ようやく公開された『部外秘資料』と市長メッセージ『改学宣言』の欺瞞性

 

2003年5月14日  総合理学研究科 佐藤真彦

 

(「市民の会」ホームページ,「議論の広場BBS」No.243参照)

http://www8.big.or.jp/~y-shimin/wforum/wforum.cgi?mode=allread&no=243&page=0

 

 

今回の市長メッセージ『改学宣言』は,「市民の視点に立って,大胆な改革で生まれ変わろう!」「まず決めるのは,大学自身です」などのキャッチフレーズとレトリックにより巧妙に粉飾されているが,実際は,“独裁官僚”池田輝政氏(前横浜市立大学総務部長・理事,現泉区長)と基本的に同様の考えの持ち主と思われる中田 宏市長が,池田氏に指示・丸投げし,かつ,かねてよりの自らの“ブレイン”の中から「あり方懇」の主要メンバーとして,橋爪大三郎氏(東京工業大学教授)および森谷伊三男氏(公認会計士)をそれぞれ座長および財務分析担当委員として指名すると共に,大学改革戦略会議(幹事会)における池田氏の“生(なま)発言”を追認し,最終的に,これに学外の“有識者” (「あり方懇」)および学内の“叡智”(「大学改革戦略会議」)の検討を経たという“民主的”な擬装を施してオーソライズしたものである.

したがって,市長メッセージ『改学宣言』は,全国に悪名の高い『あり方懇答申』および“部外秘”扱いの“秘密文書”『市大改革の方向性』の内容を“示達=上位下達”した『“まやかし”宣言』である.

 

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5月8日付け神奈川新聞の第一面トップに,中田市長のメッセージ『改学宣言』の内容が掲載された.「横浜市大 大胆,サバイバル戦略」「独立法人視野に」「学内検討組織 3学部の再編も」という見出しの,9段抜きの派手な扱いである.

 

その中で記者の石川美邦氏は現在の状況を的確に分析し,“初めて公開された市大の大学改革戦略会議がまとめた討議資料『市大改革の方向性』を軸に,市長メッセージ『改学宣言』に呼応する形で小川恵一学長を長とする全学的新組織をつくり,『あり方懇答申』の指摘などの論点を整理し改革プランを策定する”という主旨の報道を行っている.

 

なお,記者発表用資料の市長メッセージ『改学宣言』http://www.yokohama-cu.ac.jp/daigakukaikaku/daigaku/daigaku_kaikaku/dk02.html には,「市民の視点に立って,大胆な改革で生まれ変わろう!」「まず決めるのは,大学自身です」などの“キャッチフレーズ”が,カラー強調の囲み付きで並んでいる.

 

ここで,市長メッセージ『改学宣言』とは,非常に分かりやすく言えば,@全国に悪名の高い『あり方懇答申』http://www.yokohama-cu.ac.jp/arikata/toushin.pdf ,および,A大学改革戦略会議の討議資料『市大改革の方向性』http://www.yokohama-cu.ac.jp/daigakukaikaku/daigaku/daigaku_kaikaku/dk04.html の枠組みの中で,大学自身が“自由に”お決め下さい,と“命令・通知”しているものである.@およびAの枠組みの中では,大学自身が“自由に”決めることのできる“重要事項”の余地など殆どまったくなく,このようなやり方は“まやかし”以外のなにものでもない.また,記者会見の席上で中田市長は,「受け入れられるような改革案がまとまらない場合,(私立大学への売却や廃校など)他の選択肢を考える」と発言をしている(毎日新聞03-5-8付;http://www.city.yokohama.jp/se/mayor/interview/2003/030507.html 参照)が,このような“恫喝的な”やり方は受け入れ難いものである.

 

ここで,わざわざ“命令・通知”と書いた理由は,4月に学内では「市長からの『示達』が5月の半ばにある」と予告されていたからである.なお,現在でも小川学長は,“学長怪文書”=『「あり方懇」答申に対する要望03-4-9』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/gakucho0349.pdf  を巡る,つい最近の『“はぐらかし”・“ピンボケ”回答03-5-12』http://www8.big.or.jp/~y-shimin/wforum/wforum.cgi?no=236&reno=210&oya=210&mode=msgview&page=20 の中において「“示達”を間近かにひかえ・・・」と“官僚用語”をためらうことなく使用して,何の矛盾も感じていないらしい(「市民の会」ホームページ「議論の広場BBS」記事No.205,206,236

http://www8.big.or.jp/~y-shimin/wforum/wforum.cgi?no=205&reno=no&oya=205&mode=msgview&page=30 

http://www8.big.or.jp/~y-shimin/wforum/wforum.cgi?no=206&reno=205&oya=205&mode=msgview&page=30 

http://www8.big.or.jp/~y-shimin/wforum/wforum.cgi?no=236&reno=210&oya=210&mode=msgview&page=20 参照).

 

ちなみに,岩波書店『広辞苑』(第5版)によれば,『示達』とは「上位者から下位者へ命令・通知を文書で示し達すること.官庁から国民へ文書で知らせること.また,その通知.」とある.どうやら,中田市長の手法のひとつは,学内向けには『示達』という“上位下達の命令・通知”を意味する“官僚用語”を用いるが,市民向けには『メッセージ』と言う“響きのよい”言葉を巧みに使い分ける類の“まやかし手法”であるらしい.

 

また,神奈川新聞記者の石川氏が“初めて公開された”と正しく指摘した上記の大学改革戦略会議の討議資料『市大改革の方向性』とは,実は,2月に個人的ホームページ上での“告発・公開”に対して小川学長が妨害(“言論弾圧事件”http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page041.html )しようとして失敗(“トカゲの尻尾切り事件”http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page055.html )した『部外秘資料1』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page038.html そのものである.ただし,この『部外秘資料1』が,そもそもなぜ“部外秘”扱いなのか,また,今回なぜ“部外秘”指定が解除されたのかについては,一切の説明がないままに,目立たぬ形でさりげなく,記者発表と同時に公式ホームページ上で公開されたという経緯がある.

 

しかも,すでに何度も指摘したことであるが(http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page036.html 参照),この『部外秘資料1』は,前横浜市大総務部長(現泉区長)の“独裁官僚”池田輝政氏による“生(なま)発言集”である『部外秘資料2』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page039.html を“市民向け”にソフトな表現で装ったものである.一方,このおおもとの『部外秘資料2』は,大学改革戦略会議(03-1-8)で正式に配布された(事務局にとって)最重要の公式文書(下記参照)であるにもかかわらず,依然として“部外秘”扱いの“秘密文書”のままとなっている.

 

“独裁官僚”池田氏の“生発言”は,つい最近においても,永岑三千輝氏が『公立大学はどうなる―横浜市立大学は公立大学民営化の「横浜モデル」か』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/nagaminekadensha030406.htm (独立行政法人反対首都圏ネットワークほか編,『国立大学はどうなる―国立大学法人法を徹底批判する』,花伝社,2003.5.15 http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/030501daigaku.jpg )の中で取り上げている.たとえば,『・・・つぎのような品性のない文言がちりばめられている.「教員は商品だ.商品が運営に口だして,商品の一部が運営のために時間を割くことは果たして教員のため,大学のためになるのか.」「教員はこの大学で何がしたいのか.専門職として生きていくならば,極端にいえば予算などに興味を持たなくていい.予算に興味をもつなら,責任を持ってもらいたい.」』,あるいは,『「定員を増やせば偏差値が下がる.そうすると推薦が来ない.定員を増やすのではなく,教員を半分にすればいい.」「教授会がごちゃごちゃいわなければ,すんなり決まる.その辺をはっきりするということだ.」』などなどである.

 

横浜市大改革のための(事務局にとって)最重要の公式文書である『部外秘資料2』のなかみが,このような“品性のない文言”のオンパレードでは,前・現事務局(高井祿郎事務局長,池田 前総務部長,中上 直 現総務部長)が公開をかたくなに拒否し,かつ,何故“部外秘”扱いにするのかを説明できないでいる理由も自明であろう.

 

しかも,平 智之氏の『第3回あり方懇傍聴記』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/taira021209.htm からも窺えるように,『あり方懇答申』は“独裁官僚”池田氏の“生発言”の意向に沿うように,橋爪大三郎東京工業大学教授(「あり方懇」座長)がまとめたものである.橋爪氏の“御用学者”・“似非学者”ぶりは,すでに,上記の平氏の文書に加えて,少なくとも,次の2つの文書(http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page035.html およびhttp://yoogi53.hp.infoseek.co.jp/essay266.htm )が徹底的に“論証”したところである.

 

『部外秘資料2』は,その冒頭で「今後、戦略会議が打ち出した改革の方向性の大枠の中で、各部局ごとに中期目標・中期計画(案)を検討してもらう。」とあるように,“市大改革”の枠組みを決定する(事務局にとって)根本的に重要な文書である.

 

また,奇妙なことに,『あり方懇答申』とそっくりの内容の文書を,「あり方懇」が発足(2002-9-3)する以前(2002年の夏)に,すでに事務局が用意していたという有力な“証言”がある.この“証言”は,『部外秘資料1,2』の作成に自らたずさわった大学改革戦略会議幹事会のあるメンバーによるもので,現在,教員の間では“知る人ぞ知る”ところとなっている.

 

ところで,今回“大学改革戦略会議の討議資料”として公開された『市大改革の方向性』=『部外秘資料1』は2003年1月8日付の文書であるにもかかわらず,その後の2月27日付文書『あり方懇答申』の「議論に対して,大学側はこう考えるという内容になっている」と神奈川新聞記者の石川氏も“苦しい”解説をせざるを得なかった(神奈川新聞5月8日付)のは,上記の経緯(すなわち,『あり方懇答申03-2-27』,および,『市大改革の方向性=部外秘資料1,03-1-8作成,03-5-7公開』の2つの文書はいずれも,“独裁官僚”池田氏の“生発言”が基になっているという経緯)があるからである.

 

またこれで,『あり方懇答申』とそっくりの内容の文書を,「あり方懇」発足の前に,事務局が何故用意できたのかもスッキリと説明できる.

 

したがって,今回の市長メッセージ『改学宣言』は,「市民の視点に立って,大胆な改革で生まれ変わろう!」「まず決めるのは,大学自身です」などのキャッチフレーズとレトリックにより巧妙に粉飾されているが,実際は,“独裁官僚”池田氏と基本的に同様の考えの持ち主と思われる中田市長が,池田氏に指示・丸投げし,かつ,かねてよりの自らの“ブレイン”の中から「あり方懇」の主要メンバーとして,橋爪氏および森谷伊三男氏(公認会計士)をそれぞれ座長および財務分析担当委員として指名すると共に,大学改革戦略会議(幹事会)における池田氏の“生発言”を追認し,最終的に,これに学外の“有識者” (「あり方懇」)および学内の“叡智”(「大学改革戦略会議」)の検討を経たという“民主的”な擬装を施してオーソライズしたものである.以上から,市長メッセージ『改学宣言』は,全国に悪名の高い『あり方懇答申』および“部外秘”扱いの“秘密文書”であった『市大改革の方向性』の内容を“示達=上位下達”した『“まやかし”宣言』であると断定せざるを得ない.

 

なお,市大事務局によると,5月の定例市議会に1500万円を計上し,@市民からのアンケート,A専門家を招いたシンポジウム,B授業料値上げによる経営改善効果の試算の専門家への依頼,などに充てるという(朝日新聞03-5-2)が,上記の経緯から推し量れば,事務局主導による調査結果がどのようなものになるのかは調査の前から明らかであろう.またもや,“まやかしアンケート”や“専門家のお墨付き”等の擬装を施してオーソライズするという税金の無駄使いになるだけではないのか.そもそも,市長メッセージ『改学宣言』の枠組みを拙速に決めた後で,(教員および卒業生・市民の反発の高まりを見て,あわてて)このような調査を行うこと自体がオカシイのではないのか.『改学宣言』にある“市民の視点に立つ”のなら,当然,順序を逆にしてゼロからやり直すべきであろう.

 

中田市長は,『情報公開の徹底』を公約の第一に掲げて当選し,『職員宛ダイレクトメッセージ「情報をオープンにすることから始めよう」02-6-17』の中で,『「情報の公開と提供」は,一歩進んで行政の側から積極的に情報を提供することまで含んで,政策の意思形成過程についてもできる限りお見せしましょうということです』と述べているが,市長メッセージ『改学宣言』にまつわるこのような“不透明さ”・“うさんくささ”をどのように説明する積りなのだろうか.(http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page036.html 参照)

 

中田市長によるこのような“まやかし手法”は,横浜市大だけでなく横浜市の他の組織(たとえば,市立病院http://www.siju.or.jp/kenkai/hospital.htm ,公立保育所http://www.siju.or.jp/kenkai/hoiku.htm など)に対しても用いられており,中田市政への批判の声が各所で噴出し始めている.また,「中田市政を考える会」(仮)準備会 http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page070.html や横浜市従業員労働組合 http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/nakatashisei.pdf などいくつかの団体からも,中田市政に対する根源的な疑問が出されている.

 

なお,中田市長が模範http://www.nakada.net/yokohama/book/book06.html とする新自由主義に基づく“ニュージーランドの実験”が完全な失敗であったことは,すでに広く知れ渡っていることである.この点に関しては,『内橋克人,ジェーン・ケルシーほか:「規制緩和何をもたらすか」―1997.9シンポジウム「規制緩和で幸せになれるか―ニュージーランドの経験に学ぶ」』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page065.html ,あるいは,『河内洋祐:草の根から見たニュージーランドの行政改革』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page069.html を参照されたい.

 

このように,早くもほころびの見え始めた中田市長による“横浜の実験”を,“横浜市大改革”を突破口にして『横浜から日本を変える』というスローガンのもとに強行することは,一方で“市民の求める”・“市民のための”・“市民と一緒に”などのキャッチフレーズ(http://www.nakada.net/yokohama/change.htm )で市民の人気獲得に成功したかに見える中田市長自身のためにもならないことを認識すべきであろう.

 

最後に,今回の市長メッセージ『改学宣言』を巡るドタバタ劇には,『2学部+1研究科の決議』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page105.html を完全に無視した形で,

 

@小川学長(『学長声明03-5-7 』 http://www.yokohama-cu.ac.jp/daigakukaikaku/daigaku/daigaku_kaikaku/dk00.html ;『記者会見03-5-7』:“私はその先頭に立つ.独立行政法人化は大学運営の自由度が増すと思う.サイレントマジョリティー(声なき多数派)をまとめて市大を再生させたい”,神奈川新聞03-5-8付),

 

それに遅れじとばかりの,A“有力3教授”,布施 勉・馬来国弼・小島謙一の各氏(『記者会見03-5-8』:“『あり方懇答申』も私たちが模索してきた改革方針とほぼ一致している.改革への賛同者がサイレント(沈黙)のマジョリティー(多数派)であってはならない”,神奈川新聞03-5-9付;「市民の会」ホームページhttp://www8.big.or.jp/~y-shimin/ 「市民の井戸端BBS」No.176“サイレントマジョリティー3教授立ち上がる”参照),

 

さらに,B中田市長の“ブレイン”の一人である南 学静岡文化芸術大学助教授・横浜市参与(『リレーエッセイ はま風』:“日本の公立大学は国際的に見ても非常に珍しい形態”,朝日新聞03-5-10付;「市民の会」ホームページ「議論の広場BBS」http://www8.big.or.jp/~y-shimin/wforum/wforum.cgi?mode=allread&no=230&page0参照),

 

の各氏による市長への『忠誠宣言』という,良識的な人々の失笑を恐らく買ったに違いない“おまけ”まで付いているが,これらの『忠誠宣言』のタイミングの余りの良さから,ハプニングが重なったとは到底考えられず,予め事務局の了解を得て周到に準備されたものと思われる.

 

なお,“ブレイン”南氏(および森谷氏)に関しては,平氏による研究http://www8.big.or.jp/~y-shimin/doc03/n-brain.pdf ,および,朝日新聞横浜支局宛抗議書簡http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page109.html を参照されたい.

 

以前に,『国公立大学独立行政法人化の行き着く先は,@“批判精神の欠如”,A“忠誠競争の激化”,および,B“しめつけの強化”という“大学の死”の到来にほかならないことを指摘』(http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page035.html )したことがあるが,現在の状況を客観的に見れば,横浜市大の“死に到る病”もこれらの“忠臣たち”が自らその正体を明かしたことにより,一段とはずみをつけられ,早くも末期的な症状を呈しているかの観がある.

 

本文書が,中田市政(とくに,中田市長および事務局主導による“横浜市大改革”や中田市長による“横浜の実験”)に対するさらなる“告発”・“批判”のきっかけとなり,大学内外に広く真実の情報が知れ渡り,やがて,権力関係から見て圧倒的に不利な現在の形勢を“大逆転”するという“奇蹟”が起こることを願ってやまない.