恋でも愛でも 理由なんて あとからでvv (枝番)

  “赤い月の見下ろす地上で” 



お互いがお互いを それはそれは大好きで。
理由なんてないくらい、
相手へのどんな艱難辛苦も
この身に引き替えていいと思うほど、
それはそれは愛し合い信じ合っている間柄であっても。

 それでも、その身が別々の個人であり、
 それぞれの意志で活動している以上、

何かの拍子に、
ささやかな齟齬や思惑のすれ違い、
他愛ない勘違いが襲うのは ままある話で。

 ex, え? 今のを笑うの? お気の毒な話じゃないの。
   おいおい、この程度はウィットだよ、ウィット。

すぐにも事情が明かされて、
なぁんだという笑い話で済めばいいが。
はたまた、
何もかも 100%思い通りの人物とはいかないものだという
諦念やら大人の納得やらがついてくればいいが。
誤解したまま想いがこじれた挙句、
どちらも悪くはないのに傷つけ合ったり、
果ては

 そんな人だとは思わなかった、
 わたくしが買いかぶっていただけだったのね…っ、と

心底憎しみ合ったりする悲劇だって起き兼ねないから。
どんなに親しくとも、どんなに信頼し合っていても、
人と人との機微というもの、決して疎かにしてはいかんのであって。
自分勝手な思い込みや盲信だけで、
知ったかぶっての突っ走るなぞ言語道断。


 『ブッダの言ってた“もっと”っていうのは、
  もっと大人のって意味かなぁって思って…あの…。//////』

 『…?』

 『だから、
  だったら 私では……物足りないかも、と。////////』


何だか様子がおかしいなぁと思っていたらば、
そんなとんでもないことを一生懸命考えていたらしいイエスであり。
取るものもとりあえず、
そんなの杞憂だと
出来るだけ丁寧に説いてやったのは言うまでもなくて。

 『あのね、イエス。
  十代の子供みたいなというけれど、
  例えば 出掛けているキミを想って胸が締めつけられるのだって、
  人込みの中でこっそりと手をつないでくれるときだって、
  夜中に目が覚めちゃって、キミの寝顔を見てるときだって、
  それは切ないし、私 とってもドキドキするんだ。』

不足なんてあるものかと、安心させるための熱弁で。
勿論、嘘も奇弁もない、真実 誠の想いだったけれど。

 “…うん、嘘はついてない。”

ブッダにしてみれば それらにだって、
イエスが引き合いにしたような、
十代の子供の他愛ない交歓とは微妙に異なる、
深みや広がりのある感慨や
やや複雑な錯綜をおびた思索が ともなわれてもいるのであり。
いい歳をした大人だというに、
人込みの中 こそりと手をつなぐときには、
そんな大胆な行為への羞恥心の裏側に、
ただの冒険心のみならず
秘めている恋心が露呈しないかという
仄かな自虐性も滲んでいるワケだし。
イエスの安らかな寝顔をこっそり見つめるときも、
ああ素敵だなぁと見惚れるのに並行して、
こんなに無垢で気高いお人を、
誹謗されるのみならず
諸共に堕天させるよなことへ付き合わせていいものか、
愛しいという想いを抱えつつも、
そんな罪の存在を思い出しては胸が重く煮えもする。

 “……。”

駆け引きとか鞘当てなぞという、
人を試すような複雑さは要らぬが、
大事にしたい人のためならば、
どんな棘だって屈託なく微笑いながら耐えられるし、
キミへだけの哀しい嘘だって厭わない。
そういう輻輳を身のうちへと抱えられる、
そんな風に尋深い甲斐性の中で、
複雑な策を人知れず紡ぐのが大人なのであり、

 “こんなことへ長けてるなんて、
  自慢にもならないけれど。”

それでも、
その点へイエスよりも先達であることが、
今は微妙にありがたいと思わぬではない。
彼が傷つくくらいならと、自分が先んじて盾になれるから。

  ただし、先のことは分からぬ訳で

もしかしてどこかでそんな無理をすることがあり、
それが露見して、
彼を怒らせるかもしれないと思えば それは寂しいし、
怒るならまだしも、
力不足でごめんねなどと 哀しませたなら、
無理で負うた瑕や穢れの何倍もつらいかも知れぬと、

 ほら、やっぱり“負の将来”をついつい想ってしまう

懲りない自分への苦笑も絶えぬ。
こんな卑屈な存在が、
あんな神々しくも無垢な人を求めることこそ、
取り返しのつかない罪なのか……。




     〜Fine〜  14.05.12.


  *思うところがあって、
   ちょろちょろっとメモってた代物です。
   十代の子供みたいな仕立ての…なんて言いようを出しましたが、
   何かこう、恋愛ってのは
   “まだやってないの? 遅れてるぅ”というような、
   進展を自慢し合う代物じゃないんだよと。
   そういうことを言ってるうちは子供なんだよと、
   そういう主張もしたかったらしいです。

   ちなみに、ブッダ様の呟きみたいな出来になっちゃいましたが、
   こういう悲恋にはならないのでどうかご安心を。
   (あんの にぎやかさじゃあねぇ・苦笑)
   あくまでも“枝番”仕様なので…お騒がせしました。

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