『自作自演の茶番劇・2』:
神奈川新聞2004年1月30日付報道―コース設定を論議へ 横浜市大改革で専門委を設置―
2004年2月3日 大学院総合理学研究科 佐藤真彦
http://www.kanagawa-np.co.jp/news/nw04013051.html
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040130kanagawa.htm
【横浜市大問題に詳しくない方のために】
副題の1月30日付神奈川新聞報道は,中田 宏横浜市長と市大事務局による“自作自演の茶番劇”第2幕の典型的な“御用報道”である.市大事務局は同時(04-1-30午後)に,「公式ホームページ」に記者発表資料(04-1-28付)[i]を掲載した.
第1幕のシナリオが,多くの教員・卒業生・学生がこぞって反対している改革案を,あくまで“大学側が自ら作成したもの”として,マスコミや「公式ホームページ」を通じて一般市民に“刷り込む”ことを企図した[ii]のに対し,第2幕ではさらに露骨に,横浜市自らが改革案の細部までを決定してしまおうという強い“執念”が伝わってくる.しかも巧妙にも,「大学改革推進専門委員会」委員として小川恵一氏(横浜市大学長)や清成忠男氏(法政大学総長・理事長)ほかの“大学側責任者”や“有識者”を加えることで,実際には中で何が行われているのかが,外からは極めて見えにくくしてある.
なお,昨年12月1日までの“自作自演の茶番劇”第1幕[iii],および,その後突如設置された「コース案等検討プロジェクト部会」やそれに伴う“踏み絵”事件[iv]については,それぞれ下記の脚注3,4を参照されたい.
上記の報道や記者発表資料では,横浜市が今回設置した「大学改革推進専門委員会」で,コースの編成数や内容,カリキュラム等を,“専門的立場”から3回ほど審議し,最終的に,横浜市の「大学改革推進本部(前田正子本部長)」がこれらを決定するのだという.言うまでもなく,憲法23条(学問の自由)および教育基本法10条(教育行政)の精神を踏みにじり,「大学の自治」をあからさまに侵害する暴挙である.なお,委員会は,孫福 弘理事長予定者(委員長)以下6名で構成されるが,委員のうちで小川恵一[v]・橋爪大三郎(東工大教授)[vi]・清成忠男[vii]の各氏の問題性に関してはすでに本ホームページで指摘したところである.中田市長の場合と同様,いずれもその肩書きや経歴等から受ける印象とのギャップにとまどいを覚えるであろう.また,神奈川新聞の記事中にあり,今後の市大改革に重要な役割を担う「コース案等検討プロジェクト部会」座長の布施 勉氏(国際文化学部教授)[viii]に関しては脚注8を参照されたい.
「あり方懇談会」設置(02-9-3)以来のやり方から,中田市長の手法が,小泉首相ばりのパフォーマンスに加えて,(1)お手盛りの“懇談会”や“委員会”等からお墨付きを次々に出させてオーソライズしながら,(2)節目節目で,トップダウンの一方的な記者発表を行うことにより,既成事実化と世論誘導を計る“似非民主的な手法”であることが明らかとなったが,これでは,“市民派・改革派”市長のイメージから余りにもかけ離れており,旧来の日本官僚が得意とする“御用”審議会による手法と何ら変らないばかりか,その“執拗さ”と“言語道断の無頼漢ぶり(伊豆利彦氏の評[ix])”から,“悪質度”では旧来の官僚のそれを凌駕すると言えるのではないか.しかも抗議や批判の多くは,直接の当事者である学長・事務局や懇談会座長等に向けられるから,市長本人には火の粉が降りかからずに済む仕掛けになっている.
ちなみに,横浜市が打ち出した市立病院の民営化をめぐっては,中田市長の政治手法を批判する声が相つぎ,“改革派”で知られる市長の“民主度”が問われている(『サンデー毎日』1月18日号参照[x]).
なお,中田市政および中田氏のブレインに関する批判的な分析[xi]に関しては,脚注11を参照されたい.また,その人物像に関しては,中田氏の最近の著書『なせば成る―偏差値38からの挑戦』(講談社2003.12)[xii],および,その書評[xiii],[xiv]が大いに参考になる.市長就任以来実感させられてきた,執拗な“大学攻撃”と教員に対する“敵意”の淵源の一端が理解できる.
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神奈川新聞2004年1月30日付
コース設定を論議へ
◆横浜市大改革で専門委を設置
横浜市は二十九日、地方独立行政法人化(二〇〇五年四月)に合わせた横浜市立大学の改革を具体化するため、大学改革推進本部(本部長・前田正子副市長)の傘下に専門委員会を設置した。学部統合後のコース設定などについて〇三年度内に案をまとめる。
同日、市役所で行われた初会合では「ゼミナール(小人数教育)は一年次の教養課程から導入するなど在学四年間で一貫して行うべきだ」など必修科目のあり方などが論議された。パソコンなど情報関係ツール(機器)の修得を促していく必要性も挙げられた。
専門委は小川恵一横浜市大学長、清成忠男法政大学総長・理事長、「市大の今後のあり方懇談会」の座長を務めた橋爪大三郎東工大大学院教授、弁護士の塩谷安男氏、篠崎孝子山手学院理事長ら有識者六人で構成。委員長には独法化後の市大理事長へ就任予定の孫福弘大学改革推進本部顧問が就任した。
同委では大学設置者である市側の立場から提言を行う。推進本部事務局内には市大教職員によるコース案等検討プロジェクト部会を並行して設置。双方の意見をすり合わせて最終案を決定していくという。同部会は教員、市大事務局員十二人で構成。「座長」には教員側から布施勉国際文化学部教授、事務局側から岡村一大学改革推進担当部長が就いている。
市大がまとめた改革案には独法化に加え商学部、国際文化学部、理学部を統合し新しく「国際総合科学部(仮称)」を設置することなどが盛り込まれている。新学部の内容の具体化などが今後の課題だ。
初会合で孫福委員長は「新しい市大の特色を前面に打ち出し、受験生や学生にとって魅力あるコースやカリキュラムを実現していきたい」とあいさつ。「『教育』は手段であって目的ではない。真の目的は学生の『学習』。在学中の学習効果の最大化が大学の使命だ」などと改革の方向性を示した。
[ii] 実際,中田市長は今年の「年頭所感」04-1-7
http://www.city.yokohama.jp/se/mayor/interview/2004/04010703.html の中で,「横浜市立大学については、横浜市が運営費の8割を税金でまかなっている大学のあり方について、どういう意味があって持ち続けるのかということを問いました。横浜が税金を出すことの意味をどう定義できるか問うたところ、自らの再定義と改革案が示されました。私は、これを実現に向けてバックアップしていく所存ですし、孫福新理事長のもとに運営方針を積極的に進めていただきたいと思います。」と述べている.
また,『戸塚区タウンニュース』の「新春インタビュー」04-1-1
http://www.townnews.co.jp/020area_page/01_thu/11_tots/2004_1/01_01/tots_top1.html の中で,「横浜市立大学についても自ら「こう変わりたい」というプランが出て参りました。」と述べて,ここでも“大学自らが改革案を作成した”ことを強調している.
このような欺瞞的言辞を弄する中田氏の危険性に,一般市民も一刻も早く気づいた方がよいだろう.
[iii]茶番劇・1(第1幕)
・『自作自演の茶番劇』:03/12/01横浜市が“大学側”改革案の全面的受け入れを表明03-12-4
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031204chaban.htm
・全国104大学有志342名から横浜市議会宛の要請03-12-2
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031202yousei-yokohamashigikai.htm
[iv]茶番劇・2(第2幕)の始まり:「コース案等検討プロジェクト部会」と“踏み絵”事件
・「コース案等検討プロジェクト部会」委員の「公募」について参加申込書は,「設置者の基本的な考え方」についての<踏み絵>?「任期制」への事実上の「同意」として扱われる可能性も03-12-19
http://homepage3.nifty.com/ycukumiai/shiryo/k031219-1.html
・教員有志から前田正子氏(横浜市 大学改革推進本部長)宛の『緊急抗議声明』03-12-23
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031223kinkyu-kougi.htm
・横浜市立大学でも役所が踏み絵を用意03-12-25
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031225tsujishita-fumie.htm
[v]小川恵一横浜市大学長
・03/12/04 『学長との“対話”集会』の記録03-12-22
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031204taiwa.htm
・『学長との往復書簡』―伊豆利彦氏のメールより―04-1-11
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040111ofukushokan.htm
[vi]橋爪大三郎東工大教授
・第3回「市大あり方懇」傍聴記−池田理事・橋爪座長の議事引回しを許さず、民主的・公正な運営と討論を求める−02-12-9
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/taira021209.htm
・学問の自由と大学の自治の敵,橋爪大三郎「あり方懇」座長の危険性02-12-11
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page033.html
・徹底論証:学問の自由と大学の自治の敵,橋爪大三郎「あり方懇」座長の危険性と国公立大学独立行政法人化の行き着く先03-1-10
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page035.html
・座長 東工大教授 橋爪大三郎氏への疑問03-1-28
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030128ogiwara-hashizume.htm
[vii]清成忠男法政大学総長・理事長
・清成忠雄 法政大学総長の『読売新聞7月7日付』記事:「国立大の法人化 国・私大間の格差是正を」に対する市民からの抗議メールによせて03-7-9
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page145.html
[viii]布施 勉国際文化学部教授
布施氏は,“サイレントマジョリティ3教授”の1人として,昨年の「市長改学宣言03-5-7」http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/giman030514.htm の際に,自筆署名入りの文書(「横浜市大改革へ向けた教員有志アピール」)を全教員に配布すると同時に,市長・事務局に対する“忠誠宣言”を記者発表して,彼らを大いに喜ばせるとともに,一般教員の失望とヒンシュクを買った.すなわち,記者会見03-5-8において,“「あり方懇答申」も私たちが模索してきた改革方針とほぼ一致している.改革への賛同者がサイレント(沈黙)のマジョリティー(多数派)であってはならない”と述べた(神奈川新聞03-5-9付http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030508silentmajority-kanagawa.pdf
).ここで,“サイレントマジョリティ”とは,当時小川学長が,「あり方懇答申」を無批判に受け入れたばかりかそれ以上にひどい内容を含む「要望書」(通称,“学長怪文書”
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/gakucho0349.pdf )を,独断で中田市長あてに提出したことに対して,全学から抗議のブーイングがわき起こったにもかかわらず,教員のマジョリティはサイレント(つまり「あり方懇答申」に賛同)と強弁したことを指す.示し合わせたように小川学長も,記者会見03-5-7で,「(学内に改革に対する根強い反対論者がいることを踏まえ,)“サイレントマジョリティー(声なき多数派)をまとめて市大を再生させたい”と訴えた」(神奈川新聞03-5-8付http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030508ogawa-kanagawa.pdf
).このような,黒を白と強弁してはばからない行為は,市長・事務局を喜ばせたことは確かだが,学者としての良心だけでなく一般人としての良識や公正さを著しく欠いた態度ではないだろうか.なお,3教授が記者会見03-5-8で,“積極的,建設的な参画への手段や場としていきたい”と述べた「改革推進有志の会」なるものは,まったく名前だけの存在で,それ以後活動と呼べるものは何も行わなかったことが判明している.
[x] 『サンデー毎日』1月18日号 市立病院民営化に大ブーイング! “改革派”中田宏横浜市長の「民主度」
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040106sunday-mainichi2004.1.18.htm
[xi]中田市政および中田氏のブレインの批判的な分析
・"横浜モデル":構造改革論者・中田市長の目指すもの03-3-12
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page070.html
・構造改革論者・中田市長の目指すもの03-3-29
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030329ogiwara-nakada.htm
・中田宏・横浜市長のブレイン研究03-4-22
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/n-brain.pdf
・中田横浜市政はどこに向かおうとしているか03-5-1
http://www.siju.or.jp/opinion/backnumber/images/nakatashisei.pdf
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/nakatashisei.pdf
・松下政経塾と「中田人脈」の研究 シリーズ03-7-3〜03-7-24
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030703-24taira.pdf
・続・中田横浜市政はどこに向かおうとしているか03-12-19
http://www.siju.or.jp/opinion/article/documents/nakada-2.pdf
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031219nakada-2.pdf
[xii] 講談社BOOK倶楽部http://shop.kodansha.jp/bc/books/
http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2121034 より
『なせば成る―偏差値38からの挑戦』中田 宏 (著)
【目次】
「バカ」?…だから、できる!
本物の「欲張り」のすすめ
無関心が世間を悪くする
やりつづければ、成果は必ずついてくる
やりたいときが、すべきとき
成績のいい奴らだけが、社会を動かす愚
困難はゲームと考える
レベルが低いほど伸びる、という真理
「見返す」のは快感
だったらやれよ
つねにアンテナを張りつづける
えせエリートのルールなんかくそくらえ
僕が考える「頭のいい人」〔ほか〕
[xiii]書評 amazon.com.jp
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/browse/-/489986/249-0528565-0272339
反知性主義, 2003/12/02
レビュアー: jupiterlee (プロフィールを見る)
中田横浜市長は2002年に37歳の若さで横浜市長に就任し、全国的な関心を呼びました。松下政経塾出身というのが大いに宣伝されましたが、青学2浪で偏差値38だったことは、あまり知られていないようです。中田市長は大学改革に積極的に乗り出しているとの報道がなされていますが、その方法に関しては、学問や高等教育の価値を理解していないのではないか、とアカデミズムから反感をもたれています。この本を読むと、中田市長は現場重視であると主張する一方で、企業にも官庁にも勤めた経験もないことが分かります。また、学校の詰め込み教育を批判するのは簡単ですが、努力して勉強してきたエリートや学歴に対する強烈な反感があることがうかがえます。若い浮動票を得るという目的からなのか、終始若者に語りかけるような調子で書かれた本ですが、経験のない若者の独りよがりな意見と受け取られないよう、現実の政策や行動で成果を出せるのだろうか、と不安に思わせる一冊でした。
[xiv] 書評イーエスブックス
http://www.esbooks.co.jp/shelf/all/top
http://product.esbooks.yahoo.co.jp/product/keyword/keyword?accd=31305468 より
どさんことうさん店長「慎太郎書店1総本店」最近読んだ本コーナーより
どさんことうさん [★★★☆☆] −2004年01月24日
もっと堅い話 松下政経塾、国会議員、横浜地方自治のはなしを期待していたがはずれ。これは高校生向きの人生論(それも軽い)ですね。でも大學受験勉強を「バカげたゲーム」と言い切っているのはいただけないですね。価値あるゲームですよ。高校段階の学力を否定してどうして政策、地方自治に精通した一流の政治家になれますか。ガッツある実践力だけではひとを動かせないのでは。そのところが巻末の弘兼憲史との対談にちぐはぐが...