横浜市立大学教員組合から神奈川新聞社への手紙(200324)

2003年24

神奈川新聞社

社長 水木 初彦殿

報道部長殿

報道部 牧野 昌智殿

横浜市立大学教員組合

1月17日朝刊記事に関して

 

 1月17日貴社の朝刊が、その前日に開催された「市立大学の今後のあり方懇談会」(以下、「あり方懇」と略す)について、「横浜市大 累積赤字1141億円」「懇談会の座長私案『廃校も選択肢』」「病院の売却も視野」「3学部の統合など抜本策提示」といったややセンセーショナルな見出しを付して、1面および2面で大々的に報道されました。

 この報道について横浜市立大学の当事者の一人として、教員組合は2月3日の総会の議を経て、貴社に対して以下のような意思表明と要望をいたします。それに関連してこの間の横浜市立大学の実情をご理解いただくために、横浜市立大学教員組合の文書および関連資料をいくつか同封いたします。

 

[1] 報道は「あり方懇」での森谷氏の財務分析、橋爪座長の答申私案を鵜呑みにしたもので、市民に対して誤解を与えかねないものです。「市債残高」を「累積赤字」と誤記したのは措くとしまして、横浜市立大学の財務状況があたかも異常であるかのような印象を与え、「あり方懇」の橋爪座長の答申私案を後押しするかのようなスタンスが見受けられます。

 森谷氏が比較の対象として提示した私立大学(日本大学、東海大学、慶応大学)でも収支では赤字を出しています。森谷氏の資料では挙げていない国立大学や他の公立大学をもし例示したなら、恐らくほとんどすべての大学が赤字であり、横浜市立大学だけが異常だということには決してならないことでしょう。

 森谷氏や橋爪座長の議論は民間企業と同じ基準で大学の経営を評価するというたいへん乱暴なものです。もしその議論に従うなら、ほとんどすべての国立大学、公立大学、そして私立大学の一部も「廃校」が提案されるということになってしまいます。

 

[2] この報道が大学入試直前の時期になされたことの影響を憂慮します。たまたま「あり方懇」がこの時期に開催されたのであって貴社が意図したことでないことは承知していますが、大学入試を控える受験生たちに対する配慮があってしかるべきであったと考えます。少なくとも「あり方懇」の報告を鵜呑みにするのではなく、当事者である大学関係者に対しても取材する必要があったのではないでしょうか。

 

 [3] そもそも「あり方懇」が横浜市立大学の今後を議論する懇談会であるのに、横浜市立大学の当事者である横浜市立大学の教員および学生をまったく蚊帳の外に置いているのは問題であります。橋爪座長は自らの主張を権威づけるために「市民の理解」を多用しますが、この「あり方懇」には市民を代表するメンバーが加わっているのでもありません。こうした「あり方懇」の性格そのものが大きな問題であります。

大学教員のサイドでは将来構想委員会などで改革案づくりが行われており、学生たちの間でも「あり方懇」の独走に不安を覚える学生たちの集会が行われ、「あり方懇」メンバーへ手紙を送付しています。来る2月8日には、市大OBを中心に「市大の将来に期待する」というシンポジウムが開かれます。「あり方懇」側の情報だけでなく、「あり方懇」をめぐるこうした動きについても目配りをしていただきたかったと思います。

 

[4] 横浜市民に対して多大な影響力を持つマスメディアとしての貴社が、客観的かつ正確な報道を志すならば、「あり方懇」の報告を鵜呑みにするのではなく、事実関係を精査し、関連諸機関、人々などに広く取材して報道すべきであったと考えます。わたくしたちはこの点で貴社の報道が不十分であったということをたいへん遺憾に思います。

「あり方懇」の最終答申が来月中には出される予定になっており、貴社においても今後、これに関連した報道をされることと思います。その際にはこのような轍を踏まれることのないよう要望いたします。

 

その意味でも同封いたしました資料をぜひ参考にしていただきたく思います。私たちも横浜市民に理解され、愛される大学をめざして努力していきたいと思っています。

なおこの「意思表明と要望」について何らかのご回答をいただければ幸いです。

 最後になりましたが、貴社のご発展と一層のご活躍を祈念いたします。

 

同封資料:(1)組合ニュース2003年1月7日号

(2)組合ニュース2003年1月29日号

(3)「あり方懇」委員宛学生有志手紙

(4)2003年2月8日シンポジウムちらし