成果主義は日本の競争力を失わせる

 

法政大学大学院教授 小池和男氏

 

 

『サンデー毎日』2004年7月4日号 成果主義が生む「冷酷」職場

http://www.mainichi.co.jp/life/family/syuppan/sunday/ より抜粋

 

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040704sundaymainichi-reikoku.pdf (04-7-4 加筆)

 

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成果主義は日本の競争力を失わせる

 

法政大学大学院教授 小池和男氏

 

成果主義は日本の賃金体系としてなじむのか。そして、企業の競争力を強めるのか。アメリカなど海外の賃金や雇用制度に詳しい法政大大学院教授の小池和男氏に聞いた。

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日本では、定期昇給のない成果主義が進んだ賃金体系なのだと誤解をされています。しかし、アメリカやヨーロッパのホワイトカラーは、短期の成果主義による賃金体系ではありません。米西欧のホワイトカラーも、定昇を伴う「年功」賃金なのです。

少し詳しく説明します。従業員は、課長など職位に応じて10ほどの社内資格に分かれます。社内資格とは、仕事を遂行する能力と言えます。その資格ごとの基本給には、大きな幅があります。上限は下限より56割高く、この幅の間を、上司の査定によって定期昇給します。年に4%ずつ昇給するとすれば、同じ資格の間にに連続15年ぐらい上がる仕組みです。

こうした実態とは裏腹に、「アメリカでは仕事に人がつく」と思われています。同じ仕事をしている人は同じ給料をもらう、という意味ですね。確かに、ブルーカラーは、これだけの仕事をすればいくら、の賃金となっています。査定も定昇もありません。これは、経験によって、上手・下手の差が出ない仕事だからです。

プロフェッショナルなホワイトカラーが担うべき複雑で面倒な仕事は、1年目より3年目の方が上手になります。アメリカでも、その差に報いる賃金体系になっているのです。ところが、日本では定昇の上限を決めていないから、右肩上がりに人件費が増えることを心配し定昇を廃止する企業が増えています。

短期間に成果を求めれば、人は低い目標しか掲げなくなります。また、複雑な仕事の評価を数値化できるでしょうか。人事課長や経理課長の1年間の成果に得点をつけられるとは思いません。逆に、数字で表せるようなやさしい仕事しかやらなくなってしまいます。

そして、人を判断するのに客観的な物差しはありえません。半年や1年間で成果を求めれば、一人の上司だけが評価することになりかねない。10年ぐらいかけて、何人もの上司がそれぞれの主観で行う重層的な評価が求められるのではないでしょうか。

むしろ、年功制つまり社内資格給や定昇はグローバルスタンダードと言えます。日本企業の強さは、中長期的な職場での実務経験で熟練した社員を生み出してきたからなのです。目先にとらわれた成果主義では、こうした社員は育ちません。日本企業は国際競争力を失うことになりかねないのです。

 

1932年生まれ。東京大教養学部卒。京都大経済研究所長や東海学園大経営学部教授などをへて現職。『職場の労働組合』(エコノミスト賞)や『仕事の経済学 2版』など著書多数。国内外の実証研究を基に、日本的経営の先進性を示した。