でもネ やっぱりキミが好き♪
      〜かぐわしきは 君の…

 “加減が 大事”



毎日の炊事を担当しているのはブッダ様だが、
イエス様の側がまるきり出来ない訳じゃあない。
それこそ独身男の大雑把なそれでいいのなら、
うどんやカレーくらいなら何とか、
作り方を見ぃ見ぃながらだが、作れなくはない。
お裁縫はブッダ様のほうが俄然お得意だが、
大工仕事は さすがの蓄積でイエス様のほうがお得意だし、

 「そうなんだよね。
  イエスって まるで不器用っていうんじゃないものね。」

 「あー。なんか褒められてない、それ。」

婦人会や町内会の有志の方へという呼びかけがあり、
子供会の催し、くじ引きの景品として、
手の中に収まるほどの小さなフェルトマスコットを作ることとなって。
渡された型紙の候補の中、
二人が選んだのは無難なところで真ん丸顔のパンダ。
顔だけの安易なデザインで、
糸と針を使うのは、本体のふちかがりだけ。
目や耳という細部のほとんども
木工ボンドでくっつけるというお手軽な代物なので、
それほど面倒でもなくて。
一人2、3個というノルマも楽勝だねと、
夕食前の卓袱台に、型紙と作り方を綴ったプリントを広げ。
裁縫道具の針山に糸にハサミ、
白と黒のフェルトに、目に使うビーズや口を刺繍する赤い糸など、
素材やお道具を無造作に散らばらせ。
一見 三十代成年男子のお二人が、
ふっくらと優しい手や、ちょっと骨張ってて大きな手をちみちみと動かし、
油断すると取りこぼしそうになるほど小ささの、
マスコットの土台部分を縫い合わせておいで。
さすがに最初は、慣れもないことと戸惑っていたイエスだったが、
先に婦人会のお助けを見事こなして見せたほどの
確かな実績もありますというブッダが
(それは朗らかな笑顔のポスターを連想しないように)
糸の始末から針の刺しよう、幅を揃えるコツなどを、
文字通りの手を取って指導したお陰様。
指定の場所へ小さく丸い黒耳を挟み込んで縫い綴じるという、
やや細かい技つきの作業を、されど無難に進めておいで。
それを指しての先のお言葉へ、
何よそれと頬を膨らませるイエスだったので、

 「上手だって言ってるの。」

もう最初の1個目の、
黒と白の重なったお眸々やビーズの黒目にお鼻、
赤い糸でのお口も縫っての完成させたブッダ様。
おっとりと眸を細めつつ、
くすすと笑うと、怒らないのと窘める。
そうこうするうち、イエスの方も、

 「よしっ。土台、完成っ。」

やっと最初の1つ目の、
一番 手の掛かる部分が完了とあって。
はぁあ〜と大仰に息をつき、
卓袱台へ突っ伏してしまうのが また可笑しい。
よほどに愛おしいのか
ちょっと楕円ぽいそれを指先へ摘まんで
あちこちから眺めていた彼だったが、

 「でも、女性の方が向いてるっていうのは判る気がするなぁ。」
 「どうして?」

キミだって頑張れば作れたじゃないと、
ややお隣に座したブッダが小首を傾げれば、

 「だって、手が小さい方が
  こんな小さな縫い目を掬うのは有利だと思わない?」
 「有利って…。」

挙句には、
分厚い合板を綴じ合わせて、
クギを打ったりネジで留めたりっていうのとは、
加減が全然違うんだものと、随分なものを引き合いに出す。
神の子であり大工の息子でもあるイエスとしては、
こんな繊細なのを根を詰めてこなすなんてと、
彼なりに感心しきりでいるらしく、

 「えっとぉ、次は目をつけるのかな?」
 「うん。こっちの黒と白のを重ねたのを定位置へ。」

先にボンドで貼っておいた、特長のある黒ぶちの眸を、
こことここへ留めてねと、
プリントの図を差して示してあげたブッダだったが、

 「あ…っ、つっ。」
 「え?」

不意に わっというよな短い声を上げ、
もう一方の手を弾き上げてしまわれる。
あまりに突然なことであり、
何なに、どうしたの?と、
こちらも驚いたようにイエスがブッダを見つめれば、

 「うん、大丈夫。」

ながらで手を延べたのがいけなかったか、
2つ目のお顔のふちかがり、
一旦 軽く刺して止めていたつもりだった針が、
どこに当たってのことか するりと奥まで突き通り、
そのまま親指でチクリと立ってしまったようだ。
白地のマスコットを汚さなくてよかったとしつつも、
それを卓袱台へ置いてから
改めて見やった指の真ん中には ぽちりと赤い点。

 「…痛い?」
 「うん、いやこのくらいは、」

大丈夫だよ、驚かせてごめんねと、
淡緋の口許ほころばせ、
やんわりと笑いつつ言い掛かるブッダのその手を
横から ついと取り上げたイエス。
腕や手の甲は紗を透かすような白さだのに、指先はほのかに桜色。
そんなブッダの手を大切そうに押しいただくと、
やや俯いての衒いなく、傷ついたところを口許へと押し当てた。

 「え? あ…。///////」

手のひらのちょっぴり乾いた感触と、唇の柔らかな熱と。
それらへあわわと微熱が上がっている間にも、
指先をやや咥え込むようにされて。
直接的な肉感に胸元が跳ね上がり、
はさり、螺髪がほどけて背中へとすべる。

 “い、いえす?////////”

さすがにドキドキしたけれど、
無理から振り払うのはそれこそ大人げないかなと。
真っ赤になったまま、胸も落ち着かないまま、
それでもじっと待っておれば、

 「…うん。塞がったと思うよ?」
 「え……?」

そおと離してくれた手、
確かめてと笑顔で促す彼なので、
頷いてまじまじと見やれば、

 “あれ?”

赤い点が見当たらぬ。
それに、人差し指を合わせ、ぐいと強くこすっても
どこだったかまるで判らないほど違和感がない。
実は結構痛かったのにな、あれれぇ?と小首を傾げるブッダなのへ、
お髭を真っ直ぐにするほどふふーとご機嫌で微笑ったイエスが言うには、

 「小さな傷くらいなら聖人が相手でも治せるの。」
 「え?」

だってキミ、
私が熱を出したとき、加減が判らないって手が出せぬと…
そうと言い掛かったブッダなのへ、
今度はやや申し訳なさそうに眉をさげ、

 「うん。あのときは本当に加減が判らなくて。」

信者の怪我や病を治したことで知られるイエス。
だが、聖人はその身へ特別な覇気や光を持っているから、
少しほど“えいっ”と力まないと押し負かされる。
その加減が間違ってたら…
ブッダがパンになっちゃったら洒落にならないでしょう?とかどうとか、
あの時は確か、そんな笑えないことを言った彼だったが、

 「でもほら、君が私の大怪我を治してくれて。」
 「…あ。////////」

そういえば。
先の瘴気騒動のあと、
そんなつもりはなかった、むしろ
愛しい愛しいという想いからのキスをしただけだったのだけれど。
イエスが負っていた、爛れたようなひどい火傷が
消え去るように治癒したという顛末があり、

 「あのあと思い出したのが、
  使徒のちょっとした怪我なら、治した覚えがあったんだ。」

 「おや。」

さすがにああまでの高熱が相手では、
やっぱり治せる自信もないけれど、と、
やや照れてか ほりほりと後ろ頭を掻いて見せ、

 「ブッダが食パンマンになったら私も困るしね。」
 「おいおい。」

 私、石ほどもお堅くはないんですけど
 うあ、ブッダ上手vv、と

事情が通じていなければ成り立たない
“聖人ギャグ”への的確な突っ込みも絶好調という、
絶妙な呼吸に お互いで笑い合ってから。
マスコット作りを再開させるお二人で。
味のあるお顔になっては笑い合ってる窓の外、
柿色の陽がゆっくりと西へ傾きつつあったのさえ、
それは暖かく見えた晩秋の午後でした。






   〜Fine〜  13.11.14.


  *このパンダさんたち、
   きっといろいろと御利益もあるんでしょうね。
   特に恋愛運とか…vv


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