キミとならいつだって お出かけ日和

 

   “今日は何の日?”



今年もやや前倒しだったものが、
だが、それがための駆け足ではなく、
急な寒の戻り過ぎに無情にも毟られてしまい、
思わぬ早じまいとなったのが東京の桜で。
GW並みとまで暖かくなったのが嘘だったかのように、
特に朝晩の冷えようが冬の数値へ逆戻りしてしまったものだから、

 『これだと当分は コタツもしまい込めないねぇ。』
 『…そうかなぁ。』

布団を掛けてる分だけ多めに場所を取るので、
実はとっとと片付けたいブッダとしては、

 『電気ストーブだけ出しとかない?』

暖かくなったねぇという話題のたび、そんな風に持ちかけるのだが。
卓袱台以上にゴロゴロしやすいアイテムだからか、
手放してしまうのは なかなか気が進まないらしいイエスが、
そのたびに“え〜?”という拒否反応を見せるのも相変わらずで。

 『まだまだもっと寒くなるかもしれないよ?』
 『いや、それはないと思うよ?』

とりあえず冬は去ったのだからと、
そこだけは なし崩しにさせる気はないブッダだが。
ちょっぴり立てたお膝をおおう布団に顎先を埋めたヨシュア様から、
だってぇと上目遣いでねだられたりすると、

 『う…。//////』

イケメンがそういう顔するのは反則だよォとばかりに、
しっかり たじろがされた末、
まんまと言いくるめられているのだから世話はなく。

 これも惚れた弱みという奴でしょうかねvv(苦笑)

そんなこんなで、
まだまだそう簡単に初夏とは行きまへんでぇとばかり、
花冷えだの余寒だのと呼ばれつつ、
腰の重い寒気が列島との名残りを惜しんでいる頃合いのとある日。
週の半ばまでは気温も低いままらしいという天気予報を観つつ、
とはいえ、お天気はいいらしいので、
今日こそは…と話を切り出し掛けたブッダの機先を制すよに、

  ♪♪♪♪〜♪♪

スマホのだろう着メロが流れ出す。
おやとカーディガンのポッケへ手をやったのがイエスのほうで、

 「はい。………ああ、アンデレかい? どうしたの?」

天界のイエスの弟子の一人からであったらしく、
ブッダも知らない名でなし、あらまあと口元へ手をやって、
切り出し掛けてたお声を引っ込める。

 「うん…、うん。
  ヨハネが? ……それは、でも……そうかい? じゃあ…。」

ちょっぴり込み入った話なのか、
細いめの眉を一度だけしかめてから、だが、
困ったような顔のまま、何へか“是”と頷いて見せたイエス様。
通話を終えると、はあと吐息をついて見せ、

 「ごめんブッダ、私これからちょっと出掛ける。」
 「誰か逢いに来るのかい?」

何なら此処で…と言いかかったブッダなのを、
ゆるゆるとかぶりを振って押し留め、

 「駄々をこねることで発散させてやんなきゃな子だから…。////」

そういうことだと広めるのも、あとあと恥ずかしがるかもという、
微妙にややこしくも繊細な次第への対処にゆくらしく。
聡明なブッダにはそれだけで簡単に通じるだろし、
何より…隠しごともなかろうと思ってのこと。
峰の細い鼻先をかりかりと掻いて見せつつ、
大雑把じゃあったが一応はと事情を明かせば、

 「判った。」

やさしい教祖様なんだからと、微笑ましげなお顔になって、
こっちからは何も訊かないよと短いお返事。
ツーカーな仲だからという以前のそれ、
踏み込んではいけない話だという融通を
あっさりと利かせてくれる彼なのが、
イエスには二重に安堵を誘う。
察しが悪いのと同じほど、婉曲な物言いが苦手なイエスなのを見越し、
多くを語らせないよう配慮してのこと、
皆まで言わさずの かぶせるような格好で、
ブッダの側がちゃんと了解しましたよという意を伝えてくれたのであり。

 “…ありがとね。”

甘やかしてくれたことへの嬉しさと含羞みと、
口許をうにむにとたわめ、混ぜ合わせて見せてから、

 「じゃあ、帰る前に連絡するから。」

コタツから立ち上がり、カーディガンからブルゾンへと上着を着直すと、
財布やハンカチ、スマホをブルゾンのポケットへ移しつつ、
遅くはならないように、でもでも ちゃんと言い諭して来るからねと、
せんせえのお顔になりながら、バタバタッとお出掛けしてったのが、
朝ご飯を食べて一息ついてた頃合いで。






 “ヨハネくんとか言ってたよな。
  だとしたら、ちょっとは掛かるかもしれない。”

もう七時にならんというのに、外はまだ明るいもんだなぁと。
見上げた窓の明るみに誘われるように、コタツから立ち上がり、
腰高窓から外を見やりつつ、窓ガラスのひやりとする感触におでこを馴染ませる。
住宅街の生活道路には そういう間合いか人影もなくて。
秋口や冬場ほど黄昏の茜も差さないのが春の夕暮れなので、
空の淡色からは、夕刻なのか曇天なのかも判然としなくって。

 「……。」

イエスが出掛けて居ない日は、
掃除や整頓を徹底的に手掛けたり、
高野豆腐でそぼろを作り置きしておいたりと、
さてと立ち上がって手をつけることが ブッダには結構あって。

  でもでも、
  彼のいない間にというのはズルイかなと、
  コタツを片付けるのは遠慮した。

静子さんから電話があって、
隣町のスーパーで醤油とサラダ油と上白糖の特売があるよと誘われ、
消費税還元以上のお値打ちだったお買い物にほくほくし。

  それと。
  イエスの好きなマカデミアナッツチョコ
  そちらはさほど値引きされてなかったけど、
  ついつい二箱も買っちゃった。

ちょっぴり遠出になったので、
帰りついたらもう、
夕飯の仕込みを始めていい頃合いになっており。
陽が落ちたら寒かろから、今日は茶わん蒸しを作ろう。
まだ戻らぬということは何か軽く食べてもいようから、
少しだけでもたくさんでも調節が利くようなものがいいな。
夕飯が少ないと、あとで夜食がほしくなるだろし、
うん、のり巻きにしようと決めて。
キュウリを板ずりし、高野豆腐をもどして、
かんぴょうと椎茸を煮て、厚焼き玉子を焼いて。
汁ものはそうめんを茹でて三つ葉を添えて にゅう麺にして
……という下ごしらえも、
お喋りの相手がいないと ずんと早く進むもの。
当人からして“ありゃま”と呆れたほど、
あっと言う間に済んでしまったものだから。
手持ち無沙汰になってたそのまま窓辺へ寄って、
その道を帰って来る人の影が差さぬものかと、
何とはなしに眺めやる。

 “…あんなに記念日フリークなんだのにね。”

出掛けてったのは急な事情からだからしょうがないとはいえ、
今の今まで何の連絡もないのは、ちょっと何だか…何だかで。
それに、出先のスーパーで出ていたPOPによれば、
今日は結構、イエスがチェックを入れそうな日でもあって。

 「…。///////」

いやあの、別に、
そういうのにあやかりたいとか思う柄ではないのだけれど。
ああでも何か、間がもたないというか、

 “…このくらいでも、寂しいと思うよになっちゃったんだなぁ。”

ほんの半日の別離で、
しかもさっきまで静子さんや愛子ちゃんも一緒だったのにね。
小一時間ほども、お喋りしつつお買い物を楽しんで、
今時のお総菜の話とか世間話とか、
居合わせた近所の奥さんも加わって、随分とにぎやかに過ごしたはずなのに。

 「……。」

おでこに触れてるガラスの冷たさも、
あっと言う間に馴染んでしまって もう感じない。
どこの人だか、自転車に乗った人がサッと通り過ぎただけで、
寒さのせいもあるものか、今宵は人影が本当に少なくて。
じわりじわりと宵の暗さが満ちるのか、
徐々にガラスが鏡のようになり、自分を写し出し始めてもいて。

 「   …………いえす。」

居ない人の名を口にすることほど、切なくも寂しいことはなく。
とはいえ、無意識にのそれでは止めようもなくて。
ついついと呟いてしまった、自分の声が紡いだ人の名に、
思うより胸の底が乾いていたのを感じ入りかけたのとほぼ同時、

 「なぁに?」
 「…っ!」

思わぬお返事が掛けられて。
え?と振り向けば、玄関ドアがバタンと閉じる音がする。
その響きが消えぬ間に、おととと焦るような声がし、
スニーカーを脱ぎ損ねたか、微妙な間が僅かほどあってから、

 「たっだいま、ブッダ。」

押し入れの横手へ、焦がれていた姿が現れて。
にゃは〜っと朗らかに微笑っておいでで。

 「え?え? あれ?」

電話が掛かって来なかったのはきっと、その間も惜しんで駈けて来たから。
だって鼻の頭が赤くなっているし、ちょっぴり息も弾んでる。
でもでも、結構ずっと見下ろしていたのにと、
もう一度 窓のほうを見やって見せれば、

 「あのね、JRで何か事故があったらしくて。
  出先から戻る方向のが不通になっちゃったの。」

代替バスが出てたのに乗って帰って来たんで、
いつもと方向が違ったのだそうで。

 「はい、お土産。」

ケーキだろう白い化粧箱を持ち上げて見せるイエスは、
ちょっと時間食っちゃったねごめんなさいと眉を下げたが、

 「で?」

お土産は流し台へ置き、ざっと手を洗うと、
そのまま六畳間まで上がって来つつ、そんな声を掛けて来る。
正直 何のことだか判らずに、え?とブッダが聞き返せば、

 「何か御用だったんでしょう?」

そりゃあ朗らかなまま、そんな風に聞き返すものだから、

 「…あ。いやあの、あれは…。///////」

あまりのタイミングにびっくりしたのと、
そも、何か意味のある呼びかけでも無かったのと。
そんなこんなという背景をまずは思い出し、
ああ何か情けないなぁと顔が赤らむ如来様だ。
幼子のお留守番じゃああるまいに、寂しかったもなかろうけれど、
でもでも、それが本心ゆえ、言い繕うにも言葉が出なくて。

 「なぁに?」
 「いやえっと、あのね?///////」

窓の桟に腰掛けてたところへまで歩みを進めて来たイエスは、
その窓ガラスへ肘とその先をとんと突くよにして置き、
ちょっと変則だったが、いつぞや言ってた“壁どん”に似た態勢。
そうまで間近からお顔を覗き込まれたブッダとしては、
生真面目さが出たものか、何とか何か絞り出そうと躍起になり、

 「あの…うん、早く逢いたいなぁって。////////」

嘘ではないものと、何とか応じたものの、
間近になったイエスの表情にあって、頬の火照りがますますと強まる。

 “な、なんでそんな…っ。///////”

やわらかな笑みが すうと濃くなり、
愛しくてたまらないという心持ちなのが伝わって来て。

 「私も、同じこと思ってた。////」

早く逢いたいなぁ、うんと甘やかしてあげたいなぁって、と。
内緒話みたいに囁く声は、低く掠れていて…なのに心地よく。
その響きの甘さが、直に触れた格好の耳元やそこに間近い肩先を、
内から撫でさすったような気がして、ぞくりという震えを誘う。

 「どうしたの?」
 「ううん。わ、私も同じように思っていたから。////////」

他には誰もいないというに、耳元で囁くイエスなのが、
常になく艶な雰囲気を醸しており。

 「じゃあ。」

くすすと微笑った気配があってから、

  どう甘やかしてほしい?
  …………え?

訊きながら少し視線を逸らしたのは、
片手で外した茨の冠、
ほいっとコタツの上へ目がけ、軽く放った目測のためか。
そうして空いた額を、ブッダの同じところへコツンと合わせ、

 「ねえ、どう甘えたかったの?」

淡い玻璃の双眸が、悪戯っぽく瞬く。
くっついた額と、まだ少しは離れてる頬や鼻先と。
なのに、同じくらいの熱で もうつながり合ってる感じがし、
彼が何か話すたびにその吐息が口許へ触れて、
その両方の熱のせいで くらくらと意識が躍る。

 「…ねえ。」
 「あのね、……。//////」

くっついたままの額を、こちらから尚すりすりと
甘えるように擦り付ければ。

 「こう?」

同じように、ついでに頬も掠めるほど深く、すりすりを返してくれて。
うんと頷けば、頬と頬を擦り寄せたイエスが、

 「こんなのはどう?」
 「あ…っ。//////」
 「…いやだった?」
 「〜〜〜違くて。//////」

息を引いてのその身も震えたのへ、
ああごめんごめん、調子に乗り過ぎたねと身を引けば、
ううんと急いでかぶりを振るのがまた可愛い。

 あの、あのね?
 うん。だいじょぶ、聞こえるよ?

恥ずかしいなら小さい声でも聞こえるよと、
窓ガラスへ触れてた腕を愛しき人の肩へと回す。
冷たいのは外側だから大丈夫と、お顔とお顔をますます近づければ、

 外から見えちゃうよぉ///////、なんて

か細い声が尚のこと掠れて。
さらりぱさんと、衣擦れのような微かな音とともに、
濃密な花蜜の香りがほんの間近でふわりと広がる。
絹糸のような深色の髪を肩に背中にまとわせて、
深瑠璃の瞳を潤ませ、含羞む如来様のすべらかな頬。
宝物のよに そおと撫でる、
光の和子の、御手の熱のまろやかさよ。

 「こやって掻い込んじゃってるし、
  何より、まだ明かりを灯してないからね。」

見ているのはきっと夜空だけ。
まさかに こんなことしてるとは誰も思わないよ、と。
アンズの香りのする麗しの想い人、
含羞みに真っ赤なその顔容の、一番甘い果肉のやわらかさ、
そおと じっくり堪能する、ヨシュア様だったりするのです。





     〜Fine〜  14.04.13.


  *何か言葉責めみたいになっちゃいましたが。
   (わざと言わせるのは ちょっと違うのかな?)う〜ん

   2日早かったですが、4月14日は“オレンジデー”だったので。
   イエスがお土産に買って来たのも
   オレンジのショートケーキか何かですよ、そこはちゃんとね?
   こちらはますますとホワイトデー以上にあやかり記念日で、
   ホワイトデーに、バレンタインデーに受けた告白のお返しをし、
   相思相愛となったカップルの日だそうで。
   オレンジ色の何かを持って相手の家を訪れ、
   愛を確かめ合いましょうということです。
   オレンジは欧州では結婚にまつわる花なので、
   ずんと親密なことにもってこいなんでしょね。

   (ちなみに、韓国では“ブラックデー”とするノリもあり、
    振られちゃった人が集まって
    黒いめん類をむさぼるイベントがあるんだとか。)

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