読売新聞東京本社社会部部長 菊池卓雄殿       2003421

     同     記者 古沢由紀子殿    横浜市立大学教員組合

 

読売新聞社への抗議と再質問

 

読売新聞47日付け記事「存亡の岐路に立つ大学」に関する横浜市立大学教員組合からの質問書(48日)への「回答」を拝受しました。「回答」は、横浜市立大学教員組合が事態の本質として提示したいわゆる「赤字問題」(教員組合の質問書)に関する質問への言及が全くなく、これを完全に回避した内容であり極めて遺憾です。

記事が、「数億円の負債を抱え」休校を余儀なくされた立志館大学を引き合いに出しつつ、これと同列の問題を横浜市立大学が抱え込んでいるかの予断を読者に与えるものとなっていることを教員組合は指摘しました。これに対して、「回答」は「立志館大学とは異なる性格の問題として取り上げたことを明確にしたつもりです」としています。確かに、記事は立志館大学が定員割れをおこしていること、他方、横浜市立大学の志願倍率が8.5倍であると指摘して異なっている一側面を指摘しながらその体裁を整えようとしています。

しかし記事は、両大学を例示しつつ、両者に共通する問題が存在するかのような印象を持つように読者を誘導することになっています。もし、両者を全く異なる個別的な問題として論じるとするならば、2つの大学を同時に引き合いに出す必然性は全くありません。別々の記事にすればすむことです。記事は、立志館大学と横浜市立大学をあえて並べて取り上げることによってある種の比較を行っております。比較には何がしかの共通の尺度が必要です。一方は、「数億円の負債を抱えた」立志館大学、他方は、「累積債務は約1140億円(2001年度)にのぼ」る横浜市立大学というという記述がこの役回りを演じております。問題の焦点はこのいわゆる「赤字問題」にあります。だからこそ教員組合は、48日付けの質問書において質問書全体の3分の2の分量を割いてこのいわゆる「赤字問題」に言及し、「累積債務」1140億円は横浜市立大学が出した赤字ではないことを指摘し、したがって、横浜市立大学の問題を「数億円の負債を抱え」休校を余儀なくされた立志館大学と同列には到底扱い得ないものであることを力説したのです。

しかし「回答」は、このいわゆる「赤字問題」には一切言及せず、これを完全に回避しています。これでは回答の体を全くなしていません。書面分量の3分の2に及びかつ明確に事態の本質の所在が読み取れるはずの質問書の決定的な論点、これを通常の報道に関わるプロであれば決して見落とすはずがありません。この問題に関して一切の言及がなされないという回答の仕方には、市民感覚からすると、ある種の作為性をも感じ取らずにはいられません。

以下に4月8日付けの教員組合の質問書においていわゆる「赤字問題」に関説した箇所を再録します。@「あり方懇」の指摘する1140億円の「累積債務」は、横浜市立大学の生み出した赤字であると貴紙は論定されるのか否か、明確に回答して下さい。前回の質問は、貴紙編集局長と社会部記者古沢由紀子氏両者への質問であるにも関わらず古沢由紀子記者からの回答はなんらなされていません。この点でも社会の公器としての責任を回避されないよう古沢由紀子記者も誠実にお答えください。さらに、A古沢由紀子記者に質問します。25日付で「あり方懇」の全委員にお届けした組合からの書簡のなかでのいわゆる「赤字問題」に関する組合の見解に関してどのように考えますか。

 

以下は、48日付け教員組合の質問書におけるいわゆる「赤字問題」に関する部分

 

また、「累積債務」1140億円が「市財政の大きな負担となっている」と述べていますが、このような表現では、横浜市立大学が高額の赤字を抱え込んでいると誤解されてしまいます。「あり方懇」答申のこのような理解の問題点に関してはすでに各方面からの批判が出ています。その実態は正確には横浜市がおもに大学病院建設や医療関連設備の整備のために市債を発行した残高が1140億円となっていることをさしています。病院や関連諸施設は横浜市民の貴重な資産となっているものです。したがって、この資産の存在を考慮するならば、横浜市立大学が赤字を抱え込んでいるかのように単純には評価できない性格のものです。

 また、記事は「市の一般会計から約120億円が繰り入れられている」という答申の表現を無批判的に論じていますが、教育が営利的な営みではないことにわずかでも想到できたならばこのような安易な表現は避けられたものと思います。大学運営における「設置者義務主義」が法律上明記され、すべての国公立大学で国や地方公共団体の繰入金が計上されていることは言うまでもありません。

 私たちは、横浜市立大学当事者を排除して学外者のみで構成された「あり方懇」がその見解を大学に強要することは、「教育は不当な支配に服することなく」と定めた、教育基本法第10条に抵触する恐れがあると考えます。しかも、市大自体が作り出した高額の赤字という誤った認識を前提として論じていることは極めて恣意的かつ操作的であると言わなければなりません。市大をめぐるこうした現在の状況に鑑み、今回の上記報道は、世論形成において甚大な否定的影響を与えるものです。上記報道は、貴紙が社会の公器であるとの認識に確固として立ち、関係各方面への慎重な事前調査が行われれば回避しえた性格のものです。

しかも、読売新聞は、あまたある各種報道機関のなかでも、「あり方懇」答申と横浜市立大学をめぐる諸問題に関して最もよく知りうる立場にあります。そのことを考えるにつけ、極めて重大な疑義を覚えるとともにある種の不自然さをも感じます。貴紙編集局は、貴紙編集局社会部記者の古沢由紀子氏が、「あり方懇」の7名のメンバーの一人であったことを当然ご承知のことと思います。古沢氏は、委員として関連資料を誠実に検討すべき公的立場にあり、教員組合が「あり方懇」委員に送付しました上記「赤字問題」批判を含む書簡をも受け取り検討されているはずです。

 

以上は48日付け教員組合の質問書におけるいわゆる「赤字問題」に関する記述

 

 

 

「回答」は、「記事は答申内容を客観的に伝えたものであり、『公正な報道という点において極めて重大な疑義』というご指摘は、当たらないかと考えます」と述べています(下線は教員組合)。必要不可欠な調査研究を踏まえた慎重な事実報道であってこそ公正を期しうるものと言わなければなりません。一方の見解を「客観的に」伝えれば社会の公器としての報道機関の使命は事足りるとするならば、報道のプロはこの社会には不要になると言っても過言ではありません。このような報道姿勢は社会からの批判に到底耐えうるものではありません。いわゆる「赤字問題」についての「あり方懇」の主張が正しいことを、貴紙が完全に論証し得ないならば事実関係についての公正な報道とは到底いえないと考えます。

本抗議・再質問は社会に公表することを付言します。

回答は、425日までに寄せられたい。