よってたかって恋ですか?

 

 “あなたが寝てる間に…” 



特に熱心に隅々まで読んでいる訳ではないし、
何となればスマホやPCからでも日々の情報は得られるので、
毎日の新聞は要らないんじゃなかろうかなんて、
ついつい思うのが月末で。(苦笑)
けれど、今すぐテレビ欄が見たいなぁ程度の御用へ
わざわざスマホとか取り出すのはそれこそ面倒だし、
髪や爪を切ったりするときなどの敷物にとか、
古くなった油を捨てるのに吸わせたりには
古新聞がやはり必要だし重宝するしで、
無いなら無いで結構困りもする。
何より、ご近所のスーパーのお買い得を教えてくれる
新鮮な情報満載のチラシを
当たり前のようにお茶の間で見られる術が、
手に入らなくなるのは 主夫にしてみれば手痛いことなので。
1日百円以上のお得を得られるなら十分相殺出来るのだからと、
何とか自分を納得させておいでの釈迦牟尼様、

 “毎日のことともなると、結構溜まるよねぇ”

資源ごみのうち、
プラ包装とペットボトルや空き缶は月に2回、
新聞紙や古紙は月に一度という回収日が定められていて。
特に古新聞は、逃すと来月までの長いこと、
重いので低いところに置いとくしかない、
地味に邪魔になるブツとして持て余さにゃならぬ困りもの。
何より 出しそびれたは自業自得という事実、
1カ月も思い知らなきゃなのが
良妻賢母な賢夫人、もとえ、
賢い主夫としては口惜しいたらありゃしないので。(笑)
忘れないよう 前の日には既に束ねておいて、
翌当日も 早いめに表へ持ち出すブッダであり。
今月も メモには使いにくい紙質の使用済み月のカレンダーや
やはり使用済みのボックスティッシュのケースなどなどと共に、
束ねた古紙類一式、無事に出せたぞとの鼻歌交じり、
松田ハイツのお二階までを
満足感いっぱいな気色で戻って来たものの、

 「…あれ?」

さすがに 朝晩はもう 窓を開けっ放しは辛いかなという
冷たい風も吹くこのごろだが、
それでもお天気のいい日は、陽だまりが出来て暖かな窓の傍。
長い脚をゆったり折っての膝を立て、
背中も丸め気味という緩い三角座りで腰を下ろしていたイエスが、
お顔と目許を伏せたままで 随分と静かにしている。
いつもの朗らかな“おかえりvv”の声
聞かれなかったのが ちと意外だなぁと思いつつ。
でもでも ならばと予想するものもあってのこと、
六畳間へと足を運び、
そのまま そおと足音を忍ばせて傍まで近づけば、

 “やっぱり…vv”

ほんの間近まで身を寄せてみても、
そのお顔はこちらを見上げるようにと上がらなかったし、
耳を澄ませば、
すうすうという少しゆったりした寝息も聞こえるから。

 “寝ちゃってるvv”

ブッダが古新聞を出しに表まで出ていた ほんのちょっとの間に、
温かい窓辺での日なたぼっこという格好になったまま、
背中を温めるやさしさに吸い込まれ、
すやすや うたた寝しちゃった彼ならしく。
力が萎えているせいか、
かくりと前へ倒れている首がちょっぴり窮屈そうだが、
それでも寝顔は穏やかなもの。
細い鼻梁がすっきり通り、やや頬骨が立った感のある、
いかにも大人の男性という鋭角な面差しは、
表情が乗らぬ寝顔だと、
西欧人ならではの彫の深さがやや強まるものか。
結果、無心なだけなのに
ちょっぴり気難しそうな風情に見えなくもないけれど。
そこも萎えかけているせいだろか、
肉づきの薄い口元の柔らかな合わさりようとか、
温められてほのかに甘い色合いになっている前髪と、
それが目許へ落とす淡い陰とかが、
決して武骨ではない、誠実そうな印象をこそ強めてもいて。

 「………。/////////」

肩や背へ降りる、ちょっぴり癖のある濃色の髪に縁取られた、
ブッダにとっての大好きなお顔。

 寝ているなんてつまんないとか、
 私を置き去りにして?なんてことは、
 うん、今だけは思いませんとも、と

ともすれば息を殺すようにして
じいと まじまじ見据えるブッダだったりし。

 “昨夜は遅くまでテレビ観てたしねぇ。”

泣けるアニメ特集とかいって、名作文学もののみならず、
スポ根ものとかファンタジーものまでもと裾野を広げて、
2時間以上も扱っていた番組があり。
大切な人との“さようなら”のシーンとか、
思いがけない人との再会のシーン、
試合で負けちゃった口惜しいエピソードとかまで入れるのは狡いよぉと。
イエスだけを言えない、
ブッダもまた ほろりとさせられた場面ばかりを、
これでもかと観続けたものだから。
特に夜更かしした訳ではなかったが、
微妙に泣き疲れとやらが居残ってもいたようで。

 “ああでも、
  まぶたが腫れてるってほどじゃあないかな。”

間近になってようよう見やり、
うん、そうまでの不調ってことではないなと確認。
彼の側からの視線がなく、
何なに?どうしたの?なんて
見つめてしまう理由、訊かれないのをいいことに。
ここぞとばかりに覗き込み、
愛しいお人の惚れ惚れする男ぶり、
思う存分 凝視し、堪能することにした如来様。

 “…う〜ん。///////”

何かにつけて、こちらを可愛いとか綺麗だとか言い倒し、
そんな甘い言いようでブッダを翻弄するイエスだが、

 “自分だって 十分愛されキャラじゃないの。//////”

教祖としての聡明さを芯に、
誠実透徹な文学青年風でありつつも。
こうして無表情な素顔になればなったで、
気難しい気配を仄かに亳いての、
それはそれは男らしい面差しをしてもいる。
それに、思いがけなくもしっかとした体躯は頼もしく、
懐ろへ掻い込まれると、その深さにドキドキするし、
尋の長い腕へくるんと捕まり、抱き寄せられるのが、
そわそわしつつも嬉しくてならず。
シャツ越しに触れる胸板の温みや質感、
ばらのそれに混じってオレンジの香りもする彼の匂いに、
陶酔してのことだろか
心持ちが頼りなくもふわふわしてしまう自分だったりし。
恥ずかしながら、されど

 “ここ最近は 抵抗も薄れて来てるよなぁ。////////”

それどころか、これでもかと甘え甘やかされていて。
だというに、その欲が全然尽きないから とんでもなくて。
満たされない訳じゃあない、
そのたびたびで じんわりうっとり出来ているのに。
なのに、またこうして無防備な懐ろなんぞを見やっていると、
くぅんと胸の何処かが甘く騒ぎ出すから困りもの。

 「……。//////」

すぐ傍に膝を揃えて座り込み、じいと見やっていた愛しいお人。
それは安らかに眠り続ける様子の変わらなさに、
しばし迷っていたが、それも えいと見切ってのそれから、

 「……………いえす?」

まずは小さな声で囁くように呼んでみる。
だがだが、寝息は途切れもしないし、表情もそのまま変わらず。
だったので、

 「…………………すき、だよ?」

内緒話なら もちょっと身を寄せねばならぬところだが、
それでは起こしてしまうやも。
そんな緊張から 鼓動が弾む胸元に手を伏せて、
でもでも、こんな機会は滅多にないぞと、
いつになく頑張ってみた釈迦牟尼様で。

 “いつだって 言われる側で、
  慈しまれる側なんだよね、私。////////”

こちらからだって どれほど好きかと、
いつもいつも狂おしいほど思っているのに、
それを肝心なイエス本人へ、
ちゃんと伝え切れてないんじゃなかろうか。
だっていうのに妬くのだけはしっかりぶつけて、

  こんな本末転倒はないよね、と

慈愛の如来様から降伏されているなんて、
神の子様、半端ない。(おいおい)

 “眠ってる間になんて、
  意味ないじゃないと判っているけど。////////”

こういう形から少しずつ、慣らしていくというか、
足りてない分を少しでも埋められたらというか。
ああ、でも、聞こえてないなら届いてないから、
これにて相殺とは言えないのかなと。
聡明な如来様にしては遅まきながら、
迂闊なことだったかもと
今更 気がついて、もじもじしかけたその鼻先で。

 ぽん、と

音が聞こえた気がしたほど判りやすくもくっきりと
紅色のばらが見事に咲いて。

 「………………あ。////////」

やや窪んでいるほど彫の深い
眼窩に伏せられた目許はそのままなのだが、
そんなお顔のやや上へ巡らせた、カチューシャタイプの茨の冠に、
瑞々しい紅ばらが、2、3輪ほど鮮やかに咲いており。



 「…………。」
 「………いえす?」



 「…………………。//////////」
 「……いえす。」





  やだやだ、なに、
  どこから起きてたの〜〜〜っ!/////////

  ごめんっ、つか ホントに寝てたんだってば、
  もっと近づいて来たところで
  ワッて言って驚かしてやろうって思ってたら、
  あのあのあの…。////////


そう思っていたらば、
もっと驚きの展開へなだれ込んだものだから、
切っ掛けが掴めなくなって
起きるに起きられなくなったイエスだったらしく。
何をやってもやらせても、相変わらずなお二人なようでございますvv




     〜Fine〜  14.11.13.


  *どこの映画ですかというタイトルになりましたが…。
   寝顔でないと“キメ顔”を ガン観出来ないブッダ様だと、
   イエス様は気がついているのかなぁ…。

   ちなみに、冒頭の“毎日の新聞”云々は当家での実話です。(苦笑)
   時折 思い出したようにこれを言い出す母であり、
   そのくせ無いと困ると言い出して
   一度 辞めたのに“やっぱり…”と復活させたのも母でした。

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