手をつないで春まで歩こう

 

 “春を待つころ” 



意外な存在との邂逅に、
ああ驚いたなんて 今日なりの特別を味わって。
じゃあねと手を振り、戻って来たのは愛しのアパート。
今日はどちらかといや暖かいほうだったため、
さほどの重装備でもなかった上着を脱いで、
それぞれにハンガーに掛け。
ほうと吐息をついた二人が 足を突っ込んだのは
相変わらずのコタツへ だったものの。
突然の天界からの来訪者だったが、
それもまた
春が来ることへの関わりあっての降臨、

 「うん。春も もうじきなんだねぇ。」

花粉云々がなくたって、
まだまだ窓を開ける訳にはいかない寒さだが、
それでも
ガラス越しに畳へ降り落ちる陽の濃さは、
日に日にその強さや健やかさを増してもいて。
コタツがじわんと温まりつつあるのを
足だけじゃあなく手でも確かめておいでか、
猫背になるほど
深々ともぐり込んでたイエスの前へも
手際よく淹れたお茶を どうぞと丁寧に差し出したブッダとしては、

 「暖かくなるのは、大歓迎だよね。」

イエスとは比較にならぬほど辛抱が利いても、
そこは我慢してのもの。
ブッダだとて
過ごしやすい気候の到来が嬉しいには違いなく。

 「花粉症という
  困った弊害さえなかったならば、
  多少の肌寒さも何のそのと窓を全開にして
  大きく背中を伸ばせるくらいに、
  いいお日和の日も
  増えて来つつあるしね。」

今日もそのお言いようへ匹敵するほどに、
それは明るい陽が射していて、
夏場ほどには
高みからのそれではないところが
よく出来ており。
そのお陰様、気温が低いうちは
朝も昼も午後も
長々と屋内へと差し込むのがありがたい。
向かい合うよに座ってないせいで、
今は空いた格好になっている
窓辺の一等席へも、
畳の上どころか
コタツにも掛からんというほどの
結構 広い陽だまりが
目映いまでの四角となって、
コタツに早く居場所を譲れと言わんばかり
その主張と共に、
降り落ちていたりするのだが、

 「…いやあの、
  そこまで前倒しすることは
  ないと思うんだけれども。」

言ってることもまた、
あまりに正論で健やかで目映かったものか、
とはいえ、異論を呈したいと思いますと
手を挙げたいらしいイエス様。
その声といい、語尾といい、
ごにょりと弱々しくなったのへは、
ああそっか、そうだねと、
釈迦牟尼様も苦笑を返して差し上げる。

 人間たちが知らず犯した罪への贖罪に、
 その尊い身を呈した 自己犠牲の人。

でもねあのね、日頃はちょっぴり、
暑い寒い、痛い眠い、
お腹が空いたへのハードルが低い、
なのに どこか憎めぬ、
愛すべき甘えん坊な人でもあって。

 「判っているよ、イエス。」

今のは所謂“ものの喩え”で、
本当に窓を開けたりなんて
いたしませんともと。
ふくよかな口許たわめ、
まろやかに微笑って、
心配しないでと念を押す。

 “そうそう急かずともという、
  待つ試練だと思えばいいだけのこと。”

……おいおい、ブッダ様。
胸の奥にて言葉にしたのは
そんな屁理屈(苦笑)だったれど、

 「良かったぁ。」

本当に案じていたものか、
ほうと肩から力を抜くほど安堵したイエス。
伺うような眼差しをかたどっていた目許や、
どこか臆病そうな構えの口許やの、
心細げな風情もなかなかに似合っていた
それは繊細な作りの面差しが、
ほうと緩んで
そこからふわりと笑んだ一連の表情の変遷の、
何とも鮮やかで、
そして何とも愛らしかったことだろか。

 「〜〜〜〜っ。/////////」

自分のふくよかさに比すれば、
眼窩の深さや頬骨の高さが、
ともすりゃ精悍な男臭さを
織り成しもするお顔だというに。
そぉんな可憐な
かわいい顔まで見せてくれたなんて……

  なんてフェイントだ、狡い
  つか、今まで隠してたなんて、
  それもまた狡い狡い
  あああ、こんな風に誰かを責めるような
  そんな心持ちにさせるキミ自身が
  もはや狡い、と

真っ赤っ赤になったお顔を
せめて誤魔化そうと、
すがるもの欲しやで周囲を見回し。
押し入れ前の Jr.に留まった
その視線を降ろして、

 「あ、私、家計簿つけないと〜〜。」

そうだそうだ、お買い物もしたし、
忘れないうちに書き付けておかないとと。
取って付けたよに手を延べて
帳面を引き寄せるところがわざとらしい。
そんなわざとらしさには、だがだが、
それこそ純真無垢なヨシュア様、
ちいとも不審だとは思わないようで。
ふぅんとそのまま眺めておいでで、

 “こういうところは助かる、かなぁ。”

決して察しが悪い人じゃあないのだけれど、
大人の、高度な、
とかいう気遣いとは無縁だし、
同じくらいに誤魔化されてもくれるのが、

  安堵してていいのか、それ?

そうと感じ、罪深さにヒリヒリすることで
ちゃんと罰を受けているのだから、
そちらもまた真っ当な聖者には
丁度いい相性だと思いますが。(う〜ん)

 “…お。”

手に取ったからにはと、
帳面をパラリとめくれば、
昨年の今頃の辺りがまずはと開いて。
栞というつもりでもなかったけれど、
丁度いい大きさのそれ、
カラフルな早咲きの花々を観に行った
某アミューズメントパークの入場券が、
見開きの真ん中にひらんと現れたのが、
当時の記憶をも掘り起こしてくれて。

 “そっか、去年と言えば…。”

新聞の懸賞で当たったのでと、
広大な緑地と季節の花々や、
ネーデルランド風の施設が売りだった、
それは楽しかったお出掛け先の特別入場券。
そうそう、消費税が値上がる前にと、
桜や何やが咲くだろう
四月を待たずして出掛けたんだよね。
小雨にも降られたけれど、
そりゃあ楽しい一日で、
春先の花をたくさん堪能したし、
実はそれが見ものだという
大きく立派な枝垂れ梅も観た。
チョコも作ったしお土産も一杯もらえたし、

 “そこでもやっぱり……。////////”

お外で ちうなんていう、
そりゃあ大胆なこともした。
イエスがブッダの
隠し撮りをしてたなんていう
恥ずかし嬉しい事実も判明して、
思い出せば
甘くて幸せなことばかり押し寄せて来る
そんなお出掛けだったなぁなんて。
ふわんと甘やかな気分にひたっておれば、

 「……………え、わっ、何なに?」

やや呆けていたけれど、
我に返れば おおうと驚いたほど、
いつの間にやら、イエスがすぐ間際にまで
その身ごと寄って来て、
帳面とブッダとを覗き込んでおり。
先程は誤魔化し切れた…と思ったものの、
やっぱり態度が変だと 感づかれたのかな、
それとも、今の今、
様子が変だったことへの不審を招いたかと、
再びドキドキしかかっておれば、

 「家計簿に負けてるなんて
  ちょっとさぁ。」

 「はい?」

 こんなに傍にいるのに、
 私こそ、あのその、キミの恋人なのに、
 そんなこんなも忘れちゃうほど
 没頭されると何かその

 「大事なことなの判っているけど、
  レシートに負けるのは
  ちょっと癪だなって思って。」

 「あ…。////////」

相変わらずに
即妙な言い回しへの語彙が足りず、
でもね、それ故の訥々とした言い回しが、
だからこそじわじわと、
理解とともに
逃げ難い甘さや蠱惑を連れて来もして。

 「えっと…。////////」

こんなことへまで嫉妬してますなんて
臆面もなく言い放ち、
むうと不機嫌そうになるイエスが可愛くて。
……勿論のこと、
ちょっぴりのたくさん嬉しくてvv
でもでも、どうしたら
そのご機嫌は戻るのかしら、
大胆な何かとか、
まだまだ思いつけない、
こちらは修行中の身。
えっとぉと視線を泳がせて、
でもやっぱり
じいと見つめられ続けているのが照れ臭く。

 “………え〜いっ。/////////”

ここはいつものイエスを見習えとばかり。
存在感にまとう体温のみならず、
目線まで形あるものみたいに思えたほど
そりゃあ間近にまで寄っていた、
ちょっぴり恨めしげな駄々こね顔へ向け、

 ついと、こちらからもお顔を寄せて


  「………。///////////」
  「   え? え?///////」


まさかそこまで意識したんじゃないけれど、
結果として、ついばむような軽やかさ。
小鳥の戯れを思わせる、
触れただけよりはちゃんとした、
だがだが あっと言う間に
立ち去った小粋な接吻を
不意打ちでその頬に贈られたイエスとしましては、

 「…………うひゃあ。/////////」
 「何よ、それ。/////////」

感激だと大騒ぎされても恥ずかしいが、
拍子抜けな反応も、それはそれで物申したくなる、
やっぱりヲトメな如来様だったようでございます。




    〜Fine〜  15.03.07.



   *驚きが過ぎると、
    人は硬直しちゃうものですよ、ブッダ様。(笑)
    相変わらずな人たちで、
    今日UPしたお話の続きみたいになりましたが、
    そこはあんまり関係のない展開でしたね。
    お礼文としてはこの方がいいよね、うんうん。(誰へだ)笑

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