月より星より キミに誓うよ

 

 “ハートを覗き見?” 



酷暑炎暑という呼び名が相応しいほど それはそれは暑かった、
そして 台風がらみのも含め、
それはそれは雨が多かったこの夏で。
毎週末のように凄まじい雨に襲われ、
それが祟ってのこと、
花火や夏祭りなどなど、各地の様々な恒例イベントが
已なく中止に追いやられもしたほどだったのに。
それらへ今更 知らん顔でもしたいものか、
八月もあとちょっとというこの末週になって、
いきなりガクンと涼しくなったから、それもまた不意打ちで。

 「窓を開けたままで半袖で寝ていると、
  風邪を引きかねないくらい寒かった日もあったよね。」

 「そうだったねぇ。」

こういう寒さへこちらが案じると、
それへのお決まりの言いようとして

 『だって、私は風邪なんて引かないものvv』

神の血の恩恵があるからと、
いつだって それは澄まして言い返してくるメシア様。
だっていうのに ここ数日の気候の急変へ
いかにも深刻そうにそんなお言いようをしたものだから。
それこそ“何を今更なこと言ってるかなぁ”と
呆れたように返してもいいお立場なブッダ様だったれど。
それこそ大人げないと思ったか、
はんなりとした苦笑混じり、やさしい相槌を打って見せただけ。

 “だって…。/////////”

確かに そんなほどにも冷えた朝もあったけど、
あ、そうなんだと気がついたのは、
起き出して“さあ今朝も走って来よう”と 布団から身を剥がしてから。
どんなに愛しの君が相手でも
近づき合うのも やや閉口しかねぬ暑い晩は、
それぞれの枕の位置にて離れて寝付いていたはずが。
寒さから ついつい手が伸びたものか、
その懐ろへと掻い込まれる格好で目が覚めた日があって、

 “こういう形で、
  気温の急降下に気がついたなんてねぇ。///////”

他人へ話せることでなし、
ただただ仄かに含羞むしかない形で気づいた 秋の訪のいへ
あらためて照れつつも、
運んで来たミルクティーのマグカップ、卓袱台へどうぞと置いて。
イエスが見入っているテレビに自分も眸をやる。
夏休み最後の週末、特に用向きもない昼下がりを
バラエティの再放送なぞ眺めつつ、のんびりと過ごしていた彼らであり。

 「さっきから この人凄いんだよ、ブッダ。」

ブッダがキッチンへ立っていた間に、コーナーが変わっていたらしく、
小さなテレビの画面を指差したイエスが、
戻って来た伴侶様へ興奮したまま言いつのる。
特撮もの大好きなテレビっ子でもあるイエスは、
そこはさすがに大人でもあって、
ドッキリ番組の段取りやら仕掛けやらには
何とか理解もあるようだが、(何とか…)

 「マジシャンなの?」
 「そうなんだけど、」

大きな円卓を取り囲み、
彼が主役なのだろう、白いシャツ姿の若い男性が
次から次、様々に披露する見事な手品に、
ゲストたちが目を見張っている。

 「ほら、
  さっきあの子がサインしたカードが、
  丸ままのレモンの中から出て来た。」

 「おお。」

ナイフで二つに切ったレモンから
丸めたトランプのカードが出て来たそうで、
ただのカードなら前以て仕込んであったのかも知れぬが、
ゲストのアイドルさんが
イラストつきでサインしたハートのQが出て来たのだからこれは驚き。

 「普通のマジシャンじゃないらしいんだ。」

ずっと観ていたイエスが、やや興奮気味になってご報告したところに拠れば、

 「あの人、トリックは使ってないんだって。
  あなたの考えていることが判るだけです…って。」

奇跡を操れる人間がいるなんてと、それは感激しきりな様子。

 「まあ、稀に
  人のうちに籠もる“気”の大きさや種類が
  感じ取れる感覚を持つような人がいるらしいけれど。」

精神修養の末にとか、自然の精気の濃い土地に育ったからだとか、
普通の人間以上に鋭敏な人もいるとかいうけれど。

 “でも、そういう人がそれをこういう格好で披露するかなぁ。”

このマジシャン氏は そういうのじゃあないんだろうなと、
ブッダがやや困ったように苦笑しておれば、

 「神通力にも そういうのあるの?」

胸元へ引き寄せた手をこぶしに握り、玻璃の眸を見張って、
わくわくと無邪気に訊いて来るイエスであり。
どうやら、そんな能力があると便利だとかどうとか、
他愛ないことを思っている模様。

 「いやまあ、あるにはあるけど。///////」

天耳通とか他心通とか、思い当たるものは確かにあるが、

 「同じような力が使える存在には、
  ああ、使ったなって判ってしまうけどね。」

 「そっか、それじゃあバレバレだねぇ。」

ブッダの言いようを素直に受け取り、
う〜ん残念と、渋い顔をするところがまた、

 “かわいいなぁvv”

無邪気で屈託のない、それはそれは無垢な心根の神の和子。
普遍の愛、アガペーの持ち主で、
誰であれ拒まず、何であれ許す懐ろの広さを持つ
彼ならではの素直さは、
ブッダにもすっかりとお馴染みのそれであり、

 「ブッダって、私の思ってること、
  何を食べたいかとか ちゃんと判る人でしょう?」

そういうの凄いなぁって思ってたんだけど、なんて、
やっぱり邪気なく微笑って言う彼で。
線は細いめながら、
それでも目鼻立ちのくっきりとした彫の深さが男らしい、
ブッダが気に入りの精悍なお顔が朗らかに破顔して、

 “わ…。/////////”

何でどうして、前振りなくそんないいお顔しないでよと、
思わぬご褒美をもらったみたいに、
胸元に手を伏せ、頬が赤くなるのを自覚しておれば、

 「でもね、私としては、」

飲みごろになったミルクティー、
こくこくと美味しそうに堪能しつつ、
何の気なしにイエスが紡いだ文言が するりと。

 「キミが私のことを好きだって判ってるから、
  他はもう何も要らないんだけど。」

 「〜〜〜っ!//////////」

あああ、何てフェイント
そんなの いきなり言い出さないでよ
しかもそんな、
私が大好きな、愛しい目許をたわめて見つめるなんて
お髭の下の口許も優しくほころばせて、だなんて
不意打ちも いいところじゃないかぁと。

 「…え? ブッダ、どうしたの?」

困惑と混乱のあまり、何を口走るか判らないからと、
咄嗟に嫋やかな両手でお口に封をして。
でもでも、それのせいで息が詰まったんではなかろかと思わせるほど、
真っ赤になって、心の声に胸が一杯になっておいでの釈迦牟尼様なのへ。
そんなブッダ様が見ほれたイケメンぶりもどこへやら、
なんだどうしたと ヨシュア様が大きに焦った、
そんな松田ハイツの周辺では。
グリーンカーテンの名残りのゴーヤの蔓がにょきにょきと急成長し、
本土の人へもお馴染みのゴーヤのみならず、
何でだかキュウリやナスやトマトまで、次々に実ってしまったそうで。
ご近所の皆様を驚かせる前に、
何とか全部収穫してね、最聖のお二方。(苦笑)





   〜Fine〜   14.08.30.


  *今年も八月の聖家のナスとキュウリは経費で落ちるのでしょうか。
   ベジタリアンなお宅には何とも苛酷な夏だろなぁと思います。
   ……じゃあなくて。(笑)
   意識せずとも飛び出す奇跡を使えても、
   奇跡みたいなマジックには
   すんなり感動するお二人じゃないかなぁと思ったもんで。

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