2004.3.28

「講演とシンポジウムのまとめ」

 

 「横浜市立大学問題を考える大学人の会」

呼びかけ人(久保新一)

 

知の生産と教育のあり方を問うことを目的に「任期制・年俸制導入と評価制度は大学と教育をどう変えるか」をテーマに行われた本日の「講演とシンポジウム」は、23大学100名が参加し5名の会場からの発言・質問を交えて活発な討論が行われ、成功裏に終えることが出来た。

「まとめ」は以下の通りである。

 

(1)横浜市と東京都が「改革案」で導入を予定している全員任期制・年俸制は、大学における研究・教育の発展を目的としたものではなく、首長と行政による大学の官僚的統制を容易にし、管理を強化することを目的にしたものといわざるをえない。それは、法令で定められた大学の意思決定機関の決定や議論を無視もしくは軽視した、設置者権限の強権的な行使による非民主的なトップダウン方式の改革の進め方をみても明らかである。

(2)任期制・年俸制はアメリカの大学に一般的な制度であるかのように喧伝されているが、それは全くの誤解で、アメリカの場合はテニュア制度(「終身在職権」)によって大学教員の身分が保障されており、任期制はテニュアを取得する前の教員に対して限定的に適用されているにすぎない。アメリカの大学人は、これに安住せず大学の自治と研究・教育の発展が両立するよう、大学全体で、権力と市場原理に抗して、絶えず結束して努力している。

(3)90年代「長期不況」下、構造改革の一環として終身雇用制と連動した年功序列型賃金制度から、任期制に連動する成果(業績)主義型賃金制度への転換を図った民間企業の経験をみても、短期間で制度の見直しが行われているケースが多い。その原因は主として業績評価の困難さにあるが、評価自体がリストラや賃金抑制を目的として行われたことによって、従業員のモチベーションが低下し、業績悪化を招いた結果でもある。

(4)独立法人化により、この制度が先行して導入された旧国公立研究機関の経験によれば、@国(行政)の支配が実質的に強化され、A短期的な成果が重視され中長期的な研究は軽視される傾向が強まり、B業績主義により職場の人間関係に歪みが出始めている。C国民(市民)のための研究は後退し国(行政)のための研究に変っている。

(5)任期制は特定の目的と部署に限定されるべき制度であり、全員任期制は研究・教育の自由と発展に違背し容認しえない。大学人自身が研究・教育を発展させる観点から、現行の制度と大学の自治をより良いものに高めて行く努力が必要である。