“相変わらずの甘え下手?”
百年に一度のとか、記憶にないほどのとか、観測史上 類を見ないとか、
お堅いお役所発表の文言にさえ、
微妙に文学的なものが入り混じったほどの、
それはもうもう壮絶な酷暑が襲ったこの夏だったが。
それでもさすがに、いくら何でもお盆を過ぎて10日も経てば。
朝晩はいかほどか、涼しい風も感じられるし、
注意して耳をそばだてれば、
何と秋の虫の奏でが
小さくながら聞こえてくるではありませんかという。
まだまだ希少なそれなれど、
ありがたい肌合いの宵が訪れるようにもなっており。
夕食も済ませ、寝るには早い夕刻を過ごすいつもの六畳間へも、
網戸にした腰高窓から さやさやと涼しい風がそよぎ込む。
“…っと、終しまい。”
いつもの習いで、卓袱台にレシートを広げ家計簿をつけていたブッダ様。
今日も収支がぴたりと合ったのへ、ご名算と胸を撫で下ろし。
レシートの隅をホチキスで留めると、
クラフト紙の大封筒へ大学ノートと一緒にしまい込む。
月が変われば封筒が新しくなって、
ノートだけそちらへ移す仕様にしているので、
“アナンダにも面倒はかけないと思うのだけれど…。”
天界で経理を担当している勤勉実直な愛弟子が、
あまりの忙しさから逃げ出すように家出したのは先日のこと。
そしてその忙しさの一端を担っていたのが、
何と この自分の地上での生活を彩る収支への、
決済確認事務が増えたせいもあると聞いたので。
(ちゃんちゃん☆という オチ扱いでしたが)苦笑
気を引き締めてあたっておいで…じゃああるけれど。
そも、浪費なんてなさらぬのだ、
こまめにきちんと帳簿をつけてさえおれば、
急な出費へもそれを提示し申請するだけで済もうというもの。
現に、このところは苦痛も減ったか、
連絡してくる彼の弟子の声も、溌剌としたお元気なそれへ戻ったようだし。
「……。」
今宵はさほどに面白そうな番組もないようなのでと、
テレビも点けずにいる室内は静か。
お隣りも静かな住まいようの人らしいので、
物音も響いては来なくって。
むしろ遠いお宅からのものか、
効果音ぽい爆笑の声が時折そらぞらしくも届くばかり。
イエスは何をしているかと言えば、
いつもの定位置である窓辺で、腰高窓の桟に背中を凭れさせ、
立て膝をした格好でノートPCを操作していて。
キーを叩いてはないところから察するに、
自分のブログへの書き込みをしているようではないらしい
…とまでは、門外漢のブッダ様にも判るようになったが。
“…う〜んと。//////”
相変わらずの甘え下手。
用もないのにその名を呼ぶのは、まだ少し抵抗がある辺り、
生真面目さがなかなか消えぬブッダであるらしく。
“だって…。//////”
イエスは煙たがりなんかしないというのも判っているし、
むしろ、いつもいつも向こうから来てくれるのだ、
こっちからだって動き出さねばとの意欲は満々にあるのだが、
なぁに?と問われたら困るしと、ついつい二の足を踏んでしまう。
“イエスなら…。”
用がなくたって
“何でもない”とか“呼んでみただけっvv”って
それこそ衒いのない一言であっさり済ましちゃうのだろうにね。
それも、こちらが“しょうがないなぁ”と絆されちゃうような、
とびっきりの笑顔でもって。
自分から向こうへ擦り寄ってゆくのも、同じ理由から、
“無理無理無理〜〜〜〜。///////”
……と 来て。(苦笑)
でもね、あのね
ほんの数歩分でも距離があるのは、そこはやっぱり遣る瀬ない。
手作業している間は放っぽり出しといて、
手がすいた途端に恋しいなんて思うのは虫がよすぎるかな。
…ちょっと俯くとイエスって男ぶりが増すよね。
無心になってるから余計に、
目許なんか随分と冴えてるし、
口元も無意識だろうに時々キュッて引き締まるのが…
「…なぁに?」
「〜〜〜〜〜っっ☆」
何も言ってはないし、心の声だって封じてたのに、
じいと見入ってたそのお顔をひょこりと上げたイエスであり。
ニコッと微笑うとそのまま、PCを蓋して立ち上がり、
すたすたと卓袱台までをやって来る。
「え? えと、…あの?」
そうまでじいと、睨むよに念を込めては見てなかったのに。
なのに何でと、ブッダの方こそ思わぬ運びに恐慌状態。
すぐの傍ら、半分崩した胡座のような格好ですとんと座るイエスなのへ、
「な、何で判ったの?」
あのその、呼んでた…ってことをと訊けば。
んん?と眸を瞬かせてから、
お髭も一緒にたわめるまろやかな笑いようであっさりと、
「そりゃあ判るサ。
私いつもブッダのことを意識してるもの。」
「…っ。///////」
しかもあんなに切なく見つめられてて、気がつかなくてどうしますかと。
甘い甘いお言葉で、この至近から畳み掛けて来るものだから。
こちらはまだ初心者ゆえに、
流す術もないまま もろに着弾するから始末に負えぬ。
正座したままだったお膝がぴきりと強ばり、
肩がすぼまり、背条も萎縮し、
頬が耳が真っ赤になって、あわあわと口元が震えてしまう。
「ど」
「ど?」
緊張しきりなブッダに反し、
そちらはあくまでものんびりリラックスしているイエスなのも、
思えば癪だったりするものだから。
「どうして君は、
そうやって歯の浮くようなことばっかり言うのかな。//////」
リンゴも食べてないくせにと、
いや、これは言ったところで通じないのだろうけれど。
手さえ触れられずで、膝の上、
双腕ごとぎゅうと突っ張るようにして、
含羞みの極致でおいでのハニーなのがまた、
可愛くて可愛くてしょうがなく。
「え〜? 思ったことをそのまま言ってるだけなのに。」
まぜっ返す気もさらさらありはしない。
ブッダのことが大好きなだけで、
今だって、触れたら飛び上がってしまうんじゃないかって思うから、
これでも我慢しているのにね。
「…?」 「………………………………、…。(頷)」
じいっと見やってて、それへ うんってしてくれてやっと。
そうでないと優しい肩が跳ね上がっちゃうから、
ドキドキのし過ぎから、怖いもの扱いされちゃうのはせつないから、
だからこれでも、随分と我慢しているのにね。
そっと身を寄せ、こっちへおいでって
肩を引き寄せると、ぽそんって凭れてくれて。
「…vv」 「…………………………………vv///////」
ちょっとずつちょっとずつ、体から強ばりが抜けてって。
ほうっていう吐息をついて、すっかりと凭れてくれた瞬間の、
何とも嬉しいことったらなくて。
すべすべの頬とかうなじとかが見下ろせて、
シャツ越しの温みは…ちょっぴり熱っぽいけど(苦笑)
心配要らぬと、その分、甘い良い匂いがして。
「………………。」
あのねと言いたげに、こんな距離から位置から見上げて来られたら、
こっちも実は内心で
“〜〜〜〜〜〜っっ!//////”って
大いに挙動不審になっちゃうけれど、
「なぁに?」
どうしたの?て落ち着いて訊いてあげれば、
それがどうしてかお気に召さないらしくてね。
「…私も、」
うん。
「…イエスに負けないくらい、」
うん。負けん気強いものね、実は。
「いえすが 好き、なのに。////////」
う…? //////////
「いつも先に言われて……………口惜しい。///////」
ええっとぉ、……………っ。/////////
しかもしかも、
言い切ったそのまま、
イエスの懐ろへ頬を埋めての
ぎゅうとしがみつかれたりした日には……。
頼もしい手がいたわるように触れ、
宥めるように そおっと背中を撫でてくれたのへ、
「…っ。///////」
ああもう、何でいつも君ってば。
こうやって頼もしくも大人なのかなぁ。//////
頼りになるのも素敵だけれど、
何だかちょっと口惜しくもあるのにと。
胸がキュウと張り裂けそうなドキドキがやっぱり暴発し、
肩や背中を覆っての勢いよく、長い長い螺髪が解けたのを。
これもやっぱり そおと梳いてくれる優しい手が、
実は微妙に震えているの、
まだそこまで気がつく余裕がないブッダ様なのを、
“安心しちゃうのって、ホントは狡いのかなぁ。///////”
背伸びのつもりなんてないし、
先達ぶってたりお兄さんぶってるワケでもない。
ただ
幼子みたいにドキドキしている君を
ますますと不安がらせたくないだけのこと。
今はまだ、無理して頑張らなくてもいいからと。
スキンシップには慣れのあることへ
何とか置き換え、踏ん張って。
日頃は堅い君だからこそ、
飛び出す睦みの言葉がどれほど威力あるかも気づかせず。
実はこちらも純情にも震えているところを、
二人分くらいなんのそのと、頑張っておいでのヨシュア様。
“愛おしさが過ぎて辛いなんて、こんな贅沢な苦行はないよね”と。
そちらからも ぎゅうとしがみついていおいでの、
胸元に抱えた、愛しき愛しき如来様を見下ろすと。
周囲へあふれる深藍色の髪のわずかな隙間から、
賢そうな真白きおでこへと、
小さなキスを やさしく落として差し上げるのでありました。
〜Fine〜 13.08.26.
*『君の瞳に…』 の、
アンサーというか、マジでああなる5日前というか(古っ)
余裕に見せてるイエスの側も実は…というの、
もうちょっと書き下ろしてみたら、
ますますグダグダになったような気が。(ダメじゃん)苦笑
不意打ちでは まだまだブッダ様も負け負けですが、
そのうち追い抜くぞ、時間の問題だぞ。
何せ相手は“三日坊主”のブッダ様だし。(お後がよろしいようで)。
めーるふぉーむvv

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