雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

         〜追憶の中の内緒?篇

  “ウサギさんの忘れ物?”



 「うあぁあぁ、じーざぁすっ!」
 「な、何なに、どうしたの? イエス。」

何てこったい、おお神よ…という意味なんでしょうが、
ご本人がそれを叫ぶのは ちょっと理屈がおかしくないかい?と。
そういうご自身こそ“南無三”とたびたび口になさるのに、
そんな矛盾というか違和感というかへ ブッダ様が気づいたのは、だが
随分と後の 夕ご飯どきだったほどに。
さすがは悟りを開いたお方、
常に冷静で泰然となさっているはずの如来様が、
そうまで落ち着きを無くしてギョッとしたほどの、
唐突で素っ頓狂な雄叫びを上げたメシア様だったりし。
こうまでの驚きなり嘆きなりを示すほどなのだから、
天井から何か落ちてでも来たものか、
はたまた、あたっているコタツの発熱部分に脚を当て過ぎていて、
向こう脛に火傷でもしかかったのか。
どっちにしても一大事だと、

 「大丈夫? イエスっ。」

間の悪いことに、
夕飯の下ごしらえにと台所へ立っていったばかり。
そんなせいで すぐ傍には居合わせなんだブッダが、
それでも“私がついていながら”と焦りつつ、
ほんの数歩分さえ もどかしそうに、大急ぎで六畳間へ駆け戻る。
今日は久し振りのレベルでちょっぴり冷えるので、
天井板の隙間からツララでも落ちて来たのか、
それともやはり、コタツで脚に火傷を負ったのか。
だがだが、一度に両方はさすがに訊けないので、
とりあえず すぐの真横へ膝をつき、
本人にどこが痛いの?と詰め寄りかかれば、

 「ブッダ、御免っ!」
 「…………………………はい?」

どうしたの?と重ねて訊きかけたブッダよりも先んじて、
当のイエスが沈痛なお顔をこちらへ向けつつ、
急くような勢いで、そうと…謝って来るではないか。

 「え? え? えええっ?」

一瞬、わぁんっと泣きつかれたような気がしたのは、
そうなる頻度が高いがゆえの刷り込みというもの。
とはいえ、助けてと泣き出しかけている彼ではなし。
懐ろへ飛び込んで来るのではなく、
こちらの肩に手を置いて間隔を保っての
“ごめんなさい”と平謝りの図となっておいで。
すがりついての“ごめんなさい”じゃあないのは、
彼のプライドが ぎりぎりそれを許さないからだろうが、
そこまでの何が起きたのやら、
ブッダにはさっぱり判らない。
ご安心を、
ウォッチャーの皆さんもきっと
さっぱり判ってませんから。(そりゃそーだ)
とはいえ、

 「イエス? 何が“ごめんなさい”なの?」

ううう"と今頃、
しかも微妙に男泣きをしかかるヨシュア様なのへ。
よく判らないながら、それでも
とんでもない事態には違いないらしいとの目串を刺して。
落ち着かせねばというのを念頭に、
出来るだけ抑揚を押さえた訊きようで、
励ますように問いかけたところが。

 「2月20日は“夫婦円満の日”だったのに
  私ってば チェックし損ねてたの。」

 「……………………………………………はい?」

だってだって、今日のお出掛けを話した日だよ?と、
カレンダーをちゃんと見たのに、
なのにチェックし損ねてた自分だと、
そこをこうまで責めておいでの彼ならしく。

 「………イエス、それって。」
 「二月の今日は何の日ってゆうのを検索してたら、
  そうだってのが判ったの。」

今日は猫の日だからと、縁のある仔猫たちに会いにゆき、
もうすっかりと四肢も伸び、
大人っぽい姿になってたのへ感動しつつ、
ささみジャーキーをどうぞと進呈し、
小一時間ほど遊んでもらって帰って来た彼らであり。
イエスも知らなんだ、ブッダに教わった可愛い記念日。
記念日を語るなら もっといろいろ押さえてなきゃと思ったか、
夕飯の支度にかかるブッダを見送りつつ、
例えば2月って他には?と検索したイエスだったらしい…というのが。
さすが聡明な如来様で、あっと言う間に推察出来たものの、

 「…あのね? イエス。」

さて此処で、何と言い諭せばいいものか。
そんな下らないことで この世の終わりみたいに大騒ぎしないのと、
大上段から叱るなんて、そんな冷淡なことは到底出来ぬ。
彼が慈愛の如来だからというだけじゃあなくて、

 “夫婦…か。////”

そんなワードから、
私たちに深く関わることだとイエスが思ったらしいのは明白で。

 “いやあの、えっとぉ…。///////////”

そんなかわいらしい心持ちから発した“ごめんなさい”を、
しかもこうまで深刻そうなのを、
そんな言い方で無下にするよな鬼にはなれぬ。
むしろ、

 “いやん、そんなのってvv///////////”

こっちこそ気づいてなかったんだから、
ごめんなさいは私もでしょうにと感じてしまった辺り…。

  こういうのも“リア充”ならではな感覚なんでしょかね?(う〜ん)

そうは言っても
このままイエスを落ち込ませたままには出来ないし。
それに、この手の記念日、
実は毎日のように何かしらかぶってもいることを知っている。
他でもない販促のための手段として申請されたものが結構あると、
それへと添うたキャンペーンという格好で
スーパーでようよう眸にするブッダ様としては、

 “この調子で細かくチェックするよになられても困るよね。”

イエスは何も知らぬままにチェックしたのだろうが、
このまま何でもかんでもと運ばれると、
まんま企業の思惑に乗ってしまうことにも成りかねぬ。
夫婦円満なんて いかにもな語呂合わせで、
何かあったから由来…とは到底思えませんものねぇ。(苦笑)

 そこでブッダが取った策はといえば。

勢い込んでた様子も萎えての、
しょんもりと肩を落として俯く愛しの君へ。
今度はこちらから、
お膝の上に力なく置かれた手を取ると、

 「あのね?
  私たちわざわざ意識しなくとも、
  あのその、円満でしょう?/////////」

円満なんてあらたまって口にすると、何か照れるなと思いつつ。
それでも言葉を尽くさねばと、ここは頑張る如来様であり。

 「そりゃあ時々は 波風も立つけれど。」

ささいなことでではあれ、イエスへのお説教の日になったり、
それからあのあの、私がひどく落ち込んじゃったりもしたけれど。
そっちはそのたびに、

 「イエスがそりゃあ真摯に私を宥めてくれるから、
  それで より一層…仲良しになれてるし。//////////」

言葉をつい選んでしまったブッダだったのは、
向かい合う愛する人の、
小首を傾げたやや頼りない姿が目に入ったから。
言葉を尽くして宥めてくれるときは
懐ろに入れてくれての、それは頼もしい彼なのに。
もう手遅れな事態への不安からだろう、
今にもきゅうんという甘い鼻声が聞こえて来そうな、
そんな愛らしくも切なげなお顔は反則でしょうと感じてしまい。
より一層 親密になれているしなんて、
ちょっと大人同士のような言い回しは つい控えてしまったほど。

 「お祝いしなくていいの? 私たち。」
 「うんvv」

深瑠璃の目許と緋色の口許をやさしくたわませ、
それはそれはまろやかに微笑う釈迦牟尼様。
だって、その日だけを特別にって意識しなくても、

 「どうかすると毎日記念日みたいなものでしょう?」
 「………あvv///////////」

あ・そっかそっかと、
何かしらのカルチャーショックでも感じたかのように、
若しくは何かに目覚めたように。
目からうろこというお顔になったイエスであり。

 「そっか。私たち、毎日が円満の日なんだvv」
 「そう、円満なのvv」

だからね、あのね?と言いかかるブッダの声にかぶさって、

 「うん、そうだねvv
  わざわざ1日だけを意識するのはおかしいんだね。」

やっとのこと、ふんわりしたいつもの笑顔に戻ったイエス様。
それでも、あのねと やや俯いての何か言いたいらしくって。
自分の左手へ重ねられたブッダの手…の袖口を、
左手で遠慮がちにちょいと掴むと、

 「あのね?
  私、自分では何にも出来ないもんだから、
  それでついつい焦っちゃってたの。」

 「いえす〜〜。////////」

何言ってるかな、君ほど頼りになる人はいないのにと。
遠慮がちな触れ方もかわいらしいのへ、
もうもうもうと こちらは焦れつつ。
塞がれた手はそのままに、身をちょみっと乗り出すと、
うつむき気味の伴侶様の頬へ、小さなキスを贈って差し上げたのでした。








そんなすったもんだから随分と経って、
重々落ち着いてののち、ほかほかと夕飯を囲みつつ、

 『でもね、イエス。
  私、そうまで記念日フリークじゃあないから。』

さっきも言ったけど特別な日じゃなくても、
私たち幸せでしょう?と、遠回しに注意をしつつ、

 “そういうのにこだわる人って、
  そういう気性が巡り巡って…
  壷とか印鑑とか つい買わされてるのかも知れないなぁ。”

何となくそんな気がしちゃった、釈迦牟尼様だったそうでございます。





    〜Fine〜  14.02.22.


  *うっかりと
   本家の拍手のお礼SSを交換し忘れていたお詫びです。
   これまた やっぱり、日付限定ものですかね?(笑)


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