神沼 公三郎(北大):参議院文教科学委員会 傍聴記 文科省のウソがばれて審議ストップ(2003.6.11)

 

 

文科省のウソがばれて審議ストップ

 

神沼 公三郎(北大):

参議院文教科学委員会 傍聴記

文科省のウソがばれて審議ストップ

 

(独行法反対首都圏ネットワークより)

http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030611hokudaikaminuma.html

 

 


 

☆文科省のウソがばれて審議ストップ −参議院文教科学委員会 傍聴記− 
 . 2003年6月11日 神沼 公三郎(北大)

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 神沼 公三郎(北大)です。6月10日の参議院文教科学委員会を傍聴しましたので、
その雑感をまとめてみました。同日の審議ストップについてはすでに多くの情報が発
信されていますが、とにかく私の感じをお送りします。
 なお、内藤議員、桜井議員の質問には、ここに書いた点以外にも興味深い論点がた
くさんありましたが、私の都合により書くことができませんでした。


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文科省のウソがばれて審議ストップ
−参議院文教科学委員会 傍聴記−

 2003年06月10日の参議院文教科学委員会を傍聴した。同日は次の順序で質疑が行わ
れる予定だった。

  質問者       会派   時間帯    持ち時間
仲道 俊哉  議員   自保  10:00−11:00  60分
内藤 正光  議員   民主  11:00−12:00  60分
桜井 充   議員   民主  12:00−12:30  30分
<休憩>
草川 昭三  議員   公明  13:30−14:10  40分
林  紀子  議員   共産  14:10−14:50  40分
山本 正和  議員   国連  14:50−15:30  40分

 ところが3人目の桜井議員(民主)の質問に対する文科省の答弁に、黒を白といい
くるめるウソが含まれていることがわかり、審議がストップ。昼食休憩を挟んで同委
員会の理事懇談会が断続的に開かれたものの、ついに同日は審議再開に至らず散会に
なった。ウソまでついて国立大学の独法化を強引に進めようとしている文科省の醜態
が、全国から駆けつけたおよそ60人の傍聴者の前で明らかになった。

<「参考資料」の提出を指示したのかどうか>
 問題の桜井議員の質問は、文科省が昨年、各大学に中期目標・計画案を作成するよ
う指示し、各大学が膨大な労力を費やしてそれを作成した一連の事態に関連するもの。
今国会で法案が成立したら各大学は直ちに中期目標・計画案を文科省に提出すること
になっているのではないかと思われるが、文科省があらかじめ各大学に、提出に当た
っては部局等の中期目標・計画案も「参考資料」として同時提出するよう指示したの
かどうかについて、文科省側の答弁と、桜井議員が入手した文科省文書との食い違い
が問題になった。

 この日、遠山大臣、河村副大臣は、「参考資料」は文科大臣による提示・認可の対
象外資料として大学側の自主的な判断で文科省に提出してもらう、大学側がその「参
考資料」を提出したいというのであれば提出してもらう、いつ提出してほしいという
具体的な話しはしていないなどと答弁したが、桜井議員が入手した文科省の文書には、
「参考資料」は「文部科学大臣による提示・認可の対象外」だが、中期目標・計画案
の提出と同時に提出する旨、明記されている(注記)。桜井議員は文科省の国会答弁
と指示文書が全く食い違うので、これでは質問を続けられないとして、理事懇談会で
の対応を強く求めた。桜井議員から明白な証拠を突きつけられて、はしなくも文科省
答弁のウソが完全にばれてしまったのである。

 また同じ質問で桜井議員が、各大学が作成する中期目標・計画案はどの程度の内容
を書けばよいのかと聞くと文科省側はそんなに詳しいものではなくて良いと答えるが
(桜井議員のこの発言は、6月10日より以前の国会審議を指していると思われる)、
とある大学の知り合いに聞いたら、昨年10回も書き直しをさせられたという、いった
いどちらの主張が本当なのかと問いただしたが、文科省はまともな答弁ができなかっ
た。桜井議員の入手した文科省文書にはこと細かな指示項目が書かれているので、も
し文科省がこの質問に答弁しようとすると、またウソをつかなければならないことに
なる。

 桜井議員の質問に対する答弁をめぐって理事懇談会が開かれている最中に昼食休憩
となり、午後の再会予定時刻を過ぎても懇談会が断続的に続けられた。そして14時50
分になってついに委員長が、理事懇談会の協議がまとまらないので本日はこれにて散
会と宣言して、6月10日の文科委員会は終了した。

 終了後、野党議員がわれわれ傍聴者に説明したところでは、理事懇談会に出席した
文科省高等教育局長らは、同文科省文書を回収し、各大学に謝罪文を送付すると文科
省としての対応策を提示したが、野党理事は、各大学は実に膨大な時間を費やして中
期目標・計画案を作成したのにそのくらいの措置では話しにならないとして、文科省
の申し出を拒否したとのことである。実際、同文書を回収し、各大学に謝罪するぐら
いでは文科省にとって痛くもかゆくもない。各大学での中期目標・計画案作成の作業
じたいを無かったことにしなければ、文科省として真の謝罪にはならない。そもそも
文科省が昨年、各大学に中期目標・計画案の作成を指示した措置は何の法的根拠にも
基づかない脱法行為であり、国会軽視の行動である。この点は今国会における衆議院、
参議院の各文科委員会で何度となく追及され、そのたびに文科省は答弁不能に陥って
いたが、6月10日の審議ではこのような経緯を踏まえて桜井議員の鋭く、かつ具体的
な追及が爆発した感じである。

<総務省の大学評価は?>
 内藤議員(民主)の質問も大変に鋭く、論点としても非常に興味深いものが数多く
あった。
 総務省による大学の評価は、今国会の冒頭で早くも問題になった点である。内藤議
員は、文科省に設置される国立大学法人評価委員会が各大学法人を評価することにな
っているが、総務省も各大学法人を個別に評価するのかとたずねた。これに対して総
務省大臣官房審議官は、一度はそのとおりだと答弁したが、内藤議員が、それでは各
大学法人は2重のチェックを受けることになって行政手続きの簡素化とはほど遠いで
はないか、そもそもなぜ総務省が大学の評価を行うのだと声を荒げると、審議官は青
ざめた顔になり、総務省の評価はあくまで2次チェックに止まると、さきの答弁を訂
正した。また内藤議員は、総務省は文科省の国立大学法人評価委員会を評価するだけ
にとどめるべきだと主張し、同審議官はこれに同意を表明した。だが2重チェックか
2次チェックかの問題を含めて、実際に総務省の方針がどうなのか、重ねて厳しい国
会質問をお願いしたいところである。

<大学評価委員会の人数>
 内藤議員は、文科省内に設置される国立大学法人評価委員会の人数を質問したとこ
ろ、文科省高等教育局長は10数人程度を考えていると答弁した。

<天下りを否定しない文科省>
 内藤議員は、先行する独立行政法人の役員も中央省庁からの天下りが多く、社会問
題になっていると指摘し、国立大学の独法化に際して文科省は、特に監事の職に天下
りポストを獲得しようと考えているのではないかと質問した。これに対して文科省の
高等教育局長や総括審議官は天下りの可能性を否定しなかったが、河村副大臣は天下
りに関する国民の批判はよく認識しているとして、各大学法人における役員の人選は
まず大学の裁量にまかせるという趣旨の答弁をした。だがこの答弁も、天下りを完全
に否定したものとは言い難い。むしろ一定の手続きを経て、一定数の天下りポストを
必ず確保したいという意向の表現とも受け取れる。
 私は、文科省の天下りは監事だけではなく理事についても可能性があると思うが、
内藤議員はその点にはふれなかった。また内藤議員は、文科省天下りがあまり多くな
ければ問題はないという趣旨の発言をしたが、天下りは絶対に認めないと主張してほ
しいところである。

<授業料の金額を示さない文科省>
 内藤議員は、法人の大学における学生の授業料がどの程度の金額になるのかたずね
たが、文科省高等教育局長は2003年度概算要求手続きのなかで決まっていくだろうと
人ごとのような答弁をした。内藤議員が、そんな悠長なことでは法案の審議などでき
ない、目前に迫った2003年4月の問題なのだからいま金額を示せと迫ったが、遠山大
臣はいまはまだ言えないと答えるだけだった。

<このあとのスケジュール>
 今国会の会期末は6月18日なので、6月12日の定例文科委員会で採決しないと、法
案の成立はかなり難しいのではないだろうか。だが、採決してよいほどに審議は進ん
でいない。あるいは、与党が数の力で強引に採決を強行するか、会期を延長する可能
性もあると聞く。いずれにしても6月12日の委員会は6月10日以上に緊迫したものに
なろう。

<最後に>
 国立大学の独法化は文科省が無理に無理を重ねてつくりあげた空中楼閣であること
が、6月10日の事態でいよいよはっきりした。文科省は国会を軽視し、そのうえウソ
までつかなくてはならないほど追いつめられている。6月10日は、文科省官僚のいい
ようのない焦りを間近に見た感じである。


(注)この文科省文書は2002年12月10日の国大協第10回法人化特別委員会で文科省が
配布した「未定稿 国立大学法人(仮称)の中期目標・中期計画の項目等について
(案) 平成14年12月文部科学省」。このなかには、次のように細かな指示が書かれ
ている。桜井議員は以下の部分を紹介しつつ、文科省を厳しく追及した。

「4.様式・分量は、A4版横長用紙に横書き(10ポイント、1ページ40行、1行72
字=本資料の書式)で、現段階では1大学当たり概ね10〜20ページ・・・を一応の目
安としてください。

5.中期目標(案)・中期計画(案)のほか、その参考資料(文部科学大臣による提
示・認可の対象外)として、『学部等に固有の具体的事項』を作成し、中期目標(案)
・中期計画(案)の提出と同時に文部科学省に提出してください。内容は、・・・、
学部・研究科・附置研究所など各大学の基本的な教育研究組織ごとに固有のより具体
的な事項を記載してください。分量は、現段階では各組織ごとに5ページ以内を一応
の目安としてください。」
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