天穹に蓮華の咲く宵を目指して
      〜かぐわしきは 君の… 2


   “秋の夜長にvv” (番外編)



先日の、列島を縦断する勢いで降りしきった大雨が、
歴史的な酷暑とさえ言われ続けだった、
この夏の蒸し暑さも洗い流してくれたようで。
昼間の炎暑は、まだその威勢が居残り続けているものの、
陽が落ちて宵ともなれば、
草むらからは虫の奏でが聞こえるし、
窓へと届く風も随分と涼しいそれ。
空気が澄んで来つつあるものか、
遠くの通りをゆくオートバイの走行音が
いつまでも長々と聞こえていたりもするのはちょっと困りものだが、
それだけ静かになったってことだねと気がつきもして。

 「…うわぁ、何でこういうアングルで。」
 「ドキドキしちゃうね。」

過ごしやすい夜長は、時間もたっぷり。
今夜は、BSで放映される
お気に入りの海外ドラマを観る曜日だったので。
ヒロインでもある女性刑事が
凶悪犯の潜むアパートへと潜入するスリリングな場面を、
最聖二人で ドキドキしつつ食い入るように見入っておいで。
いかにも怪しいものが追ってます的な、そやつの視線です的なアングルで、
不安そうなヒロインの背後からばかりのカットが続くので。
イエスはとうとう、自分の手を顔の前へ掲げて指の隙間から見ている始末。
ブッダの方はといえば、
もうもう、どうして一人で乗り込むかなと、
二人以上で行動という刑事の基本をいつも無視してしまう
ヒロインの迂闊さへ憤慨していて。
そこへ、

 「……っ!」
 「ひゃあっ。」

肩越しに振り返ったヒロインがハッとして、
悲鳴を上げたところで画面が眩しくされて真っ白くなり。
がたた・どかごろ、ぱりん・がちゃと、
そこいらのガラクタを蹴散らしながら、
何人かで暴れもって揉み合ってるらしい物音が続く。
影絵が壁に揺れ、
女性のシルエットが大男に捕まってしまい、
いかにもな凶器のバールが振り下ろされかかるが、
そこへ“ガウンっ”と銃声がして、

 【 …っ。】

バールが砂ぼこりだらけの床へ転げて、
次には犯人の男がどさぁっと力なく倒れ込み、

 【 大丈夫かっ!】
 【 チーフっ。】

問答無用で撃つのがアメリカドラマの判りやすさ。
いや、出来れば逮捕して動機や何やを聞き出したかったのでしょうが、
目の前の危機に、迷いなんてしないという強さが、
少なくともこういう場面では大いに重用されており。
いつの間に殺到したのかパトカーの群れが回転灯を幾つも回す中、
夜陰の垂れ込める街を物憂げに見やるヒロインの横顔で今日のお話は終了。

 「はあ、またハラハラしちゃった。」
 「ホントだねぇ。」

緊張感が一気にほどけ、
出演者や監督などを連ねたクレジットが次々に映し出される画面を
ややおざなりに眺めやる。
フィクションだと判っているのに、
毎回毎回、引き込まれる作りはたいしたもので。
どっかのプロデューサーにも見習ってほしいとか
ちょみっと思わないでもないながら、

  ふと
  すぐお隣の彼へと視線を向けたら、
  向こうもこちらを見やってて

観ている間もいろいろな言いようを交わし合ってたし、
時には相手の顔だって見やってたのにね。

 “あ…っ。”
 “…っと。”

番組は終わったので、
意識も目線もすぐにもドラマへ戻さねばという必要もなくて。
出演者の声が“来週は…”と告げている途中だったが、
イエスがあっさりとリモコンで消してしまったため、
それは唐突に室内が静かになって。
窓から りりりとかすかに聞こえるのは虫の声で、
夜風が生け垣を揺する音は、まるで海辺のさざ波のよう。
そんなこんなを感じつつ、幾つも拾い上げているほどには、
特に緊迫なんてはしてもない。けれど…視線も外せなくて。

 「……。」
 「……?」

 ねえと、イエスが目許を細めて
 なんだい?とブッダが小さく瞬きをすると。

後ろ手に手をついて斜めにしていた身を起こし、
二人の間をポンポンと叩いて、
もっとこっちへおいでよと、イエスが口許をほころばせる。

 「……。////////」

そうは言われても、うん、あのその、と。
さすがに、すぐさまのほい来たとはいかないか、
含羞みから口許をうにむにとたわませるブッダだが、

 「……ね?」
 「〜〜。//////」

ねえから“お願いだから”に変わった声音にはもう逆らえない。
座ったまま腰を持ち上げ、とんと右へ。
ひじ同士が触れ合うほどの間近へ寄れば、
意が叶ったことへか ふふ〜と嬉しそうに微笑ったイエスが、

  ねえ、いぃい?と

小さなお声で重ねて訊いて来るのもいつものことで。
何か、は、もはや確かめるまでもなくて、でも、
だからって、すぐさまなし崩しにはならぬ。

 「〜〜〜。////////」

えっとえっとと戸惑いつつも、
一つ一つへ慎重になるところがブッダらしくて。
深瑠璃色の双眸がうるうると揺れて、
困ったようなお顔になってしまうのは まだ仕方がないこと。
ちょっぴり切ないけど頑張って我慢しておれば、

 「……………ぅん。」

小さなお声がそうと紡いでくれたので。
こっそりほうと息をつき、
頷いたお顔が上がるのを待って、
瑞々しい頬へ右手を伸べると。
まるで何かのセレモ二みたいに、
そろえた指の背をそろりとあてる。
すべらかな頬は仄かに温かく、
そのまま指先を開いて手のひらをあてがうと、
そちらから吸いつくようなやわらかさが心地いい。

 「〜〜〜。////////」

 まだ言っちゃダメだろけれど、
 ブッダ自身、気がついてもないんだろうけど。

 こんなに触れられても動じなくなったね。

だからこそ、不意打ちみたいなキスなんかしちゃあダメ。
まだ含羞みにちょっと泳いでしまう眼差しへ、
大丈夫だよって笑いかけて。
こっちの真似してねって、瞼をゆっくり閉じてって見せて。

 ふんわりした口許へそおと触れれば、
 甘くてしっとりした感触と、そこに生まれた微熱を感じる。

生真面目な彼の強い意志をかたどったよな、
それはそれは凛然とした見栄えの口許も、
じかに触れると頼りないまでにやわらかで。
舌先で合わせ目をスルリと撫でれば、
思わず驚くのか ひくりと震えるのが愛おしい。
少し浮かせて触れたままにし、下側だけをちうと吸えば、
ふるりとかすかに肩まで震えたので、名残り惜しいけど今宵はここまで。

 「……ん。////////」

お顔を離しかけたその瞬間、すぐの間近で ざわって気配がして。
ありゃと思ったがもう遅い。
懐ろへ招いた愛しい人の肩や背中をおおうよに、
音もなくの ぶわっとあふれ出したのは、
きっちりとした螺髪としてまとめられていた彼の髪。
深藍色のそれはつややかな長い長い髪は、
畳の上を覆うよにあふれて、そのまま彼の心理をも表すか。

 「いえす〜〜〜〜。///////」
 「うん、ごめんね。ちょっと悪戯が過ぎたみたいだね。」

ちうまでの経路の逆回しみたいに、
さっきより格段に赤く染まった頬を手のひらでくるみ込み、
親指の腹でよしよしと撫でて差し上げる。
また振り回したかなという反省がない訳ではないけれど、
螺髪という意志の堅さの象徴がほどけたことへ、
他でもない本人が落ち着きなくうろたえているという、
覚束なさ頼りなさ込みの、この愛らしさを前にして、
緩まぬ男が果たしているものだろか。

  ………などと、

神の和子様がやや勝手なことを思っておれば、

 「う〜〜〜。///////」

まだまだ受け流しも甘えも出来ずのブッダ様としては、
ただただ恥ずかしいからという切迫した一心から、
そのままこちらの懐ろへ、
ぽすんとお顔を伏せて来るものだから。

 “うわぁあぁぁあぁ〜〜〜〜〜。////////”

腿の間にお尻を落とす“子供座り”になったことで、
高さも丁度で収まりよくて。
おずおずと背中へ伸ばされた手が、
こちらのシャツを ぎうと掴み絞める力の、
恥じらい交じりのしゃにむさよ。

 “うあ〜、どうしよう。/////////”

わたし、日頃のしっかり者のブッダに惹かれたはずですのにね。
きりりと賢くて責任感の塊で、でも
生真面目すぎるところが 時に辛そうで。
伏し目がちになって本を読み耽るお顔の静謐さと、
わたしのしでかす失態へ、驚いてから苦笑するまでの
表情の変化のやわらかさというギャップを目撃してしまい、
胸をくくんってつねられたのが切っ掛けだったはずなのに。

  この人のこんなところ、
  私しか気づいてないじゃないかしらって

そう思ったら、もうもう目が離せなくなっていて。
気がつけば、
下界へのバカンスへ一緒に行こうよって誘うほど、
彼との親しみも深めていたわけで。

 “汲めども尽きぬ、か。”

いつぞやのブッダ本人の言いようではないけれど、
天界にいた頃はちいとも知らなかった
相手の色んなお顔の数々が、どんどん眼前に開けてって。
しかもそこがまた、いちいちたまらなく素敵だから、

 “毎日が嬉しいの連続でキリがないったら♪”

今は恥じらいのドキドキに震えている、
何とも可憐なばかりの如来様だが。
もうちょっとすれば落ち着いて、

 『もうもうもうっ。/////////』

イエスったら性懲りもないんだからなんて、
怒った振りに紛らせて、
お顔を埋めたそのまんま、懐ろネコになっててくれる。
そうなったら、もうちょっと上だよって、
しがみつくのに収まりのいい場所を教えてあげよう。
秋の宵は居心地がよくて長いから、
いくらだって待ってられるしと。
含羞み屋さんな恋人の、
つやつやと麗しい髪をやさしく撫でるヨシュア様だが。

  そろそろ日付が変わるころといや、
  ブッダ様、そのまま寝てしまいませんかねと。

残念なお知らせを 果たしてお伝えしたほうがいいものか。
何にせよ、秋の夜長は罪作り……ということで。





   〜Fine〜  13.08.30.


  *落ちてません、もーりんさん。(笑)
   短いのに挑戦が続いておりますが、
   そうそう拍手お礼ばっか差し替えるのも何ですんで、
   ちっとは落ち着けということで、(私が、ですが)
   これはそのままのUPとしました。
   相変わらず、何か変なお二人ですいません。

  *ここからは余談。
   イエス様が大人でカッコいいサイト様を見つけたのですが、
   カップリングが絶妙で凄いです。
   イエユダと イムネ申イム。
   (あ、なんかブッダ様が伝心で送った絵文字みたい・笑)
   左位置におわすイエユダは判りますが、
   イムネ申イムの方は、
   ブッダ様に甘えかかるイエス様が、可愛いしカッコいいのが萌えでした。
   精進しなきゃだわ…。


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