学長へのメール
小川恵一様
はじめてお便りを差し上げます。
市大名誉教授の伊豆利彦です。日本近代文学を研究しています。
ご多忙の一年も暮れて行こうとしています。
年末年始の休暇で少しはやすらいだ日をお送りでしょうか。
こんなことになろうとは、多分、想像もしておられなかったことと存じます。学者としてのご業績については聞き及んでおりますが、学長の仕事は、それとはちがって大変なご苦労だったことと同情します。
特に、この一年は市の事務方のごり押しの<改革>で、心休まるひまもなかったのだと存じます。
<あり方懇>でいきなり、市の意向に沿った改革をするか、廃校か、その外に道はないと脅迫されて、ひたすら、廃校を避けるために、市事務局のごり押しの改革計画に押しまくられたというのが実態だったのではいかと想像しています。
いろいろ資料を見ていると、事務局の横暴は言語に絶するものがあります。このなかでご苦労されたと思います。市議会でもこれまでは外との折衝で苦労したが、これからは内を固めて、全学一丸になって改革に邁進するといわれております。
しかし、今度の市当局の理事長予定者任命と同時に市推進本部がプロジェクト部会を設置し、教員に参加を求めている事態は、そのようなあまたの努力を不可能にするものではないでしょうか。
しかも、それはあなたが関知しないところで決められたので、あなたはそれをご存じなかったとも聞いております。
このようなごり押しは教員の改革の情熱をまったく信ぜず、彼らの思うままの大学を、彼らの主導で、学長や評議会、教授会を無視してつくろうとするものではないかと思います。
元来、私は市の改革路線にまったく反対で、教員の主体的努力でそれを実現するのでなければ、外形はいくら大学でもそれは大学ではないと思っています。
大学の自由、教員個々の自発的な研究意欲が尊重されなければ、いくら予算が出ても、まともな創造的な研究は出来ないと思っています。
横浜市大は長い歴史があり、市民の支持もある大学です。また、その廃校などということは、一市長の恣意的な判断で実現できることではありません。それを強行すれば、彼の政治声明の終りになります。廃校云々という脅迫的な言辞を弄して、大学の存続を願うあなたを市の言いなりにするとは言語道断であります。これはまさに無頼漢的手法であり、決して許すことができません。
それにしても、このまま推移するなら、大学や研究・教育について無知なかれらがどのような暴走をつづけるかわかりません。
これまでのことは、私があなたの辞任を求める発言をしてきたのは、ただ、あなたの責任を問うということだけではなく、そうすることで、市民に訴え、市長に抗議して、彼らの横暴をはばみたいという思いからです。
いまとなっては、それ以外に有効な方法はないと思います。
私はいまの辞退が決してあなたの本意でなく、おそらく、たいへん苦慮していらっしゃるのだと思います。
たいへんな決断ですが、それをすれば、大学の自治をまもる上で、大きな仕事をされたことになり、また、それを逡巡して、彼らの横暴を追認することになれば、大学史上決定的な汚名を負うことになると思います。
私たちは、いまの大学の暴走は決して文科省もふくめて、社会一般の支持を得ることができず、必ず挫折すると思っています。それほどひどいものです。
現に市大問題は都大問題とともに、全国的な問題になっています。
個人として、私はあなたに同情しています。
ぜひ、一刻もはやい決断を期待します。
年末年始の忙しいときに失礼なお便りを差し上げました。お許しください。
伊豆利彦
なお、記者会見での私の説明その他、私の見解は私のホームページの大学問題を見ていただきたいと思います。
伊豆利彦のホームページ http://homepage2.nifty.com/tizu/