恋でも愛でも 理由なんて あとからでvv

  “微熱は微熱でも……” 



いつもなら、
こちらからわざわざ ねだるような気配や視線を差し向けなくとも
その優しくて頼もしい手や腕を延べてくれるキミだというのに。

 「いえす…。」
 「ダメったらダメなんだから。何度言ったら分かるのキミはっ。」

いつになく強い語勢で きっぱり言い切るんだね。
顔付きだって少し尖っていて、もしかせずとも怒ってて。
どんなに不平があるときであれ、
そんなまで鋭い顔をしているのって これまで私見たことない。
気が弱い人だとまでは さすがに思ってなかったけれど、
よほどの無茶を言われたときでもない限り、
何へでも穏便にと構えるキミだと思っていたから。

 “ああそういえば、キレたら勢いよく怒る人だって言ってたね。”

こちらもまた、
日頃はしっかり者と言われているのが嘘のように、
打たれ弱くも しおしおと、
言葉を飲んでしまい、延ばしかけてた手をそのまま力なく落とせば、

 「…ごめん。一番 辛いのはキミなんだのにね。」

さすがにそれは見かねたか、
その手をそおと拾い上げ、
指の長い両手で壊れやすい物でもあるかのように、
丁寧な加減で挟み込むようにして包んでくれるキミでもあって。
やっとのこと、
いつもの落ち着きある静かな光をたたえた眼差しになって、
向かい合ってくれた彼だと知り、

 「…いえす。///////」

その双手のちょっぴり乾いた感触に、
それでも優しさを感じて震える吐息をついて見せれば、

 「…でもね?」

それこそ辛そうに眸を伏せた彼はゆるゆるとかぶりを振って見せ、

 「今のキミは とっても熱があるの。
  だから、後片付けするなんて 以っての外なんだから。いいね?」

私の言いようでは聞けないというのなら、
今すぐ梵天さんを呼んじゃうよと。
そんな微妙な言い方を
最後通告のように持ち出すヨシュア様もヨシュア様なら、

 「……はい。///////」

判りました それだけは勘弁してくださいと、
心から思うたからこそだろう、
今度こそ無茶を言い出そうとしたこと、
やっとのことで反省してくれた如来様でもあったらしく。
さすが、最強天部の名は伊達じゃあないってか?

 “そういう意味合いとは、ちょっと違うと思いますが…。”




     ◇◇◇



釈迦牟尼様といえば、
文字通り その身を削るような苛酷な苦行を
山ほどこなしたことで知られているその上に。
出家する前の皇太子時代、
ちょうど群雄割拠状態のさなかだったせいもあり、
世の無情へ苦悩するシッダールタ王子も、
その立場上、已なく戦場へ赴いては
それは勇ましく剣を振るい、戦果を上げていた剛の者だったとか。
天界にては、心身ともに充実していた頃合いの身へと
その姿を保っておいでの彼なので。
王宮での鍛練や激しい戦さでそれは強かに鍛え上げられた四肢へ、
苦行による精神修養まで加わり、
単なる思想家や宗教家以上、ちょっとしたアスリート並みの
強靭で屈強な基礎と体力をほぼ保持しておいでだと言えるワケで。

 そうまで頑丈な、もとえ丈夫な彼だけに

しっかり者で用心深い性根も加わり、
病にだって そうそう伏せるものではなく。
真冬の、しかも雪が降り積む中、
半袖姿で数時間ほども座禅を組む…なんてな無茶でもやらかさない限り、
寝込むほどの風邪を拾うような事態になったりはしない。
だっていうのに、

 「ほらもうっ、起き上がったりしないの。」
 「うう…、ごめんなさい〜〜。///////」

一旦は畳んで押し入れへ上げた布団を一組だけ、
イエスが大慌てで引っ張り出して広げ直し。
有無をも言わさず、さあ寝て寝てとブッダを横にしたのは、
冗談や何かしらの“ごっこ”でもなく、紛れもなく熱があったから。
さあこれをと手渡された体温計で計ったところ、
確かに 37度とちょこっとあったので、
ほらご覧と、動かぬ証拠みたいに突き付けられては
ブッダとしても ぐうの音も出なくって。
素直に大人しくなってくれれば、怒る必要もなしで、
以前に使った“ぴえぴた”を取り出すと、
賢そうなおでこへ そおっと貼ってくれたし、
そのまま、今度は案じるようなお顔になってしまったイエスであり。

 「確かに今朝はちょっと寒かったけど。」

この何日か、昼のうちは初夏並という気温でもあって、
彼らの普段着であるTシャツも、
ついついその袖をたくしあげては腕まくりしていたほどだったけれど。
今朝の空模様がややすっきりしてはないことを先触れしていたものか、
昨夜も陽が落ちてからは、そういえば少々気温も低かったかも知れぬ。
そして今朝はといや、
温かいお味噌汁が何となく嬉しかったくらいに、
空気の冴え方も強く、気温もやや低かったのは間違いなくて。
そんな中をいつものようにジョギングして来たブッダ様、
帰ってすぐ 朝ご飯の支度もなさり、
やはりいつものようにイエスを起こして“さあ いただきます”と
そこまでの流れは全部いつも通りだったのだけれど。

 「そんないきなり熱まで上がるもんじゃなし、
  今朝の寒さだけじゃなくって、切っ掛けは昨夜からってことだよね。」

そうと推察し、昨夜の行動を順序だてて思い出そうとする。

 銭湯からの帰りに湯冷めしちゃったのかな。
 そういや前の晩と同じようなカッコしていたそのまま、
 上着もなしで出掛けちゃったものね。
 でもそれなら私だって………あ、そかそか
 私の方は寝てるうちに治ってしまったかもしれないかも?

 「だけども その後は、ご飯食べて、テレビ観てただけでしょ?」

窓も閉めてたし、
そうそう、私が足を冷やさぬかってブランケット出してくれたんだよね。
そいで…肩も寒い〜って言ったら、
ちょみっと含羞みながら寄って来てくれたの そぉれって捕まえてvv
まだお布団も敷いてないし、カーテンも開いてて恥ずかしいよぉ/////なぁんて、そりゃあかわいいことを言い出すのへ、畳へ寝転んじゃったら外からは見えないし、私の髪の陰になってるから、恥ずかしそうなそのお顔も隠れてるでしょって説き伏せて……

 「………いえす、何を滔々と述懐してるのかな。///////」
 「はっ、ごめんっ。」

つい興奮しちゃって、確信部分のことへも声が出ちゃってたよなんて。
一体何へ謝った彼なのやらという
どこか斜めな方向を言い足す、相変わらずなヨシュア様だったけれど。

 「…ねえ、いえす。」

 「うん、ごめんなさい。
  どうやらあのイチャイチャで体冷やしちゃったんだね。」

畳って案外冷えるもんね、夏場なんて板の間と変わらないほど涼しいし、

 「そうじゃなくて。/////////」

気がついたらブランケットもどっか吹っ飛んでたしなんて、
何をどこまでやらかしたものなやら、
そっちをしみじみと思い起こしておいでの、髭とロン毛の開祖様へ。
もういいってばっ///////と
もしかして螺髪の中まで真っ赤にしてか、
そっちと違くて…と言いつのった如来様が聞きたかったのは、

 「わたし自身も、熱があるほどだとは気づかなかったのに。」

我慢強いことにも定評のあるブッダ様だが、
風邪などの場合は速めに対処した方がいいことくらい、
それこそ体験済みなので そこは判断を誤りはしない。
うっかりこじらせたら治癒にも時間が掛かり、
結果としてイエスにもあれこれ不自由させるのだからと、
微妙に“お母さん属性”な考えようを持って来て大事を取った。
例えば今朝なら“ジョギングは休もう”と思ったに違いなく。
そこまで微細な兆候を、

 「どうして…イエスにはすぐ判ったの?//////」

布団に手を掛け、ゆさゆさしつつ
起きてと声を掛けたおりも平素と変わらない様子だったし、
朝食の茶碗を手渡したおりも、
にこやかに ありがとうと笑ってただけ。
それが…不意に、

 『ブッダ、熱があるんじゃない?』

そんな風に言い出しての、冒頭の騒ぎとなった訳で。
布団を敷くのでと強引に窓辺へ押しやられた卓袱台には、
まだろくに箸もつけてはない朝食が載ったままだ。
ほのかに気だるい身を実感しつつ、
掛け布団のあちこちを直してくれるイエスを視線で追えば、

 「判らなくてどうするの。」

含羞みからの小声だったのに、
それがよほどに頼りない声だと思ったか。
身を起こして向かい合い直し、
温かい手を頬へとあてがいながら
“ふふー”ってやわらかく微笑ってくれて。

 「私だって やるときはやる男だよ?」
 「……どう解釈したらいいのかな、それ。」

そのまま胸を張る彼へ、
そんなにも熱が上がって来たのかなぁと、
布団の襟元の陰で苦笑をこぼすブッダであり。
そんな伴侶様の穏やかなお顔へうんうんと頷くと、

 「おじや作るから待っててね。」

枕元からの離れ際、ああ…と何か思い出して。
起こしかけた身を動作ごと巻き戻し、
内緒話でも思いついたか
その身を寄せて寄せて寄せて………

 「……っ。/////////」
 「いい子で寝ててねvv」

いい子にさせたきゃ興奮させないのというような、
即妙な切り返しも出来ぬ身なのも熱のせいか。
あうあうと真っ赤になってる恋人を、くすすと見やってから、
今度こそ立ち上がり、
卓袱台の上から、あれこれとお盆へ引いてゆくイエスだが、

 “…判らないでどうするの。”

見下ろしたのは今朝のお味噌汁。
微妙にだけど ちょっぴり辛かったし、
だしが濃くって、なのに味噌の香りは飛んでいた。
最初の一口を口へ含んだ途端に何か変だと気がついて、
あらためてブッダを見やれば、
玲瓏透徹、それは涼しい色みを宿すはずの深瑠璃の双眸が、
心なしか…朝っぱらから とろんとその潤みを甘く浮かせていたものだから。
これはと異変に気がついたまでのこと。

 “私がどれほどブッダフリークかを忘れたの?”

舐めてもらっちゃあ困りますと言わんばかり、
今だけ背中を向けた格好の愛しいお人へ、
こっそりながら胸を張るヨシュア様だったのでございます。




    〜Fine〜  13.04.29.


  *そういや、昨年のGWも、
   始まりこそ、
   初夏並みとか真夏日に追いつくほどとか言うほど
   途轍もなく暑くなったのに、
   クールビズが始まる1日になると、
   いきなり10度近くも気温が下がっててんやわんやしたなぁと
   一昨夜ちょっと肩を冷やしたおばさん、
   油断は禁物だなと思い知ってたのでございます。

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