清成忠雄 法政大学総長の

『読売新聞7月7日付』記事

「国立大の法人化 国・私大間の格差是正を」

に対する市民からの抗議メールに寄せて

 

 

2003年7月9日 (7月10日加筆・修正)

総合理学研究科 佐藤真彦

 

 

 

独法化阻止全国ネット(佐賀大学 豊島耕一氏)への不誠実回答(1),古沢由紀子記者の御
用記事()などの例からも分かるように,政府の広報紙化・御用紙化が著しい
『読売新聞』が,またもや,国立大学法人法案の採決(7月8日参院文教科学委,9日参院本
会議)を間近に控えた7月7日に,第1面トップで「任期付き助教授」,15面「主張提言」欄で清
成忠雄法政大学総長の記事「国立大学の法人化 国・私大間の格差是正を」(7)を,梶山千
里九州大学長および山野井昭雄日本経団連産学官連携推進部長の記事と共に掲載した.

 

清成氏の主張は,一読して分かるように,すでに何度も論破された杜撰な議論である(豊島氏
ホームページ,および,北海道大学 辻下徹氏ホームページ参照).

 

実際,ある教員も,『これは私学へも税金を回せというだけのものです。』と切って捨てている.

 

また,別の教員は,『清成・法政総長の「暴論」もあきれました。・・・こんなことをしていると清成
氏も、学問的には中小企業論、ベンチャー企業論で営々と築いた学名を失うとともに、「革新
的伝統」が強い法政でも先は長くないのではないでしょうかね。』と評している.

 

ここで,清成氏の記事に対する一市民からの読売新聞編集長宛抗議メールが,「意見広告の
会」事務局から送られてきたので,下記(8)に全文を紹介する.

 

なお,「横浜市大公式ホームページ」(9)にあるように,清成氏は来る7月20日開催の『横浜
市立大学主催“大学改革シンポジウム”』で,記念講演『大淘汰時代の大学自立・活性化戦
略』を行うことになっている.

 

これで,上記シンポジウムでどのような結論が出されるのか,大体予想できるだろう.

 

また,先日(7月3日)の総合理学研究科委員会で,榊原 徹研究科長ほかから“参加者が少
ないと困る・・・”という理由で,教員に対してシンポジウム“さくら”参加の要請があり,その後,
(まるで,“忠誠度”をチェックするかのように)参加・不参加を調査するための一覧表が回覧さ
れた.

 

ところが,シンポジウム開催のビラには,“参加を希望する方全員の氏名(ふりがな),性別,
年齢,住所(郵便番号),電話番号,及び託児所の利用を希望される方は,お子様の人数と年
齢を明記の上,次の宛先にハガキ,FAXまたはEメールでお申し込みください.・・・「大学改革
シンポジウム募集係」宛・・・申込み締め切り:平成15年7月11日(金)18時必着”とある.

 

シンポジウム開催の公表から申込み締切りまで,わずか1週間,しかも,申込み締切りは開催
の約10日も前である.“参加者が少ないと困る・・・”と主催者・事務局が危惧して,教員に対し
て“さくら”参加を要請したくなるのも当たり前で,これも下記のように参加者の事前チェックを
異様に厳しく行うようにしたために,“参加証”を送付するための時間的余裕が必要になったか
らである.

 

実際,ビラの注意書きには,“入場には,「大学改革シンポジウム募集係」から送付する参加
証が必要となります”とあるように,厳戒態勢で“御用シンポジウム”を開催する積りらしい.

 

一体,“市民に開かれたシンポジウム”で,“市民からの生の声”を聞く気があるのか,大いに
疑問である.

 

あたかも,“一般株主”からの追及対策に戦々恐々としている“問題企業”の株主総会のように
見える.

 

なお,永岑三千輝氏ホームページ「大学問題日誌7月9日(および10日)」にも,清成氏の記
事に対する批判が掲載されているので,是非参照されたい.

 

 

【以下,7月10日加筆】

永岑氏も,「・・・市当局・大学当局主催の7月20日に予定されているシンポジウムの準備不足
(市民への周知徹底不足)が、問題になる。インターネットでの公開の日付が7月3日、案内が
できたのは先週末、参加は出席希望者が氏名年齢など個人情報を伝えた上で抽選し、しかも
その期間がわずか1週間程度しかない。いったい市民の多くに参加してもらいたいのか、それ
ともシンポジウムをやったという形式的外面的な装いだけを作るためなのか? この募集期間
の短さを見れば、形式的であり外面的だというしかない。」と結論している.(永岑氏ホームペ
ージ「大学問題日誌7月9日」参照)

 

また,以下は,『ようやく公開された「部外秘資料」と市長メッセージ「改学宣言」の欺瞞性03-5-
14』からの引用である.

 

なお,市大事務局によると,5月の定例市議会に1500万円を計上し,@市民からのアンケー
ト,A専門家を招いたシンポジウム,B授業料値上げによる経営改善効果の試算の専門家へ
の依頼,などに充てるという(朝日新聞03-5-2)が,上記の経緯から推し量れば,事務局主導
による調査結果がどのようなものになるのかは調査の前から明らかであろう.またもや,“まや
かしアンケート”や“専門家のお墨付き”等の擬装を施してオーソライズするという税金の無駄
使いになるだけではないのか.そもそも,市長メッセージ『改学宣言』の枠組みを拙速に決め
た後で,(教員および卒業生・市民の反発の高まりを見て,あわてて)このような調査を行うこと
自体がオカシイのではないのか.『改学宣言』にある“市民の視点に立つ”のなら,当然,順序
を逆にしてゼロからやり直すべきであろう.

 

 


 

2003年7月9日

賛同者の皆様、

以下のように、「国立大学法人法案」が参院文教科学委員会で可決されました。
この間、最もまともな報道機関としての役目を果たしてきたと思われる共同通信
の配信です。

また、新しい局面の発生にかんがみ、今後の会のあり方について、賛同者の皆様に
提案申しあげたいことがございます。
委細は、明日或いは明後日にご連絡いたします。

             「意見広告の会」事務局


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[1]共同通信 2003年(平成15年) 7月 8日 16:33
国立大法人法案を可決 自主性重視で委員会決議
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=IBR&PG=STORY&NGID=main&NWID=2003070801000318
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 国立大学を国の直轄から切り離す国立大学法人法案など関連6法案は、8日午後の参
院文教科学委員会で、与党3党の賛成多数により可決された。6法案は9日午後の参院
本会議で可決、成立の見通し。

 来年4月には89の国立大法人が誕生。55の国立高等専門学校は1つの独立行政法
人に統合される。
 同委員会は付帯決議で、大学の自主性を重んじるとともに、運営交付金の算定根拠な
どを公表することなどを求めた。

 法案は、学長のトップダウンによる学校運営を目指し、役員会や経営協議会、教育研
究評議会の3つの組織を新設。経営協議会には学外の有識者を半数以上入れることを求
めた。

 予算の基本となる運営交付金は、文科省に設置する「国立大学法人評価委員会」が中
期目標をどの程度達成したのかを評価し、反映させる。

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(8)***
「意見広告」を御覧になった一市民の方のメールを御案内いたします。
公表の許可を直接頂いておりませんので、ここではお名前は伏せておきます。

読売新聞編集長 様

はじめまして、福島県の××と申します。
7/7貴紙記事 、『国立大学の法人化』を拝読して新聞の公平性を損なう内容に失望

ております。
この法案には多くの問題があり、反対する国民も多くおります。なぜ反対意見を掲載し
ないのでしょうか。
国民が疑問に思っている事は、監事や理事の派遣及びもろもろのシステムがなぜ必要か
に付いて、説明がされておらず、突如として法案が出てきたことにあります。またこれ
以上の天下りの生産にアレルギーを起こしていることにあります。580人の天下り役
員に血税を使って
欲しくありませんし、大学の首根っこを捕まえる事が改革ではないと考えます。

私は本日の記事の中で、特に法政大学総長の清成氏の論調に誤りがあると考えます。

1.学長の暴走の予防について清成氏は『学長が暴走するおそれがあれば、監視する仕
組みを学内に設置すればよい』 と述べていますが、この法案に反対する国民は、学長
選考
会議の委員の過半を学長が任命できる法案になっていることから、学長の世襲性と独裁
を危惧してい
るのです。法案に書いてある限り、なあ〜なあ〜では物事は運びません。

2.教育の機会均等について清成氏は『国立大学の授業料を低く抑えれば民業圧迫にな
る』と述べていますが、教育の機会均等の意味を取り違えています。彼が言っているの
は結果の均等であって本当の教育の機会均等ではありません。
貧しい者でも学ぼうとする意志と努力があれば大学に行けることを、教育の機会均等と
いうのではないでしょうか。お金のある者だけが大学に行けるのであれば、国立大学の
存在意義は薄れてしまいます。私は国立大学の授業料は無料でもよいと考えます。

概念的な一般論ではなく、法案に基づいた正確な論調をお願いします。


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「国立大学法人法案」に反対する意見広告の会
e-mail --- qahoujin@magellan.c.u-tokyo.ac.jp
Web --- http://www.geocities.jp/houjinka/index.html
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(7)

国立大学の法人化

国・私大間の格差是正を
清成忠雄氏 法政大学総長 70歳

国立大学法人化法案について、国立大教員の一部から出ていた批判には、拒否のための批
判が目についた。大学教育の約四分の三を引き受けている私立大学の立場からすると、こう
した批判は理解し難い。

国立大学の抜本的改革のためには、法人化は当然である。法人化は大学の自主性を強める
が、同時に大学には自己責任が要求される。国立大学相互の競争も強まる。「親方日の丸」
的状況からの離脱は、たしかに多くの教員に不安感をもたらす。「自立への恐怖」から、説得
力に欠ける批判が飛び出す、こうした批判を列挙すると、次の通りである。

@営利追求の研究が優先され、基礎研究や非実用的な研究が切り捨てられる。
A中期目標は文部科学大臣が定め、中期計画も認可事項であるから、文部科学省の介入と
統制が強まる。
B学長権限が強大になり、それをチェックする仕組みがない。
C大学運営に学外者の参加を求めることには問題がある。
D法人経営に効率化の原則をもち込むべきではない。

こうした批判は不可解である。まず、法人化すると営利追求に走るというのは、あまりにも短絡
的である。私立の学校法人ですら非営利組織であり、営利追求を行っていない。国立大学法
人も非営利組織である。

そもそも基礎研究は市場経済になじまない。国が基礎研究のために政策的に一定の財政資
金を留保しておき、設置形態にかかわりなく大学に競争的研究資金として配分すればよい。

私立大学においても、財政資金の投入があれば、基礎研究を行うことができる。米国において
もジョンズ・ホプキンス、スタンフォード、ハーバードなどの私立大学は、政府資金によって基礎
研究を行っている。同様に、非実用的研究も、設置形態にかかわりなく財政資金の投入によっ
て行うことができるのである。

つぎに、国立大学法人の運営が税金に依存している以上、文部科学省が中期目標・計画をチ
ェックするのは当然である。しかも、法人化すれば自立性が強まり、大学人が主体性を発揮す
れば介入を排除できるはずである。

また、学長が暴走するおそれがあれば、監視する仕組みを学内に設置すればよい。国立大学
法人評価委員会も外からチェックすることになる。

さらに、大学運営への学外者の参加は、大学内部のみで改革を進めることができない以上、
当然の選択である。

むしろ、強調すべきは、私立の学校法人との競争条件を等しく設定することである。国立大学
の授業料を低く抑えれば「民業圧迫」になる。私立大学との授業料格差の縮小は、「教育の機
会均等」の実現につながるだろう。学生一人当たりの国費投入額を見ると、国立大学は私立
大学の約十七倍という水準にある。格差是正こそが緊急の課題である。