手をつないで春まで歩こう

 

 “○○○な素振りは 難しい?” 



ここ何日か、イエスの様子がどうもおかしい。
たとえば、一緒に部屋にいるとき。
ふと会話が途切れても、
間がもたない気まずさなんて感じないまま、
同じテレビ画面へ見入っていたり、
はたまた それぞれが手をつけてることに没頭しもして。
今までならば、それで当たり前だと、
何の違和感もないままだったのに。

 “…う〜ん。”

例えばエレベータの中とか、例えば満員電車とか、
人との間隔が狭い小さな空間になればなるほど
距離が短くなった相手を意識する度合いも増すそうだけれど。
それは、もしかして相手を警戒したり、
若しくは自分の身だしなみに落ち度はないか、
不快だと思われてないかを気遣ったりするからであって。
親しい相手であれば、そんなことなぞ気にはならない。
むしろ、眸が合えばこそりと苦笑し合って
“混んでるねぇ”なんて視線や表情だけで会話が出来るほど…なのと同じで。
会話がないままの間合いの 何合かぶりで、視線が合ったりしならば。
なぁに?なんて屈託ない様子で
眸が合ったこちらが照れちゃうような
それは温かい微笑い方をしてくれるはずが、

 「〜〜〜っ。」

何でだろうか、
見ていたことへの咎めを恐れるように
そそくさと視線を外してしまう彼であり。
大好きな玻璃の眼差しが逃げるのだから、
いい気持ちにはなれないし、
避けられているのかと思えば、ちょっと つきんともするけれど。
そうかと言って嫌われてのそれとは思えない。
とはいえ、いつもいつもぎこちなさ過ぎ、
さりげない素振りでこなせていない以上、
作り笑いさえ下手くそな彼だもの、
本当に向こうを向く途中だった…とかいうタイミングだったのではないに違いなく。

 “何でだろう…。”

これはやっぱり、
他でもない私への隠しごとがあるみたいだけど、
それにしちゃあ
こっちを伺っておればこそという態度でもあるような。
いざ生命さえ懸けるぞなんていう大事には、
毅然としたまま対峙して見せることだって出来よう人なのに。
打って変わって ちょっとしたことほど、
ドキドキはらはらするものか、
隠し切れないのが可愛いというか らしいというか。

 “まさかまさか…。”

風邪は引かないって常々本人が言ってるけれど、
でも、引きかかりはするのかも?
そんな悪寒がしていて“助けて”と言いたいイエスなの?
ここ最近の 毎朝の冷え込みに、毎日のようにそんな想いをしていて、
何とか出来ないかなぁと持ちかけたいとか?

 “……いやいや。”

そういう、即物的というか直接的というかなこと、
こうまで見事に隠し通せる彼だろか。
たいがいは他に人が居るから言えないのであって、
でもでも辛いの助けてよぉって
かわい…もとえ、切ない眸になっちゃうはずだよねぇ。

 “……ということは。”

わたし自身のことで、何か言いたいことでもあるのかな。
でも、指摘しちゃうと私が困るから言えないとか…?

 “え? え?

私、そんな風にイエスから逡巡されるような
とんでもない落ち度をやらかしてるってこと?
でもでも、イエスは優しい人だから、
私が自分で気がつくまでは黙ってようと構えてるとか?

 “う〜っ。”

そんなぁ、何だろ何で?
言ってくれればいいじゃないか、二人しかいないんだし。
それこそ他人行儀じゃないか、そんなの。
そりゃさ、
私ってイエスに比べるともしかして考え込む方かも知れないよ?
こんな風にね。
でも、だったら、普段は楽天家のキミがそんな風なの、
気にしないでいられるはずないじゃないか。
これが普通一般の人が相手なら、
深く強く念じることで 心の綾を掻いくぐり、
思うことの片鱗を拾うことも出来ように。
キミは二人といない天乃国の最聖で、
それに…

 “そんなことするのは…。///////”

何てのか あのその、ちょっと、
やっぱり恥ずかしいというか、
それだけは しちゃあいけないことだと思うしぃ…/////

 《 …ちゃあいけないものね。》

 “そうそう、いけないいけな………え?”

不意に聞こえた声があり。
知らぬ間に うつむきかかって
自分の膝を覆うコタツ布団を見下ろしていたブッダが、

  え?え?え?、と

日頃の泰然とした聡明さも落ち着きも無くし、
直前まで沈思黙考していたことも ついでに放り出し、
思わず周囲を見回してしまったその視野の中、

 「…っ。///////」

やはりやはり、ささっと視線が合わないよう目を逸らすイエスの顔があり。
それへとかぶさって“聞こえて”来たのが、

 《 いけない、いけない。
   気づいてるって判ったら、
   きっとブッダも 気まずいに違いないものね。》

間違いなくイエスのそれだろう 伝心の声だ。
ただ、胸のうちにて思うだけのことならば、
いくら聖人同士であれ、
こうまでくっきり聞こえはしないが、
一般の人には聞こえぬようにという内緒話レベルのものが
この“伝心”であり。

 “イエス……?”

こんな格好でそれがブッダに拾えたのは、
それだけ強く思っている“独り言”だからか、それとも…

 《 ブッダのことだから、
   バレンタインデーのチョコも手作りにするに違いない。
   特集コーナーとか興味津々で観てるところは
   そっとしておかなきゃね。
   私に何か 気づかせやしないかって思うのか、
   すぐ我に返っているものね。
   お買い物に出ても
   出来るだけ はぐれた振りして離れるようにしてるけど、
   あんまりわざとらしいからか
   迷子になったんじゃないかなんて 探させてないかなぁ。
   あ、でも 勝手に期待してちゃいけないのかな。
   隠すつもりはないかも知れないし、
   それどころか、聖人の私たちが、
   しかももう両想いなのにサプライズもないだろって、
   あっけらかんと構えているのかなぁ…。》

最初のほうでは、
ブッダのヲトメ心を守るべく、私がしっかりしなくちゃあと
毅然とした眼差しをして、うんうんなんて頷いてまでいたものが。
真摯な表情でここ数日の経過を辿るうち、
何だか何でだか、
どんどんと眉が下がって来ィの、
どうしよぉという やや頼りないお顔になるのが、

 “…もうもうイエスったら。/////////”

なんて可愛いことを思ってたんだか、
しかもしかも、
それが筒抜けになってることにさえ気づいてないなんてネ。
そんな事情があってのこと
不審な様子だったイエスへと、
自分だってしっかり不安を抱いてたというに。
そんなの もはや忘却の彼方に追いやって、
押さえ込むが難しいほど温かい笑みがぐいぐい込み上げて来るのへと、

 “………困ったなぁ。////////”

何で微笑っているのかを問われても困るし、
その原因でもある独り言、
何とも可愛らしいイエスの言い分を聞いてしまったこと
どうやって伝えればいいのにかも困ってしまい。
再び うつむきかかっている
如来様だったりしたそうでございます。




   〜Fine〜   15.02.09.



  *途中までは ブッダ様は名探偵…ぽい路線でしたが、
   オチは相変わらずです、すいませんねぇ。(おいおい)
   はてさてブッダ様、今年はどうするんでしょうかね?
   そして もーりんは
   そのお話をちゃんとタイムリーに書けるのでしょうか。(こらこら)

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