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独行法反対首都圏ネットワーク

大学法人化の呆れた国会答弁 
 .週間新潮6/12:櫻井よしこ 
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週間新潮 2003.6.12 p142-143
連載コラム 第71回 櫻井よしこ 日本のルネッサンス


           ■ ■ 大学法人化の呆れた国会答弁 ■ ■

  「この法案は、一言で申し上げますと、羊頭狗肉、換骨奪胎法案
であります」「火事場泥棒と申し上げてもいい。騙し討ちと申し上
げてもいいと思います」

  民主党鈴木寛参議院議員の言葉鋭い批判に対し、遠山敦子文部科
学大臣は頼を紅潮させて反論した。

  「火事場泥棒して何かやるというような類ではございません。ど
うぞ取り消していただきたい」

  これは5月29日、参院文教科学委員会での応酬である。国立大学
法人法案は、あっという間に衆議院を通過し、今、参議院で審議中
だ。遠山大臣は国立大学法人化を、「日本の学制度の大転換点にな
る大変重要なもの」と位置づけ、強硬な中央突破の姿勢を崩しては
いない。遠山大臣が法人化の意味を語った。

  「諸規制を緩和して、国立大学がより大きな自主性、自律性、自
己責任の下でこれまで以上に創意工夫を重ね、教育研究の高度化或
いは個性豊かな大学作りを可能にするための法人化であります」

  大学法人化の議論の歴史を語り続けた遠山大臣は「私が心を尽く
して答弁」したことの真意を酌み取ってほしいとも訴えた。

  対して鈴木寛議員が応えたのが冒頭の火事場泥棒発言だったのだ。
遠山氏が抗議したように、良識の府であるはずの参議院には、或い
は相応しくない表現かもしれない。だが、もしそうなら、遠山氏の
誤魔化し発言は、もっと相応しくない。

  国立大学法人法案のどこをどう読めば、遠山答弁にある国立大学
の自主自律や創意工夫が生まれてくるのか。

  最大の問題点の一つは、6年間で大学が達成すべき中期目標を文
科大臣が定めるとした第30条である。第30条の中期目標の筆頭に、
教育研究に関する事項が挙げられている。この点についてすでに大
学関係者らから厳しい批判が相次いでいる。


                ■ 道山教子文科相の詭弁 ■

  お茶の水女子大学教授の藤原正彦氏は「先進国のどこに、大臣即
ち実質的には官僚が大学の中期目標を指図するところがあろうか」
と書いた(5月10日「産経新聞」正論欄『文科官僚の過剰介入に潜
む学問の危機』)。

  早稲田大学教授の長谷川眞理子氏も「全国立大学の教育研究の方
針を認可するような文部科学省、文部科学大臣とは、一体どんな実
績のある立派な組織であり、人なのだろうか?」と反問した(6月1
日「朝日新間」時流自論欄『学問殺す国立大学法人化』)。

  京都大学教授の佐和隆光氏は「国立大学法人化は、当初の意図に
反して、科学・学術研究の中央集権的な『計画』と『統制』をその
骨子としている。言い換えれば、法人法案は国立大学の『ソビエト
化』を目指している」と書いた(5月27日「朝日新聞」私の視点欄
『国立大法人化大学を「ソビエト化」させるな』)。

  鈴木寛議員も、文科大臣が決めるとした大学の中期目標に教育研
究の質の向上が含まれていることの問題点を繰り返し質した。する
と遠山大臣は次のように答えたのだ。

  「国立大学法人の意見を聴き、或いは尊重しということでござい
ますから、実際的には大学が定める、或いは大学の原案をベースに
決めていくわけです。私の今言っております実際的にはというとこ
ろを、是非とも将来にわたって記録に残しておいていただきたい」

  鈴木寛議員がすかさず反論した。「実際的にとおっしやるんだっ
たら、その通り書けばいいと私は申し上げているんですよ。法律を
作るということはそういうことですよ。未来永劫、この条文をその
時々の当事者が参照します。その法文にり忠実に大学行政をやって
いこうというときに、一番立ち返るところが法文でありますから、
法文を(真意に沿って)きちっと直せばいいのです」

  鈴木議員の言う通りである。法律上は文科大臣が大学の研究の中
期目標を定めると書いておきながら、「実際的には大学が定める」
のだから受け入れてほしい、就中、文科大臣がそう言うのだから、
それを「将来にわたって記録に残」すのだから心配無用と言う答弁
を、一体誰が信用できるのだろうか。

                ■ 官僚が教育を喰い潰す ■

  私たちはつい、1年前のことを想い出す必要がある。住基ネット
の導入には「個人情報の保護に万全を期するため、速やかに、所要
の措置を講ずる」という条件が、故小渕恵三首相が3度にわたる回
会答弁で述べたことによってつけられた。しかし、福田康夫官房長
官らが、小渕首相の答弁は行政府の長としての「認識」を示したも
のに過ぎないとして、これを無視したのは記憶に新しい。

  一国の首相が3度にわたり答弁し、改正住民基本台帳法附別第l条
の・という法律に定められながら、この国の政府と官僚たちはいと
も簡単、かつ、完全にこの法律を無視した。そのことを思えぱ、一
閣僚の答弁が如何ほどの確約となり得るのかと問わざるを得ない。
遠山大臣の「実際的には大学自身が中期目標を定め」との言葉が真
意なら、その通りに法律を作るべきだ。そうしないのは言葉とは裏
腹に、別の意図、国立大学への支配を強めたいとする意図があると
思わざるを得ない。

  法案には、遠山大臣の説明とは正反対の大学支配への文科省の意
図が見え見えである。たとえば理事の数である。大学運営の項点に
立つのが役員会である。役員会は学長と監事2名及び理事によって
構成される。学長と監事2名は文科大臣が任命し、理事の数は大学
毎になんと、法律で定められている。たとえば筑波大学、神戸大学、
九州大学の理事は8名、北海道大学や東京大学は7名だ。広島大学や
岡山大学む7名である一方で、お茶の水女子大や一橋大学は4 名で
ある。

  一体全体、この数の根拠は何か。そもそも法律で政府が理事の数
を決める必要などない。大学自身が決めればよいのだ。にも 拘わ
らず、法律で数を決めるのは天下り先のポスト獲得が目的の一つと
しか思えない。

  昨年度独立行政法人に移行した9省庁57法人を例にとると、独法
化以前は90だった指定職(理事)の数が独法化以降は264名で、実
に3倍だ。内、常勤理事はl45名、その97% 140名が官僚出身で、見
事に天下り先が増えたのだ。要する給与は年間28億9900万円である。

  「大学へのこのような縛りは日本にかつて存在したことがなく、
勿論現行制度にもない」という鈴木議員の批判に、遠山大臣は答弁
した。

  「大学の自主性、自律性を守りながら国費を投入し、そのことに
責任を持つということの表れの法文でございます。御埋解をいただ
きたい」

  氏の答弁のなんと官僚的なことか。隅から隅まで官僚の発想と言
葉しか出てない参議院での質疑応答。決して質問に正面から答えな
い不誠実。この国の官僚たちが大学教育を蝕み喰い喰い潰していく
音が聞こえてくる。」