かぐわしきは 君の…
   〜香りと温みと、低められた声と。

 “もっとずっと”


もう八月に入ったというのに、
今年の日本の夏は いまだに足並みが揃わぬままであり。
東北や北陸では何とまだ梅雨が明けてはおらず、
それを言えば関東地方も、
途轍もない猛暑に襲われたかと思や、
雨催いのせいでか真夏日に届かぬ気温の日もあるランダムさ。
北日本と同じく“梅雨前線”の(やんちゃとも言える)影響で、
山口島根といった山陰地方は、
劇甚災害に認定されよう豪雨が延々と引き続き。
だというに、すぐお隣りの 瀬戸内を縁取る関西地方は、
酷暑から生み出された積乱雲による一時的な夕立ちこそ降るものの、
おはようからおやすみまで とにかく暑い日ばかりが順調に続いており。
蒸し暑い熱帯夜もちゃんと訪れるものだから、
おやすみは 持て余されたそのまま、
翌日のおはようへ ハイタッチ出来る勢いだったりもして。

 “今日は涼しい方だよな。”

陽が出ないと洗濯物がぱりっと乾かないのが難儀じゃあるが、
扇風機すらない六畳間は、
真夏日でも十分、猛暑日の鬱陶しさに満たされるので。
いっそ曇天の方が 歓迎的なお日和かもしれないと、
靴下や下着を吊るした小物干しを窓辺へ提げつつ実感してしまう。
数値がどうであれ、外気は到底涼しいとは言えないけれど、
湿度も随分と高そうではあるけれど、

 “真夏日ともなると、何もする気が起きないほどだもの。”

もっと凄まじい炎天下の中でじっと座禅を組んだこともあるけれど、
それとこれとは話が違う。
覚悟の苦行なら
“束になってどんと来い”と受けて立つ自信も気概もあるけれど。
安穏に過ごしたいとしている休息中に、
体内からもじわりと熱気が滲み出して来るよな容赦のない蒸し暑さを、
何が嬉しくてわざわざ享受せねばならないものか。
自分はまだ“苦行だと思えばスイッチ”があるからマシだが、(えー?)
何につけ 少々打たれ弱い傾向の強いイエスが、
暑いのへも寒いのへも何とも大変そうなのが ブッダとしては見ておれない。
朝も早よから 窓辺へまで蒸し暑さが押し寄せている日など、
お腹でも痛いのかと思わせるような苦々しい顔になっており。
それでも約束は守る主義なのでと、
ぱんぱんっとお顔を自分で叩ってから
行って来ます…と どこやらへかバイトへ出掛ける今日この頃。

 “前のおもちゃ屋さんではないのかなぁ。”

あまり立ち入って根掘り葉掘り訊くのも何なので、
彼の方から話を振って来たら訊こうと思っていたのだが、
1週間かと思いきや、もう2週目に突入しており。
新しいPCを自分で買う気になったのか、
いやいや それだと1カ月でも足りなかろうに、
10日間で終わりだみたいなことを言ってたような。

 “訊いた方が良かったのかな。”

何一つ訊きもしないなんて、
関心がないみたいだと誤解されちゃうかな。
そのためとまではブッダも知らなかった、
あの、石窯スチームオーブンの資金のためのバイトをしていた時は、
さすがに“内緒だ”という素振りを見せていたから、
こちらもそれへ合わせてのこと、
不審さには気づいていながらも素知らぬ振りをし続けていたけれど。
今回は“アルバイトだ”とだけは聞いているのだから、

 “何の?何処へ?くらい、訊いとくべきだったのかなぁ。”

暑くなる前の時間帯から 昼下がりと夕方の狭間くらい、と、
拘束時間も日によって違うらしく。
お昼は外でおむすびなり菓子パンなり食べているのだとか。
昼またぎならお弁当を作ろうかと言ったが、
この暑さでは傷むだろうからと遠慮されていて。

 『気持ちだけでいいよ、ありがとね。』

気遣いが嬉しいと言ってくれたし、
帰って来て食べる夕ごはんを
“やっぱりブッダのご飯が一番美味しい〜”と、
感激気味に褒めてくれるのも面映ゆいほど嬉しいけれど。

 “一人だと食べる気がしないんだよね。”

イエスが不在の昼は、
結局 ブッダもまた、菓子パンか素麺かで済ませている始末。
勿論、何もしないでいる彼ではなくて。
畳を上げてまでのそれとはいかぬが、
それでも“夏場の大掃除”とばかり、
徹底的に埃をほじくり出しの、桟から畳から磨き上げのと、
1DKの隅から隅まで、洗い上げる勢いで手を掛けたし。
気候が不安定だったのでと、
半袖、長袖、上着などなど、
いつもの夏以上にあれやこれやを着回しているの、
一掃して洗っての整理整頓し直したりもした。
冷蔵庫も消毒を兼ねて霜取りしたし、換気扇も網戸も洗った。
関西地方と違い、毎日一日中当たり前に晴れた訳ではなかったので、
洗濯などは1日で終わらなかったりもしたものの、
それでも10日はなかなかに長くて、

 「…今日は。」

困ったなぁ、とうとうすることが無くなったと、
きちんと片付いた部屋の真ん中に座ったまんま、
あちこち見回してみるブッダ様だったりし。
丁寧に磨いた窓からの光を受けて、
黄金のJr.も 生まれたてのようにそれはぴかぴかしているし、
その傍らに提がっているカーテンだって一昨日洗ったばかり。
電灯は笠ごと降ろして分解掃除したし、
それほど数もないスニーカーも昨日洗ってしまい、
くすませもせずという洗い上がりへ、
今朝方 履こうとしたイエスが
“新調したっけ?”とビックリしていたほどで。
押し入れダンスの奥の方に突っ込んでいた冬物の靴下も全部洗った、
今日は朝から布団も干してふかふかだ。

 「う〜ん。」

出張ハウスクリーニングとか、やってけるかも知れないなんて、
綺麗に仕上がったあちこちを見て、悦に入ってたのも昨日まで。
こういうことに不思議と目ざといイエスが
遺漏なくの全部褒めてくれたのも嬉しかったけれど。

 “その割に、
  お手製Tシャツにはまだ気がついていないらしいのが不思議だ。”

じゃあなくて。(苦笑)

 “ちょっと頑張り過ぎたかな。”

こういうときは明日の分を残しておく算段もしなきゃいけなかったかななんて、
自分に厳しいブッダ様、
さっそくにも失点をつけつつ、パタリと畳の上へ身を倒す。
朝のうちは陽も出ていたものが、今は仄かに曇りつつあり、
畳へ落ちる窓枠の影もぼんやりと曖昧。
そんなに暑くならないのは助かるけれど…と思う端から、
ああいかん、眠くなって来たと身を起こしかかる。
誰もいないからってそんな怠惰でどうするかと、
常の意識が働きかけたが、いやいや今は休暇中なんだし。

 『じゃあさ、河川敷まで出掛けてみよっか?』

今からなら川風も少しは涼しいかもしれないよと、
楽しいこと、すぐさま思いついてくれる“彼”がいないと、
一日って何て長いのかと思い知らされる。

 “イエスが居る 宵から朝までは変わらないのにね。”

むしろ あっと言う間に寝る時間が来るくらいで、何て早いかと思うほど。
あ、畳って結構気持ちいい。
イエスが夏に時々突っ伏しているのが判るなぁ。
あんまり“行儀が悪い”って叱らないでおこうかな。

 “今日は遅いのかな。”

そもそも何のためのバイトなのかなぁ…と、
考えないでいようとしていたことまで意識の裾をぐるぐるとし始めて。
ああいかんいかん、それはイエスのプライベイトで…と、
自分で自分を叱咤しかけたところで、
とろとろしていたブッダの意識がとうとう曖昧になってしまい……









何だか窮屈だなぁと思った。
肩や背中、腰の片側が少し痛い。
ああそっか、わたし、畳の上へじかに横になってたっけ。
少しうつ伏せになってたはずだけど、
いつもの癖でか、今は横臥の涅槃ポーズになってるみたい。
いや…それにしては腕の位置がおかしいな。
右腕を枕にするはずが、そうはなってないみたい。
じゃあ何が枕になっているのかと、薄く目を開けて見上げれば、

 「…起こしちゃったかな、ごめんね。」

見慣れたお顔がすぐの間近にあって。
こっちが目を開けたのは想定内だったか、
悪びれもしないでいるものだから、

 「君にまで
  これは涅槃とかじゃあないって言わなきゃならないのかい?」

Jr.ほど涼しい感触でもなかっただろにと続けたのは、
いつぞや金属の仏像という身の冷たさへ
喜々として へばりついて涼んだことを思い出したか。

 「それとも寝込みを襲う趣味でもあるのかい?」
 「おいおい。」

まだ少し眠いのもあってか、
くすすとはんなり笑いつつ訊いているブッダだったのへ。
そんな彼なのを愛でるように、
イエスもまた、玻璃玉のような澄んだ双眸をたわめつつ、
それはそれは柔らかく笑い返すと、

 「だってこういう隙だらけの時でもなけりゃ、
  ブッダへはそうそう ぎゅうって出来ないんだもの。」

 「???」

ぎゅうというのは ハグのこと。
まま、そうそう朝から晩までの
のべつまくなしにくっつき合ってる彼らではなし。
スキンシップが当たり前な、欧州文化に親しんでいるイエスはともかく、
ブッダの方は、戒律厳しき身への兼ね合いもあってのこと、
挨拶レベルでのそれらは
ちょっと遠慮させてほしいという及び腰なのは否めない…ものの。

 「出来ないってことはないだろう。」

横になってる体勢に逆らわず、畳の方へかくりと小首を傾げながら、

 「少なくとも日に1回は、ぎゅうして来る君のはずだよ?」
 「あ、数えててくれてたの?」
 「じゃあなくて。///////」

だあもう、何でそうも“ガイジン”気質を振り撒くかと、
表向きはそうとツッコミつつ。
それへ紛らわせ、話を逸らすのが上手な彼なのへ、
眠たいけれど そうそうはぐらかされないぞと、
イエスがまとう手近な布をきゅうと引っつかむ。
少し大きめだったTシャツをその手へ握り込めたブッダだったのへ、

 「そか、今日は…積極的さんか。」

だったらなお嬉しいやと口許ほころばせる彼であり。

 「???」

何が?何で?と、やはり意味を掴みかねておれば。
掴まれたシャツごと、その手をそおと捕まえたイエス、
シャツがめくれるのも厭わぬまま、すいと浮かせて自分の口許へ運び、
ブッダの指の節のところへそっと、
最初は頬を当て、それから続いて口許へと触れさせる。

 “…え?”

あれれ、これって何だっけ。
それは丁寧な所作であり、ブッダの手を宝物みたいに扱っている。
触れるだけという口づけを落としているのだが、
自分の手とシャツとで相手の口許が隠れている上、
まだ完全には目が覚め切っていないものか、
そんな所作への意味付けが、頭の中で追いついてないブッダであり。

 “何だろこれ、柔らかいのが触れてるなぁ。”

気持ちいいなぁ。
イエスの眸も何か笑ってる。楽しいのかなぁ。
このまま も一回 寝ちゃおうかなぁ。
あ、ちょっとチクチクするのも触った。これってイエスの髭かなぁ。





  「…………………………………………っ。////////」

  「あ、起きた?」

しっとりやわらかな乳白色のお顔の中、
深瑠璃色の双眸が かっと大きく見開かれ。
それは鋭い一喝にも似た その刮目に合わせて…だがだが、
螺髪の方はふわ・わさっと一気にほどけての、
横臥したブッダの姿を縁取るように、たわわにあふれ出している辺り。

 「手への ちうでも効くみたいだねvv」

にこにこと微笑っているばかりのイエスに引き換え、
その懐ろに掻い込まれたままでいた ブッダ様はといや。
深藍色の髪をすべらかにほどいてしまった身で、
ただただ真っ赤になっているばかり。

 「〜〜〜〜〜っ。/////////」

おはようございます、目覚めた人よ。(こらー)





     ◇◇◇



 「…だから。さっきの言いようはちょっとおかしくないかい?」

今日は割と早く上がれたヨシュア様だったらしくて。
ただいまとアパートへ戻って来たのは、ついさっきの三時前。
返事がないなと思ったその視野に、
横になってるブッダの姿が飛び込んで来たのには、
正直“何があったの”っと やや焦ったものの。
いやいや ここで浮足立っていては、
ブッダの涅槃がトラウマらしい アナンダくんと同類…と思ったのかどうか。
そおと上がって、ただうたた寝しているだけだと確かめ、
ほぉおと胸を撫で下ろしてから、さてさてと。
そうまで無防備な状態だったのをいいことに、
隙をつくにも程がある、
一緒に横になっての掻い込むようにこそりとハグしたその上、
軽やかなキスを 照れる間もなく振らせたイエスだった訳であり。
それが手の先、指へのものであれ、
恋慕の籠もった優しく甘いものだというの、
判らないほど朴念仁なブッダでなし。
集中が途切れ、螺髪が弾けたのはもう諦めたとして(いいのか諦めて)

 「そうそう ぎゅう出来ないなんて言いようはおかしいって。」
 「うん。ごめんね、いつも飛び上がってるものね、ブッダ。」
 「いつも、は言い過ぎだけど…。////////」

目覚めた以上、だらだら寝転んでの会話はさすがに御免だったか。
とはいえ、自分が先に がばぁっと起き上がるのは、
いかにも逃げ出すようでちょっと罪作りだし…と
まずはそうと思ってしまうところが惚れた弱み。

 そしてそして、

白皙の頬に仄かに朱を昇らせ、
びっくりした弾みもあってか やや潤んだ双眸にて、
じいと上目遣いに見上げて来られては、
何をどうというの、あっさり拾えたその上、
どうしてほしいんだい?なんて 焦らすなんてとんでもない…と
すぐさま従ってしまうのもまた、惚れた弱みの為せる技。
せーのと一緒に身を起こし、
その折、抱えた格好のままで起き上がったそのついで、
ちょっぴり萎えちゃった身を、イエスの懐ろへ凭れかけさせて。
ブッダが仕切り直しとばかりに訊いたのが、

 『だってこういう隙だらけの時でもなけりゃ、
  ブッダへはそうそう ぎゅうって出来ないんだもの。』

イエスがさっき口にしたこの一言の真意だ。
秘していたお互いへの想いを口にし、
もしかしたらばそれは、

 誰へも差別区別のない公平な慈愛をそそがねばならぬ、
 彼らそれぞれの崇高なる立場を、恣意を優先してないがしろにしたなと

きつく罰せられるかもしれない、
捨てよと強制されるやもしれない想いだというに。
失道するほど やわではないさと、
あまりに重い荷だが半分こしようよと、こっそり誓い合った二人でもあって。
それからは、
イエスから抱き着かれるのも そのまま掻い込まれるのも、
そおという優しいものであればあるほど、
ただの気分的高揚からのそれじゃあないと判って受け止めているし、

 「嫌がってなんかないし…。///////」
 「うん。それは伝わってるし嬉しいvv」

面と向かってはまだ言えないか、
視線がちろりろ揺らぐのを、可愛いなぁと見下ろして、
うんと頷いたイエスは、だが、

 「それでも、
  まだちょっと、肩が跳ねたりしてるでしょ?」

 「う……。///////」

いきなり慣れろという方が無理だもの、それは承知と。
ブッダが恥じ入る前に すんでの間合いで付け足してから、

 「ただ…さっきはね、
  緊張してないところを思うまま ぎゅうって出来たんで、
  嬉しくなってちょっと言い過ぎた。ごめんね。」

 「〜〜〜〜〜。/////////」

そっか・それじゃあ仕方がないかなとか どうとか。
ほどけた深色の髪の隙間から覗く白いお耳が、
真っ赤に染まったままで言うものだから。
うつむけばすぐにもお顔にかぶさる髪の陰でさえ、
頬の赤みは隠し切れてなかったから。

 “ああもう、何て可愛いんだかなぁ。////////”

ただただ堅苦しいお勉強一辺倒だった、秀才って身じゃあない。
世界には様々な苦しみや哀しみが満ちていることを知り、
そんな悲しみと向き合い、煩悩とも向き合い、
多くの苦行のみならず、幾つもの生という長い輪廻を経てののち、
涅槃という悟りの境地へ辿り着いた彼だもの。
情愛の深さや豊かさを知っているのと同じくらい、
恋心の愚かなところも拙いところもちゃんと知っているはずで。
だというに、高みに登って澄ましてしまわず、
むしろ翻弄されておいでなのが、何ともまあ可愛いことよと、
自分だってそれほど練達でもない ヨシュア様の、
この方面へ限っては(?)
清純無垢な胸元をきゅんとつついてやまないと来て。


  困った新婚カップルです、全くもうもう。(笑)


正座を崩した子供座りという落ち着きようのブッダを、
その胸板へと凭れかからせたままなイエスの手が、
周囲へさらさらとあふれて散ったままの髪をそおと掬い上げる。
いつものことだし、まるでそれもまたブッダの指先ででもあるかのごとく、
それは大事に扱うイエスなので、

 「…?」 「…vv」

目顔で“いい?”と問われると、うんとそのまま頷くのが習い。
つややかな髪がこうまで豊かに四方八方へと広がる図なんて、
それだけでも何とも幻想的な構図であるし、

 「…vv」 「…っ。////////」

綺麗だなぁ、君の心根の清らかさが出ているんだろうねなんて、
臆面もないお言いよう、耳元でぼそりと囁く誰かさんなものだから。
な、ななな何 言ってるかな君はと、
ブッダ様がそりゃあ判りやすくも真っ赤になってしまうのが
これまたお約束なのだけど。

 「何でそうも、歯が浮くような言いようが出来るかなぁ。///////」
 「えー? 本心からの言葉が出て来るだけなのに?」

恥ずかしくてたまりませんと、
もうもう視線を合わすのさえ大変か、
その代わりみたいに…降ろした髪ごと頬をぎゅうぎゅうと、
イエスの胸元へ押し付けるブッダなのへ。
ああこういうのも可愛いなぁと感じ入りつつ、

 「これでも足りないほどなんだよ?」

お顔を見せてとばかり、
自分からは向こう側になる頬にかかる髪を梳き上げてやり、
なだらかな肩へかかるようスルリと撫で上げれば。

 「??」

こうまで触れていては、今更 跳ね上がるのもおかしなこと。
少しは余裕も出来たものか、
それは素直にお顔を上げたブッダだったのへ。
おやとそれを見越しつつ、
でもでも気づかせぬようにと ふふんと微笑ったイエスが言うには、

 「昨日の今頃、
  わたしはこれ以上は無いほどに君が好きだったのに。
  なのに、今日は今日でもっと好きだと自覚してるんだ。」

朝起きて、おはようって微笑ってくれた君をもっと好きになって、
顔を洗ってたらタオルを差し出してくれたのへ
もっともっと好きになって。

 「今日は暑くならないそうだけど、ちゃんと水を飲むんだよって。
  出掛けに髪を直してくれた君だったのへも もっと好きになったし。」

 「それって…。/////」

うん、と大きく、大威張りで頷いて。

 「煩悩ってのは果てしが無いそうだけれど、
  好きっていう気持ちも同じほどだとは思わなんだ。」

それはあっさり けろりんと笑うものだから。

 「〜〜〜〜〜。/////////」

  あああ、何て屈託なく微笑うの君はっ。////////

本当なら それこそが煩悩だとツッコムところかも知れないけれど、
そんな冷静な対処なんてどうして出来ようものでしょかと。
無邪気で朗らかで怖いものなしでと、
ますますのこと、好いたらしいばかりな人となってくメシア様の
それは芳しい香りのする懐ろに頬を寄せれば。

 「…ブッダ。」

深みのある声と頬を撫でる手が、こっち見てと促して。
ちょっぴり身を起こしてその通りに従えば、
添えられた手の親指が、頬の縁、片側の目の縁をそろりと撫でて。
暖かな感触とそれから、
玻璃色の真摯な眼差しが見やって来るのとへ、
ああと気づいたそのまま、
それは素直に ゆっくりと瞼を伏せてしまう辺り……


  こちら様もまた、
  昨日より今日の方こそ いっぱい君が好きだとの自覚、
  間違いなく深めた、ブッダ様であったようでございます。


そんなお二人へ、日本に古くからある言い回しを捧げましょう。
あまりに深い恋情へ、
爪先からもはや首の丈まで浸かってしまって
抜けらりゃしませんという意味の言葉で、


  あたしゃ あんたに首ったけvv


 おそまつっ。






     〜Fine〜  13.08.02.


  *私、この“首ったけ”という言葉を、
   想いが腹の底からどんどんと溜まって溜まって、
   もはや隠し立て出来ない、叫ぶしか無いほどの丈まで、
   喉の際まで溜まっている状況のことかと思ってた時期がありまして。
   黙ってることが前提という、
   妙に禁忌なシチュエーションでしょうと思い込んでたなんて、
   一体どんだけ“なさぬ仲”フリークなのやら。
   (うそうそ、ハッピーエンド大好きの単純おばさんです・苦笑)

  *相変わらずのバカップル噺です、すいません。
   なんでこのクソ暑い時期に転んだかな、私。(う〜ん)
   秋冬だったら、
   問題なくの(ないか?)いちゃいちゃさせまくりなのにねぇ?
   関東、都内はこっちほど毎日の酷暑ではないそうなので、
   その隙間隙間のお話だということで……。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv


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