キミと一緒の 秋を迎えに
      〜かぐわしきは 君の… 4

 “我儘でごめん”


最聖人二人には、その準備期間から当日まで
微妙にすったもんだのバザーとフリマ祭りではあったが。(笑)
当日ののっけはともかく、
気を取り直して向かったフリマ会場にて、
お中元や頂き物ですという
スポーツタオルとハンドタオルのセット数箱と、
お歳暮を解体しましたという
果物の缶詰各種、サラダ油数本という、
当初からの目的だったブツを
他の希望者との奪い合いにもならず、
正規価格の半額で入手出来た幸いに恵まれ。
思わぬ掘り出し物として、
焼きのり全帖10枚パックと
吟醸丸大豆醤油まで、やはり半額で掴んだ幸運に、

  ―― もしかして、
    今日ここで
    一生分の運を使い果たしているのではなかろうか。

ちらり、そう思わないでもなかったけれど。(おいおい)

  ま・いっか、と

お顔を見合わせ、のほほんと笑って帰途についたお二方で。
(実際、こんな程度で削れる一生ではないでしょうに)
それは素晴らしい収穫に、
ほくほくとしつつもブッダ様がお片付けにいそしんでおれば。

 「ブ〜ッダ♪」

お片付けはそれを使う専任者に任せ、
いやいや凄い人出だったねぇと
畳のうえ、くたりと座り込んでの後ろ手に手をついて、
長々と脚を伸ばしていたイエスが。
ふと思い出したように、畳んだ座布団へ凭れさせていた身を起こし、
ブルージーンズの後ろポッケへ手を入れつつ、
最愛の如来様の名を甘く呼ぶ。
仔猫の長鳴きみたいな呼び方へ、
戸棚へ最後のサラダ油を仕舞い終えたブッダが
苦笑交じりに立ち上がり、

 「何だい?」

この彼が勿体振るなんてまあ珍しい。
言いたいこと、話したいことがあれば、
訊いて訊いてと飛びついて来るのにね。
それに、今日は一日ずっと一緒に行動していて、
彼だけが見た内緒ごとなんてものはないはずなのに。
一体なぁに?と、やんわりと微笑いつつ、
呼ばれたまま すぐ傍まで歩みを運べば。

 「これ。ブッダに渡しておくね。」

そうと言ったイエスから“はい”と手渡されたのは、
可愛らしいマスコットのイラストが印刷された長封筒。
上半分に横書きで“聖イエス様”とペン字で書かれてあって、

 「あ…。」

受け取ったブッダがややどぎまぎしたのは、

 「これってイエスのお給料じゃないの?」
 「そうvv」

しかも、封筒の口が封されたままであり、
イエス自身も中身に触れてはないようで。

 「だ、だめだよ、これはイエスが働いて…。」
 「うん、そうなんだけど。」

こういう収入は、
基本、イエスが好きに使うのが筋だとしている彼らだったので、
じゃあ今日はわたしが買い物して来るという形で使われる以外、
家計へ還元されないものと、ブッダもそこはわきまえておいで。
だというに、

 「だって今日のお買い物も、
  お得とはいえ予定外の散財だったんでしょ?」

 「それはそうだけど…。」

イエスには異存はないらしく、
でも…と、やはり渋るブッダなのへは、

 「あのね、それって
  ブッダが我慢してくれた分もあるんだよ?」

 「え?」

けろんと微笑ったイエス曰く、

 「私が雑貨屋さんに出掛けてる間、
  ブッダがお留守番をしなきゃならなくなったでしょ?」

うんと頷くと、
胡座をかく格好で引き寄せていた足首を掴んでたそのまま、
俯いたイエスが呟くように続けたのが、

  ―― ねえ、詰まんなくて
    ちょっと寂しかったのは私だけかな?

窓辺に下がったカーテンがさわさわと揺れて、
畳の上へゆらゆらした影を躍らせる。

 「えっと…。///////」

揃えたお膝のうえ、封筒ごと降ろした手を見下ろしたブッダが、
確たるお返事はないながら、
頬だけで収まらずの耳まで赤くしたのは、
彼も同じだったと態度で言っているようなもので。
そおとそれを確かめてから、ふふーと笑ったイエスが言うには、

 「だからあのね、これは二人で貰ったものなんだよ?」

なので、財務担当のブッダに渡すのが正解なのらしい。
相変わらず、子供のような物言いをする彼だけど、
ならば、これってお母さんへ初の給与を渡すようなものなのかも?
(いやまあ、これ以前にもバイトは幾つかやってるイエス様ですが。)

 「…じゃあ、ありがたく受けとっとくね?」

秋は秋で美味しいものもたくさん出回るから、
そうだね、いっぱい食べさせてあげようね。
わ、それは楽しみvvと。
まろやかな笑顔で朗らかに笑い合っての、それから。

 「でも、アルバイトかぁ。私も何かやってみよっかな。」

今回は並行してやることがあったブッダだったが、
またイエスが何かアルバイトをと思い立ったなら、
自分も出掛けても良いかなと、
そんな風に思ったらしかったものの、

 「………それはダメ。」

一緒に微笑っていたはずのイエスが、いやに低いお声を出した。
え?と、そちらを確かめるように見やったところ。
さっきまでの穏やかそうなお顔はどこへやら、
どうかすると厳格なお父様のような堅いお顔で、
ブッダを見やっておいでのヨシュア様だったりし。

 「イエス?」

そりゃあまあ、ブッダは生まれも育ちもガチセレブで、
そのまま出家したから労働知らずな身じゃあるが。
托鉢や説法などで世間とも接してはいるし、
苦行に修行にとその身を鍛え抜いてもいるので、
我慢強くて誠実で。
多少融通が利かぬことをネックとしても、
たいがいの職場で、正社員待遇で迎えられること請け合いかも
…って、あ・そっか。(苦笑)

 「ダメったらダメなの。」
 「イエス? 無理だっていうの?」
 「違う。」
 「接客は無理でも、そう、製造ラインのお仕事とか。」
 「それもダメ。」
 「根を詰めるから?」
 「違くて。」

あ、またそんな言い方する、と。
教育的指導が入ったのもスルーしての、イエス様曰く、

 「だって、私が寂しくなるもの。」
 「あ…。///////」

どーだ参ったかと胸を張るところが、
かつてブッダが主張したのとは趣きが違うものの、

 「えと、うん…そうだね。///////」

こんな“天動説(俺様)発言”もないというに、
ブッダがいないと寂しいと言われれば、口惜しいけど嬉しくて。
だからダメと頑と反対されちゃうのが、憎らしいけど可愛い人で。

 「ホントはブッダのほうが稼げると思うけど、でもダメなの。いいね?」
 「うん。///////」

お膝でにじり寄ってっての、
柔らかい頬を両手にくるみ込み。
指先で頬とそれから口許をそおと撫でれば、
見下ろす格好になったやさしい伴侶様は、
うんと頷きながら瞼を伏せてくれるから。
我儘でごめんねと囁く代わり、
やさしくやさしく頬を寄せ、
甘くて柔らかな唇に、壊さぬように口づけを贈る。
そんな自分へゆるやかに伸ばされた腕が、
甘えて良いんだよと許してくれているようで。
なすがままに抱き寄せられて、温かい首元へ頬をつければ、
さあっと広がるつややかな髪に一緒くたにくるまれて、

  ああ なんて幸せな、夢心地……




そして、彼らはまだ知らないが、
イエスさんたら屋台祭りの日、
例の美人と路地裏でこっそりキスしてたらしいなどという
微妙に嘘とも言えない浮いた噂を流されてしまうのでした。




   〜Fine〜  13.10.01.


  *3巻ラストを飾ったバイトネタを
   頂戴したつもりではありませんので念のため。
   つか あのお話は結局、ページ数的に拮抗しながらも
   バイトのお話というより
   梵天さん登場&“悟アナ”執筆開始が
   主筋だったのようなもんではなかろうか?
   インパクトあったもんねぇ、あの登場の仕方。(笑)


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