中田「民営化」市政と横浜市労連

−職員労組と市民運動の連帯のために−

 

                                                              2003620

                                                            平 智之(商学部教員)

 

 横浜市大の教員組合も加盟する「横浜市労連」の機関紙『市労連ニュース』2003No.24616日付)が、教員組合員である私にも最近、配布された。私はこれまでも、市大の「市民の会」のホームページで、市従組合や保育所関係の各ホームページに掲載されている「民営化」反対の諸文書をずいぶん紹介してきた。そして、病院・給食関係も含めた職員組合と市民運動の各分野での連帯による、中田「民営化」市政への「統一戦線」に基づく反対運動を提唱してきた。

 

 事実、わが市大関係の教員組合や医従組合、行政職員の市従と自治労横浜の両組合では、各種の反対運動が市民運動と連帯して発展している。ところが、まだ明確な「民営化」構想が提示されていない、公営事業(交通・水道)や市立高校の組合を含む7組合の連合体である市労連では、3月の春闘決起集会での「反民営化闘争」の呼びかけ以外、具体的な取り組みは上記の「市労連ニュース」でもほとんどうかがい知れなかった(なお、横浜市労連はまだホームページを持っていない)。

 

 それを不思議に思っていたが、上記の本年24号では「新時代行政プラン 当局の説明会開かれる」のタイトルで、ようやく中田「民営化」市政に対する市労連の具体的な対応がレポートされた。それを読むと、なぜ今まで市労連としての取り組みが伝えられなかったかがようやく分かる。

 

 すなわち、さる65日に市労連の矢尾谷書記長らと、市当局の大八木課長らの間で「新時代行政プラン」の労使中央での説明会が開かれたという。「新時代行政プラン」については、私が4月に発表した拙稿「中田宏・横浜市長のブレイン研究」http://www8.big.or.jp/~y-shimin/doc03/n-brain.pdf でも最後に紹介した(11ページ)。これは、318日に市役所総務局から第1次案が発表され、大きな柱は、市・区役所の2500の行政業務すべてについて民営化が可能かを「外部評価」で測定する「民間化チェック」を行ない、その結果で可能な業務は民間委託を図るというものである。http://www.city.yokohama.jp/me/soumu/gyoukaku/shinjidai/shinjidai1.html  その取りあえずの評価は拙稿に譲るが、その発表後、説明会当日まで2ヵ月半も総務局は市労連に対し、団体交渉上事前協議をしていなかったのである。したがって、市当局からそれが正式になされないので、手続き上、市労連としても賛成も反対も何も、いっさい取り組みができなかったのは至極当然である。

 

 これに対しては、市労連側も矢尾谷書記長が労使協議の慣行を市当局が一方的にないがしろにするものだとして、説明会冒頭で強く抗議している。私ども教員組合も昨秋の市大事務機構問題などで、矢尾谷書記長には直接お世話になったが、その際も同書記長は労使の信頼関係に基づく協議の重要性を強調されていたと聞いている。以下に、『市労連ニュース』当該号から、その労使間のやり取りを引用しよう(【  】内−引用者、以下同じ)。

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【矢尾谷書記長】説明を頂く前に、それに関連して一言申し上げておきたい。この度職場の【新時代行政プランの】アクションプラン作成に向けた文章が配布されました。

 しかし、事前に労働組合には一片の話もありませんでした。特に細かい注釈はつけませんが業務遂行に当たっては、医者の世界の用語になっているインフォームドコンセントが重要であると思います。

 日常的な業務遂行に当たっては、職員は直接の従事者であることは自明の理です。私たち労働組合はその職員の代表である立場です。

 従って迅速かつ有効に事を運ぶためにも職員の代表である労働組合に対し、是非、事前に情報をお知らせ願いたい。

 また必要に応じて協議を願いたい。その事を強く申し上げておきます。

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 これに対する大八木課長の回答も、手続き上の不備を認め今後の誠実な協議を約束している。しかし、これは総務局側の不誠実というより、後述するように、同プラン自体が中田市長とそのブレインによって異例の「トップダウン」的な策定がなされたことと、中田市長の「労組軽視」の政治姿勢が背景にあるものと思われる。

 

  ともあれ、当局側の同プラン第1次案の説明を受けて、各組合の出席者から、以下のような厳しい質問や意見が出された。特に重要な部分だけを以下に引用しよう(ゴチックは引用者)。

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いろいろなプランが出されているが非常にわかりづらい。横文字が多すぎて解説がないと分からない。職員でもそうですから市民が見たらもっと分かりづらい。計画策定に係わっているブレーン、文献を示して頂きたい。やたらとテンポが早い、拙早【ママ、速】である。なぜこれほどに急ぐ必要があるのか、議論を踏まえた上でないとうまくいかない。例えば保育所の民営化は来年度具体化されるようだが、3月に答申、4月に実施案作成というテンポで出来た。8月に【民間委託先の?】選考委員会と聞いているがあまりにも早すぎる。保護者ですら納得していない。現場では保護者が聞いていないということで立ち往生しているとも聞いている、元々は一年間かけてやる予定であったとも聞いている。

 

○プランの合意形成の基本について聞きたい。このプランの作成にいたる庁舎【内】の合意結成はどうであったのか。また、今後、市民との合意結成はどうするのか 。パブリックコメントと言っても聞き置くに止まっているのではないか、共同にはなっていない。プランの中に新規事業がうたわれているが、われわれは法律に基づき仕事をしている、また、セーフティーネットも考慮をしなければならない。そうしたことと新規事業の整合性はどうするのか。

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  市大の「あり方懇」答申や「改学宣言」、港湾病院の「公設民営化」ももちろんだが、ここでは特に岸根保育園http://www.geocities.jp/madokakamen/ などの「民間売却」に対する、保護者の市民と保育士の職員による、決定・実施の拙速さや一方性と、これらが国の法律を多かれ少なかれ無視して進められている「教育・福祉切り捨て」だという不満が、異口同音に市労連側から噴出しているのが、当然ながら興味深い。

 

 これに対する市当局の説明のなかでは、以下のように同プランの策定事情、すなわち総務局の事務サイドでまとめた当初案が、中田市長とブレインから「役人の限界だ」とクレームをつけられ、市長とブレイン主導で、「中田派職員」の意見を容れて作成されたことを、実名入りで公式に総務局側が認めたことが大変重要である。すなわち、いち早く2月に「中田市政を考える会」準備会の論文「構造改革論者・中田宏市長が目指すもの」http://www8.big.or.jp/~y-shimin/doc03/yo-model.pdf の6ページで指摘されている事実関係とまったく一致しているのである。

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【総務局側の説明】策定の経緯はご承知かも知れませんが、当時の事務管理部が調整をしながら策定してきた。1月年明けに営業停止となり市長サイドが引き取って北海道大学の宮脇教授、企画局【現・都市経営局】参与の南、北沢、そして市長、両副市長で検討してきた。

 その大筋の指示の基に14人のワーキンググループをつくり対応してきた。そうした過程の中で作成されたものであり、何か特定の文献によるものではない。

 そうして、2月下旬に【都市経営局】エンジンルームも参加して策定をしたものである。拙速であるという意見も多々ありました。ご意見として受け止めたい。

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  以上、組合員以外の卒業生・市民・学生中心に、横浜市労連の中田「民営化」市政への対応の最新情報を紹介した。さらに、現在、やはり「あり方懇」方式が採用され「民営化」の自明の結論が近く出される予定の、横浜市事業の「本丸」で最も民間財界・企業に「利権」を提供する市営地下鉄・バスの交通部門の結論が出されれば、市労連の反対の取り組みは「新時代行政プラン」にとどまらず、いっそう市民の各方面での反対運動と連携して大きなうねりとなっていくことであろう。