夕映えの下で
    *どのシリーズにも時系列や内容が微妙なお話なので、
     やや独立した“枝番”ということで。



日本のお盆(盂蘭盆会)には、
精霊馬といって、
キュウリやなすに足の代わりの割り箸をさして
動物に見立てたものを仏壇前に飾ります。
キュウリは馬で、ナスは牛。
精霊たちが乗って来るとされており、
実家へ戻って来るのへは馬に乗って少しでも早く、
冥府へ帰っていくのには牛に乗ってのんびりとという意味があるそうで。
はたまた、キュウリには本人、ナスには荷物という説もあるらしい。
荷物って何だろう…。

 「食べたものまで
  経費で落とせることにしてもらって良かったね。」

解釈的には微妙かも知れぬが、
飾った物だとて捨てはせずの食べて供養するのなら、
方法論的には一緒だろうと。
天界で経理を担っておいでのアナンダが
考慮してくれたお陰様、
夏の食生活にもゆとりが出来た聖家で。

 「そうだね。それにこの時期のナスって旬で甘いしvv」

 いやいや、そこはブッダのお料理の腕でしょう。
 そんなことは…。//////

 「だってわたし、
  ナスといったらラタトゥユくらいしか知らなかったもの。」

なぁんてことを言い出すイエスなのへ、

 “いやいや、結構使われてたはずですよ。”

グラタンとかパスタとか、
ラタトゥユ以外の欧州料理にも使いますものねぇ。
楽しいことにも素直な彼のこと、
食事に関心がなかった訳ではなかろうが、

 “さては細部までは覚えてないんだな”と、

調子のいいことを言ってとばかり、
イエスの幼いかわいさへ苦笑をこぼしたブッダだったが、

 「味噌で炒め煮たのも美味しいでしょ?
  そぼろと一緒にサッと炒めた辛いのもいいけど、
  私は少し煮た甘いほうも好きだなvv」

  ……おや。

ちなみに、本日の夕飯にと卓袱台へ上っていたのは、
ナスに ししとう、しいたけに、
カボチャに新のさつまいもを からりと揚げたテンプラで。
タマネギがとろとろに煮崩れる寸前まで
砂糖多めの甘辛味で煮込んだ 肉なし肉ジャガ、
玉子どうふに キュウリの土佐酢あえというラインナップが寄り添う、
相変わらずの野菜だらけなメニューだというに、

 「ブッダ、お代わりvv」
 「はいはいvv」

ご飯が進むなぁと、
いずれも旬の夏野菜の風味を
ほくほく喜んでおいでのイエスであるらしく。

 『あ、でもオクラは何かちょっと苦手。』

青臭いしネバネバが…と、
子供っぽい味覚なところも微妙に健在なのはさておくとして。

 「野菜で似せたのが通じるくらい、
  浄土にも動物は たくさんいるんだね。」

 「うん。地上にいる物はまずすべて網羅しているし、
  地上では瑞兆の使者とされてる生き物もいるからね。」

龍とか朱雀、鳳凰に麒麟とかと、
イエスへ新しくご飯をよそった茶碗を渡したその手で、
順々に指折り数えるブッダなのへ、

 「その全部が君に懐いてたんだってねvv」

暗殺のためにと薬で興奮状態にされて放たれた凶暴な象まで、
彼の前では平伏したというから、もはや懐くという域を越えている。
羨ましいのか微笑ましいのか、笑顔全開で訊いたイエスだというに、

 「いやまあ、それは そうなんだけど……。」

何となく言葉を濁すブッダであり。

 「何だい、相変わらずそれって不満なわけ?」

愛にはうるさい(?)キリスト教の開祖様が
ふうと息をつき、やれやれという口調になったのへ。
そのお髭の端にくっついていたテンプラのころもの欠片を
ひょいと手を延べ、取って差し上げつつ、

 「不満はなかったさ。」

そんな滅相もないとそこはあっさり否定で応じてから、

 「ただ、大型の彼らまで集まって来ては、
  もはや私がどこにいるやら、
  天人たちには見つけるのが大変だったらしくって。」

沐浴にと瑠璃の泉水の底深くに沈めば 魚たちが集まり。
玻璃の木洩れ陽が明るい樹下にあっては、
居合わせた限りの陸上の生き物全てが 輪を描いて取り巻き。
見上げた天穹には、
存在感あふるる聖獣があまた飛び交う…ともなりゃあ。
その真ん中にいるのだろう彼を目視で見定めるのは
確かに容易ではなかったかも知れず。

 「…天女さんたちが音楽で君の心境を表し始めたのは、
  とりあえず そのせいじゃないの?」

 「やっぱりそうかなぁ。」

顔を見合わせ、だがすぐにも くすすと吹き出す。
そんな会話も美味しい、楽しい晩餐も済めば、
両手を合わせての、御馳走様とお粗末様を互いに言い合って。
食器を仲良く片付けての さて。
陽は沈んだが、まだまだ強気の暑気が垂れ込めるのへ、
もしかして外の方が風がある分 涼しいかもと、
もう銭湯へは行ったので、いわゆる夕涼みにと外へ出てみれば。
これを薄暮というものか、陽はないのに空もまだまだ明るい中で。
いくら明るいからといって、
用事もなく子供を外へ出させる家はここいらでは少ないか、
塾通いだろう、行き先のはっきりしている子供以外は
大人ばかりがのんびりと行き交う小道を、
じゃあ河川敷までと歩き始める。
時々生け垣を揺らす風があると言っても
それくらいでは払われぬ むんとする温気も同じほど居座っており。
蚊を払うのにと持ち出したウチワで扇いだぐらいじゃ、
なかなか涼しいとまではいかなくて。
河川敷までの途中、
線路の下をくぐる格好の、昼間でも薄暗い連絡道へと差しかかれば、

 「…あっ。こら、まだこんなところに居てっ。」

不意にブッダが声を高くし、
その語尾が消えぬ間にも何かの気配がさわさわと飛び立っていったので。

 「何なに? もしかしてお尻の重い子?」

肉体はもう無いというに、なかなか天界へ行かない存在がいたようで。
何と言っても釈迦如来はおっかないものか、
叱声に恐れをなし、慌てて一旦離れたらしい。

 「お盆だからって戻って来た子じゃあなかったの?」
 「そういう子は こんなややこしい場所には来ないよ。」

二人とも一応は言葉を選んだものの、
通りすがりのご婦人が やややとギョッとし、
螺髪のブッダを見て…そおと手を合わせたので、

 「…日が悪かったね。」
 「うん。」

顔を見合わせたそのまま、
どちらから言うともなく足早にトンネルへと駆け込んで。
そのまま駆け抜けようとしたその途中、
頭上を通過した列車の轟音に、
視野のみならず耳も塞がれておれば。

 「…。」
 「………え?」

肩に手を置いたから、何か話しかけた彼だったのか。
だが、聞き返した声さえあっさり摺り潰された、
それほどの轟音は結構長くて。
ともすれば自分たちまで塗り潰されそな、
そんな激しいノイズの只中で、
ふわり、肌身へまでと近寄って来た温みが……




 「…………イエス。
  せめて場所はわきまえてくれないと。/////」

 「え? 何の話?
  あっ、どうしたの、ブッダその髪は。」


足元までという半端ではない長さと、
濡れているかのような つややかさのあふれる豊かな直髪、はさりと揺らし。
連絡道の反対側から出て来たブッダは、
ちょっと見 まるきり別人のような風貌様相になっており。
しかも頬から耳からうなじから、
お風呂上がり以上に真っ赤なところから察するに、
耳も眸も利かなんだのをいいことに、
誰か様が良からぬ悪戯をしたらしく。

 「完全な棒読みで白々しい言い方しないっ

隙をつかれたことが口惜しいのもあってだろう、
恥ずかしいのみならず、お怒りもひとしおらしいブッダなのへ、

 「案じてのこと、叱ってくれるブッダへの
  誰かさんからのお礼のちうだったのかも知れないよ?」

あり得ない話を繰り出すイエスの反省のなさへと、
そのまま一気に噴火なさるか、
はたまた“そんなぁ///////”と
愛らしくも含羞みを深めるものかと思いきや。

 「………あ・そう。」 ( イム×3? )

じゃあそういうことにしちゃおうか?
それは清らかなバラの香りもしたんだけれど、
きっとそれに相応しい、それはそれは心根の麗しい存在が、
私を陰ながら見守っててくれているんだろうね。
ああ、そんな素敵な人がいるのなら、いっそ連れてって…

 「すみません、もうしません、ごめんなさい。」

その優しいラインも麗しい、ブッダ様の肩へと両手を置いて。
謝るからそんな、心臓と聖痕に悪いことを、
しかも体化して言い出さないでと、深々と頭を下げたイエスであり。

 「………本当に?////////」

 「ホントにホント。
  何ならこの冷や汗で、
  本音しか言えない私を
  シャツに呼び出して確かめてもいいです。」

そも、嘘はつき通せないイエスだと知っておりながら、
だのに、こうまで大胆にやり返したのは、

 恥ずかしかったんだからね、ホントに。///////
 うん、ごめん。
 それに、誰だか判らない人に〜されるのって怖いんだよ?
 うん。軽はずみでした。

イエスから翻弄されたことが判るまでの、ほんの数刻のことながら、
その得体の知れない翻弄に、心底怯えてしまったからに他ならず。
公言こそしてはないけど、それも道理の当然ごととして
イエスにしか触れさせやしないと健気に守っている唇を、
正体不明の何物かに蹂躙されたなんて。
貞淑なブッダにしてみれば、
頭上から天が降ってくるのに値するほどの衝撃なのであり。

 「そりゃあ、
  チクッとしたひげの感触で、
  すぐにイエスだって判ったけれど。////////」

 「…………え?///////」

ここまでは、仰せのとおりでございますと平謝りだったイエスだが。
許してあげるという意味もあってか、
ちょっとした譲歩から、
そんな言いようをしたブッダだったのへ、

 「ブッダ、それは危険だ。」

逆に、今度はイエスのほうが焦りを見せての言うことには。

 「今時の若いのは殆どこんな髭してるんだから。
  ジョニデにエグザイルにその他もろもろ、
  これが似合う男こそイケメン、みたいな、
  困った流行になってるほど、
  そこいらに幾らでもあふれているというのに。」

  ……ごもっとも。

 「それでも判るんだものしょうがないでしょ?」
 「よもや、比較対象になった体験があったって言うのかい?」
 「な…っ。////// 言うに事欠いてなんて事を〜〜〜っ


いい歳した聖人たちの そんな会話に呆れたか。
家路を急ぐカラスが かあぁと、
空の高みで何とも間延びした鳴き方をしてった、
夏の夕暮れのひとこまでした。





   〜Fine〜  13.08.15.


  *落ち着きがあるやらないのやら、
   最聖人といっても 人の歴史と同じほどの年齢だから、
   森羅万象を司るよな、他の神々との相対で言えば、
   まだまだずんと若いんじゃないのかな?
   それにしたって、
   かぐわしき…のブッダ様にしては なかなかに気が強いので、
   もちょっと年数が経っているものか設定ということで。
   そうか、案外と かかあ天下になるんだねぇ…。(笑)

  *この時期にこんなふざけた話を書いて罰が当たらないかしら。
   …と思ったので、
   拍手お礼にしようと書いたのですが、やめて普通のUPです。
   こんなことやってる暇があるなら、
   他の話の続きを書かんか。(ごもっとも)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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