを示せば、

 「うん。だからあのね?
  そのおまじないってちゃんと効いてる気がするの。」
 「う…。//////」

言われてから気がついてるようじゃ、
それこそ調子の良いこと言ってって言われそうだけどと続け、
胸元へ大きめのほれぼれする手を広げて伏せて見せ、

 「だけど、エイプリルフールの嘘だよんってことなら、
  今日もやっぱりブッダのことばっかり考えちゃってる私なのは、
  いつもと同じなことなんだなぁって。」

 「え、えっとぉ?////////」

もしもし?
何かどさくさ紛れにお惚気ぽいこと口にしてませんかと、
赤くなってる釈迦牟尼様なのへ、ふふーと含羞みつつも笑って見せて、

 「ブッダから誘われての“好き”って気持ちなら、
  いつものとは違うんだのにって、
  特別の“好き”なのにってそう思ってドキドキしたのになぁ。」

あ〜あなんて、嘘だと見抜いた自分へすっかり残念がるイエスなのへ、
こちらこそそれどころじゃあないブッダ様。
ちょっとばかり盛り上げよっかと悪戯心を見せたらば、

 “何だ何だ この甘くて恥ずかしい展開は。//////”

福耳からうなじから、真っ赤に染まった如来様なのへ、
あれれェと遅ればせながら気がついたイエス様、
どうしたの?と擦り寄ってって、
ますます赤くなるブッダ様だったりするんでしょうねvv
そんな四月の始まりです。




   〜Fine〜  16.04.01.


 *フランスでは「プワソン・ダヴリル」(Poisson d'avril, 四月の魚)といって、
  付箋のような紙で作った魚を、
  こっそりと背中へ貼る悪戯をするんだそうです。
  そういったからかいレベルの騙しっこさえ構えられない、
  ベタ甘いお二人の巻でございましたvv

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