横浜市立大教員組合,「大学改革推進本部による教員公募と任期制・年俸制及び教員評価制度にかんする中間案について」

 

全国国公私立大学の事件情報

http://university.main.jp/blog/archives/001256.html より

 

横浜市立大学教員組合

http://homepage3.nifty.com/ycukumiai/shiryo/k040615-1.pdf 

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040615kumiai-chuukan.pdf

 

 

20040619

横浜市立大教員組合、「大学改革推進本部による教員公募と任期制・年俸制及び教員評価制度にかんする中間案について」

大学改革日誌(永岑三千輝教授)−最新日誌(2004618(3)
大学改革推進本部による教員公募と任期制・年俸制及び教員評価制度にかんする中間案について(2004615日)word

大学改革推進本部による
教員公募と任期制・年俸制及び教員評価制度にかんする
中間案について

 横浜市大学改革推進本部は、6月7日、公立大学法人横浜市立大学専任教員の公募を公表するとともに、同本部におかれた「教育・研究評価検討プロジェクト」が検討中の中間案「新たな教員人事制度の構築に向けた取り組み」を発表した。教員組合は先に、今回の当局発表内容にもかかわる6項目の要求について推進本部にたいし交渉を申し入れてきたが、今にいたるも推進本部当局はこれに応えていない。組合要求の説明に触れてあるように、独立行政法人発足にともなう補充教員任用が、任期制・年俸制の新たな制度を前提としてすすめられるならば、労働条件の重大な変更として、組合との協議が先行しなければならないにもかかわらず、そうした手続きが踏まれていない。独立行政法人への移行にともなう雇用・労働条件の変更にかんしては、労働法規に則った適正な手続きが必要とされ、使用者が一方的に制度変更をなしうるものではない。適正な手続きを欠いた制度変更にたいしては組合として必要な対抗措置をとらざるをえないことになる。中間案に盛られた任期制、年俸制、教員評価制度にかんする記述は、教員の処遇に直接かかわる重大な変更を主張しているにもかかわらず、雇用条件の提示として本来あきらかにされるべき具体的な事項に触れておらず、不正確なイメージによってあたかも説明がすんだかのような印象を与えている。改革推進本部は、曖昧で不安を残す制度設計を一方的にすすめるのではなく、適正な交渉手続きに則った組合との協議に誠実に応じるべきである。こうした観点から、組合要求にたいする回答を再度要求するとともに、今回の教員公募及び中間案に示された任期制の「説明」(任用制度と任期制のあらまし)について、必要最小限の見解を表明しておきたい。中間案は他に、「教員評価制度のあらまし」「年俸制のあらまし」を公表しているが、これらは労働条件の明示に値する明確で具体的な規定となっていない。任期制についても同様であり、労働条件の変更にあたる事項については今後詳細な協議要求を組合として提示する予定である。

1 理念も魅力もない任期付き教員公募

 推進本部が公表した専任教員公募案件9件(国際総合科学部理工学府1、同経営科学府4、看護学府4)は、いずれも、「任期3年もしくは5年程度」の「任期付き雇用」に付す「準教授」とし、年俸制による処遇を謳っている。「準教授」の再任は2回までだが、各任期ごとに昇任審査を受けることが可能とする但し書きをつけ、教員人事制度のあらましを知りたければ中間案を参照するよう求めている。さらに、「上記の待遇は、現段階での市の方針であり、各人との雇用契約は、公立大学法人が定める規定に基づいて締結されることになる」と付記している。
 これらの条件がついた任期付き教員の公募は、「優れた人材を確保する」という当局の謳い文句に合致するどころか、むしろ、優れた人材を遠ざけるものにほかならない。任期を定めない雇用条件の公募と比較して、「どちらが研究者にとって魅力的であるか」を虚心に考えるならば、優劣は一目瞭然であろう。公募は、応募資格要件の(3)として、「新たな横浜市立大学の目標を理解し、その前提に立ち、大学における教育に熱意と使命感を持ち、かつ専門分野において教育と研究に意欲的に取り組める」ことを求めているが、それほどに大学への忠誠を要求しながら、他方で不安をかき立てるだけの雇用形態を提示する推進本部の態度はあまりに矛盾している。大学経営の観点からみてさえ、公募に示された任期制には、任期制でなければならないことを説得的に示す理念が一切ない。
 「3年ないし5年程度」という曖昧な任期は、教員任期法にもとづく任期提示ができないために、労働基準法第14条にもとづいて可能な任期提示を行っているからである。(もっとも、労基法14条にもとづくかぎり、5年をこえる期間は設定できない。したがって5年「程度」とするのは正確でない。)この提示は中間案に示された任期制にもとづいているので、推進本部が示す任期制の本質がこの提示にはすでに現れている。すなわち、現教員もふくめ大学の全教員にたいして任期制を適用しうる(といっても、もちろん、現教員の同意が前提である)法律上の根拠を求めるとすれば労基法14条しかなく、だから14条にもとづく任期提示にならざるをえない、ということである。全員任期制なるものの実現を至上命令とし、これを可能とする制度根拠を後付けで探すという逆立ちした発想と手法とが、大学における教育・研究のあるべきすがたを検討する精神からはかけ離れた歪んだ制度設計を進行させている。中間案に示された任期制構想については次ぎに触れるが、今回の補充教員人事が、発足を予定されている公立大学法人制度にもとづく教員評価、選考、労働条件提示を先取りしてすすめられていること、「公立大学法人が定める規定」の策定手続きを踏まぬまま公募作業を先行させることに強く抗議するものである。

2 「全員任期制ありき」から出発した任期制の制度設計は大学を活性化させない

 中間案に示された任期制構想について、さしあたって緊急に以下の問題点を指摘するとともに、推進本部、大学当局の再考を強く促したい。
 中間案による任期設定は労基法14条にもとづいており、3年ないし5年という任期の設定には制度根拠を労基法に求めるという以上の理由がない。これが「全員任期制」をともかく実現するという前提に由来することはすでに述べたとおりであり、この結果、中間案の制度設計は、テニュア導入など若干の弥縫策を施したとしてもとうてい克服しえない歪みと難点を抱えている。
 労基法14条は大学にかぎらず有期雇用の上限を定める規定であり、大学教員の雇用形態を大学組織のあり方にてらして設計するうえで、その十分な制度的基礎を提供するものではない。大学教員に任期を付す制度根拠として教員任期法が設けられているのは、その内容の是非はともかく、大学にそくして任期制(有期雇用)を導入する条件の吟味が必要だと考えられたからである。労基法14条における上限規定が大学教員に適用可能であるとはいえ、その任期設定を全教員に適用するという制度構想はまったくの暴論である。労基法14条にもとづく「全員任期制」とは、要するに、全教員を有期雇用に転換させること以外の何ものでもない。私企業にあってさえ、社員全員を有期雇用に切り換えるというような提案を使用者がまともに行えるものではない。

 「全員に任期を付与する」ことのみを至上命令にした制度設計のこの歪みは、教員組合が繰り返し主張してきたように、大学のあるべき改革、活性化にたいしてもきわめて有害な影響を及ぼす。
 何よりもまず、一律に有期雇用制度の下におかれた教員がより安定した雇用条件下での教育・研究を求めて移動を試みるのは必至であり、「優れた人材」を招聘しかつ流出をとどめる制度的保障がこの任期制構想には存在していない。中間案は、「多様な知識や経験を有する教員等の交流の活性化を図」るとしているが、流出する優れた人材の補充に追われるような事態を「交流の活性化」と言いくるめることはできない。
 とりわけ重大な問題は、労基法の有期契約規定にもとづく3年上限の任期設定が、「大学の教育研究を進展させる」という目標にもそぐわない、長期的視野と評価とを欠落させる提案となっていることである。大学に課せられる中期計画が、その年数自体の当否はまた別のこととして、6年とされていることとの整合性からみても、3年任期の設定がいかにご都合主義的なものであるかはあきらかである。
 さらに加えて、中間案が「準教授」の再任回数を「原則として2回」と制限していることもきわめて重大である。昨年10月、大多数の教員の反対を押し切って「全教員任期制」を打ち出した大学当局文書「横浜市立大学の新たな大学像について」(以下、「大学像」)では、任期制にかんし、「原則として再任を可とするシステム」としていた。大学における教育・研究の将来をになうべき位置にある講師・助教授にたいして、なぜ再任2回という制限を設けるのか、中間案にはその理念的根拠、納得のゆく理由はまったく説明されおらず、「再任は原則として2回とする」と図示されているだけである。杜撰という以前のあまりに無責任な態度である。3年任期の場合、最長9年という限度が「準教授」について設定されたことになり、助手任期が原則3年と設定されていることとならんで、実質上の解雇を容易に行える有期雇用としての任期制の性格が如実に表れている。
 中間案では「テニュア教授」への昇任が早い時期から可能にみせるいくつかのモデルを図示して、常用雇用の有期雇用化という印象をやわらげようとしているが、その図示は、昇任の条件、昇任審査と公募の関係、再任の条件等々について何ら明確な規定を行っていない「不当表示」と言うべきものである。「実力・実績に応じ」た昇任、「公正で客観的な昇任審査」、「特別な業績を挙げた場合」など、すべて「公正で客観的な」基準をともなわない空語にすぎない。テニュア審査にいたってはそのような空語すら存在しない。全教員を対象とする任期制導入の考え方を述べた記述は、「ただし、任期中、教育研究等の目標・計画に沿って、着実に努力した成果が、教員評価委員会で適正に評価され、それを受け、再任されることができるよう、学外委員が加わる教員人事委員会で審査します」といった、文意自体が不明瞭なものとなっている。だれが何をどのような具体的・明示的基準で評価するのか、「公正さ」「適正さ」「客観性」にかんする説明責任をだれがどのように果たしすのか等々が明確に提示されていない説明は、そもそも検討の対象にさえなりえない。テニュアを設けます、再任審査を公正に行いますといった表明によって、任期制を導入するに足る合理的で十分な理由が存在するなどと判断できるはずがなく、まして、労働条件の重大な不利益変更を補ってあまりある制度構想であると評価できるはずもない。

 中間案は、このように、労基法の有期契約規定に形式的に適合させることだけを念頭においた任期設定を行っている結果、「大学像」で当局が自ら示した任期制構想とも、労基法有期契約規定の特別法と位置づけられる教員任期法とも異なる、端的に有期雇用規定を根拠にすえた任期制構想に「変身」している。「大学像」は「現時点では、任期(期間)は、一律ではなく、……決定する」としており、評議会における「大学像」審議では、学長や事務当局者はこの点に敷衍し、上限を一律に縛るのではなく多様な期間設定を行うことが特色だと表明していた。中間案の任期設定はそのような説明をあっさり裏切るものとなっている。
 また、大学教員に任期制を適用するさいの根拠として制定された教員任期法の場合、任期制を適用できる条件を限定するとともに、労基法の有期契約規定よりも柔軟な任期設定を可能としている。教員任期法の規定自体問題なしとしないが、まだしも大学という機関を想定している教員任期法を全員任期制には使えないという理由から斥け、労基法に適合していればよいというだけの任期設定を行うのは、およそ改革を標榜する者にあるまじき頽廃である。教員任期法にもとづく、たとえばプロジェクト分野の任期の方が、中間案の3年、5年といった設定よりも長期でありうる、といった奇妙な状態が出現しうるのも、このように、全員任期制を導入するという至上命令につじつまが合うことだけを目的とする任期制設計をすすめているからである。これが横浜市大のあるべきすがたを真摯に追求する改革姿勢だとはとうてい言い難い。

 そもそも有期雇用を常用雇用の代替として用いることの問題性については、有期雇用の範囲を広げてきた労基法改定論議の過程でも繰り返し警告されてきた。任期制の導入がそうした警告には当たらないと言うのであれば、少なくとも任期制が大学における教育・研究の進展に寄与する制度たることを説得的に説明できなければならない。教員の雇用・労働条件にかかわる重大な制度変更にかんして、教員組合との交渉・協議をすすめるに足る詳細で具体的な制度像を示すべきである。

2004年6月15日
横浜市立大学教員組合執行委員長 中西新太郎

 

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