「市長をつぎの選挙で落とせばよい」に

割れんばかりの拍手

― 6月7日「市民の会」集会

井上ひさし氏 特別講演『都市の中の大学』 ―

 

2003年6月15日

総合理学研究科 佐藤真彦

 

 

6月7日の「市民の会」集会では,NHKの報道(首都圏ネットワーク「特集 どう進む公立大学改革,6月12日放映」が完全無視した井上ひさし氏の特別講演『都市の中の大学』とそのメッセージ「中田市長をつぎの選挙で落とせばよい」に対して,割れんばかりの大きな拍手が満員の客席から期せずしておこった.

 

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6月12日放映のNHK首都圏ネットワーク,「特集 どう進む公立大学改革」を見た.

 

6月7日の「市民の会」集会の一部始終をNHK横浜支局が熱心に取材していたので,楽しみにしていたが肩透かしをくらったような気分に陥った.

 

「市民の会」ホームページの「事務局だより」http://www8.big.or.jp/~y-shimin/index2.html では,集会の様子を『「長谷川代表が答申への疑問点を訴える場面、この改革は経済性に重点を置き研究教育の体制が今までと比べてよくなる保証が必ずしも見えてこない、と述べている場面が放映されました。また、「1141億円の負債」に対する横浜市と市民の会の考え方の相違点をまとめた表が提示され、最後に今後の大学改革のスケジュールをまとめた形での報道でした。』と述べているが,NHKの報道としては.両陣営のバランスに最大限の配慮をした結果なのかも知れない.

 

にもかかわらず,期待はずれの感を味わった最大の理由は,6月7日の集会における最重要の取材対象であったはずの井上ひさし氏とその特別講演『都市の中の大学』の内容に,何故か,全くふれることなく完全無視したからである.

 

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NHKの報道では,冒頭で,去る5月7日の市長メッセージ『改学宣言』のドタバタ劇http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/giman030514.htm の際に,小川学長を市庁舎に呼びつけて滔々とまくしたてている中田市長の顔が大写しにされた.

 

「大学が何もしなければ,このままではだめだよと言っているわけで.何もしないのだったら,こうするよと.要は,設置者(市長)としての意志を示しているわけで.・・・ていう風に何度も言ってきて,大学がしっかりと自分で考えるのも,それが基本なんだから.」

 

さらに,小川学長の卑屈そのものに映る態度とせりふが続いた.

 

「改革案の先頭に立って私がやりますので,まあ,何かまた,ぶっ倒れそうになりましたら,市長のお力をお借りしたいと思いますので,どうぞよろしくお願い致します.」

 

これでは,中田市長の言いなりの改革案,つまり,全国にその悪名を轟かせた『あり方懇答申』http://www.yokohama-cu.ac.jp/arikata/toushin.html 通りの改革案が出てくるのは目に見えている.

 

NHKの報道でも放映されたが,事務局が去る6月5日にわざわざ記者発表http://www.yokohama-cu.ac.jp/daigakukaikaku/daigaku/daigaku_kaikaku/project_r.pdf 

してプロパガンダに精を出し,また,市民アンケートとシンポジウム開催のために1500万円もの特別予算(血税)をつぎ込んでしゃにむに推進しようとしている“横浜市大改革計画『プロジェクトR』” http://www.yokohama-cu.ac.jp/daigakukaikaku/daigaku/daigaku_kaikaku/dk00.html の茶番劇をあくまでも演じ続けるつもりらしい.

 

事務局が“愛称”を募集して決めたと主張し,また,NHKの人気番組『プロジェクトX』のプラスイメージに“擬態”したと思われる『プロジェクトR』の正体は,その根拠となる秘密文書『部外秘資料』http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page036.html の存在とともに,その欺瞞的実体のすべてが,すでに,白日の下に赤裸々に暴露http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/giman030514.htm されているにもかかわらずである.

 

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ところで,井上氏の特別講演『都市の中の大学』の面白くてしかも深いその内容については,すでに荻原昭英氏が趣きのある文章で簡潔にまとめているhttp://yoogi53.hp.infoseek.co.jp/essay299.htm ので,ここでは無味乾燥となることを承知で,井上氏のメッセージの中から勝手に以下の3点を取り出して箇条書きにする.

 

(1)従来からのギルド(職人の同業組合)ではものの作り方・技術を教えるのに対して,自分たちが新しく創立した学生と教師の結合体・連合体であるウニベルシタス(ボローニャ大学の起源,井上氏は“大学団”と呼ぶことを提唱)では,なぜ約束や法律を守らねばならないのかなど,抽象的なものの考え方・概念・思想等を教える.つまり市民は,言論の自由・思想の自由・人権・平和・戦争とは何かなどを常に考えたりしていられないので,大学が市民にかわって考える.知りたいことがあれば大学に聞けばよい,困ったときに大学に相談する,そういう大学にならねばならない.

 

(2)大学も変わるべきだが,いちばん変わらなければならないのは市民.市民は立ち上がるべき.(橋爪大三郎氏のような)http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page035.html 外部からの学者に言いたいことを言われて黙っている市民とそういうことを言わせる市の両方が悪い.おかしなことを言う市長は,つぎの選挙で落とせばよい.

 

(3)ボローニャ大学のウンベルト・エーコが,後にノーベル文学賞を受賞することになる若き劇作家のダリオ・フォーを呼んで,自由な活動の場を提供することで,ボローニャ市が演劇で町おこしをしたように,市民に先行して市民のために考えるシンクタンクの学者集団がいないとダメ.これを手放しては歴史の汚点となる.たとえば,公立大学で初めての演劇学部を作るとよい.日本にはまだないから,今なら早い者勝ち.

 

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中でも,井上氏が休憩時間を利用して,フロアー最前列から呼びかけた(3)の「公立大学で初めての演劇学部を作るとよい.日本にはまだないから,今なら早い者勝ち.」という提言は,具体的でかつ斬新なアイデアであり,このような提言を真剣に聞く耳を大学首脳と市長は是非持って欲しいものだ.

 

また,(2)の「おかしなことを言う市長は,つぎの選挙で落とせばよい」では,500名近くの聴衆で埋め尽くされた満員の客席から割れんばかりの大きな拍手が期せずしておこった事実を,中田市長や小川学長はよく考えるべきである.これこそ,井上氏が真に伝えたかったメッセージの一つだろう.

 

ちなみに,ある卒業生は「私は毎日あの世で静かに眠っている諸先輩や同級生にこの事態と現状を報告しております.天国の皆さんからも怨嗟の声が私の耳に届いております.・・・政治家が一般人の声を無視して政治を行えば必ずその報いを受けることをお忘れなく!」http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page078.html と述べている.

 

また,「市民の会」集会を大成功に導いたパワーの源泉は,権力の横暴に抗議して立ち上がった草の根レベルの運動に共感して,全くの無報酬でエールを送ってくれた井上氏をはじめとする多くの良心的な知識人からの暖かい支援のほかに,一万数千人に上る卒業生や「市民の会」会員への案内状の送付など,2ヶ月間にわたる準備作業を献身的に行った卒業生・市民・学生を中心とする50名以上のボランティア集団の熱意を結集した力に負うところが大きい.

 

これらはすべて,「市民の会」運動の今後の発展のための貴重な経験と財産になることは間違いない.