“市民派”中田市長の“官僚的”不誠実回答――横浜市立大学問題

 

 

 

(1)「大学人の会」に対する市長の回答(2004416日付)

 

市広聴第104976

平成16416

 

横浜市立大学問題を考える大学人の会

呼びかけ人 今井 清一 様

伊藤 成彦 様

久保 新一 様

清水 嘉治 様

田中 正司 様

柳澤 悠  

山極 晃  

 

横浜市長  中田 宏(公印)

 

公立学校法人横浜市立大学定款(案)について(回答)

 

 市立大学の改革について、ご意見をありがとうございました。

 さきに要望(200438日)のありましたことについて、次のとおりお答えします。

 先の市会で議決されました公立大学法人横浜市立大学定款の策定に際しては、次のような考え方によりましたので、ご説明させていただきます。

 

1.「大学、学部、課程その他の重要な組織の設置又は廃止に関する事項」等を経営審議会の審議事項としたこと

 「大学、学部、課程その他の重要な組織の設置または廃止に関する事項」等を経営審議会の審議事項としているのは、組織の設置または廃止により、職員の定数、運営経費や学生数などの変化が、大学の経営を左右する重要な事項であることにもよるものです。

 また、重要な規定の制定についても、現行の大学の諸規定については、法人化後は「法人規定」となり、重要な規定は、経営審議会における審議を経て、法人の長である理事長が決定するものです。教育研究に関する諸規定であっても、それを審議する「経営審議会」は、学長をはじめとする教育研究側の理事も含め構成されていることや、定款第21条第2項で「教育審議機関は、経営審議会に対し意見を述べることができる」と規定されていますので、教育研究側の意見は十分に反映できるものと考えています。

 なお、これまでも大学や学部、学科などの設置、または廃止については、学校教育法第2条第1項及び第5条の規定により、大学を管理し、経費を負担する設置者の権限であると規定されています。

 

2.理事長と学長を分離したこと

 理事長と学長を別にしたことについては、大学自らがまとめた「私立大学の新たな大学像について」でも述べられていますが、市立大学の場合、教育研究に加えて、厳しい大学間競争の中で経営面の重要性が問われており、特に付属2病院の難しい運営・経営面に対しても責任を持たなければなりません。そこで、理事長と学長を分離する運営形態とすることにより、経営組織と教育研究組織の役割を区分し、それぞれの権限と責任の所在の明確化を図ることとしました。

 なお、法人の審議機関のうち「経営審議会」には副理事長となる学長をはじめとし、教員も構成員となる一方で、「教育研究審議会」については、学長を最高責任者とし、学内の教員や学長が指名する学外有識者により構成されます。さらに、「経営審議会」に対し、「教育研究審議会」が意見を述べることができるなど、教育研究側の意見が反映されるシステムとしており、学問の府としての大学の特性への配慮をしています。

 

3.学長選考会議の委員に学外者を入れたこと

地方独立行政法人法において、学長の選考は、「経営審議機関」の構成員の中から当該「経営審議機関」において選出された者と、「教育研究審議機関」の構成員の中から当該「教育研究審議機関」において選出された者とにより構成する「学長選考会議」で行うことが規定されています。

これまでの選考は、学内者のみで行われていましたので、学長選考会議の構成員に学外者を加えることにより、幅広い視点から、より公正性・透明性・客観性の高い選考を確保していこうとするものです。

 

引き続き改革への取り組みを行っていきますので、ご理解・ご協力いただくようお願いします。

 

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(2)市長に対する「大学人の会」の見解(200438日付)

 

「公立大学法人横浜市立大学定款(案)」に関する「大学人の会」の見解

 

 地方独立行政法人法成立にあたっての付帯決議は、公立大学法人の設立に関して「憲法が保障する学問の自由と大学の自治を侵すことがないよう、大学の自主性・自立性を最大限発揮しうるための必要な措置を講ずること」であった。しかし、公立大学法人横浜市立大学定款(案)の内容は、この精神に反して、公立大学法人横浜市立大学をいかにしたら設置者の影響下に置くことができるかという精神に基づいて起草されたものであるという疑念を禁じえない。以下定款案の問題点を指摘する。

 1.教育研究審議会から教学の基本事項の審議権を剥奪

 大学の自治と学問の自由を保障する憲法に基づき、学校教育法は「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなくてはならない」と規定している。国立大学法人法も、教員人事、教育課程の編成に関する方針、学則その他研究教育に関わる規則の制定・改廃は、教育研究評議会の審議事項とし、経営協議会の審議事項は経営に関わる事項に明示的に限定されている。

 これに対して、「公立大学法人横浜市立大学定款案」(以後「定款案」と略称する)では、経営審議会は、「経営に関する重要事項を審議する機関」(地方独立法人法77条)としての権限を逸脱して、「大学、学部、課程その他の重要な組織の設置または廃止に関する事項」、「教育課程の編成に関する事項で法人の経営に関するもの」、「重要な規程の制定及び改廃に関する事項」など教学に関わる最も重要な事項を審議事項としている。他方で、国立大学法人法では教育研究評議会の審議事項となっている、「教員人事に関する事項」及び、「学則(法人の経営に関する部分を除く)その他の研究教育に係る規則の制定又は改廃に関する事項」が、定款案では教育研究審議会の審議事項から除外されていることは特に重要である。

 教育研究にかかわる最重要事項に関して教学に関する審議機関による審議事項から排除することは、学校教育法の趣旨に違背し、「教育研究に関する重要事項を審議する機関」として教育研究審議会を規定する地方独立法人法にも違反している惧れがある。

 2.市長が直接支配出来る運営機関

 国立大学法人法では、学長が法人の長となり、学長による経営協議会の学外委員の任命にあたっては教育研究評議会の意見を聞くことが義務付けられている。地方独立法人法も、大学における教育研究の特性を考慮して公立大学については「公立大学法人の理事長は、当該公立大学法人が設置する大学の学長となるものとする」ことを原則とした。公立大学協会も、「公立大学法人は、原則として学長が兼務する理事長を中心として自主的・自律的に運営する」ことがとりわけ重要であるとしてきた。しかし、横浜市の定款案は、こうした研究教育の自律的運営の重要性に配慮することなく、例外的に採用できるとされた、学長と理事長の分離の方針を採用した。

 定款案では、市長によって決められる理事長が、副理事長の一人(学長)以外のすべての理事を任命し、これら理事によって経営審議会が構成される。前述のように教学の基本的な部分の審議権さえもつ経営審議会の委員=理事(一人を除くが)の任命権を、市長が任命する理事長がもつことによって、市長は大学の経営のみならず研究教育の深部までに影響を与えることができる制度となっている。市長による大学の官僚的統制が強く懸念されるもので、大学の自主性と自律性はほとんど消滅するのでないかと危惧せざるをえない。

 3.学内意志の反映が困難な学長選考制度

 定款案では、学長選考会議の6名の委員のうち、経営審議会の委員3名(しかも教育研究審議会委員を除外し、1名以上は学外者でなくてはならない)に加えて、教育研究審議会から選出される委員3名のうち1名は学外者である教育研究審議会委員を加えることを規定している。つまり、学内の教員を母体として選考され、その意志を代表しうる可能性のある委員は2名を超えることが難しい仕組みになっている。大学内の最も基本的な構成員である教員の意志が、学長選考においても反映できないような制度設計は大変問題である。

 このほか、定款案の多くの規定が大学の自律性を犯す惧れのある内容となっており、全体として本定款案が、大学の自主性と学問の自由を無視した、設置者による大学の官僚的統制を保障する内容であることに、深甚な危機感を持たざるをえない。横浜市の定款が、少なくとも国立大学法人法の規定に準拠したものに根本的に改定されることによって、上記の危惧の一部は軽減されるものと考え、再考を要望する。

 なお、「横浜市立大学の新たな将来像」に基づくコース案等の検討が、すでに大学の外部で、横浜市大学改革推進本部によって進められている。また横浜市立大学教員組合が指摘するように医学部看護学府の教育研究内容の策定とさらには教員採用人事に関してさえも、横浜市の大学改革推進本部が進めつつあることが事実であれば、これは大学の教学に対する設置者の直接的介入であり、定款決定に先立って、大学の教学に対する行政的支配が行なわれているという疑問が生じることを付記したい。

200438

「横浜市立大学問題を考える大学人の会」