翠の風は悪戯に
 

 “翠の巡りに” 



ほんのつい先日までは、
藤が見事だとか牡丹が富貴でとか、
バラ園やユリの花が紹介されていて、
続いてはアヤメの話題だったのが、
今は紫陽花に青梅の収穫と、
ほんに日本という国は、
季節の巡りとそれへ連なるあれこれの 何とも豊かなことだろか。

 「まあ、自然の流れなんだから、
  今日を境にもうこっちに切り替え、なんて
  そうそうくっきりと行かないものだっていうのは判るけど。」

梅酒や梅干しはまだちょっと難しそうだし、
この顔触れの二人暮らしでは 山ほど漬けるほどの需要もなしと。
松田さんや静子さんが店先でああそろそろねぇなんて話題にするの、
まったくの他人事としていたブッダだが、

 “梅シロップっていうのは、ちょっと作ってみたいかな。”

コンフィチュールならトーストやシフォンケーキに添えて食べないこともなし、
シロップなら炭酸で割れば爽やかな飲み物にもなると紹介されていたのを観て、
ああそうか、そういうのも作れるのかと、
やっとのこと、青梅にも料理魂に響くものを感じたようで。
一方のイエスはイエスで、

 “薔薇ってこうまで華やかな花になっちゃうとはねぇ。”

その昔はもっとこう、野生のそれしかなかったせいか、
荒野にあってもくじけず頑張る花という印象が強かったような。
香りの良さから人々が愛でるようになり、形への改良も加えたその結果、
今の、それはそれは華やかで高貴、
絢爛豪華という装飾にまず使われそうな花とまで進化してしまおうとは思わなかったなぁと。
自分が冠にと強引にかぶせられた茨のそれ、
蔑視からのものが今やそうでもなくなってるから判らないよなぁなんて、
微妙なことへと今更ながらに感心していたり。

 【次にご紹介するのは、今が見頃のポピーの庭園ですよ。】

朝のワイドショーで、季節の絶景特集を何とはなく観ていたお二人、
画面いっぱいに広がるひなげしのお花畑へは、
おおうと揃って目を見張る。
淡い緋色や紅、白という色とりどりのポピーの群れが
見渡す視野一面を覆う勢いで咲いている風景は、
秋のコスモスのお花畑を思わせるよな、
それでいて花弁の大きな嫋やかな花が風にそよいで揺れる様は、
もっと華麗で存在感もあり。

 「わあ、これはなかなかに華やかだねぇ♪」
 「うん。こんな場所もあるんだねぇ。」

寺社仏閣の周辺にアジサイがたくさん植えられていてとか、
藤の花がそれは見事でとか、
その上にバラやこでまり、
クレマチスに、そうそうそろそろ夾竹桃やザクロの花も咲くとかで。

 「天界もそりゃあ沢山花が咲いてるところだけれど、」

それへと拮抗しているというのはさすがに言いすぎ、でもでも、
こうまでたくさんの花園や名勝があって、
四季のそれぞれで途切れなく見ごろの花があるというのは
凄い凄いと驚かされてばかりだし。
それぞれの花園を守る人たちが、
観に来る人への癒しになるようにと、
手を尽くして丹精なさっているからこそ、

 「お花だって頑張って咲くんだろうね。」
 「うんvv」

物騒な事故やら凄惨な事件、限られた層の人たちによる利権の独占等々、
この国だって日々大変ではあるようだけど。
最聖二人を感嘆せしめたほどに、見事な花を揃えたテーマパークの関係者の中には、
集客しか考えてはないよなお人も多少はおいでなのかもも知れないけれど。
そういったあら探しを微に入り細に入りと意地悪くも深堀りしないで、
それこそ見たままの風景に素直に感じ入ればいいのであって。

 「そういや、そろそろ蓮の花も咲くころだねぇ。」
 「そういえば…。」

言いかかって、だが、お顔を見合わせ合うと…ちょっと沈黙。
感激しすぎたり嬉しかったりすると、
日頃の忍耐や我慢もどこへやらで
ぽぽぽんっと意外なところにハスの花を咲かせる奇跡、
誰か様が結構頻繁に見せてくれるので。

 “時分のものと言われてもねぇ。”

トマトやキュウリの旬が夏でも、通年で手に入るしねぇとじんわり思うような、
何だかそんな気分をほんのりと実感したその上に。
綺麗で優雅でありがたい花ではあるが、
蓮といえば如来の装飾にもよく持ち出される象徴の花。
ブッダ自身にはそんな自覚はないけれど、

 “時分のというか自分のという感があるよに思われてないかな。”

それこそイエスへのバラのように、
付きものというか、寄り添ってて当たり前の象徴花だから、

 “わざわざ観に行きたいなんて言おうものなら、
  自己愛が激しいなってイエスから思われないかなぁ。/////////”

だって、それとは別のゆかりもある花だしなぁと、
こそりと胸の内にて呟いたのがブッダの側なら。

 “蓮を観に行ってこうまで大きく進展したの、
  毎年思い出してるのって私だけなのかなぁ。////////”

そういやブッダって、記念日とかいちいちこだわってない性分みたいだし。
やだ、私ったら小さい男なのかな?と。
そんなことをば胸の内にて転がしてしまい、

 「えっと、」 「あのね?ブッダ、」

同時に何か言いかかり、え?とやはり同時にお顔を見合わせてしまった
こんなところでも息ぴったりの最聖のお二人だったようでございます。







    〜Fine〜  16.06.07.


 *あまりにいいお日和が続くのでと、
  とか何とかいうネタを転がしてたら、
  いよいよ梅雨らしい雨催いになっちゃって。
  そういうもんですね、うんうん。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

拍手レスもこちらvv


戻る