雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

         〜追憶の中の内緒?篇

  “運とか言うかな”



嬉しいことではないながら、
それでもそれが毎年の常の運びだという
東北や北陸といった日本海側のみならず。
太平洋側の平野部までもが、
途轍もない吹雪や豪雪に 何度も襲われているこの冬であり。
しかも低気温が続いたため、
その積雪がなかなか解けてくれないものだから。
都内で孤立集落が出るわ、停電世帯も出るわ。
高速道路での立ち往生のせいで
物流にまで多大に影響するわした、
とんでもない二月だったりし。

 「雪に縁がないとは言わないけどさ。」
 「うん。シーズン内に1回は降るよね。」

とはいえ積もるほどの雪は、実は毎年の話じゃあなく。
よって、平野部の人々は こうまでの豪雪に慣れがなくて。
様々に翻弄され、それは大変な目に遭ったまま、
その暦も早や終盤へ差しかかろうとしている 二月如月。
何ともお騒がせな積雪の余波を報じるニュースが終わり、
平日の昼間だというに、
スポーツ中継を始めますよと伝える
CG構成のオープニングへと切り替われば。

 「お、ブッダっ始まるよ、早くっ。」
 「はいはい♪」

ちょっとお片付けにと台所へ立っていたブッダを
早く早くと慌てて呼び戻すイエスなのは、
見逃しては一大事なスポーツイベントの中継が始まるからで。
まだアナウンサーからの競技紹介の段階だろうにと、
そのくらいの段取りは判っておいでのブッダ様、
苦笑をしつつも呼ばれたそのまま、
手際良く淹れたミルクティーと、
作り置きしておいたのを仄かに温めた、
ジャムを挟んだソフト三笠とをコタツまで持ってゆく。
ただ今 北領で開催中の冬季五輪の中継は、
緯度の関係か、夜中の中継ばかりでもなくて。
二人揃って早寝の習慣がつきつつある聖家の二人だが、
だからこそ、昼の中継は出来るだけ観るようになってもいて。

 「今日は何?」
 「えっと、スノーボードのパラレル大回転だって。」

フラッグゲートを右へ左へ幅を取って据えた斜面を、
大きく蛇行しつつ滑り降りてく競技だそうで。
予選はタイムトライアルだったが、
そこから上位に残った顔触れは、
二人一組のトーナメント方式で対戦してゆく。
公平を帰すため、左右のコースそれぞれを交替してすべるので、
1つの対戦で2度すべることとなり。
まずはとすべった一回目でリードしても、
二回目で追いつかれの抜かれたら負けとなるので。

 「うあ、これはなかなか気を抜けないねぇ。」
 「うんうん。」

しかも、自前の足で平地を走る競技ではない。
滑ることが前提の競技であるがゆえ、
ちょっとしたことで 大きく転倒とかいう惨事にもなるものだから。
スプラッタと同じほど、実は痛い話なども苦手なイエスには、
直視しているだけでも心拍数が上がる競技が多いったらなくて。

 「フィギュアもね、
  何回転ジャンプとかいうのをするたびに、
  失敗して転ばないかが心配で心配で。」

言ってる傍から、
ボードの制御を誤り、転倒しかかる選手が出ると、
うわぁと眉をしかめてしまうメシア様なのをこそ、
大丈夫だからと励ますブッダ様であったりし。

 「そうだったね。
  男子のフィギュアは、翌日に結果が判って観ていても
  時々 顔を背けて、
  指の間からって観方をしていたキミだったものね。」

どんなホラー映画ですか、そりゃ。(う〜ん)
ところで、お二人は“外国人”であらせられるのだが。

 「ブッダはインドを応援するの?」
 「う〜ん、出てないってことはないんだろうけれど。」

なんて人が出ているものか、実は良く判らないしと苦笑する。

 「今 暮らしてるせいかな。日本の方が馴染み深いんだけど。」
 「だよねぇ。」

ちなみにイエス様だと
イスラエル? それともローマのあるイタリアかな?

 「私のいた頃はイタリアなんて国はなかったしねぇ。」
 「そうだったね。」

それ言ったらブッダ様だって、
存命期は群雄割拠時代じゃなかったですかね。
脱線はともかくとして。
競技の方はどんどんと進み、
二人が応援する日本代表の選手がトップのまま予選は終了。

 「でもでも、特別なシードってのはないんだよね。」
 「うん。
  強い人といきなり当たらないような
  配置にはされるようだけど。」

それでも優勝するには5回戦を戦い、
それぞれで2回ずつ滑るので、
都合10回もあの斜面を翔って来なければならないわけで。
体力や技術のみならず、スタミナも集中力も必要となってくる。

 「ああもう、
  最初に出した記録で順番に1位2位でいいじゃない。」
 「イエス、まだ最初の一組しか滑ってないってば。」

しかも男女交互と来て、
1本目でリードしていても 2本目の滑走までに間が空くものだから、
それを待つのがまた辛い。
すぐさま滑るのは息も切れてて大変だろうから、
このインターバルもまた選手には必要じゃああるのだろうけれど、

 「うう〜〜、次の組が早い数字を叩き出したらどうなるの?」
 「えっと、その人が次の対戦相手になる訳だから、」
 「うあ〜っ。」

そんなの苛酷だぁと、
頬を押さえて怖々という上目遣いになってしまう彼であり。
リア充を怖がる“インドア派”のイエスだが、
得意なスポーツがないワケではない。
ショムジョと卓球は結構こなす人だし、
何より自分から観たがってのこの観戦だのに、

 “我慢だって苦手って訳では……。”

苛酷な色々を乗り越え、
壮絶な環境下で布教活動していた人のはずだけど。
あれはあれで これはこれなのか、
はらはらしつつ画面を見やるお顔は 何とも悲壮で。
あまりの緊張からか、
口元へ寄せた手の指をがじりと咬むほど切なげな表情にもなるのが、

 “うああ、それはない。お願い、辞めて。///////”

ブッダ様としては、
接戦となった競技展開の緊張へは耐えられても、
すぐお隣りのイエス様の挙動の方が気になって仕方がないようで。
そんな二人が見守るうちにもトーナメントはどんどんと進み、

 ああ、ベスト4に残れたね
 うん凄かったね、よかったね♪

ブッダが思うに、
こちらのお嬢さんの滑走は何度観てもなかなかの安定ぶりで。
斜面の堅さがやや難物なようだが、
ボードの制御も今のところは問題なくて。

 次はいよいよメダル圏内だね。
 うううう、そうだね…でもあのあの、

 「あああ、何かもう観てらんないよぉ。」
 「そんなこと言ってないで、ほら応援しなきゃ。」

ダメだって、ブッダ覚えてない?
サッカーとか私が観てると点が入らなかったりするんだもんと。
いつの話ですかという、
過去の観戦記を持ち出してくるヨシュア様。
緊張するあまり、
どこか具合でも悪くなったのかというよな
それはそれは悲痛な顔付きになっておいでで。
そんな中、ゲートから飛び出した日本代表のお嬢さんなのへ
テレビからあふれる歓声も一際高まる。
ボードを自身の体の一部のように余裕で制御し、
果敢に斜面を攻めて攻めて、
ここでも爽快にゴールへ飛び込むと、
スリリングな対戦を勝利の笑顔で制してしまわれて。

 「やった、決勝へ進出だよ? イエス。」

快活にやったと喜ぶブッダの横で、
ほうと胸元を押さえているイエスの方はといえば、

 「ううう、もうこのまま二人で1位じゃダメ?」

なんて苦行だと言わんばかり、
今度は胃を押さえている彼であったりし。
戦いごとってやっぱ苦手だよぉと、
彼の教えで説いてる主旨とは明らかに意味合いが違う方向から、
そんなことまで言い出す始末。

 “もうもう、相変わらずなんだから。”

もしも万が一のひょっとして、
負けたりしたら気の毒だーと思うあまり。
僅差を競い合う競技は特に、直視出来ないイエスなのであり。
そうこうするうちにも、
三位決定戦の後、いよいよの決勝戦が始まって。
やはり男子の対戦と交互にとなるので、
1本目は優勢だったそのワクワクごと、
男子のほうの三位決定戦も挟まっての待たされてののち、
さあ2本目と相成って。

 フラッグをあと数個と残す終盤で、
 相手が盛り返して来たのへハラハラしておれば、
 ボードが斜面を掴み損ねたか、
 ザンッと横滑りしてしまったお嬢さんだったものだから…


 「やっぱり〜!」


今にも聖痕が開くんじゃないかというほど、
それは青ざめたお顔で見ていたイエス様。
何なら戸棚のパンを幾つか持たせておけば良かったかもと、
かなりの随分と後になって、こっそり思った誰か様だったほどに。(おいおい)
それはそれは悲壮な声を上げ、
茨の冠ごと頭を抱えて、コタツへ突っ伏してしまわれる。

 「私って運がないんだ、きっと。
  こういうの観てると、
  たいがい応援してるほうが負けちゃうんだもの〜っ。」

 「こらこら。キミがそんなこと言い出してどうするの。」

ですよねぇ。(苦笑)
それもどうかではありますが、
神様に勝たせてってお祈りしているサポーターの皆さんには
絶対に聞かせられない一言ですよ、それ。

 “そういう物差しはさておいても。”

ブッダ様にしてみれば、
こうやって“わ〜ん”と残念がるイエスというのへも、
そろそろ慣れが生じておいでであるらしく。
当初こそ一緒になって おろおろしもしたが、
それでは埒が明かないと、さすがに学習なされた模様。
丸くなった愛しい背中をよしよしと撫でてやり、

 「そうと言いつつ、
  懸賞運とか良いじゃないか、キミ。」

 「でもぉ…。」

何とか顔を上げ、涙目になって言い返そうとするイエスなのへ。
ほらほら泣かないのと、
目尻をそおと、暖かい指の腹で撫で上げてやり、

 「外で初めて食べるものとか、
  綿あめ以外はハズレたことないでしょう?」

 「そうだけど…。」

お膝の上でぎゅうと握られている、節の立ったこぶしを、
やわらかな手でポンポンと触れてから、
上から包み込んで差し上げて。

 「他にも良いこと、いっぱいあったじゃないの。
  さてはもう忘れちゃったのかな?」

 「う…ん。///////」

んん?と良い笑顔のままで、
ほら 何かなぁい?と、目顔で訊く構えを取っておれば。
まろやかに柔らかくて温かい、
そんな釈迦牟尼様の手に励まされたものか。
イエスの潤みかけてた玻璃の双眸が、
何度か瞬いてののち、あ…と何かを思いついたようであり。

 ほぉら、ちゃんとあったでしょ?
 運がないなんて思っちゃダメダメ、と

慈愛の輝きも目映いばかり、
愛するイエスのためだけという、
取って置きの笑顔を見せておいでの、ブッダ様をこそ目がけ、
わぁいという勢いで飛びつき抱きついたヨシュア様であり。

  ……………はい?/////////

ふわりと首っ玉を抱え込まれ、
そのまま ぎゅむと抱きしめられて。
うわ、いきなり幸せが転がり込んで来たと、
一瞬 思考がとろけかかったブッダ様。
だが、何が起点でこうなったかが判らない。

 「……いえす?////////」

ちらと視野に入ったテレビでも、
2位のお嬢さんが1位のお嬢さんと感動のハグをしておいで。
何か構図は似ていたが、こちらは…あのその、

 “うあ、どおしよぉ。////////”

なんかもう、何がどうでもよくなって来たぞと、
大好きな温みの懐ろに、固まったまんまで抱え込まれておれば、

 「うんっ。私ってば運が良いんだ、忘れてたっ。」
 「い、いえす?」

これ以上ないほどのツキだったから、
舞い上がったまんまでまだ降りて来れなくて気がつけなかったよと。
文学的なんだか、はちゃめちゃなんだかな言いようをし、

 「だからほらっ、
  ブッダと二人でバカンスしてるし、
  ブッダへの片想いだって実ったしっvv」

 「〜〜〜〜。////////」

何だヤダなぁ、私ったら運が良すぎ〜vvと。
満面の笑みになったイエスじゃああったれど。

  「……………ちょっと待ってよ、それって運なの?」

物申すしたいという人が約一名、手を挙げていて。
何とも居心地がいい ハグ状態は捨て難いものの、
今になって“運”についてを論じたくなったようでございます。


  竹内智香さん、銀メダル おめでとうございますvv
  寒さも吹っ飛ぶドキドキをいっぱい、どうもありがとうvv




     〜Fine〜  14.02.20.


  *実は私も、自分が観てると負けるからなんて思う派です。
   あと、足が悪いので 滑る関係も鬼門なため、
   今話のイエス様の観戦中の心情は、
   ほとんどわたしの気持ちそのままです、悪しからず。

   実際に戦ってる人たちの、
   それも、何百何千人から選ばれた人たちの 実力や努力が、
   たかだかテレビ越しに観ている
   たった一人の素人の機運なんかに
   左右されるはずはないんですがね。(そこまで言う…)

   ブッダ様のお言葉の通りで、
   きっと、負ける試合を見ちゃったという
   後味の悪さを経験したくなくて。
   そうなるかもという苦しい経過をどうしても我慢出来ずに、
   結果だけ判ればいいやと思って、中途で逃げてしまう人の
   苦し紛れの言い訳なんですよ、観ていると負ける…は。
   本人様こそ凄まじいプレッシャーに耐えてるのにね。
   だからこそ応援しなくちゃなのに、とんだチキンですいません。
   (でも、スノボは全部観たんですよ? 頑張った、私!)


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