天穹に蓮華の咲く宵を目指して
      〜かぐわしきは 君の… 2

 “夢に紡ぐ言の葉は”


ふと耳鳴りがして我に返る。
カタカタとキーを打っていた手を休めれば、
夜の底はそれほどに静か。
でも、独りぼっちではないものだから、
口許が自然とほのかに緩む。
うるさくないようにと、少しでも離れているけど、
それでも狭い六畳間だもの、
視線を上げれば、
その寝顔はすぐにも視野へと収まるというもの。
薄暗くても障りはなくて、
乳白色の頬や ついと通った鼻などが、
夜陰の中に仄かに見える。
そのままじいと見つめ続けておれば、
不思議と他の部分も見えて来る。
そういう寝相になっているものか、
右の腕を枕に、肱の辺りへ頭を置いて、
すうすうと、それは穏やかに寝入る君。
無心に眠っていればこその無表情になると、
輪郭のはっきりとした目許や鼻梁、
ふっくらした口許もそのラインはやはり引き締まっての、
すっかりと端正な美丈夫になってしまう。

 表情豊かな深色の瞳が
 潤みも強く開いておれば、
 ああまで愛らしい人だのにね、と

何とはなし、
表情薄いままの愛しの君を、じいと眺めておれば、

  いえす…、と

やや掠れた声ながら、確かに呼ばれたものだから。
おやまあ、私ったら、
君の夢の中で、一体何をしでかしたものかと。
開いていたPCを閉じ、
二組敷かれた布団の片や、まだ整然としている方の上を、
静かに静かに這っての近づけば。

 いえす…、と

また呼ばれたものの。それへと続いたのが、

 置いてかないで…と か細い一言。

あっと顔を上げ、
物音もこの際は構うかとのばたばたと近寄ったが、
いかんせん間に合わず。
音もなくのさあッと、床の上へすべり出したは、
深藍の絹のようなつややかな髪の海で。

 …ブッダ

ああ ごめんね、これ以上はと、
溺れていたのがすがるよに、
その肩へと手を置いている私であり。

 ブッダ、起きて。ブッダ。

すんなり開いた瞳は
深瑠璃色の宝珠のようだが。
それがたちまち、強い潤みの膜に溺れてしまい。
横を向いてたそのまま、
潤みに濡れて震える瞳の端から

 かすかな音さえしそうなほどの ぽろぽろと

こめかみを伝って涙が落ちる。
ああ、まだ足りないか。
私は何をして不安がらせたの?
君を置き去りにして出掛けたのかな
まったくもう、なっとらん。

 ブッダ、ほら、どうしたの
 ………。
 これは誰の手だい?
 …イエスの。
 ほら、この頬は?
 …いえす。

抱え込んで身を起こさせて、
ほらほら此処だよと、
手を取り合い、ほお擦りし、
一つずつ示せば、何とか落ち着いてくれたので。

 ほら、手を回してごらん。
 そう、かいがら骨のところ、
 そこをぎゅうって 教えたよね?

うんと頷き、
こちらの胸元へお顔を埋めるので、
ああもう大丈夫だね。

 此処にいるでしょう?
 ……ん。///////

眠くなったか、頬が熱い。
おでことまぶたにキスして、
踏まないように髪を避け。
その身をそおと寝床へ戻しつつ、
こちらも傍らに横になる。

 ごめんね、ごめん。
 まだまだ凭れるには頼りないのかな。
 君の夢に住む、奔放な私はきっと、
 そんな不安の裏返しだものね。

でもでも、これだけは変わらない。
いつもいつまでもずっと一緒だから。
そうしてそして、
明日もきっと、君をもっと好きになる…。





   〜Fine〜  13.08.17.


  *夜陰の夢見の巻でした。
   本編の展開とダブってますが、引き続き“昼の部”をどうぞ。

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