国際総合科学部(仮称)コース・カリキュラム案等の報告書に対する数理科学教室の意見

 

http://suuri.sci.yokohama-cu.ac.jp/math/seimei1.html

 

 

4月3日

 

国際総合科学部(仮称)コース・カリキュラム案等の報告書に対する数理科学教室の意見

 

理学部数理科学教室

 

横浜市大学改革推進本部は去る3月25日に国際総合科学部(仮称)コース・カリキュラム案等の報告書(以下,「コース・カリキュラム案」)を公表した.この「コース・カリキュラム案」によれば,「横浜市立大学の新たな大学像」(以下,「大学像」)にあった数理情報コース案が廃案になっている.我々は,平成17年度から始まる予定の新しい大学において,数学の体系的な講義が出来なくなることに反対である.このことについて,我々の見解を述べたい.

 

(1)コース案等検討プロジェクト部会(以下,コース部会)におけるコース選定の実質審議は僅か2回か3回しかなされず,コース選定について充分な審議が行われていない.このような短時間で,「大学像」の学部コース案をどのような審議をして大幅に絞ることが出来たのか疑問である.コース検討会議は,市の大学改革担当者と少数の教員が予め決めたコース案を追認する,というものにすぎなかったと思われる.これでは大学改革推進本部が言うところの市民・学生の視点,全学的視点,経営的視点からコース案を慎重に検討し審議が出来たと言えない.「コース・カリキュラム案」の開講科目数は更に減らされる可能性があるという.学長は,一部の教員と市の担当者にカリキュラムの作成を任せ,開講科目が減らされるのを,座視しているだけでいいのか.一般教員にもカリキュラム案を検討させるべきである.学長,評議会は,大学改革推進本部が設置者として検討した「コース・カリキュラム案」をどのように対処しようとしているのか,を全教員に明確に示すべきである.

 

(2)コース選定は数理科学科が受験生の人気学科であることを考慮していない.前期試験の募集人員は20名と少数であるが,実質7倍以上(過去4年)の受験生がいる.数理情報コース案を廃案にすることは,本学で数学を学びたいという多くの学生の希望を無視することになる.本学において半世紀以上かけて積み上げてきた数学教育の伝統を無くすことが,改革に必要なのだろうか.数理科学科を廃止し,数学教員を減らすことで,大学の財政が著しく改善され,他学科の研究や教育がこれまでに較べ活発になるのだろうか.

 

(3)理工学府の2コース(基盤科学コースと環境生命コース)の選定は,横浜市中期政策プランの産業政策の観点のみから決められている.横浜市は,数学が市の施策や市民に貢献できないと考えているのだろうか.横浜市民は本当に,市大から数理科学科が廃止になることを望んでいるのだろうか.数学は自然科学,工学,情報科学ばかりでなく,数理経済学に代表される社会科学,更には人文科学とも深いかかわりを持ち,これら科学の基礎理論を支える重要な学問として位置付けられている.短期的な市の施策の観点だけで,数学のような基礎学科を廃止するようなことは好ましいことではない.数学は他の学問とかかわることにより,何時の時代でも常に新しい学問であったこと,そして将来においてもそうであることを,市の大学改革推進本部担当者は認識して欲しい.

 

(4)カリキュラム案では,数学は共通教養,専門教養のどちらでも現行の教育内容より過小な扱いになっている.有識者からなる大学改革推進専門委員会(学長も構成委員の1人)の議事概要(大学ホームページ掲載)では,新しい大学の数学教育について全く触れられていない.国際都市横浜(大学像で述べられている表現)に相応しい人材を育てる為の「プラクティカルなリベラルアーツ(実践的な教養教育)」では,数学は重要でないということであろうか.

 

(5)「コース・カリキュラム案」には,数学,英語,理科の教職課程を存続させ,地域社会が必要とする人材,教育界で活躍できる優秀な人材を育成,供給するという目標が述べられている.数学の場合,コースから外されている為,「コース・カリキュラム案」に示されている数学の教科内容は,現行のそれより,はるかに劣っている.また理系の入試科目では,数学IIIを受験科目から外している.改革と称して教育内容を劣悪化させた案を作り,先のような目標を掲げるのは,大学の教育ばかりか中学,高校の教育をも軽んじている.優れた数学の教育者を育成する為には,設置基準を最低限満たすだけのカリキュラムではなく,現行のような数学の体系化された講義を準備することが必要である.この為にも数理科学コースを設置すべきだと考える.

 

(6)「コース・カリキュラム案」では,数理科学は大学院のコースでも外されている.今回の大学改革は,理系では数学のみが不当とも思える扱いを受けている.我々はコース部会座長に,何故数理情報コース案が廃案になるのか,を問うたが,納得できるような回答を得られなかった.

 

(7)数理科学科の全身である文理学部理科数学課程が設置されたのが,1952年4月である.数学課程発足時の数学教室の構成は教員5人,技術吏員(図書係)1人で,1956年3月に15人の第1期の卒業生を出した時の数学教室のそれは教員8人,技術吏員(図書係)1人の計9人であった.現在の数理科学教室構成員11人(教員のみ,1989年4月に現在の11人になった.)より2人少ないだけである.1950年代の横浜市の財政が決してゆとりがあったとは言えないが,それでも横浜市は数学の重要性を認識し数学課程を設置した.今日の数学の重要性は1950年代のそれに較べて飛躍的に増大している.横浜市は,半世紀以上にも亘って積み重ねてきた横浜市大の数学専門教育を捨て去るのだろうか.