“秋の入り口"
気象庁さんも完敗ですと認めた、異常気象の夏が過ぎゆきて。
さすがに九月に入ってすぐは、
そうそう簡単に涼しくなんてならないよと言いたげな(誰が)
酷暑再び、うんざりするよな蒸し暑さが
でんと幅を利かせていた東京地方であり。
『うんうん、まだまだ暑いよねぇ。』
日向に立てば ちりりと灼かれるような、
強い陽の照りようも相変わらずだし。
屋内にいても体の内側からじんわりと、
微熱が沸き上がるような暑さが込み上げてくるので。
まだまだ半袖シャツは大活躍、
水分補給も忘れないでねという状態が続いているのだが。
「………。」
それでも、何度か雨が降るごとに、
少なくとも湿気や温気だけはぐんぐんと洗われてったようでもあって。
そうともなると、
朝晩と昼間との間に、
10度ほどもという気温差が生まれる頃合いがやってくる。
宵には秋の虫の奏でが聞こえる窓辺から、
冴えたる月に磨かれたかのよな、
それは心地いい風がそよぎ込むようになるし。
昨日今日などは、朝も結構な涼しさだった…らしく。
“………………えっとぉ。////////”
寝る時分はまだ、昼の余熱も引っ張って来ているものか、
綿入りの布団は薄いものでもやや重くて。
まだまだ夏がけ、タオルケットで十分だよなんて、
余裕余裕と笑いもって言ってた張本人様が。
“……人を懐ろ猫にするんだものなぁ。////////”
以前、冬場なぞにちょくちょくやらかされたそれ、
彼の側から こちらの懐ろへ
もぐり込んで来ていたパターンと大きく違うのは。
こちらの首っ玉や肩口を掻い込む格好、
寝オチしているのだからさほど強引な力でではないとはいえ、
それでもぎゅうと囲い込まれている点で。
二組みの布団の真ん中に、何故だか斜めになって、
イエスの懐ろへ すっかりしっかり掻い込まれて目覚めるのが
今朝で連続3日目ともなると。
“や、やっぱり合い布団を出しとくべきかなぁ。///////”
そうも密着しているというほどではないながら、
それでも…ちょいと見上げた位置に
愛しい人の安らかな寝顔があるのは落ち着けないか。
どぎまぎを誤魔化すように、
もっともらしいことを引っ張り出そうと懸命な、
ブッダだったりするのだが。
「……う〜ん。」
「〜〜〜っ☆ /////////」
枕と間違えられているものか、
薄い頬やら口許やらを
こちらのおでこ、白毫近くへ
すりすりと擦り付けられたりした日にゃあ、
ぶわっ、と
朝っぱらからそれは景気よく
螺髪が解けての、寝床がつややかな髪に覆われてしまったりするのもまた、
今朝で連続3日目だったりし。
「〜〜〜〜。//////////」
油断も隙もないんだから、とか、
どうせならすっかり取り込んじゃえばいいものを中途半端な、とか。
いつの間にかこうなっていた、その経緯へと思うことは色々あれど。
「ん〜、おはよーブッダ。」
「お、おはよういえす。////////」
ご挨拶を交わしてなお、
それなりの肉付きが男臭い腕に、二の腕ごと肩を搦め捕られ。
ちいとも柔らかくない頬で むにむにと
おでこや頬へ懐き続けられるのを、
“いえす〜、そろそろ起きてよ〜。/////////”
ジョギングに出掛けられないよぉと胸のうちにて抗議しつつも。
叩き起こすとか揺すり起こすとか、せめて声だけでも掛けるとか、
そういう方向へ動いて阻止出来ないってのは、
“……やっぱりわたし、イエスには甘いよね。///////”
いやいや、
この場合は そうじゃないでしょう、ブッダ様。(苦笑)
◇◇◇
最初に掻い込まれて目覚めた朝にも、
そろそろ合掛け布団を出そうかと進言したのだが。
前述したように、
まだまだ夏掛けのタオルケットで十分だよと言ったその上、
『でも、うっかり風邪とか引いちゃわないかな』
季節の変わり目は油断がならないと言うし、
この夏の暑さは結構堪えたからその疲れだって出るやも知れぬと。
勿論のこと、向かい合う無邪気な人をこそ
ついつい案じたブッダだったのへ、
『だったら 私がぎゅうするから大丈夫!』
大きく胸を張り、そこへ手を伏せ、
どんなアピールかと思ったほど雄々しく
“任せて”と言い切ったイエスでもあって。
『だって私は風邪なんか引かないし、
勿論のこと、ブッダへも寄り付かせはしないからね』と、
ネタのように堂々と、トンチンカンなことを言うものだから。
いやそういう問題じゃなくって、と。
ブッダもついつい、ネタ合わせよろしく
裏拳もどきで突っ込んでしまったほど、だったのだけども。
“まさか本当にやってくれるとは思いませんでした。///////”
確かに お陰様で、
肩や腕足などなどを想いの外 冷やしちゃって
体調がおかしい…というよな目には遭っていないし。
ぶっちゃけ、
“……うん。
正直言って、嬉しい・かな?//////////”
痩躯でもそこは男性なだけに、
尋ある懐ろや肩は頼もしく。
見慣れると愛嬌さえ感じられる口ひげの下、
閉じられた口許の形のよさや、
細い顎と首元や鎖骨のくぼみの醸す、
どこか男臭い色香など。
普段だと照れが出るものだから
こうまで凝視なんて出来ぬ、イエスのお顔や何やを。
こうまで間近、接写同然という至近から、
見たい放題だなんてっっ (…もしもし?)
朝っぱらからどういうご褒美?とか、
ちらとでも思ってしまうのだから世話はなく。
「ただいま。」
「おっ帰り〜♪」
やや急ぎ足でお買い物から戻ったブッダを、
イエスが朗らかなお声で迎えてくれて。
「もう炊けた?」
「ん〜ん、まだアラーム鳴ってないよ。」
ああ良かったと、肩から力を抜くと、
慣れた様子で玄関を上がり、手を洗って居間の方へ。
窓の外はもう宵の気配に染まりつつある時間帯で、
こんな頃合いにイエスを置いてどこへ出掛けていたかと言えば、
『あ、しまった。ゴマ塩がない。』
今宵のメニューは、
マイタケしめじにエリンギしいたけ…というキノコ各種と
ニンジン、たけのこ、薄あげ、コンニャクを刻み入れた秋のおこわと、
サンドマメと切り干し大根の含め煮、
ちょっぴり甘じょっぱい 大根のお新香、
そうめんをお吸い物に仕立て、
ミツバを散らした にゅう麺というラインナップだったのだが、
『赤飯とおこわにはゴマ塩がないと。』
ブッダの譲れないポリシーか、
そうと主張し、そのままスーパーまで出てった英断の素早さよ。
黄昏迫る町の中を急ぎつつも、
逸る気持ちを何とか押さえていたお陰か、
シカが飛び出して来ることもないまま、
目的を果たせての無事安寧な帰還と相成り。
良かった良かったと、支度の整った卓袱台まで戻って来たブッダへ、
いつもの定位置へと腰を下ろしたその途端、
あっと言う間に、横合いからぎゅうとしがみついている誰か様。
「な、なに。////////」
思わぬことで、言わば不意打ち。
おいでおいでという前置きつきのハグには、
何とか慣れつつあるブッダでも、
これはさすがにびっくりしたようで。
思わずのこと、肩が跳ね上がりもしたけれど、
「うん。ブッダを補充してるの。充電vv」
ようよう見やれば同じ方を向いて並んではおらず、
少ぉし座り位置を斜めにずらした、向かい合いの変則形。
そんなくっつきようをし、こちらを真っ直ぐ見やって来る彼で。
ひょいって身を伸ばして、
いやさ 倒して来たイエスのお顔が視野から外れて、
こちらの首条へ暖かいものが触れる。
「あ、いけない。」
一瞬浮いて、ベリリッて音がして、ああ茨の冠を外したんだと思う間もなく、
また暖かいのが触れて来て。
「充電って…。」
ほんの10分ちょっとほど出ていただけだのにね。
彼がお留守番を苦手としているのは、
セールスマンがやって来たら応対に困るからだったはずで、
自分みたいに、彼がいないと寂しくて寂しくて…では
なかったはずじゃあと、思いはしたが。
「……。/////////」
もう差し込む角度じゃあない陽は、
窓枠の端を乾いた白に照らして寂しげ。
ねえ、寂しかったのはホントに君?
もしかして私への充電なんじゃない?
だって、君はとっても無邪気でやさしい。
シャツ越しの胸板の温かさが心地よくて、
掛ける言葉が見当たらない。
イエスの方が少し背が高いのかな、
懐ろへ無理なく凭れていられるもの。
「……。//////」
肩と背を抱かれた格好のまま、
こちらの肩口へお顔を乗せている彼なのを
ただただ受け止めていたものの。
何となく、手が余っているなと気がついて。
いいのかな、いいんだよね?
そうと思いながらも、恐る恐る手を回してゆけば。
「もちょっと上、かいがら骨のところだよ?」
「あ、うんっ。///////」
真っ赤になって、言われた通りのところまで手を延べれば、
肘は脇の側線へ自然と収まるし、
こっちのお顔も相手の胸元へ、測ったようにすとんと収まるから不思議。
「そう。良く出来ましたvv」
背中を撫でる優しい手が好き。
目を閉じれば、とくとくと鼓動の音。
いつの間にかイエスがお顔を浮かせていて、
背中を撫でてた手がするりと耳を撫で、
「…っ。」
くすぐったさに顔が浮いたのを掬い上げ、
そのまま、おとがいを撫でて顎先まで至るのに合わせ、
こちらからも見上げれば、
玻璃のような双眸が甘くたわめられていて。
そおと最初は額への口づけ。
ついばむようなキスは、それはやさしくて。
愛しい愛しいという、
睦みの甘さとやわらかさで出来ていて。
ねえ、いぃい?
くすすとそそがれる イエスのやさしい頬笑みが、
あんまり愛おしかったから。
「 、……え?」
含羞みに伏せられた視線がちらと泳いだのも一瞬。
嫋やかな腕が肩へと伸べられ、
手のひら一つ分も離れてはなかった端正なお顔が、
向こうから伸び上がって来たのへ、イエスの表情が一瞬止まり。
はさり、と
深藍色の髪が、優しい背をおおうよにあふれて流れる。
少しぽってりした唇が、淡い熱とともに触れて来て。
「あ。////////」
唐突なそれだからか、軽く触れて少し留まっていただけ。
それでもその威力は大したもので。
卓袱台へ外された茨の冠が、
その場で立ち上がって跳ね飛ぶほどの大輪のばらを幾重にもまとわせ。
同じ卓袱台に置かれたグラスには、
冷たい麦茶がそそがれていたはずが、
どう見ても…ビジョンブラン、紅宝珠のような赤い酒へと転変しており。
「あ、あの……ぶっだ?////////」
そおと離れたそのまま、再び懐ろへお顔を伏せた愛しい人は、
さすがに恥ずかしいのか、なかなか応じてくれなんだけれど。
流れる髪の隙間からちらり覗く耳やうなじが、
白磁のような肌の下に朱を亳いてのこと、
湯上がりのように真っ赤で、何とも艶めいていて。
玲瓏透徹、貞淑な君がなんて罪なことだろと、
その身へ触れるのすら躊躇われたほど。
ああでも
飛び上がりもせず、いやいやと乱れもせず。
こうしてこの胸へ収まったまま
随分と落ち着いているというのは、
“すごい進歩、だよねぇ。////////”
つややかな髪を掬い上げれば、
やっと見上げてくれた深瑠璃の双眸が、
縁を赤らめた中、少し潤んでのたわむのもまた愛らしくて。
「…びっくりしちゃった。////////
何でも出来るようになってくんだね、ブッダは。」
「〜〜〜っ。/////////」
あわててお顔を伏せかかるのを、でもでも今度は許さずに。
素早く、でもそおっと顎をつかまえ、
口許深く合わせて、これでお返し。
どこかで聴いたことのあるアラームがピピーッと鳴り響いたけれど、
今は聞かれぬよと、重なった影はなかなか離れず。
待ち兼ねた秋の宵は、まだ始まったばかり……。
〜Fine〜 13.09.10.
*昼間はまだまだ暑いので、なかなか集中しにくいですね。
なもんで、
夜更かしの夏に続いて、夜長が嬉しい秋がやって来ましたとばかり、
またぞろ イエス様ばりの宵っ張りぶり発揮中なおばさんです。
調子に乗って、またぞろお恥ずかしいもの書き散らかしたのですが、
大丈夫か、こんなペースで進展してって…。
*ここからは余談。
ビジョンブランってのはよくルビーの名前に使われるフランス語で、
だから赤い何とかって意味かと思ってたら、
白い鳩という意味なんですってね。
この年になって新しい知識です。
つか、鳩の血という意味だってどっかで訊いたんだけどもなぁ。
ググったら“ビジョンブラッド”という単語が
出て来ました、…って、まんまやないの。(笑)
めーるふぉーむvv

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