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横浜市立大学の未来を考える

『カメリア通信』第18

  200456(不定期刊メールマガジン)

Camellia News No. 18, by the Committee for Concerned YCU Scholars

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資料1 : 中田市長の「誤報」発言問題についての回答

市広聴第104975

平成16416

久保新一様

柳沢 悠様

横浜市長 中田 宏 (公印)

市長の「誤報」発言について(回答)

 日ごろから、横浜市政に関して貴重なご意見をありがとうございます。

 さきに要望(200438日)のありましたことについて、次のとおりお答えします。

 東京新聞の市大大学改革に関する記事に対する発言に関しては、次のような考え方によりましたので、ご説明させていただきます。

1 市大の大学改革に負債ということを理由に持ち出したことはないこと

 市大の大学改革の必要性について、「市立大学のあり方懇談会」を設置する際に、委員会で次のように述べています。

 「社会情勢の変化、そして大学の置かれている環境、市の環境、こうした中で、本市における市立大学のあり方検討をお願いしたい。ちなみに市内には国立大学や私立大学が14大学あり、こうした状況の中で是非ご議論いただきたいことは、@横浜市が大学を設置する意義があるのか。そして、A大学の経営はどういう形態が適切なのか。B今後どういう形で大学改革の方向を目指していくべきかについて。検討する必要があると考えています。」

 「行政の役割は民間と違うため、費用対効果のみを追求するわけにはいきませんし、たとえ経費がいくらかかろうとも、やるべきことはやらなければなりません。」

 つまり、市大の存在意義について問うたものであり、負債を理由として大学改革を進めているのではありません。

2 トップダウンではなかったこと

 市大の大学改革は、平成10年頃から学内で論議されていたものであり、まず、大学自身が考え、大学自らが策定した案を基本的に尊重し、設置者である横浜市と大学がともに推進しているものであり、「最初に市大改革ありき」ですとか、「密室で決定」「いきなり公表」「トップダウン」などとという進め方は、横浜ではされていません。

 また、教授会からの要望・意見等についても、先の予算特別委員会において各学部長が答弁したことから、大学改革自体に反対するものではないと考えています。

3 密室審議ではなかったこと

 市立大学改革推進・プラン策定委員会については、大学自体が設置した組織ですので、直接関与していませんが、大学から聞いたところによりますと、委員会の設置に際しては、大学の最高審議機関である評議会の決定を経ていること。また、情報公開についても、同様に評議会の決定に従っているとのことです。

 なお、市大への毎年の繰り入れ額は、約240億円、うち病院が約120億円となっています。

 引き続き改革への取り組みを行っていきますので、ご理解・ご協力いただくようお願いします。

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資料2: 重ねて中田市長に問う

2004430

横浜市長

中田 宏 殿

「市長の『誤報』発言についての(回答)」について

久保 新一

柳澤 悠 

 この度は、私どもの0438日付市長宛文書(市長の「誤報」発言について)に対して回答(416日付市広聴第104975号)をお寄せ下さり有難うございました。

 まず、市長が、私どもの「東京新聞の報道は『誤報』ではなく『見解』の相違にすぎない」という指摘には敢えて反論されないで事実上「誤報」という認識を撤回され、問題になっている市大「改革」に関する3つの問題点について、あらためて市長の「見解」を示されたことに敬意を表します。

 その上で、再度私どもの同問題に対する幾つかの疑問を申し上げ、市長のお考えを伺いたく存じます。

1.「市大の大学改革に負債ということを理由に持ち出したことはないこと」に関して

 市長が「負債を理由として大学改革を進めているのではない」という固い信念をお持ちであること了解いたしました。

03年2月、市長の諮問機関「あり方懇」が出した答申は、改革の理由の一つに市大の負債問題を取り上げています。これは市長の改革意図に反するものと考えますが、それに対して市長は反論または批判をされておりますか。お教しえいただきたく存じます。また、もし反論も批判もなさらなかったとすれば、その理由をお示し願います。

2.「トップダウンではなかったこと」について

 去る420日付け東京新聞の特集記事で、市大の小川学長が「改革が進むなら中田市長のトップダウンで構わない」と発言し、「市長の意向を受けての改革案づくりだったことを認めた」ことについて、どうお考えですか。市長の見解と真っ向から対立する発言だと思いますが、小川学長にこの発言の訂正を求めますか。それとも東京新聞に再度「誤報」の抗議をなさいますか。

3.「密室審議ではなかったこと」について

 市立大学改革推進・プラン策定委員会が「改革案」をまとめる過程で委員会のメンバーに緘口令をしいたこと、教員の任期制等重要な問題で教授会の審議を経なかったこと等、についてどうお考えですか。また、こういうやり方について批判されたことはございますか。

4.市大への毎年の繰入額の「訂正」について

 毎年の繰入額について事実上間違いを認めて「訂正」されたことを嬉しく思います。その上で伺いますが、毎年の繰入額(病院を除いて約120億円)の中には、市大にかかわる政府からの助成金・補助金等が含まれていないのでしょうか。もし入っていたならば、それらを除いた純粋な市財政による負担額をお教え願いたく、お願い申し上げます。

以上

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資料:3 東京新聞216日朝刊報道に関する中田横浜市長の「誤報」発言の撤回を求める

 中田横浜市長は、平成16219日記者会見において、横浜市立大学の改革に関わる216日東京新聞特報について、次の3点に関し、事実関係を間違って報道したという意味での誤報であり、誤報の主たる原因は情報提供者による不適切な情報提供にあるかのように発言しています。3点は、(1)市長は横浜市大の「負債ということを理由に改革を持ち出したことはない」、(2)市大が報告書を出してきたこと、及び平成の早い時期から今まで改革を論議してきたのであるから、「トップダウンではない」、(3)「密室で決めたことは一度もない」、という主張です。

 この特集記事は、取材が一面的であった他、情報提供者の発言が週刊誌風にやや誇張されたり歪曲されたりしている箇所もあり、必ずしもすべてが正確に書かれておらず、情報提供者としても多少の当惑を覚えないわけではありません。また、中田市長が指摘するように、大学が「改革案」を作って提出したという点で東京都の場合とは違っており、「トップダウンではない」「密室協議ではない」といえばいえるかもしれません。しかし、それは全くの表層的な形式論であり、実質的には以下に示すように東京新聞の特集記事は大筋で間違ってはいないと考えます。

私たちは、東京新聞の記事が明確な事実を誤って記述したという意味での「誤報」では決してなく、横浜市大の改革の経緯に関する情報提供者および東京新聞記者の評価・判断であること、かつその内容は事実の経緯の評価・判断として十分な根拠をもつことを以下申しのべ、市長がこの会見における「誤報」発言を取り消すことを要求します。

(1)「横浜市大の負債ということを理由に改革を持ち出したことはない」といえるか?

 市の設置した「あり方懇談会」の答申は、「もしも横浜市の財政が健全であり、市民がこれまでのように横浜市立大学の経費を負担していけるなら、この大学が存続していくことにおそらく大きな問題はないであろう。けれども、現在、状況は大変に厳しく、横浜市立大学がこれまでどおり存続していくことは、市の財政の大きな負担となる。」と書いて、そのすぐあとに、横浜市立大学の「累積債務は、...」と累積債務の問題を論じています。「あり方懇談会」の答申では、累積債務の存在が、市大改革の最大の理由として挙げられていることは、文面を見る限り自明です。市長は、この「答申」を了承し、「あり方懇談会の答申を踏まえて」改革を進めるべきこと(市長声明「市立大学改革に向けて」、200357日)を市大に指示しているわけですから、「横浜市大の負債ということを理由に改革を持ち出したことはない」という市長の主張は、どのように考えても検証に耐えないものです。

(2)「トップダウンではなかった」といえるか?

 まず、「あり方懇談会答申」は設置者が市大を廃校あるいは売却する選択肢もあることを明示し、市長は「あり方懇談会答申」を踏まえた改革案の作成を市大に指示し、かつ市大が作成した改革案が市長の合意できない内容の場合は「別の選択肢も考える」と決意表明をしています(定例記者会見1557日)。つまり、市長は、市大が市長の合意できない改革案を作成した場合には、廃校あるいは売却することを考えると明示していました。横浜市立大学が市立の大学として存続する条件は、市長が合意できる改革案が作成された場合のみであるという制約を、市大は改革案作成の出発点からもっていたのです。従って、市長の政策(5月の時点では、「あり方懇談会答申」)に従うこと以外に市立大学として存続する道はないという制約のもとで改革案を作成したのであって、トップである市長の意向が上位下達する制度の下での改革案作りであったことは否定できません。市長は、そもそも大学が自ら内容を判断できるという意味での自主性を制度的に奪った上で、市大に改革案を作成させたのです。

 この点が、トップダウンを保障する制度的な枠組みとすれば、実態的にもトップダウンを示す事実は複数あります。大学の「改革案」作成上最重要の機能をもった委員会では、市長の意思を体現して一体的に行動する横浜市吏員が半数を占めて、委員会の決定を市の吏員が事実上決定できる制度をつくり、この委員会は「あり方懇談会答申」の内容を100%実現した案を作成しました。この案は、それ以前に市大内で検討されてきた改革のあり方に関する合意点とは、大きく乖離しており、これもまた、トップダウン的な変更が加えられたことを示唆するものです。

この案は、2月15日付けの市大教員組合の「意見広告」にもあるように、大学自身が出した改革案に対し、学部教授会等が20件近くの反対決議、遺憾表明、要望等を出していることが示すように、基本的な異論が学内の多数の部局から表出されたにもかかわらず、大学内のこれらの意見を取り入れることなく、市長の意向にそった案が大学案となったにすぎません。文字通りトップダウンで内容が決定された、といえるのではないでしょうか。

 以上のように、設置者による「廃校」の脅しを背景に、大学の「重要事項の審議機関である教授会」(学校教育法59条1項)の意向を無視して、「改革案」作りが進められた経緯からみて、その結論に同意するか否かは別にして「トップダウンであった」という東京新聞の評価・判断には根拠に足る事実があり、かつそれらの事実を根拠にして得られた判断(結論)は実態の適切な評価だといわざるをえません。
 (3)「密室審議ではなかった」といえるか?

 改革案を作ったプラン策定委員会では議論内容に関する緘口令をしいて学内への情報流出を阻止した上、818日に出した『大学改革案の大枠の整理について』では、「全員の任期制」など重要な論点はまだ示されておらず、議論の重要な論点(「全員任期制」「教授会からの人事権・カリキュラム編成権の剥奪」等)が明らかとなったのは926日の「大枠整理(追加)について」が初めてでした。最終案が提出されたのが1017日で、僅か5日後の1022日には評議会で「決定」されるという、実質的審議を欠いた超・スピード決定ではありませんか。5月の案策定委員会設立以降9月末までの数ヶ月間、最も重要な論点に関する議論の内容を大学の構成員に知らせないように工夫をこらし、公表後25日間程度で大学としての最終決定をせまるというやり方は、教授会をはじめとする大学構成員の意向をいかに無視し改革案作りに反映させないようにするかという操作の見本のように思います。これを「密室審議ではない」というのは、困難ではないでしょうか。

 前述のように、私たちは東京新聞の当該記事の取り扱い方のすべてに同意しているわけではありません。しかし、結論に同意するかどうかは別にして、結論を引き出す根拠となる事実が存在することは、以上申し述べましたように明白です。市長が上記の3点に関して主張していることは、事実の解釈(見解)の違いの問題に過ぎません。一般的にいって誤報というのは誤った事実を伝えることをさしていう用語ですが、今回のように過去1年間にわたり、改革案の策定に関して、繰り返し市大の内外から「行政による押し付けだ」「密室審議だ」という批判が行われてきた事柄に関する報道を誤報というのは、それこそ語法の誤りです。東京新聞記事を明白な事実を間違って伝えたという意味で「誤報」だと発言された市長の発言の撤回を求めます

 東京新聞の特集記事の一部が市長に不快感を与えるような表現になっていたことに関しては、情報提供者としての私たちも遺憾に思っております。しかし、見解の違いを「誤報」といい、「誤報した記者の質問には答えない」という趣旨の発言をして口封じをするのは、報道の自由に対する侵害であり、言論の自由への抑圧行為です。また情報提供者たる私たちへの誹謗とも受け取れます。私たちは、中田市長が東京新聞の当該記者に対しては質問に答えないという趣旨の発言をしたことを撤回することを求めます。また、今後、権力を行使しうる立場にいる市長の立場をわきまえてご発言いただくことを強く要望します。

 なお、市長は同記者会見において、横浜市立大学への年々の市会計からの繰り入れを、240億円、これと別途に病院に対する繰り入れが240億円ある、と発言しています。これは、それぞれが120億円で両者あわせて240億円、ではないでしょうか。おそらく市長の勘違いに基づく、文字通り「誤報」的発言であり、いずれ自発的に訂正されるものと期待しております。

200438

久保新一(関東学院大学) 

柳澤 悠(東京大学) 

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編集発行人: 矢吹晋(商学部非常勤講師)   連絡先: yabuki@ca2.so-net.ne.jp

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