かぐわしきは 君の…
  〜香りと温みと、低められた声と。

 “汝の隣人を愛せよ”


ブッダにとっての相変わらずといえば。
降臨(バカンス)中だというに 生真面目に修行もこなすこと。
ベジタリアンではないイエスに不満を抱かせぬよう、
毎日の献立に工夫を凝らす努力を忘れぬこと。
だからと言って甘やかすかといや、それはとんでもない誤解で、
主に本誌という日常の中では(笑)
容赦なく仏の顔をがんがん減らしてお怒りを示すこと。
毎朝のように早起きしては、朝食の前にジョギングへ出掛けること。

  それからそれから……


朝型のブッダとは正反対、
夜更かしが大好きで、
深夜放映の海外ドラマやネットという誘惑に負けては、
ついつい寝坊する朝のほうが多いイエスが、
今朝は珍しくも早い時間帯に目を覚ましており。

 「うん、それがね。」

観るつもり満々でいた海外ドラマが、
海外で催されていたスポーツの中継の延長で中止になったのだとか。
ネットの海へ泳ぎ出てみたけれど、あんまり気が乗らず、
ひょいと傍らへ眸をやれば、愛しい伴侶様がそれは健やかに眠っていて。

 「…ちょっと待って。誰が伴侶様だって?/////////」
 「やだなぁ、わざわざ言って欲しいのかい? ハ」

ニーと続きかかるお口を、
肩にかけるつもりだったタオル(まだ広げてません四つ折りのまま)で
ばふんと顔ごと押さえ込んじゃう、まだまだ含羞み屋さんのブッダ様。
かように、まだまだ含羞み多き相方さんを、
そんな可愛げごと、朝の清らかな明るさの中に眺めやろうと構えておれば、

 「ほら、起きたんなら布団を上げて上げて。」
 「え? え? もう?」

当たり前でしょ、と
腰に手を当て、朝を爽快に過ごし隊の隊長が仰有るには、

 「起きると体温も上がるんだから、
  汗も出て布団がどんどん湿ってしまうでしょ?」

外の干し場に布団を干すのは順番なんだよ?
ウチの番のときに晴れたらいいけど、そうとは限らないんだし。

 「極力、湿らせないようにした方がいいに決まってるでしょ?」
 「ははあ。」

それは恐れ入りましたと、
聞きつつも布団から抜け出しての、
掛け敷き一緒くたに よいしょと畳んだそのまま、
押し入れへ押し込んでいたイエスであり。
方法はちと気に入らないけど、まあいっかと。
うんうんと満足げに頷いたブッダ様だが、

 “…私が気づいてないと思っているのかなぁ。”

イエスがバイトにと出掛けた隙をつき、
部屋の窓から、彼の布団だけを小まめに干し出しておいでのブッダ様。
だってねえ、陽の匂いがするのは誤魔化し切れないのにねぇと。
指導者ぶっているその陰で、
しっかり良妻賢母っぷりを発揮している伴侶の実力、
嬉しそうに咬みしめているイエス様だったりし。

 「さて、じゃあ…。」

出掛けて来るよと、
トレーニングウエアで玄関へ向かいかかるブッダであり。

 「そういや夏休みだよねぇ。」
 「…っ。」
 「ここいらも、朝のラジオ体操ってあるんだよね。」
 「〜〜〜。」
 「ブッダ、ジョギングコースの途中に公園とかないだろね。」
 「…途中にはないけどサ。」

此処へと戻る道すがらに、
間が悪いと顔見知りの小学生と鉢合わせることになりかねないそうで。

 「飽きないというかしつこいというか、だねぇ。」
 「子供っていうのはそういうもんだよ。」

ブッダの額の白毫を“ボタンだ”と勝手に決めつけて、
押すぞ押すぞと手を伸べて来る悪ガキがご近所に何人かいて。
此処に来てもう2年にはなるというのに、
その手合いはなかなか減らぬとか。
そんなけしからぬ“ピンポンダッシュ族”が、
こんなにも早い時間だというに
そこいらを徘徊しているのが夏休みでもあり、

 「夏場だけは夕方走るとか。」
 「朝走るほうが気持ちいいじゃないか。」

夕方や夜に走る人ってのはね、
仕事で時間が取れないから已を得ずそうしているだけなんだよと。
だったら朝だと都合が悪いブッダも
今だけそっちへ習えすりゃあいいのにと思ったらしいイエスだったのへ、
そりゃあすっぱりと応じたけれど、

 「〜〜〜。」

玄関から出ることへさえ、特別な気合い入れがいるらしいから、
どれほど鬱陶しいことであるのやらも知れる。
玄関を見渡せる位置の窓辺、腰高窓の桟へと腰掛け、
大変だねぇと完全に他人事という構えで見ているイエスへ。
ふと振り返って来たブッダ様、

 「そういや、イエスはこれに関しては助けてくれないんだね。」
 「えー?」

だからこっちからの対処は言ったじゃない。
そうじゃなくて、一緒に出てくれるとか…

 「そいで、君の楯になれってかい?」
 「〜〜〜。//////」

やれと言うなら構わないけどと言い出しかねないヨシュア様だったのへ、
そんな格好の助けを得てまでするようなことじゃなしと
さすがにかぶりを振ったブッダであり。
むむうと不満げな顔だけは崩せない彼だったの、
さすがに見かねたものだろか。
窓辺から立ち上がったイエス様、
ひょこひょこっと歩み寄って来て、
柔らかな線を描く双肩それぞれへと手を載せる。

 「じゃあさ、こういうのはどうだろう。」
 「???」

小首をかしげる相方様へ、

 「わたしが毎朝“行ってらっしゃい”のキスをしてあげる。そうしたら…」

 「………っ!!!////////」

螺髪も白毫も解けるから、
誰だか判らない姿で出掛けられるじゃないのと、
要らんことを言って、
再び“タオルで口ふさぎの刑”を受けてしまったのは
言うまでもなかったりするのであった。




   〜Fine〜  13.07.19.


  *拍手お礼、やっと置けましたvv
   本篇の後日談の一つということで。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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