キミとの春、ひたひたと 〜後日談

  “夢の中なら”



  まだまだ夜陰の感触は、つるんと冷たいそれだから…


それはそれは寒かった冬だったからこそ、
春の訪のいを待ちつつ、同時に花粉へも警戒していた 弥生の初め。
特に目覚ましいことなぞ起きずとも それが一番の幸いと、
最聖二人、相変わらずの睦まじさで日々を楽しく過ごしていたものが。

  思いがけない存在からの とんでもない急襲に遭ってしまって

福々しさこそ豊かさと安寧の象徴と主張する上つ方の命により、
天界からの招かれざる使者たちが
強引にブッダを豊満な姿へ変えんとしかかったのだが。
結果として、イエスの素晴らしいまでの反射行動に救われ、
ほんのひとしずくほどを浴びただけという
最小限の被害で済んだというに。

  それを“良かった良かった”で済まさず

いきなり頑ななお顔になってしまい、
僅かながらでも受け取らされたことが許せぬか、
ムキになってしまわれた釈迦牟尼様。
神通力を封じてまでという
あまりの傲慢さが腹に据えかねたものか、
本来からお持ちの頑迷さと負けん気がお顔を覗かせたらしくって。

 『どの天部の差し金かは知らないけれど、
  だからって、何でも通ると思ったら大間違いなんだから。』

 『そんなぁ…。』

それでなくとも生真面目な人だけに、
そんな彼の“許さない“と“曲げられない”の合体技には、
イエスの甘えんぼなぞ太刀打ち出来るはずもなく。
意識からして完全隔離状態の“行”に入った訳じゃあないものの、
睦みの供寝とそれから、
擦り寄ってのキスまでも 全面禁止とされた徹底ぶりへは。
愛する君からの隔離も同然な仕打ちとばかり、
ヨシュア様までもが やつれてしまいはしないかという、
ブルーな状況になりもして。

 いつまでも続くようなら大変と案じられたが、
 そんなこんなの沈鬱な日々も、
 やっとの何とか 3日と半日でおさらば出来て

良かった良かったと、
今度こそは手放しでイエスも喜んでくれて。

 『あ〜〜〜、ブッダだぁvv おかえりなさい〜vv』

その懐ろへと久方ぶりに迎え入れ、
総身を“ぎゅう”と掻い込んだそのまま、
やさしい感触やまろやかな温みへだろう、
ともすりゃ大仰な言いようまで飛び出した彼であり。
放り出してた訳じゃないぞ、人聞きの悪いと、
思わぬ言われようなのへ、
むうと憤慨しかかったブッダだったものの、

 「……。」

こちらへやや俯いている角度も久し振り。
軽く合わさった口許も、静かに上下する胸板も懐かしく。
同じ布団の中にいて、
こうまで間近にイエスの寝顔を眸に出来るのは、
確かに 何にも替え難いくらいに嬉しいことで。

  ああやっぱり いいお顔だよねvv
  気難しそうなのの一歩手前というか、
  何とも明晰透徹そう…というのは、
  さすがに ちょっと言い過ぎかなぁ。/////////

愛しくてならないお人ゆえ、
惚気の盛りすぎは もはやしょうがないとして。

 “……あ、頬っぺ くすぐったそう。/////////”

不揃いな髪の端が、
くりんとした癖のせいで薄い頬にかかっているのが見えて。
払ってやったほうがいいのかな、
でも、それで起こしてしまわぬかと、
そんなことをこそりと思うのもまた楽しい。

  夜が更けるのが待ち遠しかったのは、
  果たしてどちらだったやら。

そこまで狭いからというのでは勿論なくて、
布団はちゃんと、二組 並べて敷いているというに。
相手の匂いや肌の温み、
無意識な身じろぎや、
意識せねば拾えない静かな寝息といった、
シャツ越しながらも届くそれらが愛しくてならぬ。
想いの丈を通じ合わせてから、徐々に徐々に、
互いの生身としての存在を間近に感じていたくなり。
身を寄せ合うよになって眠るのが、もはや当然となっていて。

 “…安心したからかな。”

宵っ張りなイエスが早寝のブッダより先に寝つくなんて珍しい。
久方ぶりの愛しい存在の温みや感触へ、
やや照れながらも離れがたいと思う気持ちは同じであって。
他愛ないことを話しつつ、頬や髪へと触れ合って、
互いへの想いをどう汲み出せばいいのかと
言葉が見つからないじれったさを乗せ、
睦みの口づけを何度も交わして。

 「…。/////////」

ほんの少しほど ふくよかになってしまったこと、
ぎゅうと抱きしめたことで気づいたイエスだったものだから。
そうまでしなきゃあ判らないほどなのにと、
怪訝そうにしていた彼だったが、

 そうして欲しいと望む、唯一の相手だからこそ、
 勝手をされたこと、気づかれたのが堪えもしたのだし

むうと細い眉がしかめられたので、
頬にかかった髪、やっぱり退けてやろうとして、

 「……。」

そおと延ばした手、手前でつい止めるのはいつものこと。
起こしてしまう格好で、
悪戯だなぁと思われるのが恥ずかしいからか。
それとも、何をも求めてはならぬと説くこの身に、
強く染みついている何かがあって、今更のように引き留めるのか。

 “こうまで寄り添ってて、それこそ今更なのになぁ。////////”

身じろぎをすれば、同じ位置にある腰骨同士がすりと擦れるほど。
臑をまたぎかかられた爪先が少し冷たいのへ、
掛け布団の端っこ、めくれてるんじゃないのかなと案じるほど、
その身のほぼをくっつけ合っているのにね。
むしろ、懐ろだけは身じろぎに侭が利くほどで、
ひたりと寄り添うと見えなくなるお顔、
今はこっそり、飽かず眺めているブッダであり。
彫が深くて鋭角な作りのお顔だが、
生き生きと表情豊かな双眸を伏せただけで、
こうまで静謐な端正さを見せるのが不思議でならず。
ついつい じいと見上げてしまう如来様だったりし。
独り寝が よほどに寂しくて恋しかったものか、
こちらの肩や背を抱き込めていた双腕の輪も、
いつもよりぎゅうの度合いが強かった気もするが。
今はそれも やや緩み、
安堵しきってだろう、眠りの中にいるイエスで。

 「……。////////」

自分からはしがみつけない身としている私だから、
それで ついつい、もどかしく思うんだよと、
やさしく説いてくれたキミだけど。

  ねえ、気づいてる?

朗らかで人懐っこくて、温かい笑顔を惜しまない。
甘え上手なところに比例して、
思いの外、頼もしいキミなのは嬉しいけれど。
気持ちを包み隠さないままというのは 時に考えもので。
引け目があることなぞへ、
疚しさからか ちょっと上目遣いになってしまい、
ごにょりと甘える可愛さは反則だし、
他の人には見せないでと、切に思えてしょうがない。

 これってしっかり独占欲だよね?

私を守ると決めた想いそのまま、
稲妻に転変してなんて格好で飛び込んで来てくれたほどに、
本質は揺らがぬ 頼もしいイエスにしても。
私に触れたい気持ちと、それはいけないと戸惑う気持ちと、
両方からの鬩ぎ合いになってるときがあるんだよ?
さっき、やさしく撫でてくれた肩へ、
熱に眼差し潤ませて、
そのまま頬を当ててくれたのもそうでしょう?
互いを確かめ合うようだった口づけが、
もっともっとと求めるものになりつつあるし。

 もどかしいのは同んなじで、
 ずっと一緒にいようね、じゃなくて
 一緒でないといられない、に
 少しずつ なりかかっているのかも知れない

察しが悪くてごめんねと言いながら、
なのにこのごろ、こちらの想いや戸惑いを、
それは余さず感じ取ってくれるキミだけど

 「……。」

これにだけは、どうかどうか、
まだ もう少し、気づかぬままでいてねと。
聖画のように厳粛な無表情、
瞼が伏せられたままの愛しいお顔を見上げつつ、
白い手を そおと、イエスの胸元へと伏せる。
深瑠璃の双眸を仄かに細めると、
シャツの下、少し斜めになって提がってた
指輪の感触へ祈り込め。
そのまま、焦がれていた懐ろへ、うっとり眸を閉じ、頬伏せる。
窓の外、微かに風籟を響かせて、
春はまだだよと冷たい風が、地を撫でて通り過ぎてく春更夜。
やはりやはり臆病な自分、せめて夢の中でならと、
温かな笑顔を探しに微睡みの中へ、
逃げ込むように沈みゆくブッダ様であった。







     〜Fine〜  14.03.15


  *不器用カップルさんのための 10のお題の7番目、
   『夢の中なら』を お送りしましたvv
   あら、何かシリアスな流れになってしまいましたね。
   柄でもないことすると、後が続かんぞ、気をつけろ。(←誰へ?)
   つか、天女さんたちの襲撃を
   ギャグにするかシリアスに構えるか、
   ぎりぎりまで決めかねつつ書いてたんですよね。
   本編が何ぁんかグダグダしてたのは そんなせいです。
   主人公のお二人へも 申し訳ありません。(てへvv)
←おい

   猪突猛進、一気に書いて来て、
   気がつきゃ半年以上経った訳ですが。
   期間限定、ドリー夢オンリー、
   1年だけの浮気のつもりが これですから。
   最聖パワー恐るべし。(苦笑)

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