キミとならいつだって お出かけ日和

 

  “花王爛漫 らんらんらんvv



視野いっぱいに広がるのは、
それは豊かに満々とたたえらた花の群れ。
見上げれば天蓋となり、
見渡せば奥行き深くどこまでもを埋めているかのような、
そんな緋色の花の幕がそりゃあ見事に広がる此処は、
ここいらの住人の皆様から“大川”と呼ばれている川沿い、
なだらかな斜面に芝生が広がる河川敷の一角で。
土手の上のジョギングロード沿いにも
道の左右を挟み込むように並木が連なっているけれど、

 「あっちは先週末の大風と雨で、
  ほとんど吹き飛ばされちゃったからねぇ。」

無情の雨とはよく言ったもの。
彼岸を過ぎて勢いよく暖かくなったあおりを受けたかのように、
昨年に続いて随分と早い開花となったそのまんま、
あっと言う間にあちこちで満開となった都内の桜だったが。
そこへやって来たのが、
真冬への逆戻りを思わせるほど強烈な“寒の戻り”。
上野や皇居の周縁、
千鳥ヶ淵に隅田川沿いなどなど、
あちこちの名所でたわわに咲き誇っていた桜たちも、
雹まじりの冷たい雨や突風という容赦のない襲撃を受けてのこと、
せっかく満開となったばかりの盛りだというに、
無残にも叩き落とされ、吹き飛ばされてしまったという話だが、

 「此処は窪地になってるし、
  そのせいで開花が少し遅かった分、
  あの冷たい雨のさなかは
  花のつきようもまだ丈夫だったことが幸いしたんだろうねぇ。」

しかも今日は週の頭という平日なので、
いきなりBBQだのカラオケだの、
乾杯だ、一気飲みだのと大騒ぎしそうな若いのの姿もなく、
ママ友の集まりか幼い子供連れの女性ばかりの一団や、
ご家族連れだろう老夫婦とママと子供という顔触れか、
礼節わきまえた大人しそうな方々が、
先にいらしてたのが見受けられるばかり。

 「本当だ、ここいらはこれから見ごろなんだねぇ。」

大きめのレジャーシートを抱えて来た旦那に座る場所の選定を任せ、
まずはと辺りの見晴らしを堪能する、ちょいと婀娜な美貌の奥方へ、

 「かーたん、イエスとブッダが来たよ。」

そうと声を掛けながら土手の上を指差すのは、
幼子のまだ細い質の髪を左右に振り分けて結んだ女の子。
おーいと手を振るのへ、向こうの二人連れも気がついて、
お返しにと手を振り返しながら、
セメントの打ちっ放し、角が丸くなった古い石段を降りてくる。

 「愛子ちゃん、こんにちは。」
 「まだ“おはよー”だよぉ。」
 「あ、そっかぁ。」
 「静子さん、竜二さんは どしました?」
 「え? そこに…あれ? 何処行ったんだろうねぇ。」
 「旦那さんなら、何か飛ばされたのを追っかけてったよ。」

お煮染めを担当して下さった松田さんが、
ほれと指差した先には、
舎弟の一人が腰を掴んで支えている先、
茅の茂みの上へ引っ掛かっているスカーフだかランチョンマットだかを
棒で何とか取ろうと腕と身を延ばして頑張っておいでの
リーゼントのお兄さんが見えて。

 「…あ。」
 「私たちもお手伝いに行きましょう。」

身長もあるし、何なら腕の尋も半端なく延ばせるのでと。
アパートから抱えて来た結構な大きさの風呂敷包みをシートの端に置いて、
まだ柔らかい新芽が地面をすっかりと覆う芝生を踏み締め、
難儀の最中のそちらへと足早に向かった、最聖のお二人だったりする。




     ◇◇◇



有名な名所では、先の週末にほとんどが毟られてしまった桜だが、
案外と地元の穴場なんぞでは まだまだ健在な樹も多く。
こちらの河川敷の桜並木も、
土手に沿ったのはさすがに やや散り落ちて満開の影もなし状態だが、
その下へ向けて梢を長々と延ばしていたクチのや、
こちらに根付いて木立となっていた方は、
それは見事な満開のままであり。
重なり合うとシャーベットピンクに見える花の群れ、
梢の黒っぽい樹皮をも覆ってという分厚さ濃密さで、
咲きそろってのそれは艶やか。

 「奥まった方ではモクレンや桃、菜の花なんかも咲いてるから、
  写真を撮ったり絵を描いたりする人もおいででね。」

濃緋の桃と重なり合って、そりゃあ綺麗なんだよと、
今日のお花見の話をしていたところ、
じゃあ大きい重箱を貸したげようと言い出して下さったので、
何ならご一緒しませんかとお誘いした松田さんが、
さすがは詳しいところをご披露くださり。
レジャーシートの中に
丸めたところが張り付かないようにと挟まれていたスカーフを、
何とか川には嵌まらず回収出来た男衆が戻って来れば、
おむすびに巻き寿司、
山菜稲荷に煮染めに唐揚げ、
アナゴを巻いた卵焼きに、
ポテトサラダに牛肉の八幡巻き、
鷄の串焼きに、焼きサバなどなど、
豪華なお弁当が広げられており。
小学校の始業式は明後日だという愛子ちゃんと、
松田さんチのお孫さんも加わった、
結構な大所帯の一団は、
やや恐持ての男衆がいるにも関わらず、

 「ああほら、串は此処へまとめるんだよ。」
 「お嬢ちゃん、上手にエビを剥きなさるんねぇ。」
 「イエス、それは桜餅だから、
  お醤油つけたら変な味になっちゃうよ?」

要所要所をきっちり締める
“おっ母様属性”の方々が3人もいるお影様(笑)
お行儀もいいまま、さほど騒ぎ出すこともなく、
うららかな陽の下で、川風と桜をのどかに堪能しておいで。
大人は世間話で沸きもするが、
二人ほどいるお子様たちは、
すぐにもお腹が膨れての退屈になったか、

 「イエス、バドミントンしよう。」
 「あ、ボクも♪」

ねえねえと腕を引かれたロン毛のお兄さん、

 「よぉし、
  子供相手だとて、手加減はしないからね。」

なんて言い、
今日はTシャツにカーディガンの重ね着という恰好の、
その袖をわざとらしくも腕まくりしつつ、立ってゆくのもまた一興。

 「ほんに、イエスさんは子供に好かれるねぇ。」

保温ポットからそそいだ焙じ茶の風味に眸を細め、
ほうと深々とした吐息をつきながら、
松田さんが感心しきりと呟けば、

 「イエスさんも子供みたいなところがあるからねぇ。」

ピクニックセットらしいカラフルなプラスチックの食器を重ねつつ、
ふふんと静子さんが小さく微笑ってブッダを見やる。
聞き返さずともというありありと、
手を焼かされてんでしょうにという含みがあって、

 「ええまあ、そんなところでしょうか。」

褒められ半分な揶揄と判っていたけれど、
手が掛かるところさえ、実は楽しくてという惚気半分、
ふふと小さく微笑って返せば。
さすがにそんな深いところまでは読まれなんだか、
そうだろそうだろと、二人掛かりで頷かれてしまったが。(笑)

 「…あっ。」

そんな母親陣が見守っていたバドミントンだったが、
なかなかの拮抗状態、ラリーも上手に続いていたものが、
不意な川風に悪戯されたか、愛子ちゃんが打った羽根が妙に伸びて、
イエスの伸ばしたラケットよりはるかに高く外れてしまい、

 「ありゃ。」

ぽーんと飛んだ先、
ひときわたわわに花のついた桜が向かい合う
そんな隙間へと吸い込まれてしまったのが見えた。

 「わあ、ごめんなさい。」

自分の粗相だとラケットを抱きしめる愛子ちゃんへ、
気にしないでと微笑ったイエス、

 「取って来るからその間、…竜二さん。」

代わって下さいなとラケットを差し出せば、
ようがす お任せをと、妙に覇気を見せたものの、

 「とーたんは強いよ、がんばろーね?」
 「おお!」

即席のちびっ子コンビに“敵扱い”をされ、
そ、そう来るかと複雑そうなお顔になったのはここだけの話。(笑)
そして、そんな流れとなった成り行きを見やっていた顔触れの中、
何とはなし落ち着いていられなくなって立ち上がったのが、

 「おや、助っ人かい?」

静子さんに声を掛けられて曖昧に微笑ったブッダだったりし。
まさかとは思うが、
伸び盛りの下生えの中へ飛び込んだシャトルだけに、
イエスがなかなか見つけられない恐れも大きい…と思ってしまった辺り。
大天使たちの過保護をとやこう言えない釈迦牟尼様でもあるのだが、

 「イエス?」

樹木の間隔が狭いせいか、
この中へまで強引に踏み込んでの花見をと構える人はさすがにいなくって。
そうともなれば、手付かずのままな梢が重なり合った空間は、
もの言わぬ彼らの代わりのように、風が梢を揺らしてさわさわとたゆとう、
小さな、だが、存在感の厚い花たちが織り成した、
幻想的な夢幻の塒のようでもあって。

 “何処まで行ったんだろ。”

それほどの時差があったとも思えぬが、
とはいえ、大急ぎで駆けて来た訳でなし。
すぐには姿が見えぬのもしょうがなしかと、
狭い側の樹木の間を、
あまり踏み付けにはせぬようにと明るみ目指して歩みを進め、
木立の向こう側へまで通り抜ければ、

 “おっと…。”

木立のように居並ぶ桜たちの、
その端にあたる位置になろうこの辺りの樹々は、
陽辺りも良すぎてのこと
一等早くに咲き始めたらしく。
今はもはや散りどきか、ささやかな風にもはらはらとこぼれ落ち、
止めようもないままに散りそそぐその様は、
それほど寂しい心持ちでなかろうと、
何やら胸を振り絞られるような、切なさや寂寥を呼び招き。
そんな印象で立ち去りがたい気分にしてしまい、
人をその場に心ごと縫い止めてしまう。

 “…あ。”

松田さんの言っていた桃の木が数本ほど植わっている境目に、
探しに来た当の人が立っており。
イエスと呼び掛かったブッダの声が ふと断たれたのは、
その姿に見ほれたからだ。

 “ああ…。///////”

手前には桃が、その奥向きには白木蓮が咲き競い、
どちらも今が見ごろの花々、
こうやって重なって堪能出来るよに、
誰かは知らぬが植えた人は工夫を凝らしたのに違いなく。
だがだが、そんな自然の成した競演以上の嫋やかな見栄えになろうとは、
そのお人も思わなかったに違いない。

  だって、今はそこに光の和子が立っているのだもの

何をと働きかけているわけじゃあない。
彼もまた、こんな外れに思わぬ空間があって、
桃や木蓮という趣きの違う花があったのに、おおと驚いて見入っているだけ。
ただ、ブッダには見慣れて来たそれ、
やや薄いが尋はある、そんな彼の背中へ、
ねえねえと親しげに擦り寄らんばかり、
周囲の花々がより麗しく咲き誇り、
樹木は樹木で、
やわらかな梢を伸ばしているのがようよう判る。

 “綺麗だなぁ…。////////”

真夏のそれのよな力強さはまだ足りぬ、
紗がかかったような淡い青空の下。
白に間近い淡い緋色の花々が、
これでもかというほどの厚みもて、
重なり合うことで織り成される空間の何と美しいこと。
真珠の光沢もつ絖絹のような、
厚みがあってしっとりと手触りのいい練り絹のような、
そんな風合いを 触れもさせずに感じさせ。
瑞々しくもそれは奥深い印象をはらみ、
人の視線をぐいぐいと吸い寄せてやまぬその佇まいは、
月の下ではそれは妖冶な蠱惑をまとい、
寄り来た者を帰さぬとの伝承も多々あるとか。

 “そこまでの妖しさはないのだけれど。”

光から生まれたとされる天乃国の存在、
しかも神の和子だけに、
そんなイエスには 人ばかりではなく、
こういった樹木もそれは愛想よく擦り寄る傾向があって。
福音の奇跡で、薔薇が咲いたりブドウ酒が涌いたりするのも
そんなせいなのかも知れぬ。
長い腕伸ばし、自分へ伸びた梢の先と握手しかかってたイエスだったが、
背後に立ったこちらの気配に気づいたか、
肩越しにゆるりと振り向くと、やあと朗らかな笑みを見せた

  ……かに見えたその表情が、
  すうと、何処かへ吸い込まれるよに
  一瞬で萎えての消え去って。

 「? イエス?」

どうしたの?と問いかけかけた、ブッダのそんな声ごと、
大きな歩幅で歩み寄って来た彼の手が、
如来様の手首を掴み取っている。
しかも、そんな所作さえついでだったように、
そのまま流れるように歩き出す彼で、

 「どうしたの?」

もしかして私 お邪魔したのかなと訊いたブッダに、
それで気分を害したイエスなのかなと、そうと案じていることへ気がつき、

 「そうじゃないの。」

そこはさすがに“違う”と、素早く正したヨシュア様。
振り返っての応じとなったことで、あらためて向かい合ったブッダのその肩へ、
桜の花びらが乗っかっていたの、そおと手を延べ摘まみ取ると、

 “もうもう油断も隙もないんだから。”

ブッダがつい見ほれてしまったほど、周囲の樹木から慕われていたイエスだが。
それを言うなら、ブッダの側だとて同じこと…だったらしく。
彼の周囲の桜はもとより、すぐ傍らにあった茂みの沈丁花までもが、
もう花は終わったはずだろうに片っ端から咲き始め、
それは慕わしげに擦り寄りかけていたの、
目の当たりにしてしまったものだから。

 「あのね、この人はわたしのだって言っても、
  相手が花では届きはしないでしょ?」

 「え? ………えええ?/////////」

何がどうしてそうなるの?とか、
それは君の方でしょうがとか、
何やら言いつのってたブッダなようだが。
イエスとしてはそれどころじゃないらしく、

 夜桜もまた綺麗なんだって、
 それを観に、また来ればいいでしょう?

だから今は此処から離れた離れたと。
大好きなお人を独占したいこと、
これ以上判りやすい法はなしな行動で示して見せるヨシュア様であり。

 「えっとぉ…。//////」

思ってもみなかったどんでん返し。
こんな形の焼きもちだなんて、熱烈な告白も同然じゃないのと。
真っ赤になってしまうブッダ様。
やはりやはり相変わらずで、
幸せの爆弾や無自覚な地雷を、
互いに投じ合っちゃう お二人であるようでございます。




  ● おまけ ●


陽光の降りそそぐ河原が見通せるところまで戻って来、
愛子ちゃんがおーいと手を振るのへ振り返しつつ、

 「ねえ、ブッダ。」

イエスが傍らの恋人様へ声だけで囁いて来る。

 「…なぁに?」

まだ繋いだままだった手に気がついて、
指を延ばせば、彼の側からもあっさり離してくれたけど、

 「このごろ、ブッダってキスに動じなくなったよね。」
 「…なっ。////////」

視野の中に皆さんがいるほどの距離感は、
こういう話には微妙だと思うらしいブッダが ギョッとしておれば。
イエスにはそうでもないものか、
そのまま言葉を紡ぎ続けての曰く、

 「何ていうかサ、気持ちいいからかなぁ」
 「〜〜??////////」

何それ、どういうこと?と、
真っ赤になったまま、
声も出ないか、いやさ何を訊いていいやら言葉が出ないか、
大きく見張られた視線だけで
“何で何で”と矢のように訊いて来るブッダなのへ。
ありゃまあと こちらも目を見張ってから、
やんわり苦笑をしたイエス、

 「だから。
  そこは私も同じなんだけど、
  触れるだけじゃ物足りないのか、
  合わさった唇をむにむにって動かすの、
  お返ししてくれるとこ…。///////」

皆まで言わさず、
慈悲深い柔らかな手のひらで
ぱふんと塞いだブッダ様だったのは
言うまでもなかったのでありました。





     〜Fine〜  14.04.07.


  *戻って来るまでの ほんのちょっとの間にも、
   一体何をしてたんだか。(笑)

   というわけで。
   明日はブッダ様のお誕生日なので
   取り急ぎお花見のお話を書いてみましたよ。
   今宵 夜桜を観に行こうと誘ったイエス様、
   日付が変わるのと同時におめでとうと囁くつもりかな?
   ああでも、
   そこまで遅い時間にお外に出てるのは、
   ブッダ様が咎めるかもですかね。


     生誕記念の小話は
こちらvv

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掲示板&拍手レス bbs ですvv


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